第二百四十七話 強敵と親敵
時刻は二十時四十七分
ここまでのあらすじ
東西南北、四方八方へと戦火が広がる中、
北側では妖魔"羅刹"が大妖怪"牛鬼"へと姿を変え、白備と渡邉と激闘を繰り広げていた。
しかもこの"牛鬼"は、帝都の変の混乱に乗じて魔界へ進出、ヴァンパイアであるラシュリーナが住むダクリロード城を襲撃し魔界から追い出した張本人であった。
恐怖におののくラシュリーナは近藤に抱えられ、闘技場へと連れていかれる。
同じく西側でも、大妖怪"鵺"が現れるが、何やら両津 月影と面識がある様子で、鵺の言付けを受けた月影は、本間、番場、星野に闘技場への後退を進言する。
これに三人は月影を信じ、
転移魔法で闘技場へと後退した。
そして東側では、
大交戦の末学園外の妖魔連合隊は壊滅。
残すは学園内に入り込んだ妖魔たちだけであった。
北条魅蓮は、右腕を失いながらも学園内に侵入。一方で、隙を見てその場から逃げ出した蛇姫も、学園の侵入を果たしていた。
更に南側では、相も変わらず激戦区となっているが、これと言って変化はなかった。
闘技場西側第一防衛線
結界の損傷により侵入してきた妖魔連合隊を食い止めるも、多勢に無勢の手前より不覚にも大本営である西側第二防衛線への進軍を許してしまっていた。
葵「‥全く、どんだけ来るんだよ。」
シェリル「‥はぁはぁ‥キリがないわね。」
リーファ「うぅ、攻めて来る敵が気持ち悪いのばかりで夢に出そう。」
怨霊に慣れしていない生徒には酷な戦場になっているが、それでも緻密な連携のもと各個撃破していた。
一人のサキュバスを除いて‥。
ルビア「ひぃ~!キモいキモい!?上半身だけのお化けと血だらけの四足歩行の女~!」
シェリル「っ!こらルビア!?そんな奴を連れてこっちへ来るな!?」
リーファ「ひっ!?ほ、ホラー映画見たいだ‥うぅ。」
普通に見たら失神してしまうような怨霊がわんさかと攻め寄せるが、九割ほとんどの生徒たちが戦闘でアドレナリンを大量に分泌しているため、恐れを感じる者は少なかった。
だが、中には当然、
恐怖が勝る者が居るわけである。
葵「はぁ、おいルビア!そのまま全力でこっちへ走ってこい!」
ルビア「わ、わわ、わかった~!」
葵はシェリルとリーファから距離を取ると、
ルビアを自分へと誘導する。
ルビアの後ろには、トラウマ級の怨霊が物凄い勢いで追いかけている。しかも、そのほとんどが女性者ばかりであった。
それはまるで、
ルビアの可愛さに嫉妬している様にも見えた。
もしそうなら許せない御一行である。
葵は刀を一度 鞘に戻し、
抜刀の構えを見せる。
ルビア「ひぃ~!もうだめ~!」
ルビアと葵との距離が十メートルに差し掛かった時、葵から指示が出る。
葵「‥ルビア!伏せろ!」
ルビア「ふぇ!?はい!」
ルビアが伏せた瞬間、葵は神速の一閃を繰り出し怨霊共を一瞬で屠った。
葵「ふぅ、これでもシルフィーナ先輩に勝てないんだよな‥どうしたらいいのやら。」
ため息をつきながら刀を鞘に戻すと、
戦場にも関わらずルビアが泣きながら抱きついてきた。
ルビア「うぅ、ひっく!ありがどぅ~あおい~!」
葵「お、おい、泣くなって‥だから、一人で突っ込むなって言っただろ?」
仲の良さそうな光景に、
シェリルの視線が少しつり上がり、
少し男前な表情になった。
シェリル「むぅ‥やっぱり、戦場であっても油断できないわね。」
リーファ「あ、あはは‥、(どうしようこの空気‥ある意味怖い。)」
葵の隣は自分だけの物と思っていたシェリルに取って、ルビアは最大のライバルにして好敵手であった。
今の時代、一夫多妻はそう珍しくはないが、それでも目の前でイチャつかれるのは、一途な乙女としてつい妬いてしまうものだ。
恥ずかしげもなく素直に飛び付くルビアと、
クールながら人目を気にして素直に甘えられない騎士様では、恋愛フラグに天と地の差があった。
ここは恥を捨てて対抗するべきか‥。
シェリルに取って最大級の決断が迫られるのであった。
だがそこへ、大妖怪"鵺"が現れる。
葵「っ!」
ルビア「はひっ!?」
シェリル&リーファ「はぅっ!?」
それは怨霊よりも強い妖気であり、
葵ですら背筋を凍らせるくらいであった。
葵は反射的に刀を構えると、
見覚えのある顔に驚く。
葵「っ、鵺に‥。」
目を合わせて一瞬の事であった。
鵺の名前を口にしようとした時、
既に鵺は葵の肩を掴んでいた。
すると鵺は、
妖魔界のゲートを開き葵を連れ込んだ。
突如消えた強い妖気と葵に、三人の美女たちは驚くも訳も分からないまま交戦が再開するのであった。
妖魔界某小屋
葵「うわっ!?」
鵺「少し手荒にしちゃったな。」
葵「いってて‥、こ、これはどう言うことだよ!?鵺さん!」
鵺「すまん、これは警界庁の任務でな‥かなり面倒な案件なんだよ。マジで相手の信頼を買いながら動かないと成功しない案件でな‥見バレは避けたいんだ。」
葵「だ、だからって、学園の生徒に手をかけるのですか!?」
鵺「‥勘違いするな潜入捜査でも、俺の任務は、木枯主善と木枯沙茉、並びに各妖魔の逮捕あるいは抹殺だ。俺自身が学園生徒に手を出す気はない。」
重要機密的な情報を意図も簡単に漏らすと、
なんとなく理解した葵は鋭い点を突く。
葵「で、では、今がその主犯たちを闇討ちするに‥打ってつけと言うことですか? 」
鵺「あぁ、今学園の外では大量の警察機構が張っている、向こうの作戦が成功すれば、俺は直ぐに寝返りだな。」
葵「おぉ‥、それは流石ですね。」
理にかなっているプランに、思わず拍手をしていると、そこへ稲荷が"ヒョコリ"と顔を出した。
稲荷「早かったわね鵺~♪」
葵「うわっ!びっくりした。」
鵺「あぁ、それより月影に迫られた時は本当に危なかったよ。危うく正体がばれるところだったしな。」
稲荷「クスッ、まあまあ甘えたい年頃なのよ♪許して上げてよ♪あ、そうそう、警界庁宛に送ってほしいのがあるんだけど。」
鵺「はぁ、今度は何を送らせる気だ?」
稲荷「この子よ。」
稲荷はゲートから、亀甲縛りで縛られた。
木枯沙茉を出した。
葵「‥う、うわぁ‥何されたんだろう。」
鵺「こ、こいつは沙茉じゃないか!?」
沙茉「っ!?んんっ~!!」
鵺がスパイと言うことを知った沙茉は、
大暴れし始める。
稲荷「まあまあ、その子は置いといて、木枯主善は北条魅蓮により殺害されたわ。」
鵺「っ、そうか‥‥。逮捕できないのは残念だが‥、北条魅蓮‥やはり生きていたか。」
稲荷「妖魔と契約した哀れな女‥東側で守っているリヴァルたちと交戦した見たいだけど、腕を切り落とされて学園内に逃げ込んだみたいよ。まあ、腕はすぐに再生すると思うから油断できないけどね。」
二人が機密な話をする中、葵はすぐに戦地に戻りたくて仕方がなかった。
ここで小話
大妖怪こと鵺は、稲荷の幼馴染みであり、いつも稲荷から尻に敷かれる様な関係である。そのため、葵や直人とも面識があり、かっこいいお兄さんとしてよく慕われていた。
今では、警界庁特殊妖魔対策科におり幅広く活躍している。
鵺「ふぅ、警戒しないとダメだな。‥それより、稲荷は、いつ"大妖楼"に帰る気なんだ?」
稲荷「ふん、またそれ?私と白備を捨てた親がいる所なんて帰りたくないわ。」
鵺「だ、だけど‥その力があれば大妖怪になれるんだぞ?」
稲荷「それでも私は普通の妖狐でいいの。」
鵺「そんな事言うなよ?それで"ぐちぐち"言われるのは俺なんだぞ?。」
稲荷「ふん、知らないわよ。‥でも、ごめんなさい。」
鵺「‥ふぅ、まあ良いさ。確かに"あの方"もご都合主義だからな。本気で界人さんとやりあったらどっちが強いかな!」
稲荷「はぁ、考えたくもない展開ね。さて、葵くんも"ぽかん"ってしてるし、早く戻して上げるわ♪記憶と共にね♪」
葵「えっ?あっちょいきなり‥。」
稲荷が突然話を変えて葵の頭に触ると、
突如視界が真っ白になり、気づけば交戦中のど真ん中に立っていた。
少しの間ボーってしていると、後ろから巨大なオークが棍棒を振りかざしていた。
葵「‥えっ?」
シェリル「はあぁぁっ!!」
葵のピンチをいち早く察したシェリルは、
急いでオークの体に風穴を開けた。
シェリル「‥こら、葵!どこ行ってたの!見つけたと思えば、ボーッとして‥、ま、まさか‥敵に捕まって何かされたんじゃないだろうな!?」
シェリルは葵の両肩を掴み勢いよく揺さぶる。
葵「うわんうわん、ま、まて‥そ。その‥顔見知りとあったんだよ。」
シェリル「っ!それは女!?」
葵「い、いや‥男の人と直人の姉さんだよ。」
シェリル「‥そ、そうか‥。ふぅ‥よかった。」
葵「でも、なにか聞いちゃダメなことを聞いたような‥、少し記憶がないな。」
シェリル「そ、それはその時の話だけか。」
葵「そうっぽいな。」
戦場のど真ん中で、
幸せそうな夫婦‥じゃなく、仲の良いカップルの光景を見せられた妖魔たちは、嫉妬心を剥き出し一斉に斬りかかる。
だが、妖魔たちは不幸なことに、
二人に一瞬にして消し去られるのであった。