第二百四十五話 夢に現と悪に善
この世は絶対にうまくいく話はない。
チート、天才、ハーレム、最強、
否!
アニメと漫画の見すぎである。
確かに今の時代、
魔法や不思議な力などが普及し、ファンタジー的な世の中となり、そう言った憧れを持つ者は非常に多い。
だが、実際はそう甘くはない。
使い所にもよるが、チート、天才は、何かしらの発展に使用する者は重要にされるが、私利私欲に使う者は忌み嫌われ、己の力を過信し始め不幸を招く。
ハーレムに至っては、日本国の法や道徳を見習って異世界でも定着し始めているため、一人でも厳かにすれば、家庭保護法なるものに引っかかり逮捕されてしまう。
最強に至っては‥、
多くの概念が有りすぎてマンネリ化している。
例えるなら、
無様に吊るされている木枯 沙茉が良い例であろう。
己の力に酔しれ、権力の横暴、強引なハーレム計画など‥。全ての悪を押し固めたような輩である。
まあ、相手が悪かった事もあるが‥。
蛇姫「くっ‥(よく見れば‥あの鬼神‥両津家の‥何でここにいる‥話が違うではないか。)」
緑色の長髪に胴体は蛇の姿をした、
妖獣"蛇姫"はリヴァルを見るや背筋を凍らせた。
リヴァル「ん?‥おまえは‥確か‥、指名手配の蛇姫だな。と言うことは‥、幻魔界に籠っていた大物が動いたわけか。」
蛇姫「くっ、しゅるる‥亜種族の分際で、我らに敵対するとは‥。」
リヴァル「えぇ~と、妖獣"蛇姫"!警界庁長官、両津界人の名の元にあなたを逮捕します。大人しくしてもらいましょうか。」
穏便な内容にしては刀に手を置き、
今にも斬りかかろうとしていた。
蛇姫「しゅるる‥言動が一致してないぞ‥。」
高野「‥リヴァルさん、かっこいいな。」
大西「うんうん、両津の兄さんには勿体ないな。」
危機感を覚える蛇姫と呑気に様子を伺う二人の温度差は、それは大きいものであった。
リヴァル「さあ‥どうする?」
蛇姫「しゅるる‥ふざけるな‥誰が大人しく捕まるものか!」
妖魔「だ、蛇姫様!?」
配下が見ているこの場で尻尾を巻いて逃げる事はおろか、大人しく捕まるなどはあってはならないことであった。
そのため蛇姫は、盾と槍を取り出すとリヴァルに勢いよく襲いかかった。
リヴァル「‥愚かな者だ。」
蛇姫の行動に呆れたリヴァルが、
刀を抜こうとした時、予想外の事が起きる。
蛇姫「死ねぇぇ!!がはっ!」
リヴァル「っ!?」
蛇姫の後方から突如槍の様な物が投げられ、
蛇姫の背中を貫通し、死角となったリヴァルは反応に遅れ、貫通は免れたが腹部を突かれた。
蛇姫「な、なん‥と‥。」
リヴァル「くっ‥ゆ、油断した。」
リヴァルは突かれた槍を抜くと、
後ろへとよろめき片膝をついた。
蛇姫は意識を朦朧とさせながら、
その場に倒れ込んだ。
高野「リヴァルさん!?」
大西「高野行くぞ!」
あまりにも予想外な展開に、
高野と大西は急いで駆け寄った。
妖魔側も何が起きたのか分からず立ち尽くしていると、後ろから黒髪の女性が現れる。
?「おやおや‥あの程度のものを避けられないとは‥妖魔の質も落ちたもんだね?」
妖魔「っ!ほ、北条魅蓮‥。貴様の仕業か!」
北条「ふっ、雑魚はお呼びじゃないよ?」
妖魔「なに!?」
北条「ふふっ、聞こえなかったのかな?雑魚はお呼びじゃないって‥。」
不敵な笑みから殺伐とした表情に変わると、
指パッチンを合図に巨大な合成魔方陣が妖魔たちの足元に浮き上がり、次々と紅蓮の炎に包まれた。
悲痛な叫び声が響く中、
北条は笑みを浮かべて酔しれていた。
北条「うふふ、いいね‥この声‥たまらないよ。」
リヴァル「はぁはぁ、‥北条魅蓮‥。第一級要注意人物‥。ここに来て、尻尾を出したか。」
高野「リヴァルさん、少し距離を取りましょう。相手は‥かなりヤバイです。」
大西「ちっ‥長らくお世話になりそうな敵だな。」
リヴァル「‥あぁ、最悪は、ここから後退するしかない。」
リヴァルは二人の肩を借りて少し距離を取る。
対して北条は、虫の息の蛇姫に近寄り、
助けるどころか下笑を浮かべて見下ろした。
北条「ふふっ、まだ生きてるなんて‥、さすがは蛇‥生命力がありますね。」
蛇姫「かふっ‥。はぁはぁ、北条‥。」
北条「いいですね‥その裏切り者を見る様な目‥でも‥勘違いしちゃダメですよ?僕は‥木枯主善の味方じゃなく、普通の退魔士ですから‥元々あなた方の味方ではありませんよ。」
人を見下す様な態度に、上で吊るされている。木枯沙茉が悲痛な痛みに堪えながらも北条に話しかける。
沙茉「ほ、北条‥。貴様‥どうしてここに‥なぜ生きて‥。はぁはぁ、」
北条「おや?これはこれは、御曹司の馬鹿様(沙茉)じゃないか~?そんな所で何遊んでいるのかな?」
沙茉「はぁはぁ、貴様‥はぁはぁ、やはり‥生きてる噂は本当‥だったか、」
北条「ふふっ、今更気づいても遅いよ?それに‥君の愚かなお爺様はもうこの世にはいないから。君はそのまま、警界庁に逮捕されると良いよ♪」
沙茉「な、なんだと‥‥っ!北条~!!」
挑発的に語る北条に、沙茉は激昂し、負傷しているのにも関わらず、高野の鋭利な糸を自分の体に合成魔法を施しダメージ覚悟で焼き切った。
沙茉はそのまま北条へ向け落下し、
渾身の獅子砲口を放つ。
沙茉「このペテン師がっ!」
北条「ふっ、大人しく吊るされてれば良かったのに‥。」
完全に沙茉の死亡フラグが立つと、北条は沙茉に真似て獅子砲口を出そうとする。
北条「ふっ、死に‥っ!?」
だがそこへ、
空気を読まない微食会はそれを許さなかった。
高野はここでケリが着くなら安いものだと、
北条の手足を鋭利な糸で結び拘束した。
高野「‥よくわからないが、露払いはしてやるよ。」
沙茉「ちっ!うおぉっ!!」
北条「ぐはあっ!!」
沙茉の獅子砲口は見事に北条を捉えた。
北条はそのまま投げ出され、地面に転がり込んだ。
沙茉「はぁはぁ‥、くそ‥くそぉぉっ!!」
復讐から動いた行動は、スッキリはするものの、後から残された救い様のない絶望が襲う。
自分を守る盾はなく、
本来の権力も衰退が見込まれる現状。
自業自得とも言える結果は、
同情する価値はなかった。
大西は沙茉の後頭部に銃を突き付ける。
大西「もはや、お前の命運もここまでだな。」
沙茉「‥うるせぇ‥さっさと撃てよ。」
大西「まあ、それもあるが最後まで聞け、このまま最後まで闇を抱えて死ぬか‥それとも、今までの悪事を公表して罪を償いながら死を選ぶの‥どっちがいい?」
沙茉「‥答えは変わらない。さっさと撃てよ。」
大西「っ!」
反省の色も後悔の念も表さない態度に、
大西は銃を下ろすや、沙茉の肩を掴み頬を殴るり、胸ぐらを掴む。
大西「てめぇは、いつまで逃げる気だよ!」
沙茉「ぐっ、な、何しやがる‥。」
大西「黙れ!散々好き放題生きてきて、いざ自分を守ってくれる後ろ楯がいなくなったら、開き直って死を選び逃げるのか!」
沙茉「‥‥ふっ、どうせ裁判にかけられても‥俺の今までした事が露見すれば、"弱体化"した少年法により、俺は死刑になる‥。そして執行されるまで、まわりから蔑まれ‥死から怯え‥不自由な生活‥、そんな思いをするくらいなら‥今ここで死んだ方がいい。」
沙茉はそっぽを向きながら、
自らの保身の意見を語った。
ここで小話、
この世界の日本では、
五年前に少年法が徹底的に厳しくなり、
私利私欲的、無差別、例え精神不安定によるものでも、裁判では一発死刑となる。
しかし、理由によっては、五年から無期懲役となるケースもある。
改定当時はかなりの反発はあったが、異世界の交流がスタートして二年半くらいで、異世界関連の未成年犯罪が増えたことによる、やむ終えない改定であった。
言いたいことを最後まで言わせると、
大西は再び一発殴った。
大西「‥無責任な事言ってんじゃねぇよ。確かに、お前の死刑は確実だ。だがな‥今ここ俺に殺されれば、お前の遺体を丁重に扱ったりしない。退魔協会の門前に晒して全ての悪事を告発する。悪人に人権などはない‥。お前の遺体に、石を投げられようが、切りつけられようが、燃やされようが‥、恨みを持つ人の自由だ。きっと、後世に残る汚点となるだろうな!」
沙茉「‥‥う、うぐ‥。」
リヴァル「はぁはぁ、大西くん‥そこまでだ。」
回復魔法で傷を治したリヴァルは、
大西の肩に手を置く。
大西「すみません‥、」
リヴァル「‥ふぅ、木枯沙茉‥、警界庁執行代理人の権限により、殺人、強姦などの容疑で逮捕する。」
沙茉「‥‥くっ。」
リヴァルが、拘束魔法を使おうとすると、
北条の不敵な笑い声が響くのであった。