第二百四十四話 地獄と地獄(極)
北側に"羅刹"こと"牛鬼"が本性を現した頃。
西側では‥、
大妖怪"鵺"と
番場、星野、本間、両津月影が対峙していた。
のだが‥。
月影「鵺様~♪」
鵺「っ!つ、月影!?な、なんでお前がこんなところに!?」
月影は何やら親しみげに鵺に抱きつき、
シンプルに甘えていた。
本間「‥て、敵‥なのか?」
番場「‥もしかして、また両津家の親類とか?」
星野「‥ま、全くわからない。後ろにいる妖魔たちも"キョトン"としてるし‥向こうも何が起きたのかわかってないようだな。」
一度は身構えた三人だったが、
目の前のほのぼのしい光景に、
ある意味気まずくなっていた。
だが、その光景は一瞬で崩れる事になる。
鵺「こ、この離せ!」
月影「うわっ!?」
鵺が月影の首根っこを掴むと、
顔を近くまで持っていった。
当然三人は、月影が食われると思い、
急いで番場と本間は鵺に攻撃を仕掛ける。
番場「月影君を離せ!」
本間「顔見知りじゃねぇんかよ!」
鵺「っ!遅い!」
番場「ぐふっ!」
本間「かはっ!」
鵺は月影を持ったまま、
ひらりと交わし二人を蹴りあげる。
鵺「ふぅ、月影‥‥。」
月影「‥えっ‥う、うん、でも‥うわっ!?」
何やら耳元で月影に囁くと、
月影を乱暴に星野に向けて投げた。
星野「っ、あぶないっ!?よっと‥。」
鵺「全く、拍子抜けだ‥。お前ら!こんな奴等を殺しても穢れるだけだ。無視して突っ込め!」
妖魔「さすが!鵺様!」
亜種族「キヒヒ、西門をおとせぇ!!」
星野「くっ、させるかよ‥っ。」
星野が杖を持ち大魔法を使おうとすると、
月影が袖を掴み阻止した。
月影「だ、だめです!」
星野「月影君‥でもな、ここを突破されたら‥、」
月影「それより転移魔法でここから闘技場へ後退してください!」
迷いのない強い意思を感じる瞳に、
星野は月影の考えを汲むのであった。
星野「何か考えがあるんだな‥。わかった。」
星野は杖を地面に叩き魔方陣を出すと、
転移魔法で四人を闘技場へ後退させた。
これにより西門の防衛線は完全に崩壊した。
そしてもう一方、
最も地獄とも言える東側では‥。
妖魔たちでもドン引くほどの、真の地獄と化していた。
あちらこちらに、
肉片が散らばり一面"血の海"が広がっている。
明るく照らすは、細切れにされていない妖魔たちの死体を燃やし松明代わりにされ、
更には、無数の糸で妖魔たちを吊し上げ、言葉にならないほどの無惨な姿で仕置きされていた。
そして、彼らの前には誰も挑む者がおらず、
多くの同胞たちは睨み合いをするか、避けて学園に侵入するかで分かれていた。
そんな地獄とも言える東側防衛線に、運悪く足を踏み入れた蛇姫は肝を冷やしていた。
蛇姫「しゅるる‥これはどういうこと‥。」
妖魔「だ、蛇姫様‥ここは、危険です。別のところからお進みください!」
蛇姫「一体‥な、何があったのだ‥ここには、退魔士は来なかったのか?」
妖魔「‥き、来ました‥けど‥。」
蛇姫の質問に歯切れを悪くする妖魔が、
恐る恐る上を見ると、蛇姫も続いて上を向く。
すると、蛇姫は絶望を植え付けられる。
それは退魔士の中でも天才と呼ばれ"退魔協会"会長"木枯主善"の孫息子でもある、木枯 沙茉が無惨な姿で血を流しながら吊るされていた。
十分前のこと
この時点で相当の死屍累々と言わんばかりの地獄絵図を完成させている中、楽しげに褒め称えあっていた。
高野「いや~、リヴァルさんがここに来てくれて助かるよ。流石黒髪の鬼神様だな。」
リヴァル「ふっ、そう言うお前たちも相当やるではないか?」
大西「あはは、リヴァルさんには及びませんって。」
三人の余裕の姿に、
怨霊さえも恐れおののく狂気に、
妖魔たちの攻撃が止まる。
するとそこへ、
三人のローブ姿の男たちが現れる。
すると、如何にも魔術攻撃が強そうな少年が拍手をしながら前に出る
?「へぇ~、やるね‥お兄さんたち。」
高野「ん?おっと‥誰かな?」
大西「‥忠告するけど、それ以上前に出たら撃つよ?」
リヴァル「‥黒幕の登場かな。」
三人の態度は急変し、殺気を放ちながら構える。
?「あはは、そう怖い顔しないでくださいよ♪僕たち三人は、人間ですよ?ほら~。」
フードを取ると、
そこには童顔で黒髪の少年が顔を出した。
すると、後方の妖魔たちは驚く。
妖魔「ひっ!?こ、木枯沙茉!?」
妖魔「ひぃぃっ!?退魔協会‥こ、殺される!?」
怨霊「ギギギ‥。」
どうやらここでも、今回の戦いに退魔士が絡んでいることは、全く知らされていない様だ。
木枯沙茉の名前を聞いたリヴァルは、
至急、稲荷に念を送った。
リヴァル「‥木枯沙茉。(姉さん‥こちらリヴァル‥例の退魔士が来ました。)」
稲荷(クスッ‥とうとう来たわね。歳はまだ十四歳なのに‥、最年少の特級退魔士に上がった天才‥それ故に、自分より下の者を見下す性格。無差別殺人と妖魔殺し‥女性退魔士などへの強姦など‥悪行に手を出しては闇に葬ってるみたいね。)
リヴァル「っ!外道な‥。」
稲荷(本来なら掴まえて裁きにかけたいけど‥無理そうなら警界庁の名に懸けて‥例え相手が子供でも、ただの悪人と思って容赦なく殺しなさい♪)
リヴァル「わ、わかりました。」
微笑みながらの指令に、
リヴァルは冷や汗をかく。
沙茉「あはは~♪一体僕の前でなに話してるのかな~?」
高野「へっ?俺はなにも話してないぞ?」
大西「俺も話してないけど?」
沙茉「はっ?君たち雑魚に話してないよ??僕が話してるのは、このお兄さ‥。」
微食会の二人の話を無視して、
リヴァルに近寄ろうとした時、大きな三発の銃声が響いた。
沙茉「‥‥ん?何かしたかな??」
大西「なに勘違いしてんだ?俺はお前なんかにした覚えはないぞ?」
沙茉「あぁ?」
大西の言葉に癇に触った沙茉が少しキレ気味で返すと、後方の付き人らしき者たちが銃を地面に転がしながら倒れ込んだ。
男性「さ、沙茉‥様‥。」
男性「かはっ、」
大西「殺人未遂及び警告無視による宣戦布告。確かに‥受け取った。」
高野「‥残念だね~。でも、流石‥退魔協会‥。」
リヴァル「ふ、二人とも?」
高野「リヴァルさんは‥少し下がってください。お互い顔をみられては‥どっちかが倒れない限り‥うまくないですからね。」
高野は鋭利な糸を取り出し不敵に笑う。
リヴァル(この二人‥人間よりも妖に向いてる気がする‥。)
亜種族にして鬼神のリヴァルでも、
二人の狂気っぷりには思わず引いてしまうくらいであった。
沙茉「くくくっ、さすが十神柱だね。噂の仕置もお手の物だ‥。」
本人は余程勝てる自信があるのか、
目を閉じて人を小バカにした口調で称賛をする。
高野「無駄なこうべはいいから‥、さっさと来いや‥。」
沙茉「ふふ、あはは!良いだろう!地獄を味合わせてや‥‥なっ!?。」
ふと目を開け、二人の挑発に乗ると。
目の前に、何処からか取り出したのか。
二台のガトリング砲が構えられていた。
高野&大西「ふっ、前菜でもくらいな!」
不敵に笑う高野と大西は、弾丸の雨を降らした。
空気を一切読まない攻撃に、
沙茉は慌てて強力な魔導術で防ぐも、
流れ弾が後方の妖魔たちを襲う。
沙茉「くっ!雑魚の癖に生意気な‥ならこれなら‥出でよ!破壊装甲城ガルタリス!」
沙茉は懐から数十枚の謎の紙を投げる、
謎の紙は円を描くように空中を舞い、巨大な魔方陣が現れる。
謎の紙が光輝くと赤い炎が灯され、
魔方陣から十メートルはある全身鉄の鎧を着た巨人が現れた。
高野「おやおや‥。」
大西「はぁ、これだから脳みそが足りないやつは、こんな風に自棄を起こすんだよな。」
高野「まあ、今は何を出そうが‥無駄だけどな。」
沙茉「おいおい?まさかここに来てびびってるのか?あはは!いいね~♪なんなら土下座して許しを乞えば助けてやっても良いぜ?」
大西「ぺっ、誰が貴様のような奴に、土下座したりするものか。」
高野「どのみち‥約束守る気ねぇだろ?」
沙茉「ふ~ん、親切に助けてやろうと思ったのにな‥。おい、ガルタリス‥やれ。」
ガルタリス「ふごぉぉ!!」
ガルタリスが、巨大なこん棒を片手に振りかざす。流石にまずいと感じたリヴァルは、ガルタリスの頭部目掛けて飛び込んだ。
リヴァル「こんな狭い世界に巨人が暴れるじゃねぇ!!」
ガルタリス「がふっ!?」
リヴァル「直ぐに終わらせてやるぜ!」
ガルタリスに渾身の回し蹴りを見舞うと、
刀を抜きトドメを差そうとする。
だがしかし、
沙茉もそうはさせまいと、
強力な退魔術と魔術を合わせた合成魔術を出す。
沙茉「ちっ、邪魔をするな!獅子砲口!」
リヴァル「っ!」
高野&大西「っ!リヴァルさん!」
獅子の姿をした魔弾がリヴァルに直撃し、
バァーンっと大きな音を立てた。
黒煙により姿を消し、
高野と大西はリヴァルの安否を心配する。
沙茉「君たちも人の心配してる暇はないよ!獅子砲口‥」
高野「黙れ。」
高野は右手で強く糸を引っ張ると、
沙茉の両足に絡み付き逆さ吊りにする。
沙茉「っ!?しまっ!」
吊るされた同時に放たれた獅子砲口は、
破壊装甲城ガルタリスに向け放たれた。
重い回し蹴りからの破壊力のある合成魔術が、
生きた要塞へと直撃する。
ガルタリス「ぐがぁぁ!!?」
装甲並の鉄装備は壊れ倒れ込みそうになった時、上空の黒煙から白銀のオーラを纏ったリヴァルが勢いよく刀を構えて巨大なガルタリスに斬りかかった。
リヴァル「すまぬ、安らかに眠れ!」
ガルタリス「ぐおぉぉ~。」
リヴァルが振るった刃は、
ガルタリスを真っ二つにし、
その巨大な体は一瞬にして崩れ落ちた。
リヴァルが見た、
巨人の最後の死に顔は、
少し嬉しそうな顔をしていたそうだ。
沙茉「こ、この離せ!雑魚共が!こんなことをしてただで済むと思うなよ!がはっ!あがぁがぁっ!!?」
沙茉の戯れ言が響くなか、
大西は二発の鉛をプレゼントし、
高野の出血するくらいの力で締め上げた。
そして、しばらく吊るされ。
今に至る。