表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
243/431

第二百四十三話 強敵と惚気

時刻は二十時四十分。


国民的アイドル"ユキツバキ"を狙った妖魔連合隊の攻勢は、春桜学園の徹底的な応戦により苦戦を強いられていた。


そんな時、

幻魔界より痺れを切らした、

三妖魔が春桜学園に到着してしまうのであった。


北に羅刹(らせつ)、西に(ぬえ)、東に蛇姫(だき)と三妖魔は破れた結界から入らず、ご丁寧に微食会と両津家の前に立ちはだかった。


しかし、三人はその光景に思わず愕然(がくぜん)とする。


一面妖魔たちの血で染まり、細切れの肉片となった者、業火に焼かれて灰となった者、死屍累々、まさに地獄とも言える光景であった。



まずは北側より。


北側の守りは近藤、渡邉、白備、ラシュリーナの四人が守る北門防衛線である。


おそらく東西南北を守る中でも、

二番目に危険な鬼門(きもん)である


そこには多くの妖魔らが血を流して横たわり、

何かが焼けた様な不快な臭いが漂っていた。


羅刹「まさか、学生ごときが‥ここまで、やるとはな。」



目を閉じた羅刹出さえも、

地獄のような戦慄(せんりつ)に背筋を凍らせた。


近藤「はぁはぁ‥ほう、ここでようやく腕の立つ方のご登場か。」


渡邉「ふぅ、しかも、ご丁寧にここに来てくれるとはな。」


流石の二人にも疲れが見え始めていたが、

二人は余裕の素振りを見せ刀で肩を叩いた。


すると、二人の背後から白備が前に出る。


白備「学生だけではありませんよ。羅刹、」


羅刹「っ!その声は‥糞淫乱狐(くそいんらんきつね)の弟か‥。くっ、気配を消してやがったな。」


白備「‥相変わらず口が悪いですね。この裏切り者が。」


羅刹「くくく、裏切り者呼ばわりとは‥、始めに裏切ったのは貴様らだろが!」


白備「な、なんだと。」


羅刹「何が‥共存だ‥。過去に人間共が何回裏切ってきたか‥、妖魔ならわからないとは言わさんぞ!」


激昂した羅刹から、

けたたましい殺気が放たれる。


白備「‥あなたは愚かな妖魔だ。過去に囚われ、今を見ようとしない‥。私はこの優しい時代に、姉さんと兄弟共々助けられてきました。‥確かに羅刹が言うように、過去の人間は哀れで酷い者だ。それでも俺は‥今ある優しい時代を壊そうとするお前らを許す事は出来ない!」


刀を羅刹に向けると、

近藤と渡邉は同意するかの様に笑みを浮かべた。


対して羅刹は、自分より格下な白備にここまで言われた事に大激昂する。


羅刹「半人前の狐の分際で、大妖怪たる我に歯向かうとは、偉くなったものだな。良いだろう‥貴様ら全員殺してやる。」


膨大な妖気と殺気を放ちながら閉じた目を開かせると、人型の姿から巨大な蜘蛛の様な姿へと変わり、鬼の様な顔と鋭利な牛の角を生やした。


大妖怪"牛鬼"と化した。


その姿を目にしたラシュリーナは、何かを思い出したのか、その場に座り込み怯え始めた。


まさかの牛鬼の登場に、流石にまずいと感じた近藤は、怯えているラシュリーナに気づく。


近藤「っ!ラシュリーナ!どうした!?」


ラシュリーナ「あ、ぁぁ‥。」


恐らく恐怖から来る放心状態だろう。

完全に我を失っている。


渡邉「尚弥(しょうや)!ここは俺と白備に任せてラシュリーナを避難させろ!」


近藤「だ、だが‥、」


渡邉「大丈夫だ‥、ちょっと疲れているけど、不思議と力だけは湧いてくるからよ。」


近藤「そ、それはアドレナリンが出てるだけだろ!?」


渡邉「そうじゃないよ。これは聖唱魔法だ。」


近藤「な、なんだそれ‥。」


渡邉「そんな話は後だ!早く行って戻ってこい!」


近藤「わ、わかった。二人とも死ぬなよ!」


近藤はラシュリーナを担ぎ上げ、闘技場へと走った。



渡邉「さて、どう倒すかな。」


白備「羅刹‥いや、牛鬼はただの力任せで動く低能な妖魔です。逆に挑発に乗って本体を表した今‥二本の角を切り落とせば牛鬼は力を失います。」


渡邉「なるほど、真の姿の方が強いと思って失敗するパターンだな。」



完全体と化した牛鬼は、

まさに化け物に相応しい声で語りかける。


牛鬼「虫けらどもが‥、聖女を食う前に貴様らを喰ろうてやる!!」


渡邉「ほう‥なら、取って置きの技でお前を馳走してやるよ!」


白備「両津家の名に懸けて、牛鬼!あなたを滅します!」


若き二人の少年たちは、大妖怪に挑むのであった。




花火の明かりに照らされて、

金髪ヴァンパイアを抱え走る一人の少年。

道中に襲いかかる妖魔、亜種族、怨霊らを蹴散らしその足を止めることはなかった。


近藤「ラシュリーナ、もう少しだからな。我慢してくれ。」


ラシュリーナ「あ、あいつよ‥。」


近藤「えっ?」


ラシュリーナ「ま、魔界で‥お城を襲ってきた化け物‥。」


近藤「な、なんだと?」


かなり重要な証言に詳しく聞こうとするも、

(さえぎ)るかのように亜種族と妖魔たちが、一斉に襲いかかる。


亜種族「キシャァァ!!」


妖魔「小僧が!!」


近藤「くっ!邪魔だ雑魚共!道を開けろ!!」


片手で刀を振るい、

斬撃波を飛ばしながら闘技場へと向かう。


圧倒的な力の差に余裕とも思えたが、

怨霊たちの呪詛陣(じゅそじん)に足をとられ金縛りに合う。


近藤「ぐっ、呪詛陣か‥ぐぐ!」


ラシュリーナ「ぅぅ‥。」


本来、(おそ)れ負けなければ効かない代物(しろもの)なのだが、ラシュリーナを抱えていることもあり、怖れに負けて気絶したラシュリーナを通して近藤にも掛かってしまったのだ。


怨霊「呪呪呪‥。」


怨霊「カカカ‥。」


妖魔「キヒヒ。」


動けなくなった"鬼"に、

怨霊たちは殺す気満々である。


近藤「くっ‥(どうする‥このままだと‥確実に死ぬな‥。何とか出来ないわけじゃないけど‥、ラシュリーナを傷つけてしまうかもしれない‥。)」


重要な決断を迫られた時、

突如、何処(どこ)からかクナイが飛んでくる。


クナイは的確に怨霊らの脳天を突くと、青い炎が灯され悲痛な叫びと共に消滅した。


近藤「な、なんだ‥。」


突然の事に、何が起きたのかわからない近藤の前に、エロエロなくノ一衣装を着込んだ四風御影が現れた。


御影「よっと、遅くなってごめんね♪(しょう)君♪」


近藤「み、御影先輩?」


御影「こ~ら♪お姉ちゃん‥でしょ?(しょう)君?」


近藤「うぐっ、そ、その呼び方はやめてください。」


御影「そう邪険にしないでよ~♪幼馴染みでしょ~?」


近藤「うぐ、ね、姉さん‥い、いつもいつも、二人きりの時にその"幼馴染み"って言うのやめてくださいよ!?」


御影「クスッ‥小学生の頃まで一緒にお風呂に入ってたのに??」


近藤「だぁ~!やめてくれ~!再従姉弟(はとこ)だからって、その頃の記憶は恥ずかしいから‥!」



ここで小話、

近藤尚弥と四風御影は再従姉弟の関係で、

少し遠い親戚である。

本来、再従姉弟となると出会う機会はほとんどないはずなのだが、とある一族の集まりでたまたま、尚弥と御影は出会ってしまう。それ以来、弟がいない御影は尚弥を弟のように可愛がるようになっていた。


この事は実の妹である"椿"は知らないことであり、この件は尚弥と御影、一部家族間の秘密であった。


子供の頃は凄く仲が良かった二人だが、

月日が経つことに、御影の色気とエロさが増し、尚弥も恥じらいを覚えた事から、尚弥は次第に御影を避けるようになっていった。


本来なら恋愛に発展しそうな話ではあるが、御影のレベルが高すぎて、尚弥は逆に恋愛対象から外してしまったのだ。



懐かしの黒歴史に触れていると、

御影がラシュリーナの存在に気づく。


御影「あら?その子は?」


近藤「あ、あぁ、この子はヴァンパイアのラシュリーナだ。色々あって異世界から連れてきたんだよ?」



御影「ふぅ~ん?異世界ね。」


少し不機嫌そうな顔をして近づくと、

下から上へと二人を見る。


御影「‥ロリコン。」


尚弥「うぐっ、お、怒るよ?」


御影「むう~、それ~!」


尚弥「んぷっ!?」


やはり何か気に触ったのか、

御影はその豊満な胸で、尚弥の顔を押し当てた。


御影「ひどいわ!尚弥~!あの時、私をお嫁さんにするんじゃなかったの~!」


尚弥「んんっ!!?」


身に覚えのない約束ごとに、

反論しようにも胸に押し込まれているせいでそれ所じゃなかった。


で、でも‥柔らかで凄く良い匂い‥。

じゃなく、窒息しそうである。


意識が朦朧(もうろう)とする中、

脳内でとある事を思い出す。



これは‥風呂場であろうか‥。

小さな女の子が楽しそうに、男の子の頭を洗っていた。


男の子「うぅ~、目に染みるよ~。」


女の子「もう~、目を開けちゃ駄目だって言ったでしょ??」


男の子「うぅ~、も、もう流してよ~。」


女の子「だ~め、しっかり洗わないとハゲちゃうよ?」


男の子「うぅ、そ、それはやだ~。」



すると、次の記憶が入り込む。


次は、

二人が合い迎えになってお風呂に入っていた。


男の子「うぅ‥。また‥会えるよね?」


女の子「また出た~♪尚君の"また会えるよね~♪"」


男の子「うぅ、だって‥御影お姉ちゃん‥遠い所から来てるから‥。」


女の子「‥クスッ、へぇ~♪私が居ないとそんなに寂しいの~♪」


男の子「う、うん‥。」


女の子「蒼君たちも居るのに??」


男の子「そ、蒼喜は‥その‥友だちだから‥。」


女の子「クスッ‥なら、お姉ちゃんと結婚する??」


男の子「ふぇ?」


女の子「だ~か~ら~♪お姉ちゃんと結婚すれば毎日一緒だよ~♪」


男の子「御影お姉ちゃんと‥一緒‥ふぁ~♪うん!俺、御影お姉ちゃんと結婚する!」


女の子「じゃあ約束だよ~♪」


男の子「うん!」



徐々に思い出す幼い時の記憶‥。

なぜ、こんな大切な約束を忘れていたのか。


思い当たるのは一つ。

成長する度に自然と覚える恥じらい。

日に日に色気を出し美人になる御影に、自分では釣り合わないと勝手に悟り始め、自ら約束を闇に(ほうむ)っていたのだ。



色合思い出した尚弥(しょうや)は、

取りあえず御影の腕を掴んだ。


御影「尚君?」


尚弥「んはっ‥ご、ごめん姉さん‥約束のこと‥忘れていたよ。」


御影「‥そ、そんな‥尚君。」


尚弥「で、でも‥ち、違うんだ‥。」


御影「‥えっ。」


尚弥「‥えっと‥その‥じ、実は‥日に日に美人になっていく姉さんに‥俺なんかが釣り合わないと思ってしまって‥小さい頃の約束だったから‥わ、忘れようと‥。」


もじもじと照れ臭そうに話す尚弥に、

御影は何を考えたのか、少し笑みを浮かべて動揺する尚弥に語りかけた。


御影「クスッ‥へぇ~♪つまりそれって‥私の事を‥凄く意識してるってことだよね?」


尚弥「そ、それは‥えっと‥うぅ。」


目をそらし誤魔化す尚弥に、

御影は姉心をくすぐられ耳元で囁く。


御影「‥私は、尚君じゃないと‥いやかな?」


尚弥「なっ///」


御影「だから‥そんなに気を使わないで子供の頃見たいに仲良くしよう‥ね♪」


大胆にも尚弥の右腕にしがみつき、豊満な胸を押し当てると尚弥は咄嗟に振り払った。


御影「あっ、尚君‥?」


尚弥「ご、ごめん姉さん‥い、今のは嫌って訳じゃなくて‥その‥。い、今も姉さんを見ると‥む、胸が苦しくなって‥‥ま、また姉さんを‥す、好きになりそうだから‥。」


御影「~っ///(か、かわいい~!)」


素直になれず赤面しながら取り乱す"弟"に、

エロエロなお姉さんは暴走寸前であった。



そんな二人は戦場のど真ん中で、

十年前から続く諦めかけた恋愛に惚気(のろけ)に浸っていると、妖魔たちが血相を変えて襲いかかってくる。


妖魔「何ごちゃごちゃ、いちゃついてやがる!」


亜種族「殺せ!人間風情が我の前でいちゃつくな!!!」


再び攻撃を仕掛けるも、再び大量のクナイが飛んでくる。


三年くノ一「御影!何をしている!」


三年くノ一「敵の前で隙だらけじゃないか!」


御影「クスッ、ごめんね♪ちょっと、取り込んでてね♪」


三年くノ一「全く、早くもどれよ?」


二人のくノ一が、次なるポイントへ移動すると、御影は赤面してうつむく尚弥の顔を上げさせ、ファーストキスを捧げそして奪った。


尚弥「っ!!!?」


御影「クスッ‥これで、もしその子と対峙しても‥一歩リードね♪」


尚弥「あ、いや‥えぇ!?」


御影「クスッ、早くその子を届けて持ち場に戻りなさい♪」


突然の事に動揺する尚弥に、

御影は笑うと華麗に去っていった。


尚弥「‥姉さん‥。本当に‥昔と変わらないな。」


その後、尚弥は気絶したラシュリーナを抱えて闘技場へ走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ