第二百四十一話 防衛剣閣と二人の強鬼
時刻は八時十五分。
各防衛陣で穴が開くなか、
正面門(南)から噴水広場で交戦する二年三組士道部の半数は、勇敢に奮戦するも多勢に無勢の前に三年棟を越えた本棟前にある南第二防衛陣へ後退した。
現場詳細(仮)お飛ばし推奨
南第二防衛陣は、闘技場へ通じる道であり、本棟と三年棟の真後ろにある体育館兼温室プールに挟まれている。
各棟には強力な結界が張られており、妖魔たちが侵入することはなかった。そのため妖魔たちは、各学年棟に入らず二方面から南第二防衛陣に攻撃を仕掛ける。
しかも、学園の構造は縦長であり、体育館兼温室プールを中心にするなら、闘技場は更に北側にあり、北、東、西の守りは闘技場を中心に構えている。
そのため南側は、
かなりの敵が雪崩混んでくると言える。
これを読んでいた"大本営司令部"聖籠忍は南第二防衛陣に、学園最強の男"本田忠成"と士道部を中心とした生徒たちが構えていた。
ここでも魔弾銃と大砲などを活用し本棟と防衛陣から敵を倒していた。
晴斗「焦らなくて良いよ。次、第三鉄砲隊、放て!」
花火の心踊らせる後押しもあり、
士気は向上、鉄壁の守りを見せていた。
しかし、噴水広場での攻防により負傷者は多く、危うく命を落としそうになる者まで出ていた。
防御魔法を施されているとは言え、
恐ろしいものである。
そして南第二防衛陣から北側へは、
異世界の先生方による強力な結界魔法により、
南第二防衛陣を突破されない限り、南側からの侵入は不可能になっていた。
まさに三国志の最終番にある。
蜀の生命線の剣閣である。
史実みたいに道を作られなければよいが‥。
そんなことを考えている一人の武士がいた。
忠成「‥ふむぅ、果たしてここを死守して‥大丈夫だろうか。」
晴斗「どうかしましたか?」
忠成「晴斗よ、お主は三国志の剣閣を知っているか?」
晴斗「えぇ、もちろん。もしかして、先輩はそれと今が似ていると思われているのですね?」
忠成「うむ、結界が如何に強力でも必ず壊れるものだ。もし壊された場合、我らは四面楚歌となり、大量の敵が闘技場へ雪崩れ込むことになる。」
晴斗「‥私も色々と考えましたが、闘技場前で戦うよりはここが一番かと思います。」
忠成「‥ふむぅ、最悪は我一人で殿を努め、闘技場を決戦にする他ないか。」
晴斗「っ、先輩!」
忠成の無茶ぶりに、
流石の晴斗も止めようとする。
しかし、本田は軽く手を上げ、
それ以上言わせないようにする。
忠成「それ以上言うな。あくまでも最悪の場合だ。我もそうならないように努力する。安心せよ。」
晴斗「‥なら良いですが。」
まるで殿を望んでるかの様な表情に、晴斗は不安になるのであった。
二人が話をしている間に、
本棟から六門の大砲が運ばれる。
吉田「三条、本田、本棟から六門借りてきたぞ。」
晴斗「吉田先生、ありがとうございます。戦局はまだ均衡ですから、予定通り双方に三門ずつ配置しましょう。」
吉田「よし、わかった。」
吉田は予定通り作業に移る。
本棟に構えられた大砲は三十門。
そこから支障にならない六門を拝借した。
六門の大砲が来たことにより、
士道部たちの目の色が変わる。
士道部たちは魔弾銃から魔弾砲取り出す。
二年士道部「左翼撃てぇ!」
三年士道部「右翼放てぇ!」
もはや士道とはどこへやら、
南第二防衛陣は、容赦のない飛び道具の雨を降らすと、妖魔たちの悲痛な叫びが木霊する。
妖魔「退け退け!近接中止!一旦下がれ!」
妖魔「どけどけ!こちらも主砲魔で応戦だ!」
亜種族「小賢しい兵器を使いやがって‥、これでも食らえ!」
流石の相手も学習したのか、
近接先方から遠距離線へ切り替える。
建物が壊せない事から後方に待機させられていた主砲魔が前に出る。
獅子の様な顔を持ちに"のしのし"と四足歩行で歩く姿は、古い戦車の様にも見える。
二年生「っ!左翼本棟から!主砲魔多数接近!!」
三年生「こちら右翼本棟から、こちらも主砲魔多数接近を確認!」
晴斗「っ!了解、本棟より撃破を要請する。」
吉田「主砲魔って、おいおい。」
忠成「敵は本気だな。相当あの五人を喰らいたいみたいだな。」
晴斗「警察機構が動けないんじゃ、これ程までのチャンスはないですからね。」
忠成「ふっ、戦を仕掛けるには流石と言うべきだが‥、外道の上に下策だな。」
忠成は、愛槍"人間止主"の石突きを地面に叩くと前に出ようとする。
晴斗「ちょっ、本田先輩どちらへ!?」
忠成「叩き壊しにいくんだよ。」
晴斗「や、やっぱり‥。」
吉田「本田が右翼なら、俺は左翼を片付けるよ。」
更に吉田から後押しをするような発言に晴斗は、
"おい、こら教師!ここは止めろ"っと、
言わんばかりの顔で吉田を見る。
晴斗「ふぅ、この学園の教師も教師だな。まあ、それに賛同する俺もどうかしてるけど。」
吉田「まあまあ、そう言うな三条よ?この学園の大半は今の時代を最高と感じている者たちばかりだ。それを壊そうとしてる奴等を野放しにできるほどみんな優しくはないだろ?」
晴斗「そりゃそうですけど‥。言い方は悪いですが‥身の危険があると分かっても動くバカしかいませんからね。」
二年生「あはは、言ってくれるね晴斗~♪」
三年生「あはは!その通りだな!」
二年生「なら、俺は吉田先生に続くぞ!」
三年生「それなら、俺は忠成と共に暴れてやるよ!」
闘志が暴走ラインまで達した一行らは、
こぞって防衛陣から出ようとする。
ここまで来るとさすがの晴斗でもお手上げであった。
こうして右翼本田隊、左翼吉田隊、本陣三条隊に分けられ、本田隊と吉田隊は前線を押し上げるのだが、そこへ突然敵側の方から大爆発が起きた。
防衛側は、運良く主砲魔の急所に当たり大爆発を引き起こしたのかと思った。
三年生「す、すごい爆発だな。」
忠成「ふむぅ、主砲魔との近接は止めた方がいいな。」
三年生「‥だな、もし知らずに攻撃してたら、命はなかったかもな‥うぅ、少しビビるな。」
忠成「ふっ、‥っ、ビビっている場合ではない‥みたいだな。」
三年生「っ!な、なんだ‥この妖気は。」
忠成「‥まさか、水を差されるとはな。」
爆発した方から感じる強力な妖気。
さっきまで相手にしていた雑兵とは違う危険な妖気である。
それは左翼に回った吉田隊にも感じていた。
二年生「‥こ、この妖気はなんだ‥。」
二年生「いつぞやに起きた両津の暴走よりは、弱いが‥。」
二年生「‥それでも、上級者の力だぞ。」
吉田「ふぅ、」
生徒たちは警戒する中、
吉田はため息をついて、片手で頭を抱えた。
二年生「せ、先生‥、どうしましたか?」
二年生「や、やばい相手でしょうか?」
吉田「ふぅ、やばいと言えばやばい‥、が、大丈夫だ‥。全く新任前だと言うのに‥どこで嗅ぎ付けたのやら。」
黒煙と火柱が立つ先から、
左翼右翼と二人の"鬼"が現れた。
朱季「へぇ~、騒がしいから来てみれば‥楽しそうなことしてるじゃねぇか~?奏太の奴‥こんな面白いことを隠しやがって‥。」
忠成の前に現れたのは、
立派な一本角に、豊満な胸にさらしを巻き、侍姿を装い。健康的な褐色肌に綺麗な短い銀髪、そして姉御系のカリスマ溢れる鬼、朱季楓が現れた。
キリハ「"あなた"~♪どうしてこんな面白そうなイベントを俺に黙っていたんだ~??」
一方、吉田の前に現れたのは、
朱季楓と比較して、やや角と胸は小さいがそれでも姉御系の鬼に相応しい体を持ち、透き通るような白い肌。見とれるくらいの真っ赤な長髪。
吉田の嫁にして、二学期から新任として来る予定のキリハであった。
忠成「‥厄介なのが、来たな。」
三年生「げっ!?朱季先輩!?」
三年生「ま、まさか‥喧嘩祭りしないよな‥。」
流石の士道部の三年生でも、
朱季楓の危険性は重々知っていた。
その中でも、ゲリラ開催の喧嘩祭り(決闘祭)は、恐ろしいもので朱季に強者だと目をつけられたら最後、倒れるまでのデスマッチが開催される。
朱季「おやおや?懐かしの顔が沢山いるな??忠成は、春の大戦乱祭以来だったか?」
忠成「お久しぶりです。お味方で来てもらえたのなら大歓迎ですが‥。」
朱季「へっ、もちろんそのつもりだ。だが‥学園を潰そうとした奴等が弱すぎて、どうも物足りないんだよな~。」
肩をまわしながら欲求不満を呟くと、
三年生たちは一世に身構える。
なぜなら、これはよく朱季楓が使っていた。
決闘前の上等文句であったからだ。
朱季「誰か‥相手してくれや。」
案の定これである。
だが、惹かれるようなカリスマ性に、
三年生たちは自然と受け入れてしまう。
だが、後方には続々と妖魔たちが攻めかかってくる。
三年生「た、忠成!敵の増援だ!」
忠成「わかっている。俺が先輩の相手を務める。お前たちは構わず敵を倒せ。」
三年生「お、おう!」
士道部三年生らは、
各自陣を取り迎撃に備える。
そして睨み合う朱季と忠成は、一歩ずつ迫る。
朱季「まさか、一人で挑む気かい?」
忠成「そうですが‥なに?」
朱季「いや、またあの時みたいに秒殺で終わるのはやめてくれよ??」
忠成「‥ふっ、言ってくれますね。本気の我の力を見ていない癖に‥。」
朱季「へぇ~♪言うようになったな‥忠成~?」
忠成「‥ふっ。」
朱季と忠成の間合いが触れた時、
二人はその場に佇む。
迫り来る妖魔たちに、
三年生たちは慌てて声をかける。
三年生「二人とも何突っ立って‥ぐはぁっ!?」
事は一瞬であった。
妖魔たちが朱季と忠成に斬りかかろうとした時、二人は渾身の力で技をぶつけた。
忠成が、愛槍を両手で振り下ろすのに対して、
朱季は右腕一本で防ぐ。
妖気と覇気のぶつかり合いで、
辺りは青白く光、地面は砕け跳ね上がり、凄まじい衝撃波が生まれ、周辺の敵味方関係なく吹き飛ばされた。
一方、キリハと吉田については、
生徒の前だと言うのにも関わらず、キリハは吉田に抱きつき健全なスキンシップを取っていた。
がしかし、そこへ妖魔の増援が水を指したことによりキリハはブチギレ。吉田の首根っ子を掴むや投げ飛ばす。
軽く前線を吹き飛ばす程の威力に、
吉田は即行に瀕死となった。
二年生「せ、先生!?」
吉田「かはっ‥な、何を‥。」
キリハ「っ!た、鷹幸大丈夫かい!?」
我に返ったキリハは、急いで駆け寄る。
キリハ「こ、これは酷い‥だ、誰にやられたんだ!」
恐ろしいことに自分がしたことを自覚がないキリハに、二年生たちはビビる。
しかも、二学期になれば新任として来ることは知るよしもないことであった。
吉田「ば‥か‥‥お、おま‥かふっ。」
キリハ「っ!鷹幸!?おい!しっかりしろって!?」
白目を向きながら泡を吹くと、吉田の口から白い何かが浮き上がった。
キリハはつかさず、それを掴み口に戻す。
吉田「かはっ!?」
すると吉田の意識が戻ると、
キリハは一息ついた。
※ちなみに、生徒たちには白い何かは見えてません。
だが、そんな都合よく行くことはなく、次から次へと妖魔たちが迫る。
二年生「鬼のお姉さん!後ろ後ろ!」
二年生「やばい、みんな魔弾銃で援護しろ!」
妖魔たちが間近に迫っている光景に、
二年生たちは慌てて魔弾銃を構える。
するとその時、獄炎魔法が妖魔たちを襲った。
二年生「っ!なんだこの火炎魔法は!?」
二年生「す、すげぇ威力だ。しかも、生きてるみたいに動いてやがる‥。」
更にここで、朱季と忠成がぶつかった凄まじい衝撃波と音が響き、戦場は大混乱と化した。
キリハ「よくも‥鷹幸をやってくれたな。ゴミ共が‥死んで償えや!」
思わず相手に同情してしまうような理不尽ぷりに、二年生たちは合掌するのであった。
床はレンガ大破、植物も焼け落ち、
覚悟はしていたことだが、学園の復興には手が焼きそうである。