第二百四十話 逮捕と暗殺
時刻は二十時。
闘技場でのライブも後半に入り、
盛り上がりは最高潮に達していた。
更には、片貝率いる花火部が暴走し、鳴り止まない花火が打ち上げられていた。
更に更に、それを合図に花火部と結託した街の花火職人たちもあちこちで打ち上げ始めた。
花火が照す光は、
学園だけではなく街全体を照らし暗闇を払った。
これには路地裏から本部の襲撃命令を待つ妖魔たちも、思わず絢爛豪華な空を見上げていた。
妖魔「な、なんだ‥花火大会でもやっているのか‥。」
妖魔「それにしては‥人が少ない気がするが。」
絢爛豪華な花火の割には、
人と車の混雑はなく通常とも言える交通量に、
妖魔たちは違和感を感じた。
すると、そこへ。
二人の男性が声をかける。
男性「あの、すみません。」
妖魔「っ!誰だ貴様。」
男性「あ、いや、驚かせてすみません。ちょっと、ネコ探しをしてまして~♪」
妖魔「ネコだと?」
男性「えぇ、真っ黒いネコなんですけどね。よく路地裏に逃げ込んじゃうんですよ。見てませんか?」
妖魔「ネコか‥おまえ見たか?」
妖魔「ふん、知らんな。」
妖魔「そう言うことだ。俺たちは今忙しいんだ。とっとと失せな。」
二人の妖魔は無愛想な対応すると、
後ろに隠していたナイフに手をかける。
男性「ありがとうございます、あとついでなんですけど。」
妖魔「まだなにか?」
男性「‥ここらに、無差別殺人を企む妖魔がいると聞いたのですが‥。」
妖魔「‥ほぅ。」
男性「知りません‥か。」
図星を突かれた二人の妖魔は、目の色を変えると
男性が尋ねると同時に襲いかかる。
すると、花火の音と共に
男性二人は拳銃を取り出し発砲した。
一人は眉間を撃ち抜かれ絶命、
もう一人は証言用のため、足と胴体を撃たれた。
妖魔「うぐぐ、き、貴様ら‥な、何者だ‥。」
男性「ここまでやられても気づかないとはな‥、どうも、私たちは警界官です。御同行願います。」
妖魔「っ!ば、ばかな‥警界官だと‥、い、居ないんじゃないのか‥。」
警界官「いやいや、そりゃいますよ~♪」
話が違うと言わんばかりの表情をする妖魔に、
温厚そうな警界官がしゃがみ込むと、突然胸ぐらを掴み豹変する。
警界官「日本警察機構をナメんなよ‥。特に警界庁はな!」
妖魔「っ!」
警界官「こちら、第十五警備。"丸妖"戦闘により一人死亡、一人拘束。どうぞ。」
司令室官「了解、今より回収チームを向かわせる。その場で待機されたし、」
警界官「了解。」
春桜学園周辺の街は既に、
私服警界官で張り巡らされていた。
そしてここ信潟県中越地区第三警察署では、
今回の"事変"の対策本部が設けられていた。
界人「隠密作戦は成功だな。」
弾崎「えぇ、ですがこの花火のせいで住民たちが外に出始めています。これではいつ住民に危害が及ぶか油断できません。」
界人「そうだな、今ここで直ぐに警戒網を張れば、確実に敵は俺たちの存在を察知して住民を襲うだろうな。その後は混乱を招き死屍累々だ。」
弾崎「‥それは、そうですが」
界人「どのみち危険な橋だ、その中でも安全な橋を選ぼうじゃないか?」
弾崎「‥安全な方ですか。」
現場は少し危険な展開だが、
警界庁長官は至って冷静で構えていた。
むしろ清々しいくらいであった。
すると、ここまで来たら酔っているのかと疑ってしまうような発言をする。
界人「そう難しい顔をするな。もし、住民が一人でも何かあれば‥俺はこの職を辞する覚悟はある。」
弾崎「っ!そ、そんな無茶な!」
界人「無茶でもやるしかない。俺たちの役目は、国民と両界の平和を守ることだ。一人でも多く救うんだよ。」
彼の瞳には一切の揺るぎはなかった。
弾崎は感銘を受け、両津界人の船に乗ることを決めた。
弾崎「‥‥あ、あなたと言う人は、なら、その責任、私も乗らせてもらいます。」
界人「ふっ、お前と言う奴は‥‥おい、ケトー。」
ケトー「わふっ?、おお!もしかして出番か~♪」
界人は、自作の犬小屋で待機している
黒髪短髪美少年にして、ギールの父である。
ケトー・フォルトを呼ぶ。
ケトーは大好きな界人に、
尻尾を振りながら指示を求める。
界人「あぁ、そろそろ俺たちも出る。街に蔓延る不等な輩を討伐するぞ。」
ケトー「おうよ!久々の戦闘の仕事だ~♪頑張るぞ!」
弾崎「では、私も。」
界人「お前はここに残れ。司令官がいなかったら現場は崩れるからな。」
弾崎「っ!ちょっ、まさか、これは逃げるための‥。」
界人「よし、ケトーいくぞ!」
ケトー「わふぅ~♪」
二人は弾崎を本部に置いて逃げるように去っていった。
弾崎「はぁ、やられた‥。」
指令室官「えっと‥これは弾崎さんが代理でよろしいですか?」
弾崎「はぁ‥あぁ、俺が代理を勤める。作業を続けてくれ。」
学園校外では警界庁を筆頭に警察機構計七千二百名が討伐、学園救出作戦へと乗り出すのだった。
その頃、
本格的攻撃を始めてから一時間半が経った、
幻魔界某豪邸では。
退魔協会会長 木枯主善を始めめ、羅刹、鵺、蛇姫ら四名が、未だに良い報告が来ないことに、痺れを切らしていた。
羅刹「‥まだ、報告は来ぬか。」
紫色の短髪に両目を閉じた人型妖魔"羅刹"は、
妖刀を掴み震えを抑えていた。
鵺「‥ここまで遅いとなると、やはり手こずっているか。これは木枯会長の自慢の策と配下が、破れたと考えるべきかな??」
黒髪短髪で人型妖獣の鵺は、嘲笑うかの様に赤いアホ毛を動かす。
蛇姫「しゅるる‥それなら我らの同士も弱いですよ。やはり、我らも行くべきかと。」
緑色の長髪で胴体が蛇の姿である蛇姫は、
待ちきれず地上に赴こうとする。
木枯「‥ふむぅ、まさか、あの者たちが殺られるとは思えん。まさか‥警察機構が動いたか。」
羅刹「くくく、なるほど脅迫文など恐れるに足らずか。となれば、もはや作戦は失敗ですな。」
鵺「悠長なことは言っていられないぞ。此度の動員は八割も送っているのだ。もし壊滅となれば、異世界どころか再起を図ることができなくなる。」
蛇姫「しゅるる~、なら‥やることは一つ。ここでのんびりしているよりも、私たちが赴いた方が得策‥。」
羅刹「ふぅ、結局こうなるのなら初めから妥協するんじゃなかった。」
鵺「後悔しても遅い‥、こうなれば急いで地上に向かう。木枯会長はどうする?」
鵺たちが立ち上がるなか、一人だけ立とうとしない白髪の老人は目を閉じながら答える。
木枯「‥‥ワシはここで報告を待つ。」
羅刹「ふっ、さっきまでの威勢はどこへやら。」
鵺「こら、羅刹。ふぅ、では、我らは先に。」
最初は流石とか調子の良いことを言っていた羅刹だが、その性格はひどい気分屋であり、鵺でも呆れる程である。
鵺たちが席を立ち闇へと消えると、
木枯は退魔協会会長の証である短刀を手にした。
木枯「‥もし、皆が死ねばワシも死なねばならないか。春桜学園‥恐ろしい者よ。」
?「へぇ~、それなら僕が手伝ってあげるよ。」
木枯「っ!な、なにやっんんっ!?」
気配を全く感じさせず、
後ろから話しかけられた木枯は、
短刀を手にして振り向くも、謎の黒髪短髪女性に腕と口を塞がれる。
?「そんなに怖がらないでよ?私はただ、会長さんに用があってきたんだよ??」
謎の女性は、塞いだ口を外し発言権を与えた。
木枯「はぁはぁ、貴様は何者だ‥まさか、この短刀が狙いか、それともワシの命か。」
?「ふっふっ、そんなおもちゃと余命短い命には興味ないわね。」
木枯「っ!!?」
怪しさ満点な口調から突如高圧的になり、
闇に引き込まれそうな瞳と共に不気味な微笑みを見せる。
?「僕はね‥、あなたが持っている‥依代石がほしいのよ。」
木枯「な、なぜそれを‥、」
?「ふっ、あなたも悪どい人よね~?依代石を使って退魔士や妖魔を操ったりして‥‥。」
木枯「な、なんのことだ‥わ、ワシは知らんぞ。」
?「ふっふっ、しかも使いこなせてないご様子‥忠誠心しか操れないポンコツぶり、私なら心も記憶も操れると言うのに‥。」
木枯「っ!」
すべて見透かされている木枯は、
一か八か依代石で操ろうと
左手を着物の裾に潜り込ます。
すると、謎の女性は見逃さず左腕を掴む。
木枯「っ!」
?「おやおや~?もしかして、その袖の中にあるのかな~?」
木枯「くっ、この!」
?「くすっ‥はぁっ!」
木枯は左手を払おうとすると、
謎の女性は短刀を持っている木枯の右手を"ゴキッ"とへし折り短刀を奪う。
木枯「ぐはぁっ!!?」
豪邸に木枯の断末魔が響く。
?「くすっ、うるさい老害ね‥。」
木枯「がはっ!?き、貴様‥まさかお前‥ほう‥ぐはっ!。」
謎の女性は短刀で、
木枯の左胸を根本まで刺し込んだ。
絶命した木枯の左裾を調べ白い石こと依代石を取り出す。
?「くすっ、ありがたく受けとるわ‥、それと、この短刀‥一応もらっていくわ。さて、待ってなさい‥私のおもちゃたち‥ふふっ。」
謎の女性は不敵に笑う。
するとそこへ、木枯の声を聞き付けた護衛の退魔士が入り込んで来た。
退魔士「木枯様どうしましたか!なっ!」
退魔士「っ!木枯様!」
退魔士「き、貴様は‥北条魅蓮!?」
北条「おやおや~?僕の名を知る人がまだ協会に居たとはね~?会長のごますりか‥それとも、真面目君なのか‥それとも僕を殺し損ねたお馬鹿君かな?。」
退魔士「き、貴様‥。」
北条「くすっ、雑魚は消えなよ。今なら見逃してあげるよ。」
退魔士「っ!この死に損ないがぁ!」
見え透いた挑発に一人の退魔士が、
大斧を取り出し斬りかかる。
しかし、北条はひらりと交わし、
鉄扇を取り出しつかさず投げると、的確に退魔士の頸動脈を捉え、大量出血のもとその場に倒れる。
北条「さて、これでもまだやる??」
退魔士「ひっ、!」
退魔士「ば、化け物が‥。」
北条「おやおや、それは侵害だね~。化けもってのは、冷酷で残忍で‥。」
北条は、不敵に笑いながら二人に歩み寄る。
感情と光のない瞳、そして闇に吸い呑まれそうな狂気に、二人の退魔士は金縛りに合い動けなくなっていた。
北条は二人の間に入り、二人の肩に手を置く。
北条「‥私の様に感情を捨てた人間を言うんだよ?」
すると、二人の退魔士の首が飛んだ。
北条「ふっふっ、さぁ‥始めようか。じゅる」
頬についた返り血を舐めると、彼女は闇へと消え去った。