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第二百三十九話 死神と冥王

東第一防衛線で開戦する同刻。


東西南北の重要門を守る微食会と両津家が奮戦するも、破れた結界から妖魔、亜種族、怨霊なる連合隊が侵入し、学園内は戦火に包まれた。


幸い防御魔法で死人は出ていないが、

それでも数十人の負傷者は出ている。


戦況としては、

学園正面(南)側が激しく、

結界は穴だらけである。


前線にいる

茂野、坪谷、藤井と両津昴に続いて、

坪谷が書き上げた、二十体近くの人型の傀儡(くぐつ)と途中で描くのが面倒になり適当に仕上げた百体近くの棒人間でも、完全に抑えることはできなかった。


ここで衝撃的なのは、坪谷いわく人型の傀儡と棒人間を出す際の魔力消費量は同等であることであった。


だが性能に差があるようで、

例えるなら、フル装備の勇者と全裸装備に杉木の枝を持たせた勇者くらいの差があると言う(?)


坪谷「うーん、敵さんもあまり俺たちに構わなくなったな‥。やっぱり、飛竜くらいは出した方がよかったか。」


茂野「それはやめとけ、街が灰になるぞ!」


藤原「そうだな!異世界ならまだしも、ここだとリスクがでかい!」


昴「よっと、ちなみにそれって、何でも出せるのですか?」


坪谷「まあね、今のところはっと!‥よし、追加で五十人の棒人間だ!」


仕上げた絵を投げると、

弱々しい棒人間が現れる。


昴(す、すごい‥こ、この人の力なら、に、兄さんを描いてくれるかも‥)


坪谷「ん?よっと!」


目を光らせ見つめる昴に、

坪谷はナイフを投げた。


怨霊「ぐげぇぇ!!」


昴「っ!?」


坪谷「物欲しそうに見るのはいいけど、よそ見はだめだよ。」


昴「す、すみません!」


茂野「たっく、怨霊共も未練残してないで、とっととあの世に行って地獄に落ちろっての!」


大鎌をブーメランのように投げ飛ばすと、

多くの怨霊を切り裂いた。


だがその時、大剣を持ったローブ姿の何者かに弾かれ、大鎌が物凄い勢いで茂野に向かってくる。


茂野は間一髪のところで回避して難は逃れたが、

その衝撃で数人の傀儡が消し飛んだ。


茂野「っ!あっぶねぇ~。」


藤井「おいおい、なにやってんだシゲ?」


茂野「あ、いや、‥ちょっとしくじった。まさか、弾き返されるとはな。」


乱雑に転がった大鎌を手に取ると、

フードを被った者が話しかけてきた。


?「なかなかやるじゃねぇか?十神(じゅっしんちゅう)茂野天(そら)‥、あと、藤井尚真。」


茂野「ほほぉ~?」


藤井「俺たちを知ってるのか‥。」


二人の目の色が変わる。

背中を刺す様な殺気を放ち、

完全に闇の顔であった。


妖魔たちは、あまりの恐怖から動けなくなり、

藤井と茂野との戦闘を避け始める。


?「ふっ、良い殺気だ。生半可な妖魔と違って"本物"だな。」


微妙に聞き取れる女性ボイスと男勝りな話し方に、二人は相手が女なのか、男なのか困惑する。


とまあ、漫画とかで"男勝りなツンケン娘"属性は耳にするが、まさかそんな取り扱いが難しい女性が存在するなどあり得るのだろうか。


ある意味希少なキャラに、睨みついでに観察し始める。


?「おい、テメェら何やら変なことを考えてねぇか?」


茂野「まさか‥。それよりローブを取ったらどうだ?」


?「ふっ、しゃぁねぇな、ほらよ。」


茂野の要求にローブを着た人物は、

ローブを派手に脱ぎ捨てる。


すると、

ほとんど半裸でスタイル抜群の銀髪ポニーテール美女が姿を現した。体には切り傷が多いことから、おそらく異世界出身の女性だと予想した。

と言うより、現実世界にこんなに完璧な女性は存在しない。


?「ほら、これで満足か?」


茂野「‥な、なんか。すまん。」


藤井「シゲ、あとは任せた。」


茂野「っ、あ、おい!?」


予想を越えた美女にやる気が失せた二人、

藤井は嫌な予感を感じて早々に狩り場を移動した。


まわりの妖魔たちも知らなかったのか、

目を丸くして驚愕する。


妖魔「っ、な、なな、なんで"白銀の死神"がここに!?」


妖魔「ひいぃっ!?た、退魔協会だ!?」


怨霊「ギギギ‥。」


突如姿を現した"白銀の死神"に、

敵側は大混乱である。



茂野「退魔協会‥?へぇ‥敵に紛れて何してるのかな?」


?「ふっ、お前たちには悪いが、これも上からの命令でね~。とっとと死んでもらうよ。」


茂野「はぁ‥とうとう、尻尾を出したか‥。あっ、そうか‥あの"手紙"の意味はこう言う事か。」


茂野はここで、上杉爽さんの手紙にあった

"妖魔だけではなく人も絡んでいる"と言う内容を思い出し、その絡みが退魔協会の存在だと悟った。


そうこう振り返っていると、まだ名前も知らない銀髪美女が大剣を構え渾身の力で振り下ろす。


?「いくぜぇ!"深叡大氷結(しんえいだいひょうけつ)"!!」


大剣がコンクリートにめり込むと、鋭利(えいり)な氷の(やいば)がまわりの妖魔らを捲き込み茂野を襲う。



茂野「っ!うわっ!やっぱ無理ってあぶねっ!?」



傀儡「っ!ぐはっ!」


棒人間「‥‥。」



茂野は大鎌を振るい黒い斬撃破で応戦するも、

鋭利な氷の刃は止まらず襲いかかり、

再び間一髪のところで避ける。


捲き込まれた者たちは、胴や頭を貫かれ言葉にならない程の惨劇であった。



坪谷「‥うーん、今ので四分の一がやられたな‥。」


藤井「や、やべぇな、退魔協会‥殺る気だな。」


昴「退魔協会‥やはりそうか‥父さんが言った通りだ。」


予想以上の力に四人は驚くと、

交戦していた妖魔連合隊も距離を取り始め、

大半の妖魔たちは正面門の攻略を諦め、破れた結界から進行する。



?「へぇ~、今の攻撃で生き残るなんてさすがだな?」


茂野「‥ふっ、てっきり、火炎系の技が出ると思ったが、性格に見合わず"冷たい"のだな?」


?「そいつは偏見だぜ?氷属性を使う者が全員クールで大人しい性格だと思ってると、いつか

やけどするぜ?」


茂野「上手いことを言ってくれるな‥"白銀の死神"さん?」


?「ふっ、ラグラ・ノーヴァだ。」


茂野「はっ?」


ラグラ「あたしの名だ。冥土の土産に記憶しな。」


茂野「‥冥土の土産って、"冥王"の二つ名を持つ俺に取っては皮肉だな。」


ラグラ「あはは!それもそうだったな!じゃあ‥いくぜぇ!!」


ラグラは大剣を構えて茂野に斬りかかる。


力の差では明らかにラグラの上であるため、

正面からの斬り合いを極力避けたい茂野は、

大鎌に怪しげな力を込め石突きで地面を叩く。


あまり気の進まない技だが、

もはやこれしか止められる手だてがないと悟ったのだ。



斬りかかるラグラの足下から、

無数の真っ黒い腕が現れ、ラグラの手足を掴む。


ラグラ「っ!な、なんだこれは!?」


茂野「‥いつ見ても気色悪い技だよな~これ。」


ラグラ「くっ!汚ねぇぞ!くそ!離しやがれ!」


大剣を取り上げられ、

手足を完全に拘束、そして無防備の銀髪美女。

如何わしいゲームなら最高の好機である。


茂野「はぁ、すまない。こうする他に勝てる見込みがなくてな。」


ラグラ「へぇ~?なるほどな‥これからあたしを凌辱するってことかい?ふっ、それはやめておけ、お前みたいな男に私を満足させれるような武器はないだろ?」


姉御オーラを漂わせるラグラは、

強者の威厳を崩さず茂野を(あお)る。


だがしかし、


茂野「はっ?何言ってんだ??」


ラグラ「えっ??」


激昂して獣のように襲うと思っていたラグラであったが、予想外の一言に目を丸くする。


茂野「俺だけじゃないが、女性を殺すのは後味が悪いんだよ。いくつか質問するから正直に答えろ。」


ラグラ「えっ、あ、あぁ。」


ペースを崩されたラグラは、

大人しく茂野に返事を返した。



まとめ

彼女は異世界の出身で、氷属性を操る部族の一人娘だった。しかし、その大半の部族はクールな正確を持ち、ラグラ見たいに姉御風の性格は(まれ)であった。

そのため、二年前に村を旅立ち賞金稼ぎとして各地転々としていたそうな。


村を出てから一年後、

たまたま現実世界より来ていた退魔協会の人にスカウトされ、今に至る。


退魔協会では、ただ妖魔や怨霊を狩るばかりで、私利私欲には動いてなかったようだ。


そして驚愕なのが、

ラグラの歳が十六歳と言う‥

茂野たちより一つ年下であった。



しかも、この質問を

辺りで傀儡と棒人間が交戦する中で、

やると言う強行に及んでいた。



茂野「なるほど‥、つまり捨て駒にされた訳か。(その容姿で十六って‥どんだけ過酷な環境に置かれてたんだよ。失礼かもしれないが、どう見ても二十歳前半だろ。)」


ラグラ「‥っ!す、捨て駒だと!?」


茂野「‥あぁ、もし違うと言うなら、何が目的で攻めてきたのか。教えてもらおうか。」


ラグラ「‥そ、それは‥お前たちを始末しろとだけだ。」


茂野「ふむぅ、それだけか?」


ラグラ「あ、あぁ‥。」


茂野「‥なるほど。それなら、このまま拘束させてもらいます。」


ラグラ「っ!おいおい、殺さないのか?」


茂野「‥残念だが、殺すまでの材料が足りなすぎる。おーい、ゆーちゃん。」


坪谷「あいよ~、話は着いたか~?」


茂野「あぁ、取りあえず簡単な小屋を描いてくれ。」


坪谷「ふっ、ほらよ。念のために描いといた。」


茂野「さすが~。」


緊張感のない会話をする姿を見て、

ラグラは思わず呼び止める。


ラグラ「ま、待て!?。」


茂野「ん?あぁ、安心してくれ悪い様にはしないから。」


ラグラ「ち、違う!その‥、こんなことを言うのは虫が良いかもしれない‥。頼む、あ、あたしもお前たちの力にならせてくれ!」


頭を下げるラグラに、茂野は優しく肩に手を置いた。



茂野「‥気持ちはありがたく受け取るよ。だが、これは俺たちの戦い。客人を捲き込むわけにはいかないからね。」


ラグラ「っ!‥やはり噂通りの変わった連中だな。」


茂野「はいはい、言いたいことはこの(いくさ)が終わってからだ。」


茂野は小屋を出し、

丁重にラグラを連行すると、終わりの見えない戦に戻るのであった。


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