第二百三十六話 姉妹愛と破局フラグ
時刻は日が沈み始めた十九時頃。
闘技場ライブ会場では、
生徒たちの熱は覚めず、歌の合間にはトークショーなどが挟み、生徒たちとの親近感を保っていた。
そのため急遽、"ユキツバキ"の五人と一緒にステージに上がれる大イベントが開かれた
その名も、
第一回、
"ドキドキじゃんけんファンサービス"
五人のご主人様を求めて。
内容は至ってシンプル。
会場にいる全生徒たちが、ユキツバキの五人が順番に出すじゃんけんに勝ち、最後まで残った者が勝者となる。
一見気が遠くなりそうなイベントだと思ったが、意外にも十二回目で決着がついた。
勝者は‥皆が納得する方であった。
シャル「ぬはは!余が一番なのだ~♪」
スカーレット「きゃぁ~♪シャルちゃんやるね~♪さすが魔王様~♪」
シャル「そう誉めるなスカーレットよ♪余がこのステージに立ったのだ!光栄に思うが言いぞ~♪」
スカーレット「ははぁ~♪光栄です、シャル様~♪」
ダクト「こ、こらスカーレット?やりすぎだぞ!?」
羞恥心が皆無と言わんばかりのスカーレットの悪のりに、会場からは大歓声が起こる。
だが、これをよく思わない者もいるわけで‥。
リフィル「うぅ~、恥ずかしい。」
桜華「あ、あはは、これは‥凄いですね。」
リフィル「昔は‥クールで"皇女"としての風格があったのに‥この世界に来てから豹変しちゃって‥。」
桜華「ふぇ?皇女??」
うっかり心の声が桜華に聞かれると、
我に返ったリフィルは慌てて誤魔化しにかかった。
リフィル「っ!あ、いや、何でもないよ♪ただ、昔のお姉様はクールで皇女見たいでかっこよかったから‥。」
桜華「皇女‥うーん、それならリフィルちゃんも負けてないと思うけど?」
リフィル「っ//わ、私はお姉様より‥魅力ないもん。」
桜華「あはは♪そんなことないよ~♪じゃあ、憲明に聞いてみようか♪」
リフィル「っ//だ、だめ~//」
桜華「へぶっ!?」
憲明に審査をさせようとする桜華に反応して、
リフィルは思わず平手打ちをする。
桜華はそのまま崩れ落ち、叩かれた頬を片手で当てながら声を震わせた。
桜華「り、リフィルちゃん‥?」
リフィル「っ!?あ、ご、ごめんね桜華ちゃん!?わ、私‥な、何てことを‥。」
我に返ったリフィルは、必死で桜華に謝った。
姉より劣ると思っているリフィルは、
例え、昔の風格を忘れた姉でも、
姉より自分が優れているなど恐れ多かった。
子供の頃から一緒に過ごし、スカーレットに助けてもらっていたリフィルは、根っからのお姉様主義でもあった。
ちょっと、悪のりには引いてしまうけど。
それでもリフィルに取って、
憲明にお姉様と比べられるのは苦痛であった。
もし、憲明がお姉様を選べば‥お姉様主義は守れるが、その程度の愛だと突きつけられてしまう。逆に自分を取れば二人の愛は本物であると証明されるが、お姉様主義に反してしまう。
とまあ、意外と面倒な一面を持っているのだ。
すると、
そこへ二人のやり取りに気づいたルシアが声をかける。
ルシア「もう~、二人とも何してるのよ?」
リフィル「る、ルシア!?あ、いや、これはだな‥えっと。
ルシア「はぁ、仕方ないわね。」
取り乱すリフィルに対して、
ルシアはため息をつきながら、リフィルの唇を奪う。
桜華「ふぇ!?」
リフィル「~~っ!!!?」
ルシア「んはぁ、これで少しは落ち着いた?」
リフィル「はぁはぁ‥あ、ありがとう‥。」
何が起きたのか分からない桜華は、
恐る恐るルシアに尋ねる。
桜華「る、ルシアちゃん?い、いい、今何をしたののの!?」
ルシア「見ての通りよ?それより桜華ちゃん?リフィルをあまり興奮させちゃだめよ?」
桜華「ふぇ!?わ、私は何も‥。」
ルシア「うーん、この様子だと憲明かお姉さん絡みね。」
桜華「???」
ルシア「分かりやすい顔してるわね‥?」
リフィルの様子から、原因を察するルシアに対して、未だに理解していない天然モードの桜華である。
ルシア「こほん、リフィルとスカーレットとは昔からの付き合いだけど、リフィルはスカーレットを慕いすぎるあまり、比較されたくないのよ。」
桜華「ふぇ!?そうなのですか!?それじゃあ、憲明に聞こうとしたのが‥原因‥。」
ルシア「良い反応するわね。まあ取りあえず、憲明に姉妹の中で誰が良いとかは、リフィルにとって踏み絵だから気を付けなさい?」
桜華「うぅ、わ、わかりました‥リフィルちゃんごめんね。」
リフィル「うぅん、気にしないで桜華ちゃん?私も思わず叩いちゃったし‥ごめんね。」
二人は穏便に仲直りすると、桜華はまだ明らかになってない点をルシアに尋ねる。
桜華「でも、ルシアちゃん。あのキスの意味は?」
ルシア「ちょっとした魔力を流しただけよ。混乱したリフィルを止めるのには、"これ"か憲明絡みが最適だからね。」
桜華「な、なるほど~。」
リフィル「る、ルシア‥もうその話はいいでしょ?」
ルシア「クスッ♪じゃあ、私はこれで~♪」
恥ずかしがるリフィルを見たルシアは、
満足そうに元いた位置へ戻っていった。
ちなみに桃馬と憲明は、ユキツバキとシャルの茶番劇に気を取られており、この事態に気づいていなかった。
桃馬「全く、任務そっちのけで楽しんでいるな。」
憲明「俺たちも人の事言えないけどな。」
ジェルド「‥エルゼとココロちゃんを並べたい‥。こんなチャンス二度とない。」
桃馬「‥それは、俺も見てみたいな。でも、そんな事をしたら、会場の二割は失神するかもしれないぞ?」
憲明「失神で収まれば良いが‥下手したら昇天するぞ。」
シャルの動向を気にしているフォルト家は置いておいて、任務そっちのけでライブを楽しむ三人の姿に見かねた京骨が注意を促す。
京骨「おいこら、お前たち仕事しろよ。」
桃馬「っ、わ、わりぃ‥つい。」
憲明「あ、あはは、すまない。」
ジェルド「わ、わふぅ‥、」
時奈「あはは、さすが京骨だ。三人の監視はお手のものだな。」
京骨「そりゃそうですよ。特に今回の任務は遊びではありませんからね。俺の命を懸けてでも五人を守る覚悟ですから!」
京骨の意気込みは、異種交流会の中でもズバ抜けて護衛任務に心を燃やしていた。
一方、観客席の視点では‥。
エルゼ「わふぅ~♪今日のシャル様、凄く楽しそうです~♪」
犬神「むぅ、シャル様に近い‥。なんだ、あのエルゼに似た派生キャラは‥。」
エルゼ「い、犬神様!?そんな事言っちゃダメですよ!?ココロちゃんは、私と同じ白狼種なんですからね?」
犬神「っ、べ、別に‥白狼種を侮辱した訳じゃない‥ただ‥エルゼに似た小娘が‥シャル様に近いことに許せないだけだ。」
エルゼ「むぅ、ココロちゃんを悪く言うなら、犬神様なんて嫌いです!」
犬神「わふっ!!!?」
犬神にとって、最も注意していた展開。
それは、エルゼに嫌われる事であった。
未だに世間知らずで、俺様、シャル様主義の犬神は、行動と発言の良し悪しに苦戦していた。
そのため、とうとうここで温厚なエルゼを怒らせてしまい。
フラれる展開の大きな一歩を踏んでしまった。
犬神「き、きら‥ひ‥ふ、ふら‥れた‥。」
犬神はショックのあまり硬直して、半分魂が抜けかけていた。
そんな隣では、現人神である弥彦稔に一点集中で見ている加茂様は涙を流しながら蕩けていた。
加茂「うぅ~ひっく、稔ひゃまをこの目に納められるなんて‥光栄れひゅぅ~♪」
もはや現場はカオスである。
だが、それもまた一興。
こんなペースで何時に終わるか分からない
デッド・オア・ライブが本番へと突入する。