第二百三十二話 アイドル結集
時刻は午後十六時半、
ライブまであと二時間。
闘技場の控え室では、
国民的アイドル"ユキツバキ"のルルーを始め
獣人族白狼種のココロ・コロネル
銀髪ダークエルフのダクト・リンバートルが合流していた。
ココロ「わふぅ~♪学園てこんなにも楽しいところだったのですね♪来年ここに入学しようかな~♪」
ダクト「そうか、ココロはまだ中学生だったな。この学園は本当に楽しくて良いところだ。私はこの学園の臨界制卒だが、正直臨界制より全日制を勧めたいな。」
ココロ「わふぅ~♪じゃあ臨界制じゃなく、全日制を選べば良いんですね~♪」
サラサラな真っ白い尻尾とふわふわな耳を動かし、興味津々に聞くココロは、仔犬並みの愛らしさを感じさせた。
ダクト「あぁ、でも‥全日制は生徒が多い分、正体がばれたら毎日が大変だぞ?」
ココロ「わふぅ~♪それは慣れっこだよ♪」
ココロが通っている中学では、ココロの愛くるしい存在力が目立ち完全に見ばれていた。
ダクト「ふぅ、その様子だと日頃の中学生活が、どんなものなのか予想がつくな。」
ルルー「ふふっ、ココロちゃんは相手を拒まないからね。むしろモフられることに生き甲斐を感じているくらいだもんね♪」
ココロ「わふぅ~♪もふもふ大好き~♪」
ルルー「あらあら、甘えん坊ね♪」
ココロはルルーに飛び付き体をくるめた。
まさに人懐っこい仔犬である。
ダクト「これで今までよく誘拐されなかったな‥。」
ルルー「むしろ、可愛すぎて誘拐なんかできないのよ♪ダクトもそのスタイルで処女だもんね♪」
ダクト「っ//、しょ、処女っていうな!?わ、私だって‥その言い寄られたことはあるが‥みんな、私の体しか見てないんだ‥。」
ルルー「あらあら~♪」
ダクト「そ、それより、今日はやけにご機嫌じゃないか?昨日までモゾモゾしていたのに?」
ルルー「クスッ、今日たまたま友達と会ってね。そこでとっても美味しい差し入れをもらたのよ♪」
頬を赤らめ満足そうに語るルルーに、
ダクトは何をもらったのか気になった。
ダクト「そんなに美味しいものなのか?それはお菓子か何かか?」
ルルー「えぇ、お菓子と言えばそうね♪」
注意、全く違います。
ダクト「ふむぅ、それはまだあるのか?」
ルルー「ごめんね、もらったのが一つ(一人)しかなかったから、"今は"ここにないのよ。」
ダクト「そ、そうなのか‥ん?今は?」
一瞬流しそうになったが、
何かが引っかかる単語に気づき問い詰めようする。
だがしかし、そこへ、
弥彦稔を脇に抱えたスカーレットが、
勢いよく扉を開け、控え室に入ってきた。
スカーレット「お待たせぇ~♪」
稔「ごめん、遅くなった。」
ダクト「っ、こ、こらスカーレット?いつもいつも勢いよく扉を開けるなと言っているだろ!?」
スカーレット「あはは、ごめんごめん♪次は気を付けるよ♪」
ダクト「もう聞き飽きた台詞だな。」
スカーレット「ふぁ~♪ココロちゃん♪今日も頗る可愛いですね♪」
ココロ「わふぅ~♪」
ダクト「ちょっ、話を聞けって!?」
話を無視してココロに直行するお転婆エルフに、ダクトはスカーレットの肩を掴む。
スカーレット「もう~、何するのさ~?」
ダクト「ひ、ひとつ聞きたいことがあるが‥、正体とかバレてないよな?」
稔「それより、私を降ろしなさいよ‥。」
スカーレット「あ、ごめんごめん♪えっと、私の正体は妹の彼氏さんとお友だちにバレたよ♪」
曇りのない満面な笑みで答えると、ダ
クトが両頬を掴み引っ張り出す。
スカーレット「いふぇふぇ~、ふぁにふるの~。」
ダクト「お前と言う奴は‥例えそういう関係の者でも、プライベートの時は正体を隠すと決めていたではないか!?」
スカーレット「ふぇ、ふぇも~、あのふぃとたひなら、言いふらひゃないとおもうへろ~。」
ダクト「だとしても、これで十回目だ。少しは反省してもらおうか。」
スカーレット「ふへぇ~!?」
ダクトは魔法でスカーレットを縛り付け、
くすぐりの刑を実行するのであった。
これが国民的アイドル"ユキツバキ"の真の姿である。
案外普通でしょ?
ルルーの衝動を除けば、
桃馬たちより上品な五人である。
その頃外では、
多くの生徒たちが、良い席を取るために闘技場入り口にごった返していた。
予想を越えた詰め込みに、
風紀委員たちは暴走気味の生徒たちの対応に苦戦をしていた。
葵「うわぁ‥予想はしていたけど、こりゃひどいな。みんな血相変えてるよ。」
シェリル「そうだな、生者の汚いところが出ている。」
葵「だな。それよりもし‥不審者が生徒に紛れ込んでいたら厄介だな。」
シェリル「‥確かに、セキュリティとして学生証の提示や結界検査はあるけど不安はあるな。」
葵「うーん‥会場にも二十数人の士道部を配置してはいるが、恐らく大半はライブに気を取られるだろうし、そうなると頼みの綱は異種交流会の生徒会長率いる護衛たちだな。」
少々穴があるように見える態勢に、
不安が残るも、大まか外さえ守り通せれば問題はない。
シェリル「ふっ、それなら私たちは、狼藉者を一人たりとも入れさせないようにしましょう。」
葵「そうだな。‥そう言えば‥直人は無事だろうか。」
シェリル「っ、た、確かに‥。あれから二時間、エルンやリールから何も連絡がないな。」
結局ルルーに食われたこと知らない二人は、
未だ姿を見せない直人の安否を心配する。
実際直人は、ルルーに誘拐され姉である稲荷共に瀕死になるまで搾られていた。
最後はリールに身柄を返還されると、直ぐにエルンと共に道場にて看病をしている。
シェリル「‥電話をかけてみようか。」
葵「そうだな、悪いが頼めるか?」
シェリル「あぁ、構わないぞ。」
シェリルはスマホを取り出すと、
早速エルンに電話を掛けた。
話は淡々と進み、一瞬驚きから声を詰まらせる仕草を見せる。
シェリル「っ、そ、そうか‥わかった。葵以外には伝えないから安心してくれ。うむ、わかった。」
最後に口止めとも思える内容に、葵は何となく事の展開が見えた。
葵「‥やっぱり、だめだったか。」
シェリル「あぁ‥、詳しくは話してくれなかったが、大まかな話だと‥瀕死近くまでやられたらしい。」
葵「うわぁ‥さすがサキュバス‥アイドルでも衝動は抑えられないか。でも、瀕死で済んで良かった。」
シェリル「そうだな。それより直人もここに来て辛い恋愛をしてるわね。」
葵「‥平和な様に見えて、実際は命の危険がある日常。ハゲそうだな~。」
シェリル「‥の、呑気な感想だな。」
葵「幼馴染みだからな。それに直人は、なんだかんだで上手くやる男だよ。」
シェリル「‥も、もしルルーさんを嫁に迎えても?」
葵「ふっ‥直人も罪な男だよな。そう言えば、急激に嫁が増えたのも妖の力を得てからだな。もしかしたら‥稲荷さんが何かやったか‥。」
シェリル「ん?どうしたの?」
葵「あ、いや、何でもないよ。さっ、警備だ警備~。」
シェリル「あ、待ってよ~。」
何かを誤魔化すように葵が歩きだすと、
シェリルは慌てて後を追った。