第二百二十八話 闇に潜む幻魔界
納涼祭で学園が賑わっている頃、
魔族と妖魔が住まう現実世界の裏世界、
通称"幻魔界"にて不穏な動きが起きようとしていた。
某豪邸にて、
多くの警界庁指名手配犯が集まっていた。
そしてとある部屋では、
三名の上級妖魔と白髪白髭で着物姿の老人が面会していた。
上級妖魔特徴と名前。
紫髪の短髪、両目を閉じた人型妖魔、"羅刹"
黒い短髪に赤いアホ毛付き、人型妖獣、"鵺"
緑色の長髪、胴体は蛇の姿、妖獣、"蛇姫"
老人「さて‥、帝都の変からもうじき二ヶ月が経とうとしている。異世界の一部では予想通り、主権を我が物にせんと決起する者が増えた。」
白髪の老人は、杖の頭を両手で掴むと、
御託を並べず、早速本題に切り込んだ。
羅刹「くくく、徳川がしくじったと聞いた時は焦ったが‥あんたのお陰で支障なく計画が進められるから助かるよ。」
老人「礼など不要ですよ。これは互いの利益のため‥これからも仲良くしようではないですか。それより、わしは徳川のような愚かな男ではありません。闇は闇らしく、光を求めず行こうではないですか。」
蛇姫「しゅるる、たしかに。しゅるる、これでようやく異世界に足を伸ばせれるわけだ。」
老人「手はずはもう整っています。魔界で唆した魔族によれば、とある城を、城ごと追い出したと聞いている。その跡地を我らの拠点にし、各地の魔族を攻略し傀儡にする‥。」
羅刹「用意周到なことだな。さすが、"退魔協会"木枯主善会長だ。」
木枯「当然。あと、春桜学園で開かれているイベントやらに、あの"ユキツバキ"が来るようだ。」
鵺「っ、それは本当か?」
ここまで無口であった鵺がようやく口を開く。
木枯「はい、あなた方が喉から手が出るほどの、神聖な力を得られますよ。」
蛇姫「しゅるる、へぇ~、それはそれは‥。」
鵺「だが、問題は警界庁だ。その様な大イベントに奴等も備えるはずだ。」
木枯「ふっ、それならご安心を策は打ってあります。現に学園の警備は生徒たちだけで編成している、攻めるには容易いかと思います。」
一手、二手、三手先を打つ手腕に、
三人の妖魔たちは驚いた。
木枯「今頃は、わしの配下が警備を勤める生徒共を一人ずつ排除していることでしょう。」
鵺「‥だが、例え相手が春桜学園の学生とは言え、うまくいかないのでは?」
木枯「ふっ、わしの配下は暗殺のエキスパートだ。それに対して向こうは、夜に現れると警戒している。それ故に、日が上っている内に攻めて来るなど考えもしないだろう。」
羅刹「くくく、抜かりがない方だ。まあ、例え失敗しても、偵察にはなるだろう。」
木枯「その通り、本番は‥今宵ですからな。」
鵺「ふっ、恐ろしいお方だ‥。」
蛇姫「しゅるる、神聖な力とやらの味が‥楽しみだこと。」
不敵に笑う四人たちは、
酒を酌み交わしながら、闇が濃くなる夜を待つのであった。
?(へぇ~、そう言うこと‥これは面白いことになりそうだね。上手く行けば私の可愛い玩具が増えるかもね。)
廊下から気配を消し、盗み聞きをしていた一人の女性。重要な情報を得るや深い闇へと溶け込んで行った。
そして視点を春桜学園に戻し、
某美術部兼微食会アジトで、ラシュリーナを異世界へ帰そうと近藤は必死の説得していた。
近藤「ラシュリーナ、言うことを聞くんだ。ここに居たら巻き込まれるんだぞ。」
ラシュリーナ「い、いやよ!そ、そう言って下僕の件を有耶無耶にする気でしょ!?」
近藤「っ、そんなことを言ってる場合かよ。さっきのを見ただろ?相手は平気で人を殺せる奴等だ。俺たちと一緒に居たら絶対に酷い目に合うぞ。」
ラシュリーナ「そ、そんな者に恐れおののくラシュリーナ様じゃないわよ!」
近藤「‥さっきまで震えて抱きついていたくせに‥。」
ラシュリーナ「っ///あ、あれはちがっ‥。」
赤面するラシュリーナに、
近藤はため息をついた。
こういうタイプは、
自分の弱みを認めないから困る。
こうなれば強引にゲートへ投げ込んででも、
異世界へ帰すしかないか。
近藤はラシュリーナを抱きかかえようとすると、ラシュリーナは再び近藤に抱きついた。
近藤「あっ、こ、こら!?抵抗するなよ?」
ラシュリーナ「いやぁ‥一人にしないで‥。」
弱々しく訴えるその声は、
寂しさの感情で溢れていた。
近藤「‥一人って、ラシュリーナには村の人たちがいるだろ?」
ラシュリーナ「‥そ、そうだけど‥‥折角‥尚弥と一緒にいられると思ったのに‥。」
近藤「‥‥もしかして、俺が死ぬとでも思ってるのか?」
ラシュリーナ「‥‥そ、それは‥。」
近藤「‥ふぅ、安心しろ俺は死なないから。(はぁ、死亡フラグが立っちまったな。)」
ラシュリーナ「‥‥本当に?」
近藤「あぁ、だから、安心して戻るんだ。何なら送り届けてやろうか?」
ラシュリーナ「ふ、ふん、別に一人で帰れるわよ!」
安心したのか、ラシュリーナはいつものツンデレ娘に切り替え、目をつぶったままゲートへ歩いた。
がしかし、
突然ゲートが閉じラシュリーナは壁に激突した。
ラシュリーナ「ふにゅ!?きゅぅ~。」
近藤「っ!?あっ、おい!?」
壁にぶつかり、後ろへ倒れ込むラシュリーナに近藤は慌てて抱きかかえた。
近藤「‥っ!ゲートが閉じた‥。と言うことは‥帰さない方が良いと言うことか。」
微食会が保有するゲートは、星野仁による魔法で個人が異世界へ行き来する際に、身の危険を察知させるセンサーが備えられている。
もし、危険と判断されるとゲートが閉じる仕組みになっている。
ちなみに、これが発動したのはこれが初めての事であった。
近藤「‥はぁ、仕方ない。取りあえず一人にさせないようにしようか。」
思うようにいかない展開に、近藤はため息をつきながら伸びたラシュリーナを寝かせるのであった。
金髪美女と二人っきりの空間、
普通のエロゲーならここで、クズ主人公が寝込みを襲う展開だが、近藤はそんな事を考えている余裕ではなかった。
近藤(はぁ、折角の納涼祭が‥全然楽しめない。)
実際、水鉄砲合戦に参加したかった近藤は、ラシュリーナが起きるまで静かな部室で待機するのであった。