第二百二十七話 大食い金髪少女と闇の鬼
午前九時半頃の事。
某美術室に籠っていた四人の微食会は、
近藤にラシュリーナを押し付け裏の活動に出た。
それからと言うもの、初めて異世界の地に足を踏み入れたラシュリーナは、見たことない文化や食べ物に興味津々となり、近藤はあちらこちらへと振り回されることになった。
そして、
学園内に正午を知らせるチャイムが鳴り響く頃。
一般の方から生徒たちは昼食のピークを迎えた。
お腹を空かせたラシュリーナの昼持ちは、もちろん近藤持ちである。
しかし近藤は、ラシュリーナの体型から少食と考えていたが、実際は予想以上の大食いであった。
ラシュリーナが気になる物は全て買うことになり、近藤のお財布から徐々にお金が消滅していくのであった。
ラシュリーナ「ふんふ~ん♪尚弥の言う通り、ここは楽しいところね~♪」
近藤「はぁ、お気に召して何よりです。」
少し視線は気になるが、
学園の制服を着ているお陰で、
下手な目立ちは抑えられていた。
ラシュリーナ「ふっふっ、この食べ歩きと言うのも、はむはむ、悪くないわね♪」
美味しそうに五本目のフランクを食らうと、
近藤はここでようやく、黙っていた禁断のタブーに触れる。
近藤「もしかして、ラシュリーナって大食い?」
ラシュリーナ「っ!な、何よ?悪いかしら?」
近藤「いや、悪くはないけど、よく食べるな~って思ったから。」
ここまで、焼きそば、お好み焼き、唐揚げ、たこ焼き、そしてフランクなど食べている。
ここに来てルイに続く大食らいの出現である。
近藤の左手には、肉巻きおにぎり、串焼きのストックが残っている。
逆にどこまで食えるのか気になるところであった。
ラシュリーナ「ふん、この程度毎日エネルギーを使っている私からしてみれば足りないくらいよ。はむはむ、」
近藤「エネルギーねぇ~、まあ、本来日光に当たれば砂になるヴァンパイアが、特異体質で砂にならないんだからな。なんか、納得するけど。」
ラシュリーナ「そう言うこと、それに異世界の日差しは元の世界より少し強いわ。だから、エネルギーの消費も激しいの。」
近藤「ちなみに、エネルギーが切れたらどうなるんだ?」
ラシュリーナ「吸血衝動が激しくなって、誰かの血を吸い始めるかしらね?」
近藤「な、なるほど。じゃあ‥俺も?」
ラシュリーナ「本来ならね。でも、尚弥の場合は、固有の力が抑制しているからヴァ‥こほん、吸血鬼としての弱点が緩和しているようね。」
近藤「うーん、俺の力ね~。それよりなんで言い直した?」
ラシュリーナ「っ//あ、あんたの様な下僕に、ヴァンパイアなんて相応しくないわ!下等な吸血鬼で十分よ!」
近藤「うぐっ、だから下僕にはならないって‥。」
ここで下僕の話を持ちかけられた近藤は、
顔をひきつり茶を濁そうとする。
するとそこへ、
両津直人と相川葵で通りかかる。
直人「よお、尚弥、珍しく女子と一緒にいるけどデートか?」
近藤「っ!な、直人!?それに葵まで‥。」
直人「な、なんだよ?声かけちゃ不味かったか?」
近藤「い、いや、不味くはないけど‥。」
近藤は恐る恐るラシュリーナを見ると、
彼女は赤面して固まっていた。
葵「お、おい、その子固まってるけど大丈夫か?」
直人「も、もしかして、人見知りだったかな?」
近藤「そ、そうなんだよ~♪だから、あまりちょっかいかけないでやってくれ。」
葵「うーんそうか、それにしても可愛い子だな♪」
ラシュリーナ「~っ///!!?」
注意を呼び掛けて早々に、
悪気のないちょっかいをかけられると、
ラシュリーナは更に顔を真っ赤にさせた。
直人「っ、お、おい、顔が真っ赤だけど本当に大丈夫なのか!?」
近藤「だ、大丈夫だ!ちょっと緊張してるだけだから、すまんがまた後で~!」
近藤はラシュリーナを抱えると、
足早に去っていった。
直人「な、何だったんだ。」
葵「二学年では見ない子だったけど、もしかして後輩かな?」
直人「いや、尚弥に限って後輩に手を出す様な事はしないと思うな。多分、異世界で目をつけられたんじゃないか?」
葵「なるほどな、それにしても可愛らしいヴァンパイアだこと。」
直人「そうだな、あの尖った八重歯はヴァンパイアの特徴だけど、太陽の下でも砂にならないなんて特異体質みたいだな。」
どうやら二人は、一目でラシュリーナがヴァンパイアであることに気づいたようであった。
葵「もしかしたら、純潔じゃないのかもな。」
直人「ん?純潔じゃないと砂にならないのか?」
葵「あぁ、臨界制に数人はいるぞ?」
直人「い、意外と珍しくないようだな。」
葵「いやいや、特異体質のヴァンパイアは珍しいぞ?なんせ全体の一割みたいだからな。」
直人「そ、そんなに少ないのか?でも、それで数人いるなんて凄いな。」
葵「まあ、春桜学園だからこそだろうな。特別な学園だからこそ、数少ない一割が集まったんだろう。」
直人「だな、さて、そろそろお使いを終わらせよう。女の子たちが待っている。」
葵「あぁ、そうだな。はぁ、この量は萎えるな」
その後二人は、士道部のお使いじゃんけんに負けた罰ゲームを再開するのであった。
その頃、
固まったラシュリーナを人気の少ない校舎裏へと連れて行った近藤は、息を切らせながらラシュリーナの様子を伺った。
近藤「はぁはぁ、ラシュリーナ大丈夫か?」
ラシュリーナ「っ!か、かか、勘違いしないでよね!わ、私は、み、見知らぬ、ぶ、無礼者にお、驚いただけで、しょ、尚弥の事なんか、何にも思ってないんだからね!」
近藤「わ、わかった、わかったよ。ふぅ、二人に変なことを言うかと思ったけど‥まさか固まるとはな。」
ラシュリーナ「う、うるさいわね。ほ、ほら‥袋に入っている物を、わ、渡しなさい!」
照れ隠しからか、ラシュリーナは袋に入っている食べ物を要求する。
近藤「はいはい、串物にするか?」
ラシュリーナ「そ、それでいいわよ‥ばか‥。」
近藤「ん?何か行ったか?」
ラシュリーナ「な、なにも言ってないわよ!はむ!」
どんな時でも鈍感な近藤が、串物を取り出すと、ラシュリーナはひったくる様に取り上げた。
近藤「ふっ、照れ隠しとは可愛いな~。ご主人様は~♪」
ラシュリーナ「っ!こ、こんな時にそんなこと言わないでよ!ばか!ばかばかばーか!」
近藤「あはは、説得力ないな~。そんなんじゃ、俺を下僕にできないよ?」
ラシュリーナ「む、むぅ‥。な、生意気よ。」
近藤「ほらほら、ご飯をどうぞ。」
近藤はさりげなく、次の食べ物を出す。
ラシュリーナ「む、むう‥はむっ。」
さすがのラシュリーナでも、この世界の食文化の前では、ただの食いしん坊の少女であった。
近藤「ごくり、(や、やべぇ、か、可愛い!まるでルイの妹みたいだ!)」
近藤は手頃なペットを飼い始めたかのように、
嬉しさを露にするのであった。
するとその時、
禍々しい妖気と共に五人の妖魔が姿を現した。
ラシュリーナ「っ!?な、何者れふか!?」
近藤「っ。お前たちは何者だ。」
近藤は刀を手にかけ、ラシュリーナの前に出る。
妖魔「‥十神柱、近藤尚弥だな。」
近藤「‥俺の問いに答える気はないか‥ふっ、だったらなんだ?」
妖魔「我が主の命により、その命をもらい受ける。」
死に行く者に答える義理はないと言わんばかりに、五人の妖魔たちは戦闘態勢を取る。
ラシュリーナ「ど、どど、どうなってるの!?」
近藤「ラシュリーナ‥少し下がってくれ。」
ラシュリーナ「えっ?」
先程の柔らかな口調から一変、殺気を込めた柔らかな口調でラシュリーナを下げる。
近藤「てめぇらが誰の手先なのかは気になるが、一応忠告しておく‥死にたくなかったら、主を教えてとっとと失せろ。」
刀に手を置くと、背中を刺すような殺気を放つ。
ラシュリーナ「‥しょ、尚弥‥。」
ラシュリーナに映る尚弥の背中は、
青黒いオーラを漂わせ鬼の様な顔が浮き上がる。
妖魔「‥やれ。」
リーダーらしき妖魔の命令に、
四人の妖魔が襲いかかると思いきや、
その場で立ったまま動かなかった。
妖魔「っ!なんだお前ら、臆したか?」
何が起きたのか分からない状況に、
近藤は刀から手を離し口を開いた。
近藤「‥どうやら、俺の出る幕ではないようだな。ラシュリーナ、耳と目を閉じていろ。」
ラシュリーナ「ふぇ!?う、うん。」
妖魔「な、なんだってんだぁっ!?」
花火部が打ち上げた"花雷"と共に一発の銃声が響いた。
その瞬間、リーダーらしき妖魔の脳天を撃ち抜きその場に倒れ、後方の妖魔は、綺麗に細切れにされ容姿が崩れ落ちた。
近藤「マッキー、大西、すまないな。」
高野「よっと、気にするな。それにこれで三十体目だ。」
近藤「‥まさか、日が上っている内から来るとはな。それより、こいつらは俺を狙っていたが、他はどうなんだ?」
大西「へぇ~、こいつらは近藤狙いか。」
近藤「こいつら‥と言うことは、他の狙いはバラバラか。」
大西「そうだな。取りあえず俺たち十人の名前と、一部の名が上がったな。」
近藤「そうか‥、となると相手の狙いは、"ユキツバキ"のメンバーを守る者たちの排除。日が上って油断している今を狙ったわけか。」
高野「可能性は大だね。取りあえず、俺と大西は周囲を警戒するよ。」
近藤「わかった。それじゃあ、俺はみんなに連絡を入れてからラシュリーナを異世界に送り届けてくる。」
大西「そうか、じゃあ、俺たちは引き続きだな。」
高野「おうよ、ふっ。」
別れ際に高野から"チラリ"と見られ鼻で笑われる。
近藤「あ、おい!?今誰を見て笑った!?お、おーい!?ったく、からかってくれるな。」
ラシュリーナ「何が‥からかうと言うの?」
近藤「っ、おぉ、わりぃ‥。ほったらかしちゃったね。っ?!」
ラシュリーナの声に反応して振り向くと、
突然彼女から抱きついてきた。
近藤「‥ら、ラシュリーナ?」
ラシュリーナは少し震えていた。
恐らく怖かったのであろう。
近藤は何も言わずに頭を撫でて落ち着かせるのであった。