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第二百二十一話 ヴァンパイアと吸血鬼

前夜祭から一夜明け、

各学年の生徒たちは、

朝の七時から半の間に起床した。


生徒たちは各ブースへ移動し、

納涼祭開始の九時まで最後の調整をしていた。


そしてここ、異種交流会の部室では未だに起きない生徒がいた。


ジェルド「わふぅ~、桃馬~♪」


桃馬「すぅ~すぅ~、もふぅ~♪」


小頼「はぁはぁ‥ふへぇ~♪よいではないか~♪よいではないか~♪」


桜華「んんっ‥はぁはぁ‥。」


ジェルドと小頼は、

その寝相の悪さから桃馬と桜華の布団に入り込んでいた。


そんな様子を困った表情で時奈と憲明が見ていた。


憲明「心配して来てみれば‥。」


時奈「まあ、夜遅くまで付き合わせた私にも非はあるが、まさか四人がここまで朝に弱いとはな。」


実はこの四人、前夜祭が終わり生徒たちが寝静まった頃に、一人で仕事をしている時奈をみかねて手伝いをしていたのだ。


取りあえず、異種交流会の出番は夕方からなので支障はないが、国民的アイドル"ユキツバキ" がいつ来るか分からない以上、早く起きてもらいたいところである。


だが、寝不足状態では最悪を招く可能性があるので、少し考えようであった。


時奈「取りあえず、もう少し寝かせておこう。寝不足の状態では肝心な護衛に支障が出るからな。」


憲明「はぁ‥わかりました。それより緊張感がない顔してますね。」


時奈「ふふっ、確かにな。でも、逆に良いかもしれないぞ?」


憲明「不安しかありませんよ‥。」


不安に駆られる憲明に対して、

不安の欠片もなく呑気に寝ている四人。


夕方からの重要任務が、心配になるのであった。



その頃、

(ぼう)別棟(べつむね)にある微食会のアジト兼美術部の部室では、異世界に向かい行方不明扱いにされていた近藤が、金髪ツインテドリル美少女、ラシュリーナを連れて帰還した。


が、しかし‥。


渡邉「おぉ、尚弥(しょうや)‥も、戻ったか。」


星野「い、意外と遅かったな?」


本間「そうそう、すぐ帰って来るかと思ったけど、何かあったのか?」


近藤「お前ら‥、それ以外何か言うことないのか。」


近藤の帰還を待っていた三人は、申し訳ない顔をしながら目線を逸らす。


それもそのはず、近藤の頬には殴られたような腫れ物ができており、しかも、ご立派な羽と牙のような八重歯を生やし、何かの伯爵様のような風貌を見せていた。



本間「そ、そうだな~、良いコスプレだね。」


渡邉「あ、あはは‥、俺はノーコメントで。」


星野「うーん、悪魔落ち‥だね。」


近藤「おいこらお前ら‥、俺の目を見て言えよ。」


目を赤く光らせ、三人に問い詰める。


事の発端は、二時間前から昨夜のこと。



ラシュリーナをまんまと言いくるめ、下僕エンドと言うバッドエンドを一応回避した。

しかし、使用人からは色々誤解されながらもてなされ、そのまま一泊させてもらっていた。


しかも、ご丁寧にラシュリーナの部屋である。


ラシュリーナ「ふ、ふん、使用人たちから気に入られているからと言って調子に乗らないことね!あ、あなたは、わ、私の下僕なんだからね!」


近藤「はぁ、はいはい、わかってますよ。」


めんどくさそうに気だるげに返すと、

更にラシュリーナから注意を受ける。


ラシュリーナ「うぐっ、あ、あと!わ、私のベッドに入り込んだら‥よ、容赦しないから!お、お前は、ゆ、床寝で寝てるのいいわ!」


近藤「うーん、まあ俺はベッドより床で寝る派だから悪くはないけど‥、それより、俺を何て呼ぶか定まってないようだな?」


ラシュリーナ「う、うっさいわね!下僕が主人に意見するんじゃないわよ!」


赤面しながら訴えるその姿は、妹属性と幼馴染み属性を、足して二で割ったような感じがした。


このままではきりがないので、使用人の女性から聞かされた、ラシュリーナが喜ぶ呼び方で対応した。


近藤「申し訳ありません、ラシュたん。」


ラシュリーナ「っ!なっ!?ななっ!?」


なんと、使用人の女性が言った通り手応えがある反応を見せた。


だがしかし‥。

それは別の意味の手応えであった。


ラシュリーナ「な、なに言っているのよ!このばかぁぁっ!!」


肩を震わせるラシュリーナは、一瞬で大きな魔弾を作り出し、近藤に向けて放った。


近藤「えっ?ぐはぁぁっ!!?」


咄嗟(とっさ)に身構えたため部屋の外まで、吹き飛ばされることはなかった。


その後直ぐに、使用人たちが部屋に入り込んできたのだが、そのほとんどが女性の使用人であった。


使用人「だ、大丈夫ですか近藤様!?」


近藤「いってて、な、何とか‥。」


体を起こして前を見ると、更にもう一発食らわせようとするラシュリーナが使用人に取り押さえつけられた。


使用人「ラシュリーナ様、どうか落ち着いてくださいませ!」


使用人「お部屋が滅茶苦茶になってしまいますよ~!」


ラシュリーナ「う、うるさーい!げ、下僕の分際で‥わ、私にら、ラシュたんって呼ぶから‥。」


どうやら、"ラシュたん"とは言ってはいけないものだったらしい。


近藤は、ちょうど声をかけてきた使用人が、"ラシュたん"を教えてくれた人だったので詳細を聞いて見た。


近藤「あ、あの‥、ラシュリーナのことをラシュたんと呼べばよかったのではなかったのですか?」


使用人「お、おかしいですね‥。も、もしかしたら噂だったのかも‥。あ、あはは~。」


分かりやすい反応だ。

これは、完全に(はか)られたな‥。


使用人さんたちが、ここに来るタイミングから察するに‥扉で"こそこそ"と見ていたな。


仕方ない。誠心誠意で謝ろう。

近藤は、正座をすると手をついて頭を下げた。


近藤「はぁ、ラシュリーナ様!申し訳ありません!」


ラシュリーナ「っ、な、何してるのよ?」


近藤「見ての通り謝罪です。」


ラシュリーナ「しゃ、謝罪?そ、それが?」


どうやら、土下座を知らないようだ。

なら、少し大袈裟に伝えよう。


近藤「はい、俺が暮らしている国に伝わる最大級のお詫びの証です。」


ラシュリーナ「うっ、さ、最大級の‥な、なるほど、確かに見れば見るほど、誠意が伝わるような‥。」


ちょろいな‥、だけど、そう言う風に見せるためのものだから、間違いではない。


だが、今のラシュリーナは二組の誰かさんに似て、世間知らずのようだ。

いつか誰かに騙されそうな気がして、

少し心配である。


それから、ラシュリーナは矛を納め、

不貞腐(ふてくさ)れるように眠りについた。


一方近藤は、

使用人から敷物とシーツを借りて眠りについた。




今日は赤い満月の日。

それは人間界では半年に一度訪れる日である。

そしてヴァンパイアの吸血衝動が最高潮に達する日でもある。


静かなラシュリーナの部屋に、ベッドから"ムクリ"と起き上がる金髪少女。


その瞳は赤く染まり、床で寝ている獲物を見つけるとゆらゆらと歩き出す。


獲物の前に立つと、

口を開けて鋭い二本の牙を出す。


金髪少女は躊躇(ちゅうちょ)なく、首を噛みちぎった。



近藤「っ!!!?」


咄嗟(とっさ)に目を覚ますと、部屋の窓からは、太陽の光が差し込んでいた。


近藤「はぁはぁ、はぁはぁ、ゆ、夢か‥。」


首筋を抑えて、夢だったのか確認すると、

夢で見たような大量出血は無く、それどころか傷すらもなかった。


近藤「はぁはぁ、い、今までで見た夢の中で一番怖かったな。」


ラシュリーナ「ひゃうっん!」


近藤「ん?この感触‥あと‥今の声って‥。」


右手に感じる柔らかな弾力、

そして嫌な予感しか感じない女の子の声‥。


近藤は、恐る恐る首を右下に向けると、

そこにはラシュリーナが寝ていた。


アニメとかである、寝相(ねぞう)悪い系が引き起こすラッキースケベ展開である。


あり得ないと思っていた展開に、近藤の思考が停止、ラシュリーナの胸を鷲掴みにしたまま硬直した。


当然、胸の感触に違和感を感じたラシュリーナが起きると、近藤はそれはもう殴られまくった。


しかも、止める人もいないので、五分近く殴られたと言う。


その後、フラフラな状態で顔を洗いに行くと更に驚きの光景を目にすることになる。


それは鏡に写った自分の容姿が、

若干おかしかった。


目の黒い部分は"カラコン"でも入れられたのか、深紅(しんく)の瞳をしており、背中には羽のような物が生えていた。


近藤「な、なんじゃごりゃぁぁ!!」


近藤尚弥は、ヴァンパイアになった。

(呪いのBGM付き)


近藤は急いでラシュリーナの元へ走り、閉まっている扉を勢いよく開けた。


近藤「はぁはぁ、ラシュリーナ!」


ラシュリーナ「ふぇ!?」


近藤の目の前には、紫色の下着を身につけ、

着替え途中のラシュリーナがいた。

しかし、近藤は動揺せずラシュリーナの元に歩み寄る。


ラシュリーナ「な、なな、何しているのよ!?こ、この変態!む、胸を揉むじゃ飽きたらず、こ、今度は、わ、私の体を汚す気!?」


近藤「そんな低級な話じゃない!」


ラシュリーナ「ひゃっ!?」


近藤はラシュリーナの両肩を掴むと、

焦ったような感じで質問する。


近藤「よ、夜、俺に何かしなかったか?」


ラシュリーナ「ふえっ?わ、私は、な、何もしてないわよ!その‥目が覚めたときには‥あ、あなたの所で寝てて‥、そ、それだけよ!」


近藤「‥うぅ、む、無意識で噛んだとかは?」


ラシュリーナ「そ、それは‥あ、赤い満月の日にたまにあるようだけど‥赤い満月は今日のはずよ!」


近藤「根拠は?」


ラシュリーナ「し、信じてないみたいね‥。あ、あそこに周期が書いてあるから見なさいよ。」


ラシュリーナが指差す方を見ると、異世界のカレンダーがあった。


近藤「‥ふぅ、どれどれ。えーっと、今日は‥。ん?」


ラシュリーナ「ど、どう?私の言った通りでしょ?」


近藤「‥はぁ、これ、魔界の周期じゃないか?」


ラシュリーナ「えっ?」


近藤が左手で頭を押さえると、ポケットからスマホを取り出した。


近藤「えーっと、確かスマホに‥カレンダーアプリが‥。ふむぅ、はぁ‥。人間界の赤い満月は昨夜だ。」


ラシュリーナ「あ、あぁ~、えっと‥ま、間違えちゃった‥ま、まあこれで~、偉大なヴァンパイアである私の下僕になれたんだから、か、かんしゃ‥いたたっ!?」


近藤「何が偉大だって~?」


鬼仏+ヴァンパイアの力が共宴(きょうえん)してることもあり、恐ろしい表情と共に、ラシュリーナの顔面を掴みアイアンクローをするのだった。


幸い、太陽の光で砂になることは回避したようだ。しかし、折角の晴れなのに、雨天時のような憂鬱(ゆううつ)感が襲ってくるのであった。



それからは、色々あって今に至る。





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