第二百二十話 前夜祭の怨念
納涼祭の準備が終わると、
春桜学園では前夜祭が始まり、
学園の生徒たちは思う存分楽しんでいた。
学園では花火部によるド派手な花火が高らかに打ち上がり、神輿は担ぐは、歌うは、決闘はするはなど、やりたい放題であった。
そして時刻は二十時、
前夜祭の熱が最高潮に到達する頃。
負傷しても直ぐに回復するので問題はないのだが、ここまで百五十三人が決闘やシンプルな怪我案件で保健室に運ばれ、一人行方不明と言う事態になっていた。
本来風紀委員や生徒会が止める案件なのだが、
決闘や他の取締りに、ほとんど出払っており、
そこで異種交流会から数名、
生徒会の助っ人として駆り出されていた。
ここで注目なのが、
本部生徒会室に駆り出された佐渡桃馬と、
生徒会長兼異種交流会部長である新潟時奈の二人っきりのシーンである。
折角桜華と前夜祭を楽しんでいたのに、生徒会(新潟時奈)に水を差され高ぶった気持ちが一瞬で冷めていた。
そのため全ての元凶である、救い様のないトラブル案件の制裁として、納涼祭を即行終わらせようとしていた。
桃馬「もう前夜祭は終わりですね。解散警報ならしまーす。」
時奈「ま、待て桃馬!さすがに今はまずいぞ。」
桃馬の正気を失った行動に、
時奈は腕を掴み全力で止めにかかる。
スイッチまであと数センチのところ、
二人の攻防戦は均衡していた。
桃馬「と、時奈先輩?は、早く前夜祭を止めないと明日の納涼祭は滅茶苦茶なスタートになりますよ?」
時奈「あ、安心しろ桃馬よ!喧嘩案件や破壊行為は厳しく禁止にしている!負傷者の数も決闘や不慮の事故ばかりだ!それに毎年恒例だから、前夜祭を終わらせようとするな~。」
桃馬「こ、恒例ね~、なら、俺たちを巻き込まなくても良いですよね~?」
時奈「そ、それはすまないと思っている。だけど、風紀委員が決闘に巻き込まれてどうにもならないのだ!頼む!終わったら、私の体を好きにして良いから!」
桃馬「なっ!?何言って、ちょっ、制服を脱がないでくださいよ!?」
時奈「ふっ、この際先輩に襲われる寝取られ展開も悪くないんじゃないか?」
桃馬「ね、寝取られって‥起きてますけど‥。」
時奈「あはは、相変わらず揚げ足を取るのが上手いな。まあそれより、今は誰もいないんだ‥。ここで既成事実を作って報酬の前払いをしても良いんだよ?」
本気なのか冗談なのか全くわからない時奈先輩は、上半身の制服を脱ぎ捨て、大人びた黒い色の下着を露にする。
桃馬「あ、いや‥俺はその‥お、桜華が‥っ。」
時奈がゆっくりと桃馬に迫ると、
廊下から何者かが走ってくる足音が近づいてくる。
時奈先輩に唇を奪われそうになった時、生徒会室の扉が乱雑に開かれる。
そこに立っていたのは、息を荒げた桜華であった。
桃馬「お、桜華!?」
桜華「はぁはぁ、何してるのですか‥時奈先輩!」
時奈「あれ?その様子だとバレちゃったかな?でも、どうやって‥。」
桜華「放送から丸聞こえですよ!」
時奈「えっ?」
桃馬「っ、も、もしかして‥スイッチが‥。」
桜華の指摘に時奈は、ポカンとしている。
すると、桃馬がマイクを確認するとオンに入っていた。
つまり、やり取りの大半が、
全生徒に聞かれたことになった。
このハプニングに、聞いていた多くの生徒たちは笑っていたが、二学年の中には、血相を変えて磔の準備をする者がいた。
二学年異端審問電文
ドウシニ、ツグ、コレヨリ、サドトウマ、タイホニ、ノリコム、ベシ、マタ、リョウツ、カンシヲ、キョウカセリ。
桃馬の襲撃イベントに、
関係のない直人まで飛び火するのだった。
それはさておき、
桜華は桃馬の腕を取り、時奈から距離を取る。
桜華「わ、私の桃馬に色仕掛けをしないでください!た、確かに誘惑したくなる気持ちはわかりますけど、桃馬は私だけの物なんです!」
桃馬「お、おお、桜華!?放送のスイッチが入りっぱなしだよ!?」
桜華「ふぇ?!け、消してなかったのですか!?」
桃馬「け、消す前に腕を捕まれたから‥。」
桜華「は、はわわ!?わ、わわ、私は、な、なな、なんてことを‥うぅ、うわぁ~//。」
桃馬「あっ、お、桜華!?」
勢い任せで発した桃馬独占宣言は、多くの生徒に聞かれることになり、桜華は恥ずかしさから生徒会室を飛び出した。
再び時奈と二人きっりになり、
ピンチを迎える桃馬。
すると、後ろからスイッチが押される音が聞こえ、恐る恐る後ろを向くと。
制服を着た時奈先輩が椅子に座っていた。
時奈「ふぅ、全く桜華は騒がしい子だな。」
桃馬「‥誰のせいですか。」
時奈「私も少しからかいすぎた。毎日気を張っている分、こう言うこともしたくなるんだ。」
桃馬「‥少しと言うレベルじゃないですけどね。それより、全生徒に聞かれて大丈夫なのですか?」
時奈「気にするな。この学園の生徒たちはこう言うイベントを求めているからな。桃馬も良い刺激になっただろう。」
桃馬「えぇ、お陰さまで身の危険を感じてますけどね。」
桃馬は本能的にあちらこちらで、
殺気を感じていた。
桃馬「はぁ、それより‥行方不明の件どうするのですか?」
時奈「えーっと、確か二年五組の近藤尚弥くんだな。まあ、行方不明と書いてあるけど、友人の渡邉蒼喜くんから異世界に向かっていると聞いているから行方不明ではないな。」
桃馬「それなら、行方不明と書かなくても‥。」
時奈「仕方あるまい、彼らがそうしろと言うのだからな‥。」
桃馬「あの組織は何をしているんだ‥。」
時奈「うーん、謎ではあるが心配は要らないだろう。」
桃馬「そ、それで良いのか生徒会‥。」
確かに謎めいた微食会の事だ、
時奈先輩が言うように心配は要らないと思うが、不思議と感じる嫌な予感はなんだろう。近々問題が起きそうで怖い。
桃馬はこの短期間の経験から、
これから起こる面倒なイベントを無意識に予知するのだった。
すると生徒会室の扉が再び開くと、
爽やかな笑みを浮かべる男たちが、大鎌と刀を持って現れた。
桃馬「‥えっ?」
時奈「おや?」
男子「失礼します。おお~桃馬君、ここにいたんだね♪探したよ~♪」
同じクラスメートの男子が、桃馬を見つけると胡散臭い演技で声をかける。
桃馬からしてみれば、先程の放送を聞きつけた
学年ハーレム撲滅運動異端審問会が動いたと思った。
彼らが来たことにより、
この後の展開が容易に想像できた。
取りあえず時奈先輩の前で、乱暴な事はしないと思うので、ここは誤魔化してやり過ごすことにした。
桃馬「な、何かようかな?お、俺は見ての通り忙しいんだけど?」
男子「まあまあ、そういうな♪それより桃馬には、生徒会長に媚薬を盛った疑いがあるのだが、その事実について‥詳しく教えてもらおうか?」
桃馬「び、媚薬!?いやいや、俺は何もしてないぞ!?と、時奈先輩からも何か言ってください!」
当然見に覚えのない事に、
桃馬は直ぐに否定すると、時奈に話を振る。
しかし、これが運の尽きだった。
時奈は目を閉じて鼻で笑うと、桃馬を見つめながら答える。
時奈「あぁ、確かに盛られたな。二人っきりの生徒会室‥私を襲うにはこれほどまでのチャンスはない。私を興奮させよって‥悪い後輩だな。」
最後に、にこりと笑うと、
桃馬の後方から負の念が襲いかかる。
桃馬「い、いやいや!?何言ってるのですか!?今冗談を言ってる場合ではないですよ!?お、お前たちも誤解するな!?時奈先輩の重い冗談癖は知ってるだろ!?」
男子「あぁ~♪知ってるとも、後の話はゆっくり別のところで聞かせてもらうからな。」
男子生徒は笑みを浮かべながら、桃馬の肩を掴むと手錠を取り出し両手にかけた。
桃馬「ちょっ!?ちょちょ、ちょっと待てって!?俺は手伝いがな。」
時奈「待て、男子諸君。」
桃馬が連行されそうになったとき、
男子たちは時奈に呼び止められる。
ようやく、真面目モードになってくれた事に、
桃馬は助かったと思った。
がしかし‥。
時奈「すまんが、今は本当に人手が少なくて困っているんだ。十分くらいで返してほしいのだがいいか?」
桃馬「えっ?じゅっぷ‥。」
男子「わかりました。必ずお返しします。」
時奈「頼むよ。」
桃馬「いやいや、頼むよじゃないよ!?だったら、本当の事をいってくださぁぁ~い!?」
こうして的外れな嫌な予感は起こり、桃馬は一時的に連行された。
時奈「ふっ、仲の良い生徒たちだな。私も少しからかいすぎただろうか。」
時奈はクスクスと桃馬の不幸をおかずにして楽しむと、仕事に取り組むのだった。
その後、桃馬は学年ハーレム撲滅運動異端審問会の尋問を受け、真実の水晶より嘘ではないことが判明、ものの五分で解放されたと言う、
結局、どうでもよい茶番劇であった。
それからと言うもの、大きな問題はなく、
二十一時には前夜祭の終わりを告げられ、
騒がしいイベントは幕を閉じた。
だが、これはまだ序の口。
明日の納涼祭は、更に大変な事になるとは、
誰もが想像がつくことが、それを大きく覆すような展開が待っているのであった。