第二百十九話 望まぬ契約
大人たちと共に子供たちが帰ると、
ようやく静かな一時が訪れた。
ラシュリーナは今日の過激な出来事に、
思わず反省を漏らす。
ラシュリーナ「‥ふぅ、まさか‥あんな大胆におっぱいとお尻を触ってくるなんて‥。今度からお姉ちゃんとしてガツンと言わないと‥。」
近藤「相当子供が好きなんだな?」
ラシュリーナ「ふっ、当たり前よ♪いつか私の従順な臣下にするのだからね♪」
近藤「臣下ね~、ずっと居たいからか?」
ラシュリーナ「そうそう‥って!なんで起きてるのよ!?」
ようやく近藤が目覚めていることに気づくと、振り向き様に再び魔弾を打ち込む。
しかし、今度は軽く避けられた。
近藤「全く、傲慢とツンデレ‥、しかも思わず手が出るタイプか。中二病属性がないのが残念だが‥。」
ラシュリーナ「ふ、ふん、そっちの世界の訳のわからないことを言ってるんじゃないわよ!」
近藤「こりゃ失礼しました。それで、ご用件はなんですか?」
取り乱すラシュリーナに対して、
近藤は冷静に本題を切り出す。
するとラシュリーナから、
まさかの答えが返ってくる。
ラシュリーナ「なっ!?わ、私からの手紙を最後まで読まなかったの!?」
近藤「手紙なら読んだよ?確か、俺を夜まで連れてこないと死刑なんだよな?」
ラシュリーナ「ち、違うわよ!そんな物騒なことするわけないでしょ!わ、私の下僕にしてあげるってことよ!」
近藤「なっ、そんなこと書いてなかったぞ!?」
見に覚えのない事に、
念のため持ってきた手紙を確認する。
ラシュリーナからの手紙内容
ふはは!微食会の下僕たちよ。
この手紙を受け取ったことを感謝なさい!
後、一月前の件で村の子供たちを屋敷から追い出して、誤解を解いてくれたことは感謝しているわ。
そこで、感謝を込めてこのラシュリーナ・ダクリロード様が直々にあなた方を招待してあげるわ!
拒否権は、鬼のように怖い男だけは認めないわ。
絶対に今夜連れてきなさい。
連れてこないと、
みんな私の下僕にしてあげるわ!
それが嫌なら、あの鬼男を差し出すことね!
な~はっはっ~!
ラシュリーナ・ダクリロード
最後の文章が、
一部修正され付け足されていた。
あいつら‥面倒事を押し付けやがって‥。
偽の翻訳に唆され、
憤りを感じる近藤だが、
とにかく、ラシュリーナの目的は良くわかった。
ここは丁重に断ってさっさと逃げよう。
近藤「えぇ~っと、折角のお誘いだけどお断りします。では、ごきげんよう。」
テンポ良くその場から逃げようとするも、
突然目の前の視界が歪む。
近藤「っ!あ、あれ‥なんだ。」
思わず膝をつくと、右手で顔の右面を押さえる。
ラシュリーナ「逃がすわけないでしょ?あなたは、私の下僕なんだから。」
本性を現したかの様に、
少し小生意気な口調で近藤に近づく。
近藤「くっ、な、何を‥したんだ。」
ラシュリーナ「ふっふっ、下僕になるんなら教えてあげても良いわよ?」
近藤「だ、だから‥ならないって‥。」
ラシュリーナ「むぅ、強情ね。まあ、この私を睨み付けた挙げ句、高貴な私の胸を見たのだから、責任は取ってもらうわ。」
近藤「胸って‥おっぱいじゃないのか?ごふっ!?」
揚げ足を取った瞬間、ラシュリーナの渾身の蹴りが、みぞおち辺りにクリーンヒットした。
ラシュリーナ「ぬ、盗み聞きから揚げ足を取るなんて、どうしようもない下僕ね!まあいいわ!これからは、私の身の回りのお世話をしてもらうからね!」
近藤「うぐぐ‥な、なんで‥こんなめに‥。」
予想外すぎる展開に涙を浮かべ。
今後のことを心配するのであった。
ラシュリーナ「さてと、これからは私のことをラシュリーナ様と呼びなさい!それであんたは‥えーっと。」
近藤「神だ‥。」
ラシュリーナ「神?‥ふっ‥って!私をバカにするな~!」
近藤「ごふっ!?や、やめっ!?わ、わかった、わかったから‥蹴るのやめろ!?」
体を張った冗談であったが、
この子は弄ると面白い‥。
でも、ダメージ覚悟なのがネックだ。
近藤「こほん、近藤 尚弥だ。」
ラシュリーナ「しょーや‥‥むぅ、どうやら嘘じゃないみたいね。」
若干疑いの目で見てくるも、
やり過ごすことに成功した。
近藤はラシュリーナに主導権を握らせまいと話を進める。
近藤「あの~、下僕はこの際良いんですけど、今日は帰らせてもらえませんかね?」
ラシュリーナ「むぐっ、ダメに決まってるでしょ?下僕はご主人様の近くにいるものよ?」
近藤「いや‥、大人しく解放した方が身のためだって言ってるんだよ?」
ラシュリーナ「へ、へぇ~、言ってくれるわね?下僕の癖にご主人様に脅しを仕掛けるなんて、躾が必要みたいね。」
近藤「ふぅ、残念だな~。解放してくれたら痛い目を見ずに、旨い物を食わせてやれるのにな?」
ラシュリーナ「旨い物?」
近藤「ラシュリーナさん、君は異世界に行ったことは?」
ラシュリーナ「い、異世界って、に、ニホンって言う所かしら?」
近藤「そうそう、」
ラシュリーナ「な、ないわよ‥。」
近藤「へぇ~♪ないんだ~♪それは勿体ないな~♪」
完全に主導権を握った近藤は、
誘惑作戦に乗り出す。
ラシュリーナ「だ、だからなんだって言うの?そんな見え透いた嘘を受け入れるわけないでしょ?」
近藤「なら、明日証明してやろう。ラシュリーナさんに異世界の食文化を教えてやるよ。」
ラシュリーナ「うぅ、く、口に合わないものだったら承知しないわよ!」
近藤「その時はご自由にどうぞ。」
顔真っ赤にして、口車に乗ったラシュリーナ。
好機と見た近藤は、しれっとその場から逃げようとするが、今度は体が勝手に前のめりに倒れ込んだ。
ラシュリーナ「逃がすわけないでしょ?」
近藤「いってて、一体なんだってんだよ。体が勝手に動いた気がしたけど‥。」
ラシュリーナ「ふっふっ、当然よ。貴方は一ヶ月前に私と主従契約を結んだんだからね。」
近藤「‥はぁっ!?て、てか、い、いつの間に‥。」
ラシュリーナ「ふっふっ、覚えてないようね。実は貴方の血を吸わせてもらったのよ。」
近藤「ち、血を‥って、じゃあ、あれは夢じゃなくて現実‥。」
ここでようやく、謎になっていた事がはっきりした。しかしそれは、望まぬ面倒な結末であった。
ラシュリーナ「ふっふっ、喜びなさい!貴方の血は高貴な私の舌を喜ばせたわ。」
近藤「うぅ、それはどうも‥はぁ‥、それで、主従契約は睨まれた報復だと‥?。」
ラシュリーナ「えっ?あっ、それは‥う、うーんそうよ!」
近藤「歯切れが悪いな。まあ、恨みからでは無さそうだから別に良いか。吸血鬼になった訳じゃなさそうだし。」
ラシュリーナ「え、えらく落ち着いてるわね。」
近藤「うーん、なんでだろうな。」
その後、近藤は学園に戻ることなく、一泊だけラシュリーナに拘束されることになった。
日が落ち辺りが暗くなると、
使用人たちが目を覚まし働き始める。
そんな中、ラシュリーナと近藤が楽しそう(?)に話している姿を目撃した使用人が、"婿君が現れた"と、要らぬ誤解をされるのだった。