第二百十七話 金色のヴァンパイア
これは一ヶ月前のこと。
微食会の一行らは裏の活動で、
異世界リブル公国領のとある村にやって来ていた。
依頼の内容は、
最近とある丘に怪しげな城が現れ、
日に日に子供が行方不明となっているようで、
子供の救出と城の化け物討伐をお願いされたのだ。
最初は帝都の変から間もなかったため、野心家の何者かが、柔らかい餌を求めて丘に拠点を築いたのかと思った。
しかし、村の人に聞くと魔族や亜種族らしき者はおろか、人の出入りがないのことであった。
もう一つ言うとすれば、
子供たちがいなくなる前、
子供たちは謎の女の子と遊んでいたとか。
渡邉「ふーん、謎の女の子ねぇ~。」
近藤「なんとも言えないが、それよりあの城、ここからよう見えること、不気味な城の割には恐怖のオーラがほとんど皆無だな。」
渡邉「逆に怖いよな。」
本間「で、どうする?何人で乗り込む?」
近藤「ふーん、十人だと警戒されるから五人で良いだろう。えーっと、蒼喜、本間、せいっちゃん、仁くん、あと、"シゲ"だな。」
茂野「おいこら、なにしれっと自分抜かしてるんだ。ここは言い出しっぺが行けよ。」
茂野は大鎌を取り出し、ツッコミを入れつつ圧をかける。
近藤「わ、わかった、わかったて、冗談だよ。全くもう‥。」
本間「何怒ってるんだよw」
こうして無だな茶番が入るも、五人は丘にある城へ向かった。
近藤「思ったよりでっけぇ~な~。」
渡邉「しかも、門番無しの開けっ放し‥、不用心だな。」
本間「まずは、人がいないか確認しようか。」
番場「ごめんくださーい!」
星野「おおっ、相変わらず躊躇ないな。」
番場の第一声を響かせるも誰も出てこない。
仕方がないので、扉まで歩くことにした。
門から扉まで五十メートルくらいあり、まわりには手入れがされた赤黒い薔薇や真っ赤な薔薇が美しく咲いていた。
ゲームとかなら戦闘イベントが発生しそうであるが、何も起きずに扉へと到着した。
星野「何もなかったな。」
本間「うん、確かに。」
近藤「ある意味怖いな。」
渡邉「後ろを見たらゾンビがいるとか‥、それもないか。」
警戒していた分、
拍子抜けする四人は感想を述べる。
すると、例外の番場は扉を叩いた。
番場「ごめんくださーい!どなたかいますか?」
さすが恐れを知らないせいっちゃん、
礼儀はいいが、この場合でも躊躇なくやり遂げる‥そこにしびれる、"自主規制"ー!。
だが、反応はなかった。
なので、二回目、三回目と繰り返すも、
やはり反応がない。
これは余談だが、
異世界系のアニメや漫画でよくある、
ドアを蹴破って侵入するシーンがあるが、相手が悪ならまだしも、悪か分からない状態で蹴破るのは、普通に器物破損と住居侵入と言う罪になるため抵抗がありますよね。
ということで、ドアノブを捻って城の中に入ることにした。
すると、五人が目にしたのは、破れたカーペットに割れた花瓶、更には中央の階段や床に、赤い液体がついていた。
完全に事件性を感じさせる物であった。
すると、突然どこからか女の子の悲鳴が聞こえた。
本間「うわっ、ビックリした。」
番場「い、今のは‥。」
星野「子供の声か!?」
近藤「上か‥。」
渡邉「あ、おい尚弥!?待てって!」
近藤は単身階段をかけ上がると、四人も続けてかけ上がる。
中は防音になっているのだろうか、物が落ちる音や鳴き声などが耐えなく響いる。
胸騒ぎが激しくなると、近藤は鬼仏の力を使い急いで声が響く部屋に向かい、扉を蹴破った。
そこには村の子供たちだろうか、
十人は越える子供たちがおり、
驚いた様な顔をして振り向いた。
少し奥には子供を抱えた金髪で物珍しいツインテドリルの美少女がいた。
?「あ、あぁ、あんた誰よ!?勝手に私の屋敷に入ってき‥ひっ!?」
至極もっともな事を言おうとする金髪美女は、鬼の様な顔をした近藤と目が合い、身を震わすほどの恐怖を感じた。
当然子供たちは、
鬼のような近藤を見るやすぐに泣き出した。
金髪の美少女も腰を抜かし泣きながら訴える。
近藤「えっ、あ、いや‥ちょっ。」
?「お、お願い‥ゆ、ゆるじてくだひゃい、わ、わらひは‥、お、お友だちがほしかった‥だけで、お、お願いです、い、命だけは、命だけは~!」
まるで助けに来た近藤が、悪者みたいな立場に立たされ、どうすれば良いのか戸惑うのだった。
するとそこへ渡邉たちが合流するも、
状況が読めずに近藤に尋ねる。
渡邉「しょ、尚弥?こ、これはどう言うことだ?」
番場「おい、何泣かせてるんだよ。」
近藤「あ、いや、その‥泣かせてしまったのは確かだけど‥、ど、どう説明すれば良いのか‥。」
今の状態ではどうすることもできないため、
取りあえず戦犯と思われる近藤をしばくことにした。
本間「よーし、みんな安心しろ、悪い鬼は俺たちが退治したからな。」
番場「えーっと、ちなみにここの主さんはどちらに?」
?「わ、わたしよ‥。ひっく。」
番場「いやいや、勝手に上がり込んですまない。実は村の人たちが子供たちを心配していて探しに来たんだ。」
?「ふぇ‥じゃあ、やっと帰ってもらえるの?」
番場「そうそう、‥ん?帰ってもらう?」
子供「いや~!帰らない!」
子供「ラシュお姉ちゃんともっとあそぶの~!」
子供「わからず屋のお父さん大っ嫌い~!」
子供「ラシュお姉ちゃんを悪く言うから嫌い!」
なんと、子供たちが自主的に立て籠っていたようだ。
と言うことはつまり、ある意味金髪美少女の方が被害者と言うことになる‥。
渡邉「こほん、えーっと、見たところ主さんが被害者のように見えるのですが‥事情を聞いても良いですか?」
?「う、うん‥。」
金髪美少女の名前は、
ラシュリーナ・ダクリロード
由緒あるヴァンパイアの貴族だそうだ。
更に話によれば、帝都の変から一部魔界では小さな反乱が発生し、ダクリロード家はその反乱に巻き込まれ、命かながら転送魔法で脱出したようだ。
父と母は、その力を使い過ぎて長い眠りにつき、使用人たちは夜にしか活動できないため、日が上ってる間は、ラシュリーナが一人で過ごしているようだ。
そんなある時、一人の子供が川で溺れているところを発見して助けるとやけに懐かれてしまい。
太陽の下でも平気な特異体質を持つラシュリーナは、それから良いお姉さんとして子供たちに大人気となった。
しかし、日に日に遊ぶ子供の数が増えた頃、
親と喧嘩したり遊んでほしさに子供たちが夜な夜な家出をしては城を訪ねてラシュリーナと過ごし始めたと言う。
渡邉「ふーん、なんとも言えないな‥。」
本間「要するに、子供たちはラシュリーナさんが好きってことだ。」
番場「それもあるけど、帰ろうにも怒られる恐怖で動けないんだろうな。」
星野「子供の性だな。」
深い事情を知った四人は取りあえず、この事を報告するため、その場を後にしようとすると、
ラシュリーナが四人を止める。
ラシュリーナ「あ、ちょっと!どこ行くの!?」
渡邉「取りあえずその子達の親に話すんだよ。」
子供「ら、ラシュ姉ちゃんを退治させる気なんだな!」
子供「そ、そんなこと許さないよ!」
渡邉「大丈夫、誤解を解くだけだから、信じられないのなら、人質を送ろうか。」
ラシュリーナ「ひ、人質?」
渡邉「尚弥わりぃ‥。よっと。」
先程から気絶している近藤を投げると、
子供たちは一斉に悲鳴をあげながら端へと逃げた。
相当、あの表情が怖かったようだな。
いつもなら子供に好かれる尚弥だが、ここへ来て初めて嫌われる感覚を味わうことだろうな。
無抵抗の近藤をラシュリーナと子供たちの人質にして、引き渡すと渡邉たちは早々に村へ戻った。
村で待つ五人は近藤がいないことに心配するも、事情を伝えると同情なしで叩き始めた。
城に入った四人は村人たちを集めて事の次第を話した。
すると、村人たちはラシュリーナの心遣いに深く感謝した。帝都の変から異世界のバランスが乱れて不安が募るなか、本来大切にしていた魔族との共存を忘れかけていた事を恥じた。
取りあえず、気に入るかはともかく、遊び相手を入れたことだし、もう一日子供たちの抵抗を見守ることとなった。
種族だから悪いわけではない。
所詮生きし者は、善と悪の二つに分けられる。
人種で優劣を決めることは、器なき者であり、悪の権化である。
その頃、近藤は‥。
予想通り子供たちの遊び相手になっていた。
子供「こら~、悪党め!ラシュ姉ちゃんから離れろ!」
近藤「ぐはは!お前たちの聖女はこの名も無き鬼が頂いた!」
ラシュリーナ「ひゃっ!?こ、こら!?ど、どこ触ってるのよ!?こ、この変態!」
近藤「ふぶっ!?」
肩に触れた瞬間、ラシュリーナの華麗な回し蹴りが近藤の顔面を捉える。
子供「もう~、お兄ちゃん何してるんだよ~?もう五回目だよ?」
子供「はわわ、た、タフですね。」
近藤「いってて、今のはしっかり肩だっただろ!?」
ラシュリーナ「く、首に近いのよ!肩なら普通側面でしょ!」
近藤「うぐっ、注文が多いな‥。セリフを忘れそうだよ。」
子供「あはは~、お兄ちゃんとラシュお姉ちゃんパパとママみたい~♪」
ラシュリーナ「な、ななっ、なに言ってるのよ!?」
近藤「‥あぁ~、何だ。今度はおままごとをしたいのか?」
大バカな鈍感パパであった。
子供「えぇ~!勇者ごっこが終わってからだよ~!」
近藤「はいはい、時間は沢山あるんだ。遊びは順番だよ。」
こんな風に夕食までぶっ通しで遊ぶのだった。
子供たちが寝付くと、
さすがの近藤でも気疲れが見え始め、
壁を背にして腰を下ろしていた。
近藤「あいつら‥結局来なかったな‥。」
予想はしていたが、誰も来ないことについ黄昏ていると、ラシュリーナが声をかけてきた。
ラシュリーナ「初めてにしては上出来じゃない。」
近藤「そりゃどうも。」
ラシュリーナ「‥やけに寛いでるわね?」
近藤「気疲れしすぎて、どこでも寛げそうだよ。」
ラシュリーナ「‥ふーん、面白い人間ね。」
近藤「そりゃどうも。」
それから少し目を閉じて数十秒間静かにしていると、何やら嫌な視線を感じた。
恐る恐るゆっくり目を開けると目の前には、
瞳を赤く染めヴァンパイア特有の牙を生やしたラシュリーナがいた。
あの時の近藤は気絶していたため、彼女がヴァンパイアであるとは知らなかった。
意識が飲み込まれそうな深紅の瞳に、
近藤は為す術なしに首筋を噛まれ、気づいた時には自宅の布団の上にいたと言う。
それ以来、体は健康そのものであり、
何か生えたわけもなく、いつも通りに過ごしていた。
だが、これで主従契約が結ばれたとすれば‥
これはまた面白いことである。