第二百十六話 闇の依頼
某別棟にある
美術部の部室にて、
窓から差し込む光を黒いカーテンで遮断し、
一本のロウソクに火を灯し、闇の会議を開いていた。
星野「これが、今回の依頼と上杉校長からの願い文だ。」
取り巻き役の星野は、
三通の手紙をテーブルに並べる。
藤井「‥退魔悪霊案件、そして異世界案件、上杉校長のは恐らく国民的アイドルの護衛依頼か。」
近藤「うぅーん、帝都の変から異世界からの案件が多いな。」
渡邉「それほど、世界のバランスが傾いてるって証拠だな。それに向こうは、力と権力が物を言う中世文化がまだ残っている。野心家に取っても、今の衰退した帝都の玉座を取るには、これ程までのチャンスはないからな。」
本間「あれから、どのくらい盗賊や悪人を斬ったのか覚えてないな。」
番場「俺は十人越えてからは、数えるのをやめたけどな。」
高野「異世界とこの世界の平和のため、やむ終えないことだけど、できるなら殺りたくないよな。」
坪谷「‥そうだな、俺たちが動くのは事が起きてから、二次被害を阻止するくらいしか出来ない。」
大西「それでも終局させることはできる。悪の芽はすぐに積まなきゃダメだ。」
九人が重苦しく話す中、
星野は並べた手紙を開く。
星野「まずは、退魔悪霊案件についてだ。」
近藤「‥その紙を見る限り送り主は、退魔協会か、退魔軍省からか。」
星野「今回は退魔協会からだな。」
近藤「ふむぅ‥、なら、俺パスだな。」
渡邉「俺もだ。」
二人に続いて六人は一斉に拒否権を行使した。
星野「やっぱり、受けないか。」
近藤「当たり前だ。あんな傲慢で偉そうで、感謝の心を知らないバカ共に誰が協力するかよ。」
渡邉「うんうん、俺なんか助けてやったら、礼どころか当たり前のように接して来やがったからな。」
本間「そうそう、それに俺たちは協会に所属してないし、参戦する義務はない。」
藤井「時期会長の座を巡って足の引っ張り合いをしていると聞くし、ここで助けても手柄を横流しにされるだけだ。」
ここで長めの小話
退魔協会と退魔軍省の違いなのですが、
大本は退魔軍省を主軸として、
退魔、退霊、退妖の三つの部門で構成されており、国家を揺るがす大罪集団や無差別に人を襲う者の拿捕や討伐を専門としている。
場合によっては、軍としての自衛権を発動させられるが、侵略的使用は固く禁じている。
そして退魔協会は"取締法人"で認められた退魔軍省直下の独立支部となっている。
主に民間相手あるいは独自の調査権を執行し、事件を未然に防ぐ権利を持っている。
また軍的権利はないが、退魔軍省からの要請があれば参戦しなければならない。
ちなみに、対人、亜人の場合は、
警察省(警察庁、警界庁)と防衛省に分類されている。
微食会が退魔協会を嫌うのは、いつかの悪霊退治の依頼に出た際、退魔協会の人と偶然鉢合わせとなり、共に悪霊を倒したのだが、協会に属していないと教えると、急に態度が一変し傲慢な態度で去って行ったのだ。
その時の十人は、込み上げる怒りを抑えて我慢した。
それからと言うもの、協会とは三回くらい出くわすことになるが、奴等の態度は変わることなく偉そうに質問して来るため、うざったいので依頼を受付つけている住所だけ教えて終わらせた。それから何度か手紙が来るもロウソクの火にかけ燃やしていた。
とある時に、フリーで活動している美人女性と出会い話を聞いてみると、フリーで活動している大半の人が元協会に属していたと判明。
その女性とはそれ以来会っていないが、光を照らす人が追い出され、闇を払う組織が、闇を作って混乱させていると言う現状に哀れに思うのだった。
こんな過去があり、
八人が完全拒否の姿勢を見せる中、
星野は手紙の内容を伝える。
星野「うーん、だけどな。この手紙いつもの感じと違うんだよな‥。」
高野「違う人が書いたんだろ?」
本間「可能性は大だね。」
坪谷「どれ、ちょっと見せてみ。」
星野「あぁ、ほらよ。」
星野から手紙を受け取り電気をつけて、
内容を読むと何かに気づく。
手紙の内容
突然のお手紙申し訳ございません。
至急皆さんにお伝えしたいことがあります。
七月三十日、信潟県の春桜学園にて妖魔が現れると情報を耳に入りました。
失礼ながらあなた方の事は、あの日以来から調べさせてもらいました。まさかフリーの退魔士の間で有名な"十神柱"だったとは思いませんでした。
それ故、本来私も向かいたいところですが、今は任務で魔窟に向かう用があります。
情報だけ申し訳ないですが、お役立てください。
最後に敵は、妖魔だけではなく人も絡んでいる可能性があります。お気をつけください。。
上杉爽
坪谷「うーん、確かにいつもと違うな。仁くん、残りの二枚も開けてみてくれ。」
星野「わ、わかった。」
坪谷の指示から二枚の手紙を広げる。
異世界案件からは、
詳細は後で‥。
上杉校長からは、
脅迫文のコピーと共に、特例通知と学園警護ののお願いが記した手紙があった。
脅迫文には、
ご丁寧にユキツバキを狙った内容が記され、
警察関係及び対魔組織を呼んだ場合、無差別攻撃を実行する。過激な物であった。
特例通知は、学園内での武器の使用許可である。
学園警護の手紙には
突然この様な頼み事を君たちに、手紙でお願いすることを許してほしい。
実は昨日学園に、脅迫文が届いた。
見てもらえれば分かる事だが、これは国民的アイドル"ユキツバキ"を狙ったものだ。
脅迫文の内容の通り、警察関係、対魔組織の者との連絡はできない。
事を大きくしないために、君たちには本当の事を伝える。
教育者としてこんなことを伝えたくはないが、危険であることは確かだ。しかし、この局面で何とか出きるのは君たちしかいない。
どうか、お願い致します。。
上杉 成陰
坪谷「‥なるほど、この手紙と上杉校長からの手紙がなんか、共通点がある気がするな。」
大西「名字が上杉校長と同じ‥、もし親族なら辻褄が合う気がするけど。」
番場「まさか、あの時のお姉さんが校長の?」
上杉爽と言う人からの手紙と上杉校長の関係を考察していると、ここで高野が何かに閃いたのか、人差し指を立て前後に揺らしながら話す。
高野「ふっふっ、これは間違いなく親族だね。」
渡邉「おおっ!マッキー何かわかったのか?もし変なのだったら、わかるよ‥な?」
いつもの冗談臭い話し方に渡邉は、
高野の肩を掴みいつもの脅しをかける。
だが、高野は自信があるようで話を続ける。
高野「ふっふっ、最後の文を見てみろ?丸点が二つ付いてるだろ?」
高野の指摘に八人が一斉に見比べると、確かに丸点が二つ付いていた。
渡邉「おい、マッキー!お前天才か!?」
高野「ふっふっ、これでもう一つ分かる事がある。」
本間「おぉ、それなんだ?」
高野「極度のじいちゃんっ子って事だ!」
まさにどうでも良い推測に若干滑った。
近藤「ま、まあ、代々こう言う書き方かもしれないから何とも言えないが‥、それより、フリーの方々にも十神柱って呼ばれてるようだな。」
渡邉「異世界史に載っている、邪神を二度も倒したと言う十人の英雄。確か坪谷くんはその中の一人が持っていた"筆"に気に入られたんだよな。」
坪谷「あぁ、異世界の宿で一泊してたら突然テーブルの上に現れたんだよな。」
茂野「で、最初は気味悪がって置いていくも、行く先々で現れたもんな。」
坪谷「まあ、この筆も人を選ぶってことだな。」
話が徐々に脱線していくなか、
星野は咳払いをして話を戻すと、改めて部室の電気を消して、ロウソクに火を灯した。
星野「さて‥これで仕事は二つになった。明日の納涼祭本番はエニカとルイを外した十人で警備をする。そして、異世界の件だが‥。どうする?」
すると、誰かが手をあげる前に、八人が一斉に一人の男に顔を向けた。
近藤「‥ん?お、俺?」
渡邉「な、なんだ?読んでなかったのか?」
近藤「う、うん、どうせ盗賊か何かかと思ってたからな。」
星野「‥一応近藤を指名しているからな。」
近藤「えっ?何で??」
星野「何でって‥そりゃ~、ラシュリーナさんからの手紙だから?」
近藤「ん?‥ラシュリーナって、子供たちに人気で、傲慢キャラを演じていたヴァンパイアか?」
星野「そうそう。」
近藤「何か怖いな‥、俺何かしたっけな。」
渡邉「まあ、詳細はここに。」
異世界案件の手紙。(ラシュリーナからの手紙)
全文異世界語のため翻訳済み
ふはは!微食会の下僕たちよ。
この手紙を受け取ったことを感謝なさい!
近藤「なるほど、良くわかった。」
星野「おい、気持ちはわかるけどしっかり読んでやれ。」
近藤「えぇ~、わかったよ。」
改めて
ラシュリーナからの手紙内容
ふはは!微食会の下僕たちよ。
この手紙を受け取ったことを感謝なさい!
まず、一月前の件で村の子供たちを屋敷から追い出して、誤解を解いてくれたことは感謝するわ。
そこで、感謝を込めてこのラシュリーナ・ダクリロード様が直々に屋敷に招待してあげるわ!
拒否権は、鬼のように怖い男だけは認めないわ。
絶対に今夜連れてきなさい。
連れてこないと皆死刑なんだからね!
ラシュリーナ・ダクリロード
近藤「‥な、なんて物騒な手紙なんだ。」
本間「という訳で、行ってこい。」
番場「まあまあ、誤解とは言え、鬼のような顔をして泣かせたからな。お詫びだと思って行ってこいさ。」
近藤「‥行くのは良いけどよ。殺そうとしてないよな?」
渡邉「大丈夫だ。むしろ歓迎されるさ。」
近藤「ど、どう言う意味だよ‥。」
星野「変に考えるな。夜まで時間はあるけど、早くて越したことはない早速行ってこい。」
近藤「うぅ、ま、まあ変に行かないよりはましか。んじゃ、行ってくるよ。」
少々罠臭い気がするが、近藤は手紙の最後の部分を読めぬまま、手紙を手にして異世界へと旅立った。