第二百十五話 餌付け
いよいよ、納涼祭の準備も大詰め。
学園の食堂を始め、購買部や飲食ブースでは、
前夜祭兼本番前のメンテナンスとして夕食を作っていた。
そのため学園のあちらこちらで、空腹の生徒を惑わせる匂いが充満する。
すると、一足先に一人の魔王様と一匹の犬が飲食ブースに乗り込んでいた。
シャル「ふぁ~♪うまそうな匂いのだ~♪」
ギール「こ、こらシャル!?勝手に動き回るなよ!?うぅ、桃馬たちと離れてしまった。」
シャル「ふっふっ、ギールよ?この食の誘惑に甘んじないとは、お主の生き様は大損をしているのだ!」
ギール「う、うぐっ‥た、確かにそうだが‥。俺が言いたいのはそう言う事じゃ‥あっ、こら!?。」
ギールの制止も何のその、シャルは焼きそばブースへと走った。
本当は食よりも、シャルを一人にさせたくないギールであった。今の学園はシャルにとって欲望の塊、自由にしては何をしでかすか分からない。それに今はタダで飯が食えるが、明日になれば料金が発生するし、一般の人も来られる。
変なシステムを確立して誤解を生ませるわけにはいかない。
ここで久々の小話
春桜学園の納涼祭は、別名"夏の文化祭"と言われており、秋の文化祭と比べてあまり変わりはないです。
ちなみに臨界制でも、同じようにブースが設けられ、学園から繋がる一般ゲートが特別に開かれ、異世界の往来が可能になります。
しかし、午後十六時には門が閉まってしまうため注意が必要です。
女子「あ、シャル様♪ちょうど良い所に~♪焼きそばの味見していってよ~♪」
シャル「うむ!頂くのだ!」
女子「よかった♪今ルイちゃんにも食べてもらってるから感想が楽しみだわ~♪」
男子「ルイの舌は的確だからな。でも、それで料理が出来ないって不思議だよな~。」
シャル「何?ルイもおるのか?」
女子「うん、ほら、あそこに。」
女子生徒が指を差した方向に、多くの人が集まっており、そこには大量の食べ物をテーブルに並べ黙々と食べているルイがいた。
どうやら、餌付けをされているようだ。
シャル「す、すごい人なのだ。」
ギール「こら、シャル。勝手に動き回るなって言ったばかりだろ?」
男子「うげっ、ギールもいるのかよ。」
女子「さすが、シスコンの名は伊達ではないね~。」
ギールが合流するや、早々に弄り倒しが始まった。
ギール「な、なんだよお前ら?俺がいちゃダメなのかよ?それと、俺はシスコンじゃねぇよ。」
華麗に二人の問いを返すと、
ルイのまわりに集まる人混みに気づく。
ギール「なんだあれは?」
男子「あぁ、飲食ブースのみんながこぞって、ルイちゃんに味見兼、餌付けをしてるんだよ。」
女子「いや~♪ルイちゃんがご飯を食べてる時は、本当に可愛いよね~♪それと、隙だらけで仔犬みたいに可愛いんだよね~♪」
飲食店ブースにとってルイと言う存在は、
ある意味女神のような存在らしい。
下手に与えすぎて明日の本番に支障がでないことを願うばかりだ。
ギール「与えすぎてパンクしないことを祈るよ。」
男子「そりゃどうも。それより、シャル様と来たついでだ味見するか?」
ギール「あ、いやおれは‥。」
シャル「うまいのだ~!」
あまり食に興味がないギールが断ろうとすると、お隣で焼きそばの旨さに歓喜するシャルの声が響く。
女子「よかった~♪さすが、ルイちゃんのアドバイスね♪まさか炭酸水を加えるなんて考えもしなかったわ♪」
男子「まあ、ビールを入れてコクを出すって言うし、未成年向けのアドバイスだよな。」
ギール「‥ごくり。」
目を輝かせながら食べるシャルに、ギールも焼きそばの味が気になり始めた。
男子「ギールも食うか?」
ギール「あ、あぁ‥こ、今後の参考に‥。」
男子「ふっ、全くお前は、レシピ教えるから今度作ってやれよ。このシスコンが。」
ギール「う、うるさい‥。ぎ、義理だからセーフだろ?」
男子「しれっと本音を漏らしたな?まあ、みんなが知ってることだから良いけどよ。ほらよ。」
ギール「あ、ありがとう。はむっ。っ!うまっ‥。」
その後ギールとシャルは、仲良くブースを回ったのだった。
同級生の飲食ブースに足を運ぶと、ギールは同じようにからかわれ、自分でも作れそうなレシピをもらうのだった。
そして、食べ物と人に囲まれたルイはと言うと。
ルイ「ハグハグ♪モキュモキュ♪」
女子「きゃあぁ~♪ルイちゃん可愛い~♪」
女子「ルイちゃんのためならお店の食料全部あげるよ~♪」
男子「お、おい!?さすがに全部はまずいって!?」
男子「あ、あはは‥飲食ブースからしてみれば、ルイちゃんはある意味天敵だな。」
男子「それが良いんじゃないか~♪だから、今年の納涼祭は飲食ブースが多いんだろ?」
今年の納涼祭の飲食ブースは去年の三倍、しかもその大半が二年生であった。
ちなみに、ルイの他にも付き添いでエニカ、じゃんけんで負けた茂野がいた。
エニカ「さすがルイね!学年の注目の的だけあって、あんなに貢がれちゃって♪」
茂野「‥明日の本番でもタダで食べさせてもらえれば、食費が浮いて助かるけどな。一応監視しないとあっという間に十万単位に突入するぞ?」
エニカ「そ、そうですね。一学年と三学年のブースに行っては、出費が多くなる可能性がありますからね。これが通じるのは、二学年だけですもんね。」
茂野「そうそう、一応明日はもう二人くらい付き添いを増やした方が良いだろうな。」
エニカ「クスッ、いいのですか?折角一つしかない権利をじゃんけんで勝ち取ったのに、勝ち枠を増やしちゃって?」
茂野「構わないさ。」
本来負けた十人の内、一人が付き添うことになっているが、エニカにはその逆の勝った者が付き添うことにしていた。
一見微食会の十人が、一方的にエニカとルイを避けてるようにも見えるが、実はエニカとルイには知られたくない事を隠していたのだ。