第二百十四話 淫靡な不安事
学園中の生徒たちが納涼祭に向けて作業を進める中、いよいよ納涼祭の本番まで前日へと迫った。
彩飾された春桜学園の校門から各学園の棟まで屋台ブースが設置され、更には校舎内のあらゆる所にも文化部のブースが設置された。
その中でも、明日の目玉でもある国民的アイドル"ユキツバキ"の件では、闘技場にて新西財団の総力を上げてステージを作り上げていた。
刮目する生徒たちは、その豪華なステージに釘付けとなり、ライブが終わった後には撤去してしまう事に、勿体ないと思うのだった。
そんな中、ユキツバキの護衛任務を請け負った、異種交流会のとある三人が下見に来ていた。
時奈「うむうむ、さすが新西財団だな。荒儀は屑だが、約束は守ってくれるようだな。」
桃馬「まあ、校長命令ですからね。約束を破れば面目丸潰れのうえに退学処分になるだけですからね。」
桜華「ま、まあまあ、そう辛辣な事を言うのは今は無しにしましょうよ~。」
絢爛豪華なステージを前にして、辛辣な事を言う桃馬と時奈を止めると、下見を再開させる。
桃馬「それにしても、大きなステージだな。四方八方から見えるようにしている。」
桜華「なんだかドームライブ見たいな感じですね♪」
桃馬「そうだな、そうなると警備のポイントは、死角になるステージ下と、観客席からの襲撃も考えないとダメだな。」
桜華「それなら入り口付近に持ち物検査から、魔法封じの結界とかを手配しないとダメですね。」
あらゆる可能性と課題が出る中、
時奈から重要な知らせを受ける。
時奈「その点は安心しろ、外部の警備は風紀委員が担当することになっている。他にも上杉校長から信頼できる者たちに声をかけていると聞いている。」
桜華「なるほど、となれば私たちはステージのまわりの警護ですね。」
時奈「そう言うことになるな。よし、ある程度の段取りは決まった。ステージが出来たらまた来るとしよう。」
小さな火種となる予想でも検討し、三人は闘技場を一旦後にするのであった。
その頃
武道場では‥。
恒例の士道部による居合い体験の準備が終わり、部員たちが各出し物の応援に向かう中、頭を抱えてあることに怯える一人の男と一人のサキュバスがいた。
直人「はぁ‥‥、明日‥死ぬのかな。」
エルン「あ、安心しろ直人。姉上が来ても指一本直人に触れさせないからな。それに、ルシア様と京骨、あとリフィルからも助けてくれると言っている。」
直人「うぅ‥不安しかないが‥でも、あの"ユキツバキ"のルルーさんが、エルンのお姉さんだったとは‥。世界は狭いな‥。はぁ、そんな人に襲われたら‥‥性的に殺されるか。それとも火炙りか‥。」
最近のラッキースケベの展開から察するに、ルルーさんから襲われる可能性は八割を越えている。要するに死ぬ可能性も八割を越えている。
恐らく、まわりの評価はこうだ。
話をしただけで睨み付け
抱きつかれたら磔or死
キス以上で死刑が確定する。
末恐ろしい学園である。
上手く誰かに擦り付けられないものだろうか。
個人的に都合が良いのは、桃馬、ギール、後は六組の志道だ。
そうだ!この際、俺の名を偽ってもらおう。今日の俺凄く冴えてる!
直人は、良い案を思いつくと思わず笑みを溢す。
エルン「何か良い案でも思い付いたのか?」
直人「あぁ!幸いルルーさんは俺の顔を知らない。となれば、影武者を立てれば良いんだ!」
エルン「な、なるほど、確かに姉上に直人の写真は見せたことがないが‥。」
一瞬歯切れを悪くさせると、
直人が不安げに尋ねる。
直人「‥は、歯切れが悪いな?どうした?」
エルン「あ、いや、ちょっとな、三日前から‥その‥た、大切な写真が失くなったんだ。」
直人「大切な写真って‥‥まさか、俺が写ってるとか。」
エルン「‥あ、あぁ//」
恥ずかしそうに答えるエルンの姿に、
嫌な予感が感じるも、どんな写真を失くしたのか気になった。
直人「ちなみにどんな写真だ?もしかして、妖楼郭の時に撮ったツーショットか?」
エルン「い、いや、それは三重結界に閉じ込めた金庫に入れてあるから大丈夫だ。」
直人「そ、そうか‥(三重結界って‥)。でもそうなると、思い当たる写真はないな。たまたま、写ってるやつとか?」
エルン「う、うーむ、そうだな。」
何かを隠しているか視線を逸らす。
どうやら、完全に俺が写っている写真の様だ。
俺が映果からエルンとリールの盗撮写真を買うように、エルンも買っている可能性があるな。
取りあえず、当たり障りなく聞いてみるとしよう。
直人「こほん、その写真は俺単体か?」
エルン「ふぇ!?え、えっと‥それは‥うぅ//」
あ、やばい、ミスった。
当たり障りなく聞くどころか、ド直球な質問してしまった。
あぁ~、動揺したエルンが顔を真っ赤にして凄く可愛い!
二人っきりの今、すぐでも抱きついて羽と尻尾を出させて甘噛みしたい。などと、
邪な事を考えるが、今はそれどころではない。
取りあえず、エルンが失くした写真は俺の単体と言うのが確定した。だが、どんな写真なのか凄く気になるところだが‥、それは置いておいて、失くした件が、シンプルに何処かに行ったのか、それともルルーさんが忍び込んで持ち去ったのか‥。
これは考えすぎかもしれないが、もしルルーさんが稲荷姉と性格が同じなら、夜な夜なエルンの寝室に忍び込んでは様子を見に来ていて、そこで俺が写っている写真を見つけ、ターゲットにしたのが、写真がなくなる前‥、そして、納涼祭三日前に当日特定するために写真を強奪‥。ってところだろうか。
でも、一つ気になるのが、エルンまでストーカーをしている稲荷姉が気づかないはずがない。たまたま、見ていないのか。
それとも、ルルーさんが間接的に観察していて、魔法で写真を強奪したのか‥。謎が深まるばかりだ。
腕を組んで考え込んでいると、
エルンの声が少しずつ聞こえてくる。
エルン「‥‥と、‥お‥と。‥直人!」
直人「うわっ!?わ、わりぃ、ど、どうした?」
エルン「い、いや、ずっと腕組んだまま何も話さないから心配になってな。」
直人「あ、あはは、すまん。それで‥えっと、話の続きだけど、写真の内容はともかく、写真は恐らくルルーさんに取られた可能性が高いと思うな。」
エルン「や、やっぱり、そう思うか?」
直人「まあ、あくまでも可能性だけどな。」
エルン「‥ふぅ、もしそうなら姉上にも困ったものだ。明日会ったら問い詰めてみよう。」
直人「あまり、詰めすぎるなよ?」
エルン「う、うむ、」
直人「エルンもそうだけど、クール系のサキュバスでも、本性はサキュバスなんだな‥。」
エルン「なっ//そ、それは、わ、私が、み、淫らな女だって言いたいのか!?」
直人「‥他に誰がいるんだ?俺の可愛いエッチなお嫁さん♪」
笑みを浮かべながら、頭から腰まで伸びた綺麗な金髪を撫で下ろすと、スイッチが入ったエルンに押し倒され、いつ誰が来るか分からない道場でイチャつくのであった。