第二百十三話 花火こそ祭りの花
二年一組と二組で暑さ対策に勤しむ中、
二年五組では、花火部副部長の片貝想花を筆頭に、花火部が納涼祭で打ち上げるための花火玉を製作していた。
想花の家は代々花火職人の家柄で、そのためか女の子にも関わらず、男っ気が強く、誰とでもフレンドリーに接してくるタイプである。
そして綺麗な銀髪で高身長、健康的な褐色肌を持ち、胸の谷間を大胆に開き、羞恥心を感じさせない姉御肌である。
そのカリスマが強いせいか、まわりの男からは恋愛対象に見てもらえず、大切な友達として見られがちである。
彼女自信も少しは恋愛に興味があるようだが、
彼女もまた恋に鈍感であった。
まあ、男子がいる前で服を脱いだり、
男子との密着は当たり前、
そして男顔負けの力持ちである。
ある意味これが原因かもしれないが‥。
エニカ「花火作りって、意外と奥が深いですね。」
坪谷「そうだろ?多彩な色を出すために火薬と金属粉を調合して"星"って言うのを作るのがポイントなんだよ。」
茂野「そうそう、俺も一時は花火作りにはまって、想花の家によく行ったな~。」
片貝「何だよ二人とも~♪懐かしい話をしてるじゃねぇか~♪」
懐かしい話を耳にした想花が、
指導をほっぽいて三人の元へ駆けつけた。
茂野「想花覚えてるか?昔花火玉の中に"花雷"の星を敷き詰めまくって打ち上げたら、上空で大爆発したの。」
片貝「おぉ~、覚えてるぞ♪あれは花火と言うより、火薬を打ち上げただけな感じだったな~♪。あの時の花雷を見ると、やっぱり適量が一番だってつくづく思い知らされるよな。」
坪谷「あはは懐かしいな。確かあの時は、小学生の友達を駆り出しては隠れて作ったもんな。」
茂野「今思えば違法だよな。」
注、
火薬を取り扱うには資格が必要です。
火薬は危険が伴うので、ふざけ半分で使わないようにしましょう。
近藤「おぉ~い!想花~!これどうくっつければいいんだ!?」
渡邉「うぐぐっ、お、重い‥。」
火薬をぎっしり詰められた、半径一尺もある半玉を二人一つずつ抱えていた。
ちなみに一尺は、約三十センチ、もっと細かくすると約三十.三センチである。
力のある近藤はともかく、想花と共に持っていた渡邉は限界寸前であった。
片貝「おっと~、わりぃわりぃ~♪すぐ戻るよ♪」
マイペースな想花は、悪びれもなく渡邉の元へ戻った。
坪谷「全く、相変わらず男っ気が強いな。」
茂野「たまには、女子として振る舞っても良い気もするけどな。」
昔からぶれない想花の態度に、
二人は小さな願望を漏らした。
エニカ「か、カッコいい~。片貝さんって、授業の時とか、いつも寝ているので不良かと思ってましたけど、熱い心を持ったすごい人ですね!」
坪谷&茂野「お、おぉ‥。」
想花の真の姿を見たエニカは目を輝かせながら、惚れ惚れとしていた。
これに対して二人は、驚きから思わず声を漏らした。
そしてその隣では、星野、大西、高野の三人が、黙々と魔法結界の中で花火を打ち上げていた。
高野「いやぁ~、仁の魔法結界は便利だね~。」
大西「防音で耐久性も抜群。こう言う実験には欠かせないよな。」
星野「そりゃどうも、次は‥これか。」
星野が一尺玉を結界の中に入れ点火すると、
制作したと思われる番場が慌てて止めにかかる。
番場「仁くん!?ちょっと待て!?」
星野「えっ?」
時すでに遅し、結界に入れた一尺玉が光輝くと大爆発共に結界を崩壊。奇跡的に花火玉への誘爆は免れたが、星野、高野、大西を始めた、止めにかかった番場、隣にいた坪谷、茂野、エニカを巻き込み、漫画でよくある黒焦げとなった。
近藤「な、何やってるんだ‥あいつらは。」
渡邉「あはは、せいっちゃんの調合した火薬玉に火をつけたようだな。まあ誘爆しなくて良かったな。」
近藤「だな‥、それにしてもほんと自由だよな。」
片貝「あはは!何やってるんだよ~♪でも、派手なのは好きだぜ♪もう、辛抱たまらん!十発くらい打ち上げようぜ!ルイ手伝ってくれ!」
ルイ「おぉ~。」
近藤と渡邉を始め、まわりがエニカたちを心配する中、想花に至っては心配するどころか心を滾らせ、裏で飼い慣らしたルイと共に、窓から一尺玉を打ち上げようとした。
本間「ま、待て待て!?先生の許可なしで一尺玉を打ち上げようとするな!?」
藤井「そ、そうだぞ!?この前一尺以上の花火を打ち上げるなって注意されたばっかりだろう!?」
片貝「ふっ、先生が怖くて花火を打ち上げられるかよ!やれ!ルイ!」
ルイ「うん、」
表情を全く変えないルイは、窓から手筒を突き出し打ち上げようとすると、近藤と渡邉が急いで止めにかかる。
近藤「る、ルイ!?何してるんだ!?」
渡邉「あ、あぶねぇ‥てか、いつから想花に手懐けられたんだよ!?」
ルイ「あぅ‥二人とも‥離して‥。ご飯のお礼をしないと‥。」
近藤「ご、ご飯って‥、はぁ、餌付けされたんだな。」
渡邉「ま、まあ、それでも打ち上げは我慢してくれ。今こうして花火を作ってるのも極秘なんだからな。」
ルイ「‥うぅ、でも。」
心が揺れるルイに対して、
近藤から衝撃的な事を告げられる。
近藤「もし、これがきっかけで納涼祭に出られなかったら、美味しい食べ物が食べられないぞ?」
ルイ「っ!」
食べ物を餌に説得すると、
ルイの頭から二本のアホ毛が生えた。
ルイは窓に突き出した手筒を引っ込め、
二本のアホ毛を"ピコピコ"と動かしながら、二人の制止を呑んだ。
奥の手を潰された片貝だが、
打ち上げる衝動は収まらなかった。
片貝「えぇ~!つれないこと言うなよ~。たったの十発だぞ?」
本間「だめだ、下手したら俺たちまで罰則がつくじゃないか?」
藤井「そうそう、それで納涼祭が出禁になるのは勘弁だぞ。」
片貝「うぐっ、で、出禁か‥。うーん、それは困るな。」
たった十発で、学園の大イベントである納涼祭に出れなくなるのは、さすがの片貝でも嫌な様であった。
大人しく諦めてくれたのも束の間、
新たな事件が早々に勃発する。
エニカ「うぅ~、火薬臭い~。ん?あっ‥。」
少し黒く焦げたエニカの目の前には、
先程の爆発で飛んだ火の粉が、長い導火線に引火し、ロケット花火に向け進んでいた。
エニカ「は、はわわ!?た、たた、大変です!?」
坪谷「えっ‥げっ!?」
茂野「っ!やばっ!?」
二人が気付いた時には、
大量のロケット花火に点火した瞬間であった。
ロケット花火は教室中を飛び回り、小さな破裂音と共に火の粉が舞い、調合用の火薬に引火し大爆発を引き起こした。
教室内は火薬の臭いと、黒い煙に包まれ教室内は阿鼻叫喚に包まれた。
念のため防音結界と魔法結界を張っていたため、外部から気づかれることはなかったが、教室内は無茶苦茶である。
幸い、制作した花火への被害は少なく、黒焦げになった五組の生徒たちは急いで後片付けに取りかかり証拠隠滅を図ったのであった。
その後、これに懲りて納涼祭まで大人しくすると思いきや、納涼祭本番まで昼休みと放課後を使用して隠れて制作に移るのであった。