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第二百十二話 避暑地を求めて

時は少し流れ、

納涼祭まで一週間に迫った頃。


同時に、春桜学園では夏休みを告げる終業式まで一日と迫っていた。

しかし、夏休みに入っても七月は納涼祭の準備で大忙しのため授業なしの登校日となる。

そのため、補填(ほてん)として九月の第一周まで休みとされている。



そんな訳で、記録的な熱い日にも関わらず、

出し物を出店する生徒たちは、着実(ちゃくじつ)に準備を整え、頭の中では今か今かと納涼祭を待ち通しにしていた。


ちなみに、出し物については任意制で、

クラスでやろうが、部活でやろうが、自由である。


とある二学年では、ジェルドとギールを筆頭に、獣人族を出汁(だし)にして、もふもふ喫茶なるものを強行しようとしていた。


しかし、けもみみ女子たちには受けは良かったものの、対して半数以上のけもみみ男子が反対し、任意制となった。



そしてお馴染み、昼休みの時間。

この日に限って二年棟の冷房が故障し、

扇風機だけでしのいでいる二年一組の教室では。



桃馬「あちぃ~。こんなの‥授業どころじゃないよ‥。」


憲明「‥室温‥三十二度‥。外は、三十九度‥‥。」


ジェルド「わふぅ~、こんなので屋上には‥いけないよな‥。」


男たちはだらしがない格好で、机に突っ伏しては、イスにもたれ掛かっていた。


小頼「男子はだらしがないね~?私はへっちゃらよ?」


桜華「うぅ、小頼ちゃん‥それを言うのなら、継丸くんから離れてから言わないと‥。」


継丸「あ、あはは‥。」


小頼は、孔真から継丸を借り、程よい冷気を受けていた。


一方で孔真は、見るから暑そうな黒い着物を着ていると言うのに、涼しげな表情をしている。

孔真もまた、式神を活用して涼んでいたのだ。


桃馬「小頼は良いよな‥、継丸に好かれていて‥。」


憲明「そうそう、俺たちにも分けて欲しいくらいだよな‥。」


ジェルド「‥わふぅ‥、仕方ないさ‥‥涼しい風や氷系の術を使える式神が二体しかいないって言うんだから‥。」


桃馬と憲明は、限界が近いのか、継丸に視線を向けた。


継丸「あ、いや‥お、お二方!?そんな目で僕を見ないでくださいよ!?」


ロックオンされた継丸は、恐怖から一歩後ろへ下がる。


小頼「ちょっと二人とも!継丸くんを怖がらせないでよ!」


桜華「あはは‥二人の気持ちはわかりますけど‥、今日は体育がない分、今は我慢しましょう。」


桃馬「‥うぅ、そうだけど。」


憲明「涼みたい‥。」


憲明に関しては、かなり限界に近いようだ。

桃馬は、憲明だけでもと思い交渉を始める。


桃馬「取りあえず俺はいいから、憲明だけでも涼ませてやってくれないか?このままだと、壊れそうだ。」


小頼「うーん、仕方ないな~。継丸くん?五分だけ、憲明を涼ませてあげてくれるかな?」


継丸「は、はい!了解です!」


小頼からのお願いに、継丸は喜んで聞き入れ、

憲明の頭を冷やしにかかった。


小頼「うぅ、やっぱり止めると直ぐに暑く感じるな~。」


桜華「まあまあ、昼休みが終われば継丸くんを返さないといけないわけだし、慣れるためにも良いんじゃないかな?」


小頼「そうだけど~、うぅ、一日貸してほしいな。」


思わず本音を漏らすと、

所有者の孔真からすぐに注意を呼び掛けられた。


孔真「一日はダメだよ。きっちり昼休みが終わるまでには返してもらうよ。」


小頼「うぐっ、聞いてましたか‥。」


孔真「そんな大きな声で話していれば、嫌でも聞こえるよ。」


小頼「な、なら!レンタルの延長を!」


孔真「だーめ、こうしている間にも俺の力は徐々に消耗しているんだぞ?」


小頼「うぅ‥。」


孔真のガードは非常に固く、さすがの小頼でも一筋縄ではいかなかった。


だが、ここで引き下がるような小頼ではない。


この際は、思い切って禁断のお願いに出るのであった。


小頼「こ、孔真~♪継丸くんを私にちょうだい♪」


笑みを浮かべながら下手(したて)に出た小頼は、継丸欲しさから本音を漏らし、大胆にも継丸の式権(しきけん)を要求した。


がしかし‥。


孔真「だめだ。」


当然このように即行拒否された。


小頼「むぅ、ケチ~!」


孔真「ケチじゃない。それに継丸は俺の家族みたいなものだ、おいそれと渡せるかよ。」


孔真は机に広げている新聞を片付けると席を立つと、継丸と憲明のところへ歩いた。


小頼「あっ、ちょっと!?まだ、時間があるでしょ!?」


継丸を回収されると思った小頼は、思わず孔真の腕を取った。


孔真「な、なに勘違いしているんだ?回収はしないから離せって。」


小頼「じゃあ、継丸くんをちょ~うだい!」


孔真「っ、しつこいな~。すぐに離さないと直ぐに継丸を式に戻すぞ?」


小頼「うぅ、わ、わかった‥。」


さすがの小頼でも、この脅しには勝てなかった。珍しく舌戦(ぜっせん)に負けた小頼は、残念そうな表情を作った。

これには、桜華も思わず心配になり声をかける。


桜華「こ、小頼ちゃん、大丈夫?」


小頼「うぅ、桜華ちゃ~ん!継丸がほしいよ~ふえーん。」


嘘泣き臭い声と共に桜華の胸に飛び付いた。


桜華「ひゃっ!?こ、小頼ちゃ‥んんっ!?」


小頼「傷ついた私のこの想いを、桜華ちゃんの胸で慰めて~♪」


桜華「んあっ‥そ、そんな‥ひゃうん♪小頼ちゃん‥だめ‥。」


堂々とユリユリしい行為をする小頼に、

桃馬たちは呆れていた。


桃馬「これじゃあ、渡したくないよな。」


孔真「だろ?どんな良い式神でも主が劣れば暴走の元になるし、堕落させる要因にもなる。それに、継丸は俺の一番お気に入りの式だ。小頼に渡して蹂躙など‥絵にはなるが、そんなことはさせない。」


継丸「ご主人様‥。」


しれっとヤバイことを口にしたが、継丸のことを大切にしているのは本当のようだ。


ジェルド「‥懸命(けんめい)だな。今の小頼に渡したら、その日の内に喰われるだろうな。」


孔真「そうそう、さて継丸?あれを見ても一緒に使えたいと思うか?」


継丸「‥‥うぅ。」


即答できない継丸。


やはり、裏の小頼をあまり知らないだけに、体を"もじもじ"させながら迷っていた。


桃馬「ま、まあ、急に振られても困るよな。」


ジェルド「そ、そうだよな、こればかりは仕方がない。」


二人は継丸の気持ちを考え、少しフォローをすると、継丸から意外な台詞が出る。


継丸「ぼ、ぼぼ、僕は‥こ、小頼姉さんなら‥‥仕えても構いません‥//」


赤面しながら弱々しく話すと、三人の男たちは固まった。


あんなに、あからさまな小頼の裏を見てもなお、仕えたいと言ったのだ。


桃馬は思わず聞き直した。


桃馬「つ、継丸?今仕えたいって聞こえたけど?嘘だよな?」


継丸「う、嘘ではありません。わ、私は‥小頼姉さんをご主人様と同じくらい慕っています。」


ジェルド「‥う、うん。その気持ちは立派だけど、慕う相手はもう少し考えた方が良いと思うな。」


継丸「ふぇ?どうしてですか?」


ジェルドのちょっとした制止に疑問を抱いた。


ジェルド「えっと、変に(とら)えないでほしいんだけど‥。継丸くんみたいな有望な子が、小頼に喰われるのは、心が痛くてな。」


継丸「喰われる??それは、どういう意味ですか??」


純粋無垢(じゅんすいむく)な継丸にとって、隠れた(よこしま)な心を見抜く力は皆無に等しかった。そのため、あからさまな"喰われる"と言ったものでも、意味がわからなかったのだ。


すると、好機と見た小頼が継丸に抱きついた。


小頼「ほらほら~。これで孔真もわかったでしょ?継丸くんは私と居たいんだよ~♪」


孔真「‥うーん、はぁ、継丸の意思なら仕方がない‥。だが、貸すだけだからな?襲ったり変なことしたら直ぐに返してもらうからな?」


小頼「はいは~い♪」


孔真は渋々ながら、式の中で一番大切な継丸を小頼に一時託すと継丸に近寄り手を伸ばした。


怒られるかと思った継丸は、目を強く閉じて覚悟を決めていたが、孔真は優しく頭を撫でた。


継丸「ご主人様‥。」


孔真「‥これも修行か‥。継丸を手放すのは辛いが、俺は継丸の意思を尊重する。もし寂しくなったらいつでも帰って来い。小頼を頼むぞ?」


継丸「は、はい!」


孔真の言いつけに、元気よく返事を返した。


すると、すっぽかされた憲明は、空気を読まずに再度冷気をねだった。


憲明「‥おぉ~い、もう‥涼ませてくれないのか~。」


孔真「少しは空気を読まんか!」


憲明「あぐっ!?」


良い雰囲気を壊された孔真は、

お望み通り氷結術で憲明を氷漬けにした。


桃馬「暑さにやられていたとは言え、間が悪かったな。」


桜華「あはは‥でもこれで、暑さで苦しまなくて済みますね。」


ジェルド「逆に凍傷で苦しむかもな。わふぅ~、ひんやり~♪」


ジェルドは、興味本意で氷漬けにされた憲明の体に触れると、程良くひんやりとした、気持ちの良いものになっていた。


それを見た桃馬たちは、こぞって憲明の体にしがみついた。


孔真「全く‥お前たち。」


継丸「‥あっという間でしたね。」


避暑地を見つけた桃馬たちの行動に、

孔真と継丸は少し引いた。


更に一方で、この暑さで騒がしくしそうな、

お隣のシャルたちはと言うと、以外にも静かであった。



それもそのはず、シャルたち二組と数人の他クラスの生徒たちは、ディノ特性ひんやりスライムベッドで(くつろ)いでいたのだった。


シャル「ふへぇ~♪最高なのだ~♪」


ギール「すぅすぅ~。」


豆太「ふぁ~♪にいひゃん~♪」


リフィル「天国~♪」


このように、二組は一面天国状態であったと言う。



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