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第二百六話 茫然の犬

午後の授業を告げる予鈴(よれい)が鳴り響くと、桃馬の予想通り、ギールは一応解放された。


だが、ギールの瞳には光は無く、

心を閉ざしたかのように大人しかった。

ギールのお仕置きに参加した者たちは満足そうにしており、対してお仕置きに参加していなかった者たちは心配そうに見ていた。


そして五限が終るとリフィルと三人の兄弟が心配して尋ねて来た。


いつもならここで、冗談を言うシャルであるが、こればかりは心配していた。


シャル「ぎ、ギール?大丈夫か?」


ギール「‥‥。」


恥辱を与えられたギールは、完全に外部からの交流を遮断していた。


その表情は暗く、人生を諦めたような表情である。


豆太「ご、ごめんなさい兄さん。僕が助けに来なかったことを怒ってるのですよね‥。」


ディノ「ま、豆太に罪はありません。せ、責任は私にあります‥。」


ギール「‥‥。」


ギールは動きの悪い機械の様に、

首を二人の方へ向けた。


ディノ「‥‥っ、に、兄さん?」


ギール「‥‥。」


光を失った瞳が、更に不気味さを引き立たせ、

何をするのか、何を考えているのか、全く読めない状態である。


しかしギールは、二人を見るなり無言で首を戻した。そして弟に何もすることもなく、次の授業の準備をした。


ディノ「兄さん‥。」


豆太「うぅ、僕のせいで兄さんが壊れちゃったよ~。」


シャル「むぅ、こ、これは不味いのだ。」


リフィル「あ、あはは‥、これは重症だね。」


シャル「な、何か言い方法はないのか?」


リフィル「うーん、桃馬に頼むか、シャルちゃんが素直に甘えるか。」


シャル「す、素直に甘えるだと!?」


リフィル「そうそう、今のギールが求めているのは純粋な愛情だよ?」


シャル「‥ほ、本当にそうなのか?」


リフィル「う、うーん、正直(しょうじき)推測(すいそく)‥かな。でも、これは効果あると思うよ!」


かなり強引な気もするが、

他に手がない以上は、やるしかなかった。


シャル「ぎ、ギールよ。そう過去を引きずるでない。いつものギールに戻るのだ。」


ギール「‥‥。」


シャル「ほ、ほら~♪余の頭を特別になでなでさせてやるぞ~♪」


ギール「‥‥。」


シャル「うぐ、な、なら‥ここは、強引になのだ!」


アピールしても無反応なギールに対して、シャルは思いきって膝の上に座り込む。

そしてギールの手を掴み自分の頭に乗せた。


ギール「‥‥ふっ、そんなに心配か‥シャル?」


ようやくギールの口が開くも、その声には覇気がなく、余計心配してしまう感じであった。


シャル「っ!あ、当たり前なのだ!元気のないギールは、らしくなくて嫌なのだ!」


豆太「そ、そうです!いつもの明るい兄さんに戻ってください!」


ディノ「兄さんの辛い思いは、私が償いますから‥どうか。」


この機に三人は、ギールの機嫌を直してもらうため必死で説得する。


四人に血の繋がりはないが、

兄弟‥いや、家族としての絆を見せつけていた。


リフィル「ふぅ、ギールは愛されてるね~。」


この光景に、無作為にギールを仕置きした者たちは、かなり複雑な思いで見ていた。


ここで三人の説得が効いたのか、

ギールはゆっくりそっぽを向き肩を震わせた。


ギール「‥‥ふっ‥ふふっ。」


シャル「ギール‥すまんぬのだ‥。」


ギールのYシャツを握りながら、弱々しく謝った。


しかし、この後思いもよらない展開が待っていた。


ギール「ふっ、ふふ、あはは!!」


シャル「ふぇ?」


豆太&ディノ「っ!?」


リフィル「えっ?」


(わび)しい空気の中で、

ギールが突然大笑いをしたのだ。


予想外の展開に四人とクラスメートたちは、言葉が出ないくらい驚いていた。


光を失くした瞳には、一瞬で光が戻り、

いつものギールへと戻った。


ギール「あはは、そうかそうか~、三人が俺に対してすごく反省しているってことが、よ~くわかったぞ♪」


リフィル「ぎ、ギール?も、もしかして‥演技だったの?」


ギール「あぁ、やられっぱなしも嫌だったから、つい仕返しがしたくてな。すまないことをしたと思ったが、効果は絶大(ぜつだい)のようだな♪」


いつものギールの反応に、豆太は恐る恐る質問した。


豆太「あ、あの、それじゃあ‥怒っては?」


ギール「もちろん、怒ってるよ?この裏切り者が~♪」


豆太「はぅ!?に、兄さん‥そ、そこは‥んあっ♪」


ギールは豆太を捕まえると、

弱点である尻尾の先端を攻めまくり、頭を撫でた。


ギール「帰ったらもっとお仕置きしてやるからな?」


豆太「んんっ‥は、はひぃ~。」


あっという間に豆太が陥落すると、膝の上でキョトンとしているシャルがようやく我に返る。


シャル「ぎ、ギール!わ、我を弄んだのか!?」


ギール「あはは、すまんなシャル、でも、お望み通りいつもの俺に戻ってやったぞ♪」


シャル「うぐっ、そうだが‥な、何か違うのだ。」


複雑な気持ちになるシャルに、

ギールは、自然とシャルの頭を撫でた。


ギール「‥でも、シャルがここまで心配してくれるとは思ってなかった。ありがとな。」


シャル「っ//、ひ、卑怯なのだ‥。ふ、ふん、気持ちいいからもっと撫でるのだ!」


ギール「はいはい、後は、ディノだな。」


ディノ「っ、は、はい‥。」


ギール「今回は、信頼できる弟に見捨てられたからな~。どうしてやろうか。」


ディノ「うぅ、な、何なりと‥。」


覚悟を決めたディノは、受け入れる姿勢を見せた。


ギール「‥後で、俺が受けた仕置きを受けてもらうよ。」


ディノ「に、兄さんと同じのをですか?」


ギール「あぁ‥。」


ディノ「わ、わかりました‥謹んでお受けします。」


ギール「ふっ、ちらっ。」


ギールは、どや顔しながら制裁した男たちに顔を向ける。


まさかの裏切りの展開に、もう一度仕置きを考えていた男たちは、生唾を飲みながら矛を納めた。


ディノは安易(あんい)に受け入れたが、放課後に悲惨(ひさん)(はずか)しめを受けることになるとは、夢にも思わなかった。



リフィル「全く、珍しく驚かせてくれたわね?」


ギール「俺の演技も捨てたもんじゃないようだな♪」


リフィル「ならそれで、桃馬に近寄れたんじゃないの?」


ギール「‥‥あっ。」


リフィル「‥考えもしてなかったようね。」


まさかの盲点に、ギールは頭を抱えた。

だが裏を返せば、ここで気づけたのは運がよかった。


この演技力を活用すれば、桃馬の忠犬としての株が上がり、最後には立派な犬として一緒にいられる訳だ。


ギールは尻尾を振りながら、

放課後の作戦を考えるのであった。


転機予報(次回)

今日の放課後は、いつも以上に荒れる模様です。しっかり身構えて備えましょう。


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