第百九十九話 夏の大戦乱祭編(最終) 若人(わこう)の詩
化け物の境地に達した両津直人に対して、
"トリガー"を外した七人の"化け物"が対峙する。
激しい斬り合いの最中、
修羅モードの直人は、相手が七人でも互角に渡り合っていた。
志道「くそっ、どうなっているんだこの力は‥七人掛かりでも倒せないのかよ!」
渡邉「‥帝都の変より強くなってるな。」
茂野「ちっ、骨が折れる奴だ。」
戦況は均衡していながらも、
実際は苦戦しているのが現状である。
するとここで、ようやく直人の右肩に貼られている奇妙な札に気づく。
近藤「くっ、さっきから一際光ってる札があるけど、気のせいか?」
藤井「どうせ体に纏ったオーラのせいでそう見えるだけだ。気にせず仕掛けるぞ!」
茂野「もしそうなら、腕ごと斬り落としてやるだけだ!」
"トリガー"を外したせいで、知力が著しく低下していた三人に、狂気に染まっても本能は生きている本間が動く。
本間「関係あるに決まってるだろ!さっさと、剥がしてこいや!」
近藤「ぐあっ!」
藤井「うぐっ!?」
茂野「ぐはっ!」
本間の渾身の右手のツッコミが入ると、勢いよく直人に向け突撃する。
直人「くっ!ん?ぐはっ!!?」
見事に大クラッシュをした四人、
その際に光る札は剥がれ、エルンの目の前に落ちた。
エルン「こ、これは‥稲荷さんの‥。」
リール「‥もしかして、これが原因?」
ジャンヌ「な、なんだ‥その札は?」
エルン「あぁ、これは直人のお姉さんが送ってきた物だ。だが‥稲荷さんが手違いをするなんて‥。」
リール「うーん、あり得るんじゃないかな?」
エルン「うぅ、そうだな。」
リールが不安を示唆すると、
エルンは少し難しい顔をしながら賛同する。
話についていけずに取り残されたジャンヌは、
聞きたいことが多すぎて戸惑っていた。
ジャンヌ「ふ、二人とも私を置いていくな!?」
エルン「す、すまない‥。今は詳しく話せないが、取りあえずこの札を直人に貼れば静まると伝えられていたんだが‥どうやら、真逆に作用してしまったようなんだ。」
ジャンヌ「‥ちょっと貸してもらってもいいかしら?」
エルン「あぁ、構わないぞ。」
お札をジャンヌに渡すと、
直ぐに鑑定スキルで詳細を見た。
ジャンヌ「‥ふむふむ、確かに浄化の類いはあるようだが、この‥"姉ラブ"とはなんだ?」
エルン「えっ?」
リール「なにそれ?」
心当たりがあるようで無いような危険な単語が、ジャンヌの口から出ると、二人は嫌な予感を感じた。
すると、大クラッシュした直人たちに再び動きがあった。
直人「っ!何しやがる!!」
近藤&藤井&茂野「ぎゃあぁぁ!!?」
直人に覆い被さった三人は、
修羅モード継続中の直人に吹き飛ばされる。
同時に無数の斬撃波が襲う。
これにより、不幸にも何も出来ずリタイヤする者が増えていった。
多いので詳細は省略。
直人「はぁはぁ、なんだってんだよ‥。」
しかし修羅モード継続中とは言え、
少しだけ自我に変化が起きていた。
すると、畳み掛けるように三人の剣豪が直人に斬りかかる。
葵「そろそろ目を覚ませ!」
志道「お前の暴走もここまでだ!」
渡邉「お前の悪夢は終わりだ!」
直人「っ!こしゃくな!」
仕掛ける三人に対して直人は渾身の一撃を叩き込んだ。
その衝撃は凄まじく、叩き出した直人ごと吹き飛んだ。
志道「っ!滅茶苦茶な!」
葵「まだ抗うのか‥、そこまでしてあの四人が憎いのか。」
渡邉「無理もない‥、以前リールが襲われそうになった時と帝都の変でも‥必ず主犯には制裁を加えていたからな。」
志道「‥なら今回も‥四人を殴らないと気がすまないのか。」
葵「最悪なそうなるな‥。だが、こんな下らないところで友の手を汚させはしない。そう‥あの四人には‥死より重い罰がお似合いだ。‥そうだろ、直人!」
よろめきながらも起き上がる直人、
妖気は先程と比べて著しく消耗し、表情も人間らしい顔に戻っていた。
直人の背中には、孔真がやられ際に投げた札が貼られており、妖気が浄化されていた。
直人「‥はぁはぁ、俺は‥まだ‥‥終わって‥。」
桃馬「いや終わりだ!直人!」
直人「っ!とう‥がふっ!?」
突如側面から桃馬が飛び出し、重い拳を打ち付け、その場に叩きつけた。
葵「‥と、桃馬?」
志道「い、いつの間に‥。」
まさかの展開にまわりは驚いた。
桃馬「‥はぁはぁ、従兄弟でも血は争えんな。俺も‥桜華が負傷した姿を見たら居ても立ってもいられなかったよ。」
直人「かはっ、と‥ま‥。」
桃馬「‥お前の気持ちは痛いほどわかった‥だから、ここはリールとエルンのためにも‥矛を納めろ。」
直人「‥‥くふっ‥ふっ‥。」
少し安心したような笑みを浮かべると、そのまま気を失った。
同時に終戦合図の花火が高らかに上がり、上杉校長から終戦宣言が放たれる。
上杉「二年生の諸君見事な戦であった!約束通り夏休みの宿題は免除にしよう!」
嘘偽りもない夏休みの宿題免除に、二年生たちは歓声を上げた。
が‥。
上杉「だがしかし、夏休み明けに小テストを実行する。これに赤点を取った者は九月一杯部活動の停止及び、放課後と土曜日の補習を執り行う。」
まさかの後だし展開に、
二年生全員は、"きょとん"からの激しいブーイングと批難の声をあげた。
男子「お、おぉー!話が違うじゃないか!」
女子「そ、そうです!そんなのずるいですよ!」
すると上杉校長から、
うまい話を持ちかけられる。
上杉「なお、夏休みの宿題を半分やると言う条件ならこれに該当しない。」
何とも悪どい後だしに、
多くの生徒は、渋々夏休みの宿題半分の道を歩む他なかった。
酷い言い方にはなるが、上杉校長の掌で踊らされた気分の大戦乱祭であった。
一方戦場では、
あまり目立てなかったエニカが、不貞腐れていた。
エニカ「‥うう~、全く出番がなかったよ~。」
ルイ「さすがに、エニカを向かわせるのは危ない。」
エニカ「わ、私だってあのくらい何ともないですよ!」
ルイ「‥だめ。」
ルイの厳しい制止をする中、
シャルと桜華が駆けつけた。
シャル「安心するのだエニカよ。余もギールのせいで全く目立てなかったのだ。」
桜華「わ、私も‥桃馬を解放しただけなので、そこまで目立ってないですよ?」
どうやら、桃馬を解放したのは桜華のようであった。
エニカ「うう、でも、ここで良いところを見せないと、またみんなに過保護にされちゃうよ~。」
桜華「そ、そこを気にしちゃうんだ‥。」
シャル「うむうむ、何となく気持ちは分かるのだ。」
こうして、
直人を含む負傷者は医務所へ運ばれ、"土佐の変"から始まった大戦乱は、"四ツ巴の戦い"から"鬼仏の変"と、波乱万丈な展開をもたらし、大戦乱祭は幕を閉じたのだった。
後に一年生と三年生の試合が始まるのだが、
長いので割愛し、結果だけをお届けします。
一年生の部では、
異例の一時三十分で決着と言う事件が起きた。
勝者は、エルゼと犬神、加茂がいる一年一組であった。
勝因は、何となく察しはつくと思うが、
シャルとエルゼ、加茂の三人に良いところを見せようとした犬神が、たった一匹で各軍の部隊を蹴散らし、勝利に導いたのだった。
三年生の部では、本田忠成VS連合軍と言う、超異例な一対三学年と言う展開となり、勝者はまさかの本田忠成の一人勝ちであった。
愛槍一振りで、十人以上薙ぎ払い。
怒濤の勢いで、迫り来る相手を屠ったのであった。
かくして三日間行われた大戦乱祭は、またしても波乱万丈をもたらし風のように過ぎていった。
次なるイベントは二週間後の納涼祭。
各学年の生徒たちは、早くも視線を変わるのであった。