第百九十七話 夏の大戦乱祭編(27) 鬼仏降臨
もはや残った三軍に、
軍としての機能は無かった。
微食会は二十人
士道部は十八人(ジェルド、シャルを除く)
六組に至っては二人である。
その頃‥、
船着き場では恐れていた変化が起きていた。
薩摩良盛ら三人の逃亡者が補導されたことを知った直人は、心の底に閉じ込めた復讐の怒りが漏れでていた。
おぞましい妖気と殺気、
怒りを強引に抑え込んでいた分、
ダムが決壊するように危険な状態になっていた。
直人「‥‥良盛の‥首‥。」
リール「っ、な、直人!?お願いだから落ち着いて!わ、私はこの通り大丈夫だから‥ね?」
エルン「ま、まずい‥このままでは‥わ、私たちでもどうにもならないぞ!?」
桜華「はわわ!?ど、どど、どうしましょう!?」
エルン「‥こ、こんな時に稲荷さんが来てくれれば‥。」
以前学園に侵入して来たように、エルンは稲荷を求めた。すると、エルンの目の前にお札が突然現れる。
エルン「っ、な、なんだこれは‥。ん?お札と‥メモか。」
内容
やっほぉ~♪稲荷お姉さんだぞ~♪
エルンちゃんたちがお困りみたいだから、
これを送るね~♪
本当はそっちに行きたいんだけど、弟のリヴァルの監視がきつくて行けそうにないの~。
ごめんねシクシク‥。
あ、そうそう話が逸れたけど、
直人が暴走しそうなら、このお札を貼りなさい♪直ぐに落ち着くと思うから~♪でも、それより一番効果的なのはエルンちゃんが、エッチな体で直人の精気をたくさん搾り取ってくれれば良いんだけどね~♪
と言うわけだから、頑張ってね♪
エルン「はぁ‥稲荷さんは相変わらずですね。」
エルンがため息をついていると、察知したリールが話しかけてきた。
リール「どうしたのエルン?何か持ってるけど、稲荷さんからの贈り物?」
エルン「まあな、これを貼れば直人の暴走が収まるみたいだ。」
リール「へぇ~♪さすが稲荷さんだね♪早速貼っちゃおうよ♪」
エルン「うむ、そうしよう。」
エルンは翼を広げ直人の元へ飛び立つと、
稲荷の手紙に書いていた通りお札を貼った。
しかし、良くなるどころか妖気が飛躍的に跳ね上がり悪化したのだった。
直人の体からは青白い妖気が漏れ始めた。
すると、頑丈な拘束具を吹き飛ばし、
禍々しい妖気を放つ。
エルン「くっ、こ、これで収まるのではなかったのか!?」
リール「ふぇ!?な、なんで!?」
桜華「うぅ、ひ、ひどく悪化してますよ!?」
その頃、様子を見ていた稲荷も想定外の出来事に、お茶を吹き出した。
稲荷「けほけほ、ふぇ!?ど、どうして!?」
リヴァル「ね、姉さん何してるのですか!?」
直人の体に青白い妖気が纏い始めると、
二本の鬼の角に、狐耳と三本の狐尾を生やした妖怪の姿へと変わった。
修羅モード化した直人の様子を、
千信川の対面で監視をしていた粟島浦雅は、
急いで晴斗にこの事を伝えた。
晴斗に取って一番厄介なことが起きた。
直人はゆっくりと地に降りると、
閉じた目を開ける。
エルン「な、直人‥大丈夫か?」
リール「い、今、落ち着いているかな?」
桜華「‥き、気分はどうでしょうか?」
心配する三人の美女は、恐る恐る直人に問いかけた。すると、思っていたより普通に返してきた。
直人「三人とも‥急に畏まってどうしたんだ?」
エルン「ふぅ、どうやらいつもの直人らしい。」
リール「よかった~、いつもの直人だ~。」
桜華「どうやら姿だけが変わったようですね‥。」
直人「あはは、変な三人だな♪それより、薩摩、長州、岩村はどこだ?」
先程の笑顔から一変、殺伐とした表情へと変わり、刺すような低い声が響く。
エルン「っ!な、直人‥。三人ならもう補導されたんだ。もうこれ以上の深入りはするな!」
リール「そ、そうだよ!ほ、ほら今の私はもう何ともないんだよ?」
桜華「‥。(二人とも凄い‥、私は声がでないよ。)」
さすが直人の嫁である。
二人は重い空気のなか、必死で宥めていた。
直人「‥だとしても‥一発殴らなければ俺の気が収まらない。」
エルン「っ!それはだめだ!今の状態であやつらを殴れば確実に殺してしまう!」
リール「そうだよ!?そんなことしたら学園に居られなくなっちゃうよ!?」
直人「俺の、命より大切な者を傷をつけたんだ‥。万死に値する。」
直人の心のダムも決壊寸前である。
禍々しい妖気が溢れだし、今にも暴走しそうである。
エルン「っ‥直人、頼むから落ち着いてくれ!」
リール「うぅ‥私のためにどうして‥そこまで。」
直人に取って命よりも大切な二人、
その思いは皮肉にも、こんな形で知ることになる。
そして直人は刀を抜くと、体に纏った青白い妖気とは真逆にに、赤黒い殺伐とした妖気が纏っていた。
この後の展開が手に取るように想像ができた。
エルン「っ!だめだ直人!早まるな!」
リール「直人!目を覚まして!」
二人は急いで止めにかかるも時すでに遅し、
直人の心のダムは決壊した。
直人「‥うぅ、うがあぁぁぁっ!!」
怒りが籠ったけたたましい咆哮と共に、赤黒い殺伐とした妖気を纏った刀を振り下ろした。
すると、振り下ろした方向に広範囲の斬撃波が襲い大爆発を起こした。
エルン「な、なんと言う‥威力だ。」
リール「‥こ、これが‥直人の怒り。」
桜華「は、はわわ!?こ、これはまずいですよ!?」
この異変に、各地にいる軍の耳にも届いた。
するとここで、大空から事の次第を見ていた上杉校長が、あることを思い付くとマイクを取った。
上杉「生徒諸君、ここまでの健闘見事である。しかし、生徒諸君も先程の衝撃を感じたと思うが、あれは一人の生徒の暴走が引き起こしたものだ。恐らく今の状態で彼を止めるのは、とても難儀であろう。そのため皆には力を合わせて彼を止めてもらいたいと思う。見事彼を止めれば全員の夏休みの宿題と補習は免除である。そして、特別に各軍のリタイヤ者から五人までを復活させる。皆の健闘を祈るぞ!」
まさかのラスボスが直人と言う展開に、
敗退した魔紅軍と壊滅寸前の六組に取ってはうまい話だが、微食会と士道部の一部では不満の声が上がる。
だが、そんな悠長な事を言っている場合ではなかった。
どのみち放置すれば、全軍共倒れである。
そして、各軍の復活枠は決められた。
魔紅軍
桃馬、桜華、ギール、シャル、孔真
微食会
近藤、渡邉、茂野、本間、藤井
士道部
奏太、海洋、鬼山、六道、葵
六組
二条、三条、ジャンヌ、リト、ベリー
計二十人である。
各軍、軍としての機能が失われた今、近藤の暴走は皮肉にも最後を飾るには相応しいラスボスであった。
残った軍と復活者、
計六十人‥、いや、五十五人は両津直人が暴走する船着き場へと向かった。