第百九十五話 夏の大戦乱祭編(25) 仕置鬼の闇
魔紅軍が敗北し、戦局が大きく変化する最中。
桃馬と直人が、仲良く磔にされている哀れな光景を一人の男が眺めていた。
その男は、春の大戦乱祭の最終話辺りで登場し、
目元のくまと黒髪短髪がトレンドマークで、
臨界制二年三組、粟島浦雅が千信川で釣りをしながら眺めていた。
一応浦雅は、士道部軍の一員である。
浦雅「ふぁ~、それにしてもみんなよくやるな~、宿題なら‥夏休み初日かその前に終わらせればいいのに‥よっと!。」
浦雅は釣り竿を引き上げると、
六組と微食会の大戦で味方に誤爆され、川に投げ出された近藤と渡邉が釣り上げられた。
浦雅「‥なんだ雑魚か。」
粗方間違いではないが、色々な意味で間違えている発言に、うつ伏せ状態の近藤が首を浦雅に向け反論する。
近藤「雑魚じゃないよ‥。人間だよ。」
浦雅「おぉ、まだ生きてたか?活きの良い雑魚だこと。早速〆(しめ)るか。」
浦雅はナイフの様な物を取り出すが、
近藤は冷静に威嚇する。
近藤「‥冗談は良いから、早くそれをしまえ。」
浦雅「‥はぁ~、つまんないな。」
浦雅はつまらなそうに、
言われるがままナイフをしまった。
近藤「それより、こんなところで油売ってて良いのか?」
浦雅「勘違いするな。俺は直人の監視だよ。」
近藤「‥ん?お、おぉ、今回はえらく過激だな‥。」
浦雅が指を差す方向に顔を向けると、
今まで以上の悲惨な光景に、
思わず顔を少しひきつり引いたのだった。
すると、近藤の口から意外な人物の名前が上がる。
近藤「‥ところで、薩摩、長州、岩村が逃げたと聞いてたけど、戻ってきたりとかはしてないのか?」
浦雅「まだないな。それにしても再起を狙うなら今がチャンスだと思うけどな。」
近藤「‥‥そうか。よっと。」
近藤は気絶している渡邉を担ぎ上げ歩きだした。
浦雅「ん?どこ行くんだ?」
近藤「どこって、三人を探し出して血祭り‥じゃなくて、仕置きをな‥。」
物騒なことを言い放つ近藤に、
浦雅は冷静にツッコむ。
浦雅「ここでの殺しは止せよ?」
近藤「も、もちろんだ。悪霊退治や現実と異界のルールは仕分けているからな。まあ‥依頼があれば‥別だが。」
浦雅「‥ふぅ、相変わらずお前たちは、皮肉な生き方をしてるよな。」
近藤「そう言うな‥。悪を葬るのは少し外れた者の役目だからな。」
浦雅「‥完全な悪に染まらないことを祈るよ。」
近藤「そりゃどうも、あとしっかり見張れよ~。」
意味深なことを言い残すと、
近藤はその場を後にした。
浦雅「‥ふぅ~、十人‥あ、今は十二人か‥、近藤の強さはあの中でも中の上だが‥俺としては一番恐ろしい男だ。」
緊張感から解放された浦雅は、
冷や汗をかきながら腰を下ろし釣りを再開する。
浦雅「はぁ~あ、みんな騒ぐから‥やっぱ釣れねえな。」
その頃、逃亡者はと言うと。
とある茂みに身を潜めていた。
薩摩「ちっ、スザクと両津め‥ぜってぇゆるせねぇ。」
長州「‥気持ちはわかるが、今は下手に目立つ分けにはいかない。大人しくしていろ。」
岩村「ど、どうするんだよ!?こ、このままだと‥た、退学処分だよ!?」
薩摩「うるせぇ!今更びびってんな!」
怖じけずく岩村に一喝をいれると、
岩村は激昂し今回の敗因を指摘する。
岩村「も、元あと言えば、薩摩がリールと椿まで捕らえたのが間違いだったんだよ。」
薩摩「っ!なんだと‥貴様。」
痛いところを突いた指摘に、癇に触った薩摩は刀に触れる。
長州「二人ともやめろ!今は仲間割れをしている場合じゃない!」
薩摩「‥ちっ、やっぱりお前は足手まといだ。あの時だって、直ぐに逃げたもんな!」
岩村「足手まといなのは貴様の方だ。そもそも、あの時の失敗は、貴様が足並みを乱してでしゃばったせいだろが?」
醜くも責任の擦り付け合いを始め、更には仲間割れをする二人。まさに悪党だからこそ相応しい滑稽な末路だ。
するのそこへ、危険な男と遭遇する。
岩村「あっ‥っ!?こ、ここ、近藤!?」
薩摩「あぁ?」
長州「っ、な、なんでお前がここに‥。」
三人の目の前には、渡邉を担いだ近藤の姿があった。
近藤「‥っ、おやおや‥これは岩村と六組のお二方。ここで何してるんだ?」
突然、求めていた三人との遭遇。
近藤は一瞬驚くも、
白々しくも何も知らないふりをした。
岩村「っ、な、何って‥さ、探りだ。」
近藤「探りね~、よっと、相手の軍と共同か?」
背負った渡邉を降ろし話を進める。
岩村「そ、それは‥。」
長州「‥これは失礼、実は我らは士道部側の内通者なんですよ。」
岩村「っ!」
さすが長州、見事な臨機応変である。
近藤「へぇ~、士道部の内通者ね。(白々しい男だ‥もう少し言い分でも聞いてやるか。)」
長州「えぇ、少しトラブルはありましたが、先程の知らせの通り連合軍は壊滅しました。」
近藤「えっ?そうなのか?」
長州「っ、知らないのか?」
近藤が知らないのもそのはず、知らせが入った時はちょうど、川に流されていたのだ。
近藤「あ、あぁ。そうか‥、まさか先に脱落とはな。」
先程から敵意を見せない近藤に対して、
色々とこちらに気づいていないと悟った岩村は、危険な質問をする。
岩村「‥な、なあ近藤?」
近藤「ん?なんだ。」
岩村「そ、その‥外の状況はどうなっている?」
近藤「外?うーん、あっ、そうだ。ちょっと耳かせ。」
岩村「う、うん。」
誘われるがまま近寄ると近藤は刀に手をかける。それを見た長州は、急いで岩村に声をかけた。
長州「っ!岩村!今すぐ離れろ!」
岩村「えっ?がはっ!?」
当然の如く岩村は斬り上げられた。
岩村の体は浮き上がり乱雑に倒された。
近藤「さて‥本来は俺の仕事じゃないが‥、人道から外れた外道を目の前にして‥黙って見過ごせないよな。」
先程の敵意のない目から一変、
鬼の様な目付きになる。
薩摩「貴様‥‥。」
長州「くっ、知らないふりをしていたのか。」
近藤「知らないふり?はてさて、俺はただ裏切り者の岩村を仕置きしただけですが?」
再び惚けるこの男。
外道に与える慈悲は無用、
人道腐れば人権無し、
法に裁けぬ者有らば、
斬り棄て御免といざ仕置き、
これが、
微食会十人の裏の顔である。
主に悪霊や異世界の外道などを相手にしているが、時に現実世界で起きた犯罪で、法で裁けぬ外道を容赦なく仕置きすることもしばしば‥。
近藤「さて、話は終わりだ‥。では、岩村を連れていくので、後はご自由に‥。」
岩村の首根っ子を掴むと、
その場を後にしようとする。
しかし、これに二人にとって都合が悪い。
岩村が先生に全て自供すれば退学は確実、
しかも近藤は惚けてる様だが、間違いなく全て察知している。これは屈辱的な挑発である。
そのため短気な薩摩は、これを黙ってはいなかった。近藤の振り向き様、直ぐに刀を抜き斬りかかる。
薩摩「ナメんじゃねぇよ!この雑魚が!」
長州「っ!ばか!やめろ!」
長州の制止を無視して斬りかかると、
一筋の一閃が薩摩を襲う。
薩摩「か、かはっ‥。」
長州「っ!」
薩摩はその場に倒れ込むと、
気絶していたはずの渡邉が立っていた。
長州は言葉を失くし動揺する。
近藤「さすが、蒼喜‥俺が手を出すまでもないか。」
渡邉「悪いな‥つい衝動的に一閃してしまったよ。」
近藤「ふっ、別に構わないさ。さて‥もう一人いるが‥、」
渡邉「もちろん‥仕置き対象だな。」
二人の殺伐とした目は、長州の余裕を書き消し恐怖を植え付けた。
近藤「ふっ、だそうだ長州‥。」
長州「‥っ、もはやこれまでか。」
逃げ場のない状況を察した長州は刀を抜き、抵抗の意思を見せた。
近藤「その意思は見事だ。でも、俺らもそこまで鬼じゃない‥大人しくすれば連行するだけで許してやるよ。」
長州「っ!信じられるか!」
さすがに胡散臭い誘いは通じず、きっぱりと断られた。
渡邉「さすがに、無理があるだろ?」
近藤「うーん、分かりすぎたか。」
外道に相応しい不意打ちは見事に見破られ、
仕方なく近藤は刀を抜いた。
近藤「これも運命かな‥薩摩、長州‥幕末の倒幕派。そして俺の名字の近藤‥倒幕派を倒す新撰組。歴史では俺が負ける流れだが‥今は勝たせてもらうよ。」
長州「ほざくな!なら、歴史通り二人まとめて討ち取ってやる!」
無謀な突撃を行う長州に対して、二人は同時に容赦なく斬り上げた。
長州は軽く跳ね上げられ、勢いよく地に伏した。
近藤「さて、これで俺たちのけじめはついた。後は、先生たちに任せよう。」
渡邉「そうだな‥。後はこっちが勝ってくれれば‥言うことないけどな。」
二人は逃亡者を担ぎ上げ、地獄へと連行したのだった。