第百九十一話 夏の大戦乱祭編(21) 二虎競食
長期戦が予想された六組と微食会の交戦であったが、想定外の事が相次ぎ、あっという間に終局が見え始めていた。
一方で、二方面から攻められている士道部は、
微食会と魔紅軍を同時に本陣へ引き付けることに成功させるが、高田海洋率いる部隊は、身を呈して微食会の藤井尚真、高野槇斗を道ずれに壊滅した。
その結果、
微食会のエニカ率いる部隊が、敗走するスザクを追いかけながら士道部の本陣にたどり着くと、そこには士道部ではなく、まんまと引き付けられた魔紅軍が居るのであった。
憲明「おぉ~と、これはこれは‥。」
リフィル「お、おや~。これは晴斗の策にやられたかもね。」
エニカ「あ、あれ?リフィルちゃん?」
番場「‥ふーん、どうやら擦り付けのようだな。」
お互い想定外の展開に動揺するも、
双方の道はそのまま戦う他なかった。
茂野「ここで戦えば‥晴斗たちの思うつぼになるか。」
番場「だけど、今の士道部はほぼ虫の息だ 。例え俺たちがここを制しても、敵いはしないさ。」
茂野「果たしてそうかな。」
エニカ「えっと、私はどうしたらいいのでしょうか?」
本来は戦うべきではあるが、何かが引っかかる展開に、エニカは意見を求めた。
茂野「取り敢えず攻撃命令を。」
番場「ちょっと、調子が狂いますけどね。」
ルイ「‥ルイは、エニカに従う。」
三人は交戦に賛成であった。
理由はシンプルである。
結局交戦するなら、遅かれ早かれだと思ったからだ。
それに、ルイがいる時点で負ける心配はない。
エニカ「‥リフィルちゃん、不本意だけど‥ここで倒させてもらいます!」
リフィル「‥クスッ、仕方ないね~♪憲明たちもいいかな?」
憲明「ま、まあ後々戦うことになるからな‥。」
ギール「‥わふぅ‥一人危険なのがいる‥。」
小頼「あ、あはは‥ルイちゃんがいるもんね。」
リフィルの目にルイが見えていないのか‥。
ルイの強さを知る者たちは、誰が相手をするのかと"そわそわ"し始める。
エニカ「では、夏休みとやらを謳歌するため全軍突撃です!」
微食会「おぉぉー!」
エニカの号令と共に微食会は、
魔紅軍に向け攻撃を開始する。
リフィル「手加減はしないよ~♪」
リフィルはお得意の弓でエニカを迎撃するも、
易々と矢を弾かれ距離を詰められる。
憲明たちも覚悟を決め迎撃する。
憲明「はぁ、お前らいくぞ!」
ギール「仕方ねぇな!」
京骨「ルシアと一ヶ月‥イチャイチャするため‥ここは勝つ!」
小頼「あはは‥ここが正念場だね。」
数的には有利である魔紅軍。
質的に有利である微食会。
果たしてどちらがこれを制するか。
各幹部の対戦カードはこちら、
エニカVSリフィル
番場VS憲明
茂野VSギール
ルイVS京骨、小頼、他となった。
まず、一つ目の視点。
拳式五式"千手"の使いすぎにより、拳式が使えない番場は、平均的で普通の憲明と対峙した。
番場「うーん、困ったな~。俺の相手が村上くんか。」
憲明「そんな見え透いた演技はいいよ。まあ、来ないのならこっちから行くまでだ!」
憲明は刀を抜いて真っ正面から番場に迫る。
例え拳式が使えなくても、番場にはそれに匹敵するような技を持っている。
そのため憲明が攻撃を仕掛けると、簡単に交わされ腕を掴んで慣性の力を活かして投げ飛ばす。
憲明「うわっ!?ぐはっ!」
まさに無策、
桃馬と一緒にいても所詮はモブ友人。
そう言われても仕方がない戦いであった。
しかし、番場は投げ飛ばした瞬間、妙な感覚を感じた。
それは魔力でもなく妖力でもない。
ただの強者の感覚である。
番場「‥村上くん?何遠慮してるのかな?本気で来てくれないと‥やる気でないんだけど?」
憲明「いってて‥俺はこれでいいんだ‥。異界的"力"に依存する者は、己自身の"力"と言って過信する‥。真の強い者は‥強い力に依存しないことだよ。」
受け身を取るもダメージが入るなか、
憲明は体を起こして戦う姿勢を取る。
番場「あはは‥かなり痛い所を突いてくるな。まあ、直人もいいそうだが‥。それだと負けるよ?」
憲明「‥だろうな。でも‥異界的"力"は切り札にしておくよ。」
番場「なら‥さっさと出させてやろうか!」
力強くその場で正拳突きをすると、
凄まじい衝撃波が憲明を襲った。
憲明「ぐはっ!」
番場「出し惜しみは相手への冒涜とナメプだ。それで負ければただの恥だよ!」
番場の言うことはもっともだ。
もしこれが本当の戦場なら、死を早めるだけの無駄な行為だ。
異界的"力"に依存しない心意気は立派だが、時と場を考えるのもこの大戦乱祭で学ぶ重要な点である。
憲明は意を決して秘技を出そうとする。
番場は絶えず衝撃波を繰り出すなか、
憲明は刀を構えて、大きく縦横に振るった。
憲明「後悔するなよ番場!覇上三日月!」
番場「っ!ぐはっ!」
突然憲明から放たれた斬擊波は、
番場を飲み込みふっと飛ばした。
憲明「ふぅ、悪く思うなよ。」
憲明は刀をしまうと苦戦していそうな、
京骨らのところに向かった。
憲明の勝利である。
そして、ギールと茂野の対決は、
両者の睨み合いから始まっていた。
茂野「どれ‥駄犬の力を見せてもらおうか。」
ギール「今はもう駄犬じゃねぇよ‥。俺はもう駄犬を卒業したんだよ!」
ギールは自慢の俊足で茂野の背後を取る。
しかし、予想の範疇であった茂野は、大鎌の石突きでギールの腹部を突いた。
ギール「ごはっ!?」
茂野「"ワンパ"だな~?相手が消えた時は、大体後ろ説を知らんのか?」
ギール「くっ‥見くびりすぎた‥。」
茂野「さてと、この後もあるんだ。さっさと終わらせようか‥。」
当たり所が悪く、未だに立てないギールに大鎌を向ける狩人。
まどろっこしい長期戦は全くなく、
ここもあっという間に終わりそうな気配である。
茂野「そりゃっ!」
ギール「くっ!はぁはぁ、、ぐはっ!」
間一髪のところで刀で防ぐも、
二擊目がギールを襲う。
茂野「手こずらせるな‥。さすが桃馬の犬だ。」
ギール「はぁはぁ、っ!」
力の差の前に屈するイケメン犬。
茂野はギールの尻尾を掴みトドメ刺そうとすると、ギールの防衛本能が炸裂。ブレイクダンスのように体を動かし回し蹴りを見舞う。
茂野「ぐっ!?」
何とか防ぐも、予想以上の防衛本能の強さに怯む。
ギール「はぁはぁ、尻尾は触らせないぞ。」
茂野「いっつつ、なるほど‥慣れてない男には、容赦なく防衛本能が働くと言うことか。」
ギール「こうなれば俺も本気でいくぞ!わおーん!ぐふっ!?」
茂野「させっかよ!」
無慈悲な茂野は、危険な芽を速攻で潰し、
雑兵処理に向かうのだった。
ギール「わふぅ~。やっぱり‥これを使うと隙が多い‥わふっ‥。」
ギール、ここに敗北する。
未だに本気を出す時は、二、三秒くらい隙が生まれるため、容赦のない相手では絶対に使えない技であった。
そして、問題視されてるルイは、
とにかく無双状態であった。