第百八十九話 夏の大戦乱祭編(19) 攻勢の一手
いざ行かん
夢と希望を
胸に秘め
聳えに立つは
深紅の鬼神
昼休み終了の花火が上がり、
各軍では戦闘に備えた。
その頃、微食会では、
勝敗を分ける大きな動きがあった。
それは、士道部攻撃部隊の進軍中に起きた。
途中まで部隊の全員が気にしていなかった事だが、たまたま微食会幹部のある茂野 天が後ろを向くと、本来本陣にいるはずの二人の赤髪美女が着いてきていた。
茂野「‥ん?なんだ、二人も来たのか‥ってんんっ!?エニカ、ルイ!?」
茂野が慌てて声をあげると、ようやくまわりも二人に気づく。
ちなみに近くにいた者たちは違和感は感じていたが、不思議と感じる言ってはならない空気に圧され黙っていた。
しかし、茂野がツッコンだことにより、
"あ、やっぱり、この二人がここにいるのはおかしかった"のだと思うのだった。
藤井「こらこら、総大将が出てきちゃダメだろ?」
エニカ「そうですけど、せっかくのお祭りなのに見てるだけはつまらないです。それに私をこのまま、飲み物の冒涜をさせて終わらせる気ですか?」
藤井「う~ん、気持ちはわかるけど、この祭りは総大将がやられたら負けなんだよ?」
茂野「そうそう、負けたら夏休みの宿題が大量に出されて‥うぅ、身の毛がよだつ。」
エニカ「ふ~ん、」
二人の必死の説得は何のその、夏休みの宿題の恐ろしさを知らない、お転婆モードのエニカは恐れず先行する。
藤井「あっ、ちょっ、待てって!?」
茂野「マッキー!せいっちゃん!エニカを止めてくれ!?」
先頭を歩く高野と番場は、ため息をついてエニカの前に立つ。
番場「おいエニカ?頼むから下がってくれよ?」
高野「そうそう、さすがにエニカを激戦地に連れていけないよ。」
エニカ「むぅ~、あなたたちも私を過保護にする気なの?」
番場「いや、そういう訳じゃ‥。」
高野「宿題を回避するためだ‥。分かってくれ。」
いつも過保護にしてくる微食会の十人に、
とうとうエニカは不満を漏らす。
エニカ「仲間なら‥私も力になりたいもん。守られっぱなしは‥いや‥。」
俯いて寂しそうに話すと、
さすがの二人は気まずくなり、仕方なく了承し共に歩き出した。
茂野「おや~?何か一緒に歩き出したぞ!?」
藤井「‥はぁ、もう仕方ないな。こうなれば、覚悟を決めるしかないか。」
ルイ「‥二人とも大丈夫‥エニカはルイが守るから。」
茂野「あはは、そうは行かないよ。」
藤井「そうそう、俺たちの大将だからな。みんなで守りながら戦うぞ。」
吹っ切れた茂野と藤井は、
笑みを浮かべながら三人の後に続いた。
微食会の十人にとってエニカは、お転婆ながらも純粋無垢で優しい心を持っていることは良くわかっている。
そのためか友人以上恋人未満の関係になり、エニカを可愛がるようになると、徐々に過保護になっていった。
ちなみに今では、エニカとルイを傷つけることは微食会への宣戦布告を意味し、その危険度は両津直人の暴走を軽く越えるとか。
それからエニカ率いる微食会は、海洋率いる士道部に迫った。
海洋「‥"半兵衛"の予想通り、エニカとルイが来やがったな‥。」
鬼山「まずいな‥。」
六道「‥どうするよ。」
覚悟はしていたが、いざ二人の姿を見ると自然と士気が下がる。
そのため海洋は苦渋の決断に至った。
海洋「‥鬼山‥六道‥。もはや‥これまでだ。」
鬼山「‥海洋‥。」
六道「‥じゃあ、やるのか。」
海洋「‥あぁ、ありったけのバズーカを撃ち込むぞ!」
鬼山&六道「おぉ!!」
海洋より禁断のバズーカ戦法が解禁されると、待っていたかのように同士たちが一斉に構える。
もはや彼らの姿に士道を全くなかった。
しかし、これこそ士道部らしい戦いである。
海洋「全ての責任は俺が取る!一斉に放て!」
海洋の号令により、総勢二十五人からなるバズーカ戦法が微食会を襲う。
藤井「っ!まずい!バズーカだ!伏せろ!」
微食会男子「えっ?ぐはぁぁ!?」
微食会男子「ぎゃあぁぁっ!」
反応に遅れた数名の男子たちは吹き飛ばされ、微食会の足並みは崩された。
流れ弾がエニカに迫ったとき、近くにいた番場は、咄嗟にエニカを押し倒し頭を伏せさせた。
茂野「せいっちゃんナイス!そのままエニカを立たせないで茂みに隠れろ!」
番場「わかった!エニカそのまま‥茂みにいくよ。」
エニカ「で、でも‥。」
番場「大丈夫、エニカの出番は沢山あるから‥ここは専門家に任せよう。」
エニカ「わ、わかった。」
番場とエニカは速やかに茂みに隠れると、
攻撃の隙を伺う。
士道部は弾がある限りバズーカ戦法を継続し、微食会に攻撃の隙を与えないようにする。
だが、一部では無駄な行為であった。
その一人の茂野は半ギレで大鎌を構えていた。
赤黒い不気味なオーラを漂わせ、背後には髑髏が浮き上がった。
茂野「‥てめぇら‥エニカが怪我をしたらどうするんっ‥だぁぁ!」
大鎌を力強く振ると、三日月型の赤黒い斬撃破が士道部を襲った。
地が抉れるほどの斬撃破は、半数近くの士道部を吹き飛ばした。
番場「今だエニカ!号令だ!」
エニカ「う、うん!皆さん今が好機です!全軍突撃ー!」
微食会「おぉぉっ!!」
足止めどころか、更に勢い付かせてしまった海洋は、もはやこれまでと覚悟を決めた。
海洋「もはや‥これまでか‥。鬼山、六道‥あとは頼むぞ。」
鬼山「海洋‥ふっ、なに言っているんだ。」
六道「お前一人じゃ、背中が寂しいだろ?」
士道部男子「そうだ!ここまで来たら最後までお供するぜ!」
士道部男子「てか、さっきの茂野の攻撃で動けるのが十人しかいないし、逃げても意味ないよ。」
士道部男子「十人駆けか。いいね~!やってやろうや!」
海洋「ふっ、ありがたいが、本陣の連携もある。とりあえずそこの二人は後方のスザクと共に本陣に引き付けろ。」
士道部男子「うぐっ、わかった。」
士道部男子「うぅ、だが、もう相手は目の前だ‥。仕方ない。」
海洋「よーし!行くぞ!!」
渋る二人の男子を背にして、海洋率いる八人は、最後の散り花を咲かせに出るのだった。
一方、魔紅軍と対峙する士道部は。
大砲と鉄砲の砲撃音が響くなか、
激しい攻防戦を広げていた。
ギール「くっ!やっぱり配置してるよな。」
ジェルド「だけど相手は少数だ!ここは一気に畳み掛けるぞ!続けえ!」
ギール「あ、おい!待てジェルド!うわっ!?」
激しい砲撃の中を、ジェルド率いるけも耳隊は突撃を実行する。
葵「来たか、砲主と鉄砲隊は下がれ!白兵隊は援護に回るぞ!」
シェリル「紅薔薇隊もいくぞ!」
総勢三十人の内、二十人がジェルドの部隊と交戦する。
ジェルド「相川葵!勝負だ!」
葵「駄犬ジェルドか‥、来るならこい。勝利への礎になってもらうよ。」
ジェルド「っ!俺を駄犬って言って良いのは桃馬だけだ!ぐはっ!?」
葵は、取り乱したジェルドの斬撃を交わすと、刀を抜かず片手だけで後頭部に重い一撃を与えた。
ジェルドはそのまま気絶し捕らえられ、持ち逃げされた。
ギール「あ、あのばか!何してるんだよ。」
憲明「はぁ、土佐の件ではあんなにかっこ良かったのに‥。いつものジェルドに戻ったな。」
京骨「‥駄犬だからな。集中力がないんだろうよ。」
ギール「全く世話が焼けるな‥。」
負けについては予想通りではあったが、まさかの持ち逃げと言う展開に、ギールたち魔紅軍は急いで追撃を開始する。
さすが、剣聖と呼ばれる相川葵、
格下には刀を抜くまでもないらしい。
シェリル「さすが葵だ。刀を抜くまでもないか。」
葵「ジェルドの動きは単純だからな。体術だけで十分だよ。」
シェリル「ふっ、ジェルドが聞いたら泣いてしまうな。」
葵「だろうな。さてと、作戦が終わったら‥こいつをもふり倒すぞ。」
シェリル「あぁ、ジェルドのもふもふは最高だからな♪」
ジェルド「わふぅ~。」
葵は自分より少し体が大きいジェルドをおんぶして後退する中、シェリルは夏毛に変わった"サラサラ"で滑らかなジェルドの尻尾を触るのだった。