第百八十六話 夏の大戦乱祭編(17) 平和ところに火事
昼休み休戦の刻。
上空には休戦を告げる花火が上がり、
各軍は戦闘を一時中断し本陣へと帰陣した。
しかし平和的な時間でも、
当然トラブルは付き物である。
とある軍では昼飯の弁当を、ほとんど一人の女の子に貢いでしまい、身内による兵糧攻めが発生していた。
他にも得たいの知らない液体を口にした二十人弱の男たちが倒れる事件。
高貴な魔王様の胸に顔を埋めた罪として二人の男が磔にされた。
今回はこの三視点をお届けします。
まず一つ目の事件
身内の兵糧攻めに合ったとある軍では‥。
事件の発端は仔犬のように黙々と弁当を食べる赤髪の女の子から始まった。
まだ戦場で部隊が戻ってこない頃である。
ルイ「もぐもぐ‥はぐはぐ。」
女子「きゃ~♪ルイちゃんかわいい~♪」
女子「ほんと仔犬みたい~♪」
男子「まだ弁当はないか?」
男子「まだあるぜ。」
本陣警護の男子と女子たちは、
底無しの大食いにして次期学園の最強の武人、
そして、学園一の癒し系にして全生徒の天敵。
その名もルイ・リーフに、歯止めの効かない餌付けをしていたのだった。
ルイは、目の前に積まれる弁当に手を伸ばし黙々と食べていた。
戦場の様子を見ていたエニカと坪谷がが戻ると、この光景に二人は驚愕した。
エニカ「る、ルイ!?それにみんな何してるのですか!?」
女子「あ、エニカちゃんお帰り♪お弁当食べる?」
エニカ「えっ、う、うん食べるけど‥。そ、その量はどこから。」
坪谷「うわぁ~、これは嫌な予感がする‥。」
まさかに、嫌な予感しか感じない光景に、
餌付けをしている男子と女子たちは淡々と答える。
男子「えっ、どこからって、兵糧からだけど?」
女子「うんうん、沢山あったから持ってきたんだよ♪」
坪谷「う、うん、それはわかるけど‥えっと‥みんなの分は‥。」
男子「‥あっ。」
女子「はうっ!?」
もはや、フォローすらできないくらいのバカっぷりに、餌付けをしていた仲間たちは、重要な何かに気づいた。
そう、戦場に出ている者のことをすっかり忘れ、ルイの食事シーン見たさに、弁当の大半を食わせてしまったのだ。
やはり、ルイの無意識はまわりまでもが影響を及ぼしてしまう。時と場合では、恐ろしい個性である。
正直これでリブル公国が、
食糧難にならなかったことが不思議でならない。
結局十数個の弁当は守られたが、
思いもしないところで、兵糧のピンチを迎える微食会であった。
エニカは、他に何かなかったのかと尋ねると、
何故か、乾燥そうめんが大量に合ったそうだ。
不幸中の幸いとはまさにこのこと、
エニカは早速手分けして乾燥そうめんをかき集め、急いで調理を進めた。
しかし、ここで新たに問題が発生‥、
大量に出来たそうめんに対して、
めんつゆの原液 一リットルボトル一本だけと言う鬼畜仕様であった。
坪谷「‥足りないな。」
エニカ「た、足りないですね。」
二つの寸胴鍋に丸々と入ったそうめんと、
一本だけのめんつゆを前にして、
明らかに、めんつゆが足りていない。
最悪、半分ずつ寸胴に放り込む作戦があるが‥。
絶対に薄い‥。
そんな時、物欲しそうに見つめる。
ルイが顔を出した。
ルイ「‥‥どうしたの?」
エニカ「あ、ルイ?見ての通り調味料が少なくて困ってるんだよ。」
坪谷「これ一本で二つの寸胴に入ってるそうめんを旨く仕上げられないからな。」
二人が困り果てながら話すと、
ルイは口を開いた。
ルイ「他には‥ないの?」
坪谷「‥他にか、うーん、熱中症予防の塩とか‥。最悪醤油でもあればな‥。」
ルイ「‥醤油ならある。」
坪谷「本当かルイ!?」
エニカ「そ、それはどこにあったの!?」
二人が驚くなか、ルイは食べ終わった弁当を持ってきた。
坪谷「‥ん?それは‥昼食の弁当だな。」
エニカ「も、もしかして、食べ残し入れるの!?」
エニカの頭の中では、醤油を使った料理によくある下に溜まる"あれ"を思い付いた。
しかし、実際は違った。
ルイは弁当を開くと、少量だが魚型のたれびんが入っていた。
ルイ「これ‥使えないかな?」
坪谷「おぉ!これは使えるかもな‥。あとは塩で誤魔化せば‥切り抜けられるかも知れないぞ!」
エニカ「と言うことは、食糧難は‥な、何とかなるかも!」
二人は急いでみんなに、醤油が入った魚型の"たれびん"を集めさせ、寸胴鍋に均等良く調味料を入れるのだった。
そうこうしている内に、
戦場に出ていた部隊が続々と戻ってきた。
弁当箱は証拠隠滅のため早急に処分し、
不自然に並んだ寸胴内のそうめんを、生き延びた仲間たちは疑いもなくこれを食し、意外にも塩味が効いて好評であった。
そして二つ目の事件。
魔紅軍と激しい戦闘を広げた六組の志道率いる部隊は、一足遅れ本陣へと帰陣した。
しかし、そこに待っていたのは愕然とする光景であった。
二十人弱だろうか、微食会と対峙していた男子たちが、こぞって倒れており、場は騒然としていた。
志道「な、なにが起きたんだ‥。」
ジャンヌ「ま、まさか、敵襲!?」
アンジェリカ「そ、それにしても、争った形跡がないな‥。」
多くの者が目を丸くしていると、一人の男子が駆け寄ってきた。
男子「志道戻ったか。」
志道「あぁ、一体何があったんだ。」
男子「それが‥‥、微食会がこの陣に紛れ込んだみたいなんだ。」
志道「っ、と言うことは闇討ちか!?」
志道の闇討ち発言に、近くにいる全員が反応する。
ジャンヌ「や、闇討ちだと!?」
アンジェリカ「あ、あちゃ~、とうとうそこまで落ちましたか‥。」
アリシア「ま、まさか‥ユーモアな方々がそんな事するでしょうか‥。」
報告した男子は慌てて誤解を解かせる。
男子「ま、待て、そうじゃない‥いや‥それよりもっとやばいやつだけど‥。」
志道「闇討ち以上にやばいのがあるか?」
ジレン「うーん、微食会で闇討ちかよりやばいやつ‥。それって‥まさか‥飲み物系じゃないよな?」
男子「‥あぁ、飲み物系だ。」
ジレン「っ、‥ふぅ~。」
志道「なっ!?‥うぅ‥頭が‥。」
二人は嫌な思い出を思い出したのか、
ジレンは冷や汗をかき、志道に至っては頭を抱えて膝をつく。
突然膝をつく志道にジャンヌたちは心配して声をかける。
ジャンヌ「ど、どうしたの二人とも!?」
アンジェリカ「何か嫌な記憶でも蘇ったか?」
アリシア「も、もしかして‥微食会の誰かと‥ごくり、"した"記憶が戻ったとか‥。」
一人、"とある女子"によって毒された腐女子が混ざっているが、多くの仲間が声をかける。
"微食会"と"飲み物"
これが出た瞬間、地獄の記憶が蘇る。
六組ではあまり知る者は少ないが、志道やジレンの様に他クラスとの交流がある一部の男子がこれを知る。
興味本意と遊び本意ではやってはいけない行為、
危険な探求‥。
世に知る者は、
スペシャルジュース
汚いミルクティー
魔も嫌うソース
午後の毒物
など、被害者(バカ共)は語る。
そして、志道とジレンが飲んだのは、今までで一番不味いと言われた。
味噌ラーメンのスープ
コーラ
スポーツドリンク
コーヒー
ミルクティー
トドメのオレンジジュース
六品による混ぜ物であった。
聞いただけども吐き気がする組み合わせに、
二人は興味本意で口にした。
そのあとは‥ご想像通りである。
志道「そ、それより‥どうやって‥持ってきたんだ。」
男子「あぁ、それは恐らく、全員が出払った時に侵入して紛れ込ませたか。あるいは、変装して侵入したかのどちらかだな。」
ジレン「うぐ‥お裾分けみたいなことしやがって‥。」
男子「あと、倒れた仲間が持っていた水筒を調べたんだけど、女子が飲めないように男子限定魔法をかけられていた‥。」
志道「あいつら‥変なところで気を使いやがったな‥。」
ジレン「でも‥あれは流石に‥女子たちには飲ませられないだろ。」
志道「‥確かに、それより昼食は何も混ぜられてないよな?」
男子「それは大丈夫だ。さすがに、食べ物まで粗末にする様な奴らじゃないさ。」
三人がひそひそと話すなか、
話の内容が気になるジャンヌとアンジェリカは、声をかけた。
ジャンヌ「志道?さっきからなに話してるの?」
アンジェリカ「私たちにも教えろ~♪」
アンジェリカは大胆にも志道に抱きつくと、志道は慌てふためいた。
志道「ちょっ、アンジェリカ!?こ、この話は駄目だ!聞いたら呪われるぞ!」
アンジェリカ「えぇ~?呪いなら自力で祓えるから大丈夫だよ~♪」
ジャンヌ「呪いか‥、微食会はそんな事もしていたのか?」
脅しをかけてもグイグイ聞きに来る二人に、
志道は茶を濁しまくる。
志道「と、取りあえず‥よくない話だからだめ‥いたたっ!?」
アンジェリカ「ほらほら~♪話さないと肩の関節外れちゃうぞ~♪」
志道「あ、アンジェリカやめっ!いててっ!?お、折れるぅ!?じゃ、ジャンヌ助けてくれ~!?」
ジャンヌ「ふむぅ、答える気になったら助けてやろう。」
志道「うごぉ~!?そ、そんなぁあたったっ!?あ、アリシア~!」
アリシア「ごくり、やっぱり、誰かと"した"のですね~!」
とうとう、アリシアにも見捨てられ、志道は仕方なく‥経緯を話した。
すると、一人を除いて二人は大笑いでバカにした。
アンジェリカ「あはは♪なにそれ~♪」
ジャンヌ「確かに身の毛がよだつ話だが、深刻に考えることか?」
アリシア「なんだ~、"して"ないんだ‥。」
志道「の、飲めばわかるよ‥。」
ジレン「‥うんうん。」
地獄を知らないピュアな美女たちは、楽しそうに語った。
すると、ジャンヌとアンジェリカは、その辺の水筒に手を伸ばし口にすると、二人の顔は真っ青になりその場に倒れた。
志道「ジャンヌ!?アンジェリカ!?」
ジレン「っ!おいおい、限定魔法をかけてるんじゃなかったのか!?」
男子「‥ま、まさか‥この中にかけてないのが‥。」
これがきっかけに、水筒一斉調査が行われ、
ジャンヌとアンジェリカは意識はあるも、戦闘継続困難と判断されリタイヤとなった。
結局微食会の大狙いであったガチムチ部は、持参した常温水とプロテインで潤していたため、作戦はただの嫌がらせと言う形で失敗した。
そして最後の三つ目の事件‥。
千信川を面して磔に合っている二人はと言うと、
二人の目には光はなく、
希望を断たれたように表情をしていた。
まわりにはカラスが飛び交い。
二人をバカにするかのように、くちばしで突っついていた。
カァァー!カァァー!
リール「こらー!カラス~!二人を突っつくな~!」
エルン「‥斬撃破で追い払いたいが‥これでは二人に当たってしまうな。」
桜華「‥か、からすさーん!二人から離れてくださーい!」
下には何とかしてカラスを追い払おうと葛藤する美女がいた。
磔にされた二人の炎上騒ぎに至っては‥
多分消えないだろう。