第百八十二話 夏の大戦乱祭編(13) 急転直下
鷹鳴りて
炎天直下の
もののふの
愛しき少女
救う白狼
土佐率いる影の部隊に、麗羅を人質に取られた孔真は、やむ無く離間を迫られ、魔紅軍に大きな打撃を与えた。
孔真の離間により導かれた土佐清一は、陰陽道に近い技を駆使して襲いかかる魔紅軍の動きを止めた。
その結果、多く仲間が倒れ第三部隊の残った十数人と孔真と麗羅は土佐率いる部隊に囲まれることになった。
ジェルド「はぁはぁ‥。はぁはぁ。」
土佐「おやおや、もう終わりですか?全く先程は卑怯者とか雑魚とか言ってくれましたが、これでは片腹痛いですね?」
膝をつきボロボロのジェルドを見下ろし、余裕を見せる土佐は、鉄扇を掌にパシパシと叩く。
ジェルド「はぁはぁ‥変な術に依存しているくせに‥よく言うな。」
土佐「ふっ負け犬が、これはれっきとしたステータスだ。まあ、無駄話はさておき、さっさと小頼を渡してもらおうか?」
小頼「っ!」
ジェルド「へっ、何寝ぼけてるんだよ。まだ‥終わっちゃいねぇ‥。」
立つだけでもやっとの体力を振り絞り、
剣を構える。
小頼「も、もうやめて!ジェルド!」
継丸「こ、小頼姉さん‥。」
小頼の静止に隣で刀を構える継丸が何かを察した。
ジェルド「小頼‥。」
小頼「わ、私が大人しく‥降れば‥みんなの安全は保証するのね?」
土佐「あぁ、目的さえ果たせれば俺はそれでいい。我が部隊は撤退してやろう。」
約束破りの悪役が吐きそうなセリフに、継丸は待ったをかける。
継丸「小頼姉さんだめです!相手が約束を守るような男ではありません!ここは、血路を開いて桃馬隊と合流しましょう!」
小頼「‥‥そうしたいけど、彼らは容赦なく攻めてくるでしょうね。私が降れば少しでも戦局は変わるわ‥。」
そう言うと小頼は前に歩み出す。
しかし、それをジェルドが防ぐ。
ジェルド「降る必要はない‥。こいつには悪意の気しかない‥。降っても約束は破るだろう‥。」
小頼「っ!ジェルド‥。」
土佐「おやおや~?そう警戒しなくても良いのにな。俺の目的は長岡小頼だけ‥まあ、飽きたら返してやるからよ。大人しくしろ‥。」
この挑発的な発言にジェルドはキレた。
ジェルド「飽きたら‥だと‥。」
もふもふの毛が逆立ち土佐を睨む。
土佐「いいね~、その眼‥恨み辛みが混ざった狂気の眼‥もっと濁らせてよ!」
ジェルド「‥継丸!小頼を頼むよ。」
継丸「は、はい!小頼姉さんこちらへ。」
小頼「う、うん。」
一旦小頼を下げると、ジェルドは隠していた技を出そうとする。
ジェルド「これだけは使いたくなかったが‥お前らみたいな奴には‥打ってつけだ。」
薩摩「ほう?負け犬が何をする気だ?」
長州「ふっ、土佐様‥麗羅を早く回収させてくださいよ~。」
土佐「まあ、待て‥この犬を叩きのめしてからでも遅くはない。最後の足掻きでもさせてやろうじゃないか?」
ここまで悪事を広めておきながら余裕な素振りを見せる三人、大戦乱祭が終わった時には、まわりから白い目で見られることは目に見えている。
恐らく対策があっての余裕であろう。
一方なめられたジェルドは、帝都の変でも使わなかった"リミッター外し"をするのであった。
ジェルドは力強い遠吠えをすると、
眼は青白く光り、白い髪は腰まで伸び、いつもの駄犬の風貌が一変、クールな青年へとレベルアップした。
土佐「それがお前の力か‥。」
岩村「土佐様‥敵の援軍が来てるみたいです。早めに決着を。」
土佐「わかった‥。すぐに済ませる。」
岩村の報を受けると土佐は一気に決めようと、ジェルドの足場に呪術を仕込んだ。
ジェルド「容赦はもうしないぜ!」
しかし、ジェルドはその場で力強く踏み込み、地面に触れずに土佐へ迫る。
勝負有りと思ったのも束の間、
突然ジェルドの動きが止まる。
小頼「‥じぇ、ジェルド?」
残った仲間たちが心配そうにすると、
ジェルドはその場に倒れ込んだ。
どうやら土佐に、鉄扇で腹部を突かれ、
かなりのダメージを負ったようだ。
土佐「はい、終わりっと‥所詮見かけ倒しだな。さて、小頼?最後のチャンスだ‥、大人しく降れ。」
土佐は倒れたジェルドを蹴飛ばすと、何食わぬ顔で小頼に手を差しのべる。
小頼「‥ほ、本当に‥私が降れば大人しく引き下がるの?」
土佐「あぁ~、引いてやるとも‥、それより早くしてくれよ?早くしないと、面倒なのがきちまうからな~?」
小頼「‥わかったわ。」
継丸「こ、小頼姉さん‥だめです、行ってはなりません!」
小頼「‥私が行かなきゃ‥みんながひどい目に遭うわ。」
継丸「降っても同じですよ!」
小頼「‥‥。」
継丸の言う通り十中八九そうであろう。
しかし、この戦局から勝機はもはやない‥。
残された一と二があるならそれに賭ける他なかった。
小頼は継丸の静止を振り切り、土佐へと近寄る。
もはやこれまでと思ったその時だった。
突如土佐率いる部隊目掛けて、砲撃が行われたのだ。
けたたましい砲撃音と着弾後の衝撃波に、
土佐の部隊から悲鳴が響いた。
土佐「な、なんだ?」
薩摩「まさか、もう援軍が来たか!」
長州「ちっ、それなら直ぐに迎撃するまでだ!」
土佐「ふっ、返り討ちにしてやれ。おい、麗羅と小頼はしっかり捕らえろよ。」
薩摩&長州「はっ!」
二人が人質を回収しようとすると、突然目の前にこの世で一番接触してはならない二人の敵が現れた。
その敵は、地獄の閻魔の如く、赤く禍々(まがまが)しく眼を光らせた。その目には慈悲もなく単純に死を感じさせるものであった。
スザク「薩摩‥てめぇ‥俺の椿に‥よくも‥。」
直人「そうだな‥俺も薩摩には借りがある‥長州をしばいたら‥俺にも殴らせろよ。」
薩摩「っ!な、なんで貴様らが‥ごふっ!?」
長州「ぐふぁっ!?」
二人の恨みを込めた鉄拳は、薩摩と長州を千信川までぶっ飛ばした。
岩村「ひいっ!?」
土佐「‥っ、こ、これは‥驚いた。一体どこで気づいたのかな。」
直人「お前への疑惑は最初からあったさ‥。まあ決め手は、そこのバカが盗聴器を付けられてるとも知らずに、べらべらと喋ってくれたお陰だけどな。」
土佐「‥岩村‥貴様‥。」
岩村「っ!は、はったりだ!そ、それに‥俺はお前に盗聴器をつけられる隙はなかったはずだ!」
直人「そりゃそうだろうな‥つけたのは俺じゃない‥ルビア!」
ルビア「クスッ、は~い♪ルビアちゃん登場~♪」
岩村「なっ!?」
土佐の部隊に紛れていたルビアが、正体を明かすと岩村に付けられた盗聴器を回収し直人に駆け寄った。
岩村「っ、この!さ、サキュバス風情が!」
ルビア「あっ~!ひっど~い!差別用語だ~!」
一杯食わされた岩村はひどく悔しがっていた。
この時土佐は、直人とスザクがいることに、
嫌な予感を感じていた。
土佐「‥二人がここにいると言うことは、リールと椿はもう船から奪還したのだな。」
直人&スザク「はっ?船?」
土佐「えっ?」
まさかの反応に土佐は、一瞬戸惑った。
スザク「なるほど‥船に椿がいるのだな!」
直人「くくく、土佐~?お前な~、頭よすぎてぼろが出てるぞ??」
まさかの未救出のまま乗り込んできたと言う展開に、土佐は急いで船に戻り、リールと椿を盾にしようとする。
しかしそこへ、葵、シェリル、エルン率いる士道部が雪崩れ込み船着き場はあっという間に占拠された。
土佐「‥っ!」
直人「三人とも船を探れ!そこにリールと椿がいるぞ!」
直人は惜しげもなく伝えると、
三人は早速船を調べ始めた。
すると、気絶したリールと椿を発見無事奪還に成功した。
一時は相手を、かごの鳥の様に遊んでいたが、気づけば、自らが鳥になり遊ばれ始めている。
すると、倒れていたジェルドが"むくり"と立ち上がり土佐の背後に立つ。
その姿には先程のクールな青年はなく、
餓えた狼のように恐ろしく睨んでいた。
土佐「‥っ、き、きさ‥ごほっ!?」
土佐は術を仕掛ける間もなく、ジェルドの重い一撃が土佐の右頬を捉え、そのまま叩きつけた。
直人「うわぁ~、あれは痛いな~。」
スザク「敵ながら見事な顛末だな。」
直人「ふっ、ちげぇねぇ。それにしてもスザク?お前の椿に対する愛には驚いたよ。まさか、連絡した途端仲間を置いて秒で駆けつけるなんてな。」
スザク「‥当然だ。椿は俺の宝だからな。」
直人「言うね~、その様子だと、二人だけの時は、椿にエロいくの一衣装を着させて奉仕させてるのかな?」
スザク「うぐっ、く、くの一衣装は‥その‥椿が好んで来てるものだ‥それに、奉仕なんてさせてない。」
相変わらず悪魔らしくない反応に、
直人は二人の理想的な純愛に微笑んだ。
直人「ふっ、かっこいい~、でも、今頃仲間たちはあの激戦区に巻き込まれて全滅だろうよ。」
スザク「‥もしそうなら、終わったら謝らないといけないな。」
二人はジェルドに袋叩きされている土佐を見物しながら、会話を楽しんでいた。
その頃、瀕死の魔紅軍第三部隊を包囲していた土佐の部隊は、突然の砲撃に取り乱すも一部の部隊が瀕死の魔紅軍第三部隊に攻撃を仕掛けた。
継丸「っ!く、来るなら来い!」
孔真「くっ‥。」
もはや、これまでかと思ったその時、
綺麗な桜色の髪を靡かせた、
柿崎桜華が現れた。
桜華「散りなさい!」
鞘に桜の花弁が描かれた刀を抜き、迫り来る土佐の部隊をなぎ払う。
同時に、六組の新手を返り討ちにし、騒ぎに駆けつけた魔紅軍第二部隊が、砲撃を止め一気に雪崩れ込んだ。
それから戦況は、大優勢であった土佐の部隊は、予期せぬ事態に大劣勢へと陥った。
その後はギール、京骨率いる魔紅軍第一部隊も到着し、土佐の部隊を完膚なきまで叩きのめしたのであった。