第百八十話 夏の大戦乱祭編(11) 掌の賽
大戦乱祭が開幕してから二時間が経過した頃。
各地では激しい戦闘を繰り広げていた。
そんな中、六組の一部隊と交戦している一組二組連合軍‥名を変えて魔紅軍第二部隊は、シャルのカリスマ溢れる大号令のもと優勢に進攻していた。
桃馬「それにしても、シャルの影響は想像以上だな。」
憲明「そうそう、数で勝る六組から攻めるとか、普通じゃ考えないよな。」
桜華「そうですね。でも、いざ攻めてみれば六組の皆さんは少数でしたし、この人数で攻めて来るのは想定外だったみたいですね。」
リフィル「クスッ♪まさに天才的ですね♪」
この時六組は微食会、渡邉蒼喜、近藤尚弥、本間孝率いる、超危険部隊と大乱戦をしており、魔紅軍に気が回っていなかったのだ。
今現在の戦局的では、六組が劣勢に立たされているところである。
しかし、ここで思いもよらない敵が魔紅軍に迫っていた。
物見の男子生徒が慌てて報告する。
男子生徒「と、桃馬まずい!直人率いる部隊が怒濤の勢いでこっちに向かっているぞ!?」
桃馬「な、なんだと!?」
薩摩の謀略でリール、麗羅、椿の三人が魔紅軍に拐われた報を耳にした両津直人が、千信川を越え怒濤の勢いで桃馬たち第二部隊へと迫って来たのだ。
直人「この腐れ外道がぁぁ!!」
その咆哮は怒りに満ちており、もはや人の物ではなかった。
後続には、相川葵、シェリル、エルン率いる士道部第二部隊がいた。
葵「これで半ギレだからな‥。直人をここまで怒らせるのは本当に天才だな。」
シェリル「あ、あんな姿の直人は、帝都の変以来だ。」
エルン「きっと、後悔もしてるのでしょうね。」
葵「取りあえず、この中で直人を止められるのはエルンさんだけだ。最悪の時は頼むよ。」
エルン「心得ています。」
士道部第二部隊約四十名が、大先行する直人を追った。あのままでは相手を病院送りでは済まない勢いであった。
対して桃馬は、無駄ではあるが鉄砲隊に足止めの指示を出した。
二十人弱の鉄砲隊は、二列に並び先頭の直人に向けて発砲した。だが、修羅モードの直人には当然当たらず、お返しの斬撃波が放たれた。
斬撃破は手前の斜面に命中。
その威力は凄まじく、幸い桃馬たちがいる位置は高低差があるため被害はなかった。
魔紅軍男子「うわぁぁっ!?」
憲明「お、おいおい、まじかよ!?」
桃馬「あ、あの野郎、ち、血迷ったか!当たったら死ぬぞ!?」
リフィル「はわわ!?な、なんでここまでするのですか!?」
桜華「も、もしかして、エルンちゃんかリールちゃんに何かあったとか!?」
桃馬「っ、あり得るな。くそ、そうなると我を忘れてやがるな。」
憲明「そ、それにしても誰だ‥。のっけから危険な真似をした馬鹿は!?」
立った一人の男に翻弄される戦場に、桃馬は一時後退を考えた。
孔真の陰陽道なら直人の暴走も防げるとも思った。
だが、ここで六組の新手が一気に攻勢に出てきた。
桃馬「ちっ、六組の新手か‥。少しは空気読めってのに‥。鉄砲隊狙いを六組!相手が撃つ前に各自で牽制しろ!」
的確な采配の元、律儀に整列する六組鉄砲隊を一斉射撃すると、一気に第三部隊の近くの陣まで後退する。
直人「ちっ‥逃げやがったか。」
葵「おい、直人待てよ!」
直人「‥っ、なんだ。」
葵「よかった、反応するってことは、我を見失ってないな。」
直人「‥すまん‥俺の策が招いた結果なのに、焦りが収まらないんだ。」
葵「まあ落ち着け、この時のための対策は取っている。ルビアを信じろ。」
士道部では万が一のため、ルビア率いる忍の部隊が、囚われた三人の捜索兼別任務に出ていた。
直人「わかった‥。」
葵「さて、この戦場のど真ん中でどう攻めるか。船で少し下流に行けば、中枢の船着き場を叩けるとポイントがある。だが、船着き場は守りは要塞、川の流れも激しい‥。」
直人「安全を見てここから船着き場に出るしかないな、そうなると問題は二手の山道の内どっちに進むかだな。」
葵「それなら六組との戦闘はなるべく避けて、少し急だがこの道をいこう。」
直人たち士道部第二部隊は、六組の無駄な戦闘を避けるため、少し急な山道を進むことにした。
その頃、士道部第三部隊と微食会の交戦にも変化が起きた。
序盤で土佐の呆気ない敗走に続き、
相撲部、猪木、春日の完全リタイヤ。
椿の失踪についての偽情報に踊らされ、スザクの小隊が単独で六組へ出陣。
更に一部の士道部の敗走もあり、
足並みが崩れた第三部隊は風前の灯であった。
海洋「‥もはや、第三部隊はこれまでか。だが‥これでよい。」
藤井「はぁはぁ、なら解釈してやろうか?」
海洋「抜かせ‥、士道なら士道らしく戦って果てるまでだ。」
海洋は大きく四股を踏むと、
その表情は武人の顔であった。
海洋「いざ!再開しようぞ!」
藤井「‥いいだろう。そうとなれば俺も手加減はしねぇよ。」
正直のところ瓢箪に入れていた微食会特製スペシャルドリンクを破壊されてから、勝機は全くなく、空気を読んで藤井も覚悟を決めるのだった。
更にピンチは連鎖し、
巨漢相手に大優勢であった高野に悲劇が起きた。
どうにもならないと察した鬼山と六道が、禁断の秘技"バズーカ戦法"という暴挙に出たのだった。
鬼山「チートにはチートじゃボケぇ!」
六道「軍名通り維出喪喰獲!」
さすがの高野でも、バズーカの前ではなす統べなく苦戦していた。
高野「ちっ、出やがったな。お得意のバズーカ戦法!」
更に相手がいない茂野は容赦なく五組士道部たちを叩き士気を下げていた。
番場と奏太の一騎討ちは更に激化していた。
拳式五式千手を出した番場であったが、計り知れない奏太のタフネスに苦戦していた。
番場「‥もう立つことはないだろ?死ぬぞ?」
奏太「はぁはぁ、痛くないな‥。楓姉さんの‥拳と比べれば‥。」
おそらく立っているだけでも精一杯なのだろう。ふらふらでありながらも根性だけで前に立っていた。
番場「まあ、そりゃそうだな‥。あの人を越えたら真に拳聖だな。」
奏太「‥だがよ‥。俺は‥あの人を越えてぇんだよ。だから‥ここで‥負けるわけには、いかねえんだよ‥!」
ふらふらで倒れそうになったとき、片足を強く踏み込んだ。番場と同じく地の表面が剥がれ浮き上がった。
拳式五式千手の構えである。
今まで使えなかった拳式をここで使おうと言う都合の良い展開である。
どうせこの後、番場の千手と衝突させて、奏太が圧し勝つ展開であるが、ところがどっこい、
いざ、ぶつけてみるとその力の差は歴然、一瞬にして奏太はトドメの一撃をもらったのだった。
苦労人、天才に勝てず‥。
現実的残酷な結末を思い知らされたのだった。
一方、船着き場に集まる外道どもは。
薩摩「あっ、お待ちしてました、すでにお聞きかもしれませんが、捕獲作戦、陽動作戦は成功しています。後は、船で下流へと下り、あ要塞を突破し、長岡小頼を捕らえれば我らの勝利は目の前です。」
?「くくく、よくやった薩摩‥。それで捕まえた三人はどうした?」
長州「はっ、早速船に乗せてます。」
?「人質は価値がある‥。この戦が終われば好きにして良い。」
薩摩「では、私は四風椿を頂きますが良いですか?」
?「構わん、女を奪うのは至高であるからな。」
岩村「申し上げます。只今長州の一隊が連合軍第二部隊と交戦、相手は後退したようです。」
長州「おぉ!動いたか!これは今がチャンスですぞ!」
?「わかった。では、参るとしようか。」
男は鉄扇を手に叩き、少し開いては閉じるを繰り返していた。
何艘の船が一斉に出航する。
これにより、史上最悪の展開が始まるのであった。