第百七十九話 夏の大戦乱祭編(10) 開幕悪鬼
鷹鳴りて
炎天直下の
もののふの
武気咆哮
道行く定め
夏の大戦乱祭開幕に先だって、上杉校長が短歌を読み上げると、そのまま開会宣言が行われる。
上杉「此度も素晴らしき戦乱日和、初戦を努める二年生諸君、皆の一層奮励努力に期待する。それでは、開始!」
上杉校長が、銅鑼を三回叩くと大鵬の背に乗り込み、大空へと飛び出した。
校長の号令により、夏の大戦乱二年生の部が始まった。
各地では、この時を待ちに待った血気盛んな生徒が早速交戦に入った。
戦場に響く閧の声と、震い立たせる雷砲は天にこだまする。
そんな中、最初の大きな動きを見せたのが、
士道部の燕奏太たち率いる第三部隊と、微食会の茂野天、藤井尚真、高野槇斗、番場誠太率いる部隊が交戦した。
奏太「ちっ、一時はこの変更に不満だったが、いきなり微食会幹部四人とはな。」
海洋「だが、相手に取って不足なし!」
海洋が大きく四股を踏むと、
オーガ族の鬼山、オーク族獣種の猪木、
オーク族魔人種の六道、人間の春日大喜
巨漢の男たちも続けて四股を踏み気合いを入れる。
土佐「ふむぅ、まさか序盤から四人とは思いませんでしたね。私が茂野を抑えます。お二方はどうします?」
奏太「ふっ、俺は番場だ。」
海洋「なら、俺は藤井をやる。お前たちは高野を相手してやれ。」
相撲部一同「おっす!!」
奏太「なら、早速行かせてもらうぞ!」
奏太は交戦する戦場を駆け、番場に正面から挑んだ。
奏太「誠太~!!」
番場「ふっ、来たか。」
番場は真っ正面から攻め来る奏太の腕を掴むとぐるりと、宙に回しその場に叩きつけた。
奏太「かはっ!?」
番場「ふぅ‥拳式二式笹川流し。」
合気道の様に相手の力を利用して受け流す技、
拳式二式笹川流しである。
この技は正面から向かってくるバカには打ってつけの技である。
番場「拳式も構えず突っ込んでくるとはな。不意でも突いたつもりか?」
奏太「いってて、やるじゃねえか。さすが、誠太だな。」
番場「新井田祭りでは不覚を取ったが、今回は本気でいくぞ。」
奏太「おぉ!挑むところだ!」
奏太はすぐに飛び起きると拳式を構え、拳聖に挑むのだった。
次の視点‥。
傍から見ては、無謀とも思える体格差。まさに、無策であれば無謀である。
海洋「藤井よ、ここは通さんぞ!」
藤井「ちっ、俺の相手は海洋か‥。」
藤井に取ってパワー重視の海洋とは、少々不利な点がある。
本来藤井の戦闘は策を用いた戦法を得意としている。
今回海洋の対策としては、昼の時に"お裾分け"作戦で倒す予定であったのだが、まさかの序盤に当たると言うトラブルに焦っていた。
普通の攻撃をしてもダメージは入らない。
与えるためには海洋のパワーを上回る必要がある。
だが、藤井には秘密兵器を持っていた。
これを上手く使えば一瞬にして勝てる。
藤井は腰にぶら下げた瓢箪に手を触れる。
更に次の視点‥。
模造とは言え、大鎌片手に待ち受ける茂野に対し、普通の模造刀で挑む土佐の二人は、間合いの取り合いをしていた。
茂野「へ~、土佐が相手か。どのくらいの実力か見せてもらおうか?」
土佐「ふっ、茂野には悪いがここは勝たせてもらうよ。」
茂野「ふっ言ってくれるな、それじゃあ‥いくぜぇ!」
両手で大鎌を掴み構えると、穏やかな表情が一変、修羅とも言える狂気に満ちた表情で斬りかかる。
更に更に次の視点。
高野「おやおや、俺の相手は屈強な四人とは‥、弱いものいじめはよくないと思うけどな~?」
鬼山「よく言うな‥。正直微食会の中でもお前が一番厄介なんだよ。」
高野「そう言うなって~、さすがの巨漢の四人はきついよ~。まだ二人ならギリなんとかなるけど‥。」
六道「嘘つけ!帝都の変では一人で百人は相手にしたと聞いてるぞ!」
高野「それは、相手が"ひょろ"だったからだよ~。」
春日「悪意があるな‥。」
猪木「相変わらず何考えてるか分からないから男だな。」
高野「まあまあ~♪それより、早く始めよう‥。時間が経てば経つほど‥不利になるよ?」
指を奇妙に動かし、
茂野と同様、狂気に満ちた表情で挑発する。
鬼山「ぐっ、ぐぐぐっ!野郎‥。」
六道「っ!いくぞぉぉ!」
猪木「ろ、六道!?」
無策にも挑発に乗った六道は、先行して正面から突撃する。
高野「脳筋だな~、」
高野は、手を強く握り"グイッ"と何かを引っ張った。
すると、六道の動きがピタリと止まる。
六道「ぐっ!?」
鬼山「ちっ、やっぱり糸を張り巡らしていたか。」
高野「あはは、直ぐにかかってくれば、倒せたかもしれないのにな~?さあ、今度は誰が来るんだ?」
余裕な表情を浮かべる高野に、三人の巨漢は苦しくも力の差に圧されるのだった。
双方の幹部たちがぶつかると各軍の生徒たちは、一層激しく交戦する。
砂塵は舞い、武気咆哮が飛び交った。
奏太「拳式一式"天門毘沙"!」
番場「その技は見切っている!拳式四式"阿修羅"!」
毘沙門天が繰り出す槍撃の様な拳と、一点集中型の正拳突き、拳式四式"阿修羅"がぶつかる。
その衝撃波は新井田祭りの一騎討ちを越え、まわりの生徒たちを吹き飛ばした。
奏太「ちっ、やるな‥。」
番場「感想述べてる暇ないよ!」
拳と拳がぶつかる中、番場は回し蹴りを見舞う。
奏太「げはっ!?」
奏太の側頭部を捉えると、そのまま勢いよく地に叩きつけられた。これにより微食会側の士気が上がり更なる攻勢に出る。
その後ピクリとも動かない奏太を見て、番場は素通りし勝利宣言をしようとする。
番場「燕奏太討ちとっ‥がはっ!?」
さすがの四天王。
拳式でもない回し蹴りを食らっただけでは、
体を倒すことは出来ても真に倒せない。
奏太「拳式四式阿修羅!」
番場が迫った瞬間体を起こし、中途半端な拳式"阿修羅"を見舞い吹っ飛ばした。
番場は、攻勢に出た微食会側の生徒と入れ替わるように飛ばされ、一部では攻勢を止め飛ばされた番場を見るや驚愕した。
だが直ぐに、番場の声が響く。
番場「かふっ‥はぁはぁ、止まるな!はぁはぁ、攻勢を続けろ!」
さすが拳聖、ダメージはあるものの中途半端な拳式を食らっても立ち上がり前へと進む。
奏太「‥やっぱり、誠太はすごいよ。まさに、鬼に匹敵する豪敵だな。」
番場「‥スゥ~、はぁ~。」
自分の間合いに着いた番場は息を整えると、
静かに深呼吸をした。
奏太は瞬時に身の危険を感じ構える。
番場は右足を力強く踏み込むと、地の表面が衝撃で跳ね上がり、拳式最強の技を出そうとしていた。
番場「拳式‥五式‥千手!」
奏太「っ!」
番場の背後に神々しい千手観音が写った。
対して奏太は奥義とも言える拳式五式"千手"を使うことはできない。そのため番場が出した瞬間、対処する手立てがなかった。
士道部と微食会が激しくぶつかる中、士道部本陣では事件が起きようとしていた。
リール「うーん、敵が来たら少し抵抗して‥ゴニョゴニョ。」
麗羅「リールちゃん?何してるの?」
リール「ふぇ!?あ、な、何でもないよ~♪さ、さぁ~て♪敵は来ないかな~♪」
何かを隠してるような反応に、てっきり麗羅は両津直人と一緒にいられない不満を言っているのかと思った。
麗羅「リールちゃん、直人さんと一緒にいたいのなら行ってもいいよ?」
リール「ふぇ!?あ、いや、直人とは一緒にはいたいけど、今は麗羅ちゃんといたいな~♪えいっ♪」
麗羅「きゃっ!?り、リールちゃんど、どしたの‥ひゃひっ!?」
リールは誤魔化すかのように、麗羅に飛び付くとひんやりとしたバランスの良い胸を揉みしだいた。
揉み心地の良い麗羅の胸と色っぽい声に、
リールは毒され夢中になって揉みまくった。
そんな様子を見ていた椿が呆れて止めにかかる。
椿「こらリール!今そんなことしてる場合じゃないぞ!自分の任務を忘れるな。」
リール「はぁ~い、わかってるよ♪でも、この時季にひんやりとした体に触ったら‥離れられないよ~♪」
麗羅「ふにゅ~。」
椿「はぁ、お前と言うやつは‥、直人もよくこんなのを嫁にしたな。」
リール「ふっふっ、直人は私の魅力にメロメロだからね~♪」
椿「‥エルンと大違いだな。」
二人が話してる最中でもリールは休まず、
麗羅の体を堪能していた。
麗羅「はぁはぁ、椿さん‥た、助けてください~。」
椿「ふぅ、全く仕方ないな。ほら、いい加減離れんか!」
椿は強引に間に入り引き剥がした。
リール「も~、椿ちゃんはお堅いね~?」
椿「ふ、ふん、時と場を考えろ。」
椿が注意していると、士道部の隊服を着た数名の男子が囲むように駆け寄ってきた。
リール「ん?どうしたのみんな?」
しかし、男たちはリールの問いを無視してジリジリと迫る。不審に感じた椿は、身構え改めて素性を聞く。
椿「っ、お前たち‥どこの部隊だ。」
すると、一人の隊士が前に出る。
?「‥大人しくしてもらえば、手荒なことはしない。」
椿「なるほど‥答えるつもりは無いようだな。」
?「‥捕らえろ。」
得たいの知らない隊士の一言で、まわりの隊士が一斉に襲いかかった。
椿とリールは抵抗し五人ほど返り討ちにするも、鎖で縛られあえなく捕まると、麗羅も簡単に捕らえられた。
リール「うぅ~、ちょっと痛いよ!?」
椿「くっ‥。」
麗羅「な、何をするのですか?!」
?「‥くくく、この戦の勝利のため‥協力してもらうよ‥麗羅ちゃん。」
麗羅「っ、あ、あなた‥もしかして、かはっ!?」
リール「麗羅ちゃん!?かはっ!」
椿「っ!貴様ら‥くはっ!?」
三人の美女に対して容赦のない腹部への一発。
三人はそのまま気絶してしまい。
そのままどこかへと連れていかれた。
士道部男子「さ、薩摩さん、少しやりすぎでは?」
薩摩「あぁ?」
士道部男子「っ!す、すみません。」
士道部に紛れた二年六組薩摩良盛。
一人の士道部生が異議を唱えるも薩摩は圧をかけて黙らせた。
薩摩「くくく、まさか、椿まで捕らえられるとは思わなかったが、これで勝敗の行く末は俺達に傾くだろう。それより‥椿をこうして見るとかわいいな~。」
少し動けば下着が見えそうなくらいのエロい"くノ一衣装"姿の椿に、薩摩は邪な目で見るのであった。
三人の失踪は直ぐに士道部本陣から各部隊へと広まった。しかし、本陣から届いた知らせは、薩摩の息のかかった士道部による偽情報であった。
第三部隊には、六組の仕業と伝え、
第二部隊には、一組二組連合軍の仕業と伝えた。
すると、両津直人、スザクは激昂し、
狂ったように進攻するのであった。