第百七十七話 夏の大戦乱祭編(8) 動く影
微食会と士道部の一部が小競り合いする前の頃。
未だ大きな動きを見せない六組はと言うと、藤原志道を筆頭に静かに軍備を進めていた。
志道「‥うーん、ここで勝てば春の大戦の汚名は返上できるが‥壁は高いな。」
まわりの大敵に頭を抱えていると、
金髪エルフのジャンヌと友人のジレンが意見を述べた。
ジャンヌ「確かに今の六組は数で勝るけど、特化している生徒は少ないですからね。あの新西がリブル公国のエニカ様に手を出さなければ、先方に出して勝機を作れたものの‥。」
ジレン「まあ、だとしても総合的には俺たちが有利だ。慎重に戦えば勝機はあるさ。」
志道「うーん‥例えそうでも、微食会、士道部四天王、連合軍のシャルに対抗出来るかどうか。」
例え勝機があるにせよ、一歩間違えれば敗北を招く危険な現状である。
心配の根が深い志道は、この状況にどう戦うか悩む。
すると、ジレンから切り札を提示される。
ジレン「ふぅ‥安心しろ志道。今回はガチムチ部もついている。少し高い出費だったがプロテインと筋トレ道具の提供を条件に味方についてくれているよ。」
志道「っ、そ、そうなのか!?これなら男子にとって大きな抑止力になる。こうしてはいられない早くみんなを集めて作戦を練らなくては!」
それから志道は、
リト、ニブルの信頼できる皇太子と、
二条実光、三条実時の公家集、
恋人の銀髪ダークエルフのアンジェリカ。
同じく赤髪のアリシア。
最後の切り札、ベリー・レリフソン通称兄貴を召集し、軍事作戦を開くのであった。
その頃、
幹部が軍事作戦で取り込んでいる隙に、六組の一部隊は怪しげな集会をしていた。
そこには、六組の智将長州新丞や"不撓不屈"薩摩良盛など、三十人弱の悪評も聞かない者たちが揃っていた。
長州「さて‥いよいよこの日が来たな。」
薩摩「ふっ、間抜けな新西たちが停学になってくれたお陰で俺たちも動きやすくなったものだ。」
長州「うむ、だが‥、孔真の奴がこんなにも早く戻ってくるとは誤算だったがな。」
薩摩「あぁ、しかも、四天王と微食会まで嗅ぎ回っていたからな。まあ、幸い"あの人"のお陰で、嗅ぎ付けられずに済んだわけだが‥。」
長州「そうだな‥思えば五ヶ月前のあの時、あの人が"まともな人"だったら俺たちはここにはいない。」
薩摩「あはは、あの時は俺も驚いたな。まさか、交換条件で見逃してくれるわ、こちらに協力してくれるわ、至れり尽くせりだからな。」
二人の男が楽しそうに話していると、そこへ以前麗羅の写真を四天王の両津直人と三条晴斗に提供した岩村一郎が現れた。
岩村「二人とも何を話しているのだ?」
薩摩「おぉ、岩村か。」
長州「大した話じゃない。それより、士道部と微食会の動きはどうだ?」
岩村「変わりなしだ。今頃四天王は関係のない新西を疑ってるだろうよ。ほんとに停学なってくれたお陰で事がうまく進むよ。」
長州「よしよし、あとは、どのタイミングで俺の可愛い麗羅を人質にして孔真を操るか。」
薩摩「くくく、操った後‥あいつを麗羅の前でボッコボコに始末するのが楽しみだな。」
新発田孔真と妙高院麗羅と因縁が有りそうなこの二人、実は五ヶ月前の麗羅強姦未遂を働いた容疑者である。そして、岩村一郎もグルであった。
岩村「楽しみも良いがしくじるなよ?もし、しくじれば俺たちは共倒れだからな。」
長州「ふっ、麗羅を俺の物にするためしくじれるかよ。それより、あの人も今更何で"長岡"に目をつけたんだろう?」
薩摩「‥今更も何も、いつもの彼女飽きが始まって新しい彼女を取ろうとしてるんだろ?」
岩村「‥あの人は女癖は悪いからな、しかも飽きたら記憶を消すと言う外道っぷり。」
長州「羨ましい力を持ってるよな~。」
?「俺がなんだって?」
三人が"ある人"について話していると、
後ろからその人が声をかけてきた。
身の毛を立たせた三人は、驚き様ひれ伏した。
岩村「す、すみません!あなた様の動向を考察しておりました。」
長州「‥ご命令とあらば、今すぐにでも動けます。」
薩摩「全ては我らが裏の実権を手中に収めるために‥、ご命令を。」
?「‥うむ、だが、作戦の序盤である麗羅の確保だが、少し厄介なことになった。」
岩村「厄介?何かありましたか?」
?「うむ、リールと奏太が護衛についている。」
この知らせに三人は深刻な表情を作る。
四天王燕奏太、そして四天王両津直人の彼女兼嫁のリールが近くにいることになると、確保には難儀な任務である。
一番厄介なリールに指一本でも傷をつければ、両津直人が黙ってはいない。
おそらく無事ではすまないだろう。
だが、これは裏を返せば鴨がネギを背負っている展開、ここでリールも手中に落とせば、士道部は完全にこちら側に着く可能性がある。
岩村「うーん、それなら‥燕を二人から引き剥がして、瞬時に捕獲する‥。リールと麗羅は強いかもしれないが、未熟なところがある。」
長州「確かに、でもどうやって燕を剥がすのだ?」
?「それなら、俺がやろう。長州と薩摩はその隙に二人を捕らえろ。」
長州&薩摩「はっ!」
暗躍する不適な影は、
その漆黒の闇から光を飲み込もうと動き出すのであった。
土佐率いる部隊と微食会の小競り合いが始まってから二十分後のこと、士道部本陣からの使いの仲介により両軍は手を引いた。
士道部男子「土佐はどこだ!」
土佐「っと、俺はここだ。何があった?」
扇子を手に叩きながら悠長に何処からか現れる。
士道部男子「っ、何があったかじゃないぞ!勝手に無益な戦闘をしやがって、下手に相手を警戒されるだろうが!」
土佐「それはすまない。しかし、これはこちらの士気を上げるための策、ご理解を願いたい。」
土佐は本陣からの使いの言葉を深く受け止め、言い分を放った。
士道部男子「‥だとしても、本陣に報告なしに動くのは控えろ。」
土佐「すまぬ、気を付けるよ。」
使いの男子もこれ以上は強くは言えず、
軽めの注意を言い残し去っていった。
士道部男子「土佐~、これじゃあ不完全燃焼だよ~。本陣の晴斗に許可取ってきてくれよ~。」
土佐「はいはい、そう慌てるな。取りあえず撤退するぞ。」
土佐の号令により、一時暴走した土佐の部隊は大人しく撤退した。
当然本陣に帰還すると、そこには土佐を楽死みに待つ晴斗と直人の姿があった。