第百七十四話 夏の大戦乱祭編(5) 影に潜む者
五ヶ月前のこと。
麗羅は孔真と半年近く離ればなれになることに、ひどくショックを受けていた。そのため士道部にも顔を出さず、雪が降り積もる暗い学園の校門に一人、孔真を待っていた。
するとそこへ、二人の男子学生に襲われる。
麗羅は自転車置き場に連れていかれ服を脱がされ恥辱を受けそうになる。白い雪のような肌に男の手が触れようとすると、孔真がその男の腕を取り返り討ちにした。
孔真「汚い手で俺の麗羅に触らないでくれるか?」
目に怒りを宿した孔真は、二人の生徒にに二度と麗羅に触れないように忠告し追い払ったと。
すると、麗羅は泣きながら孔真に抱きつき、その場は収めたそうだ。
感動的な話に、リールは"うるうる"と涙目になり、そんな話を知らなかった自分を恥じて麗羅に飛び付いた。
リール「うぅ、ごめんね麗羅ちゃん、そんな事があったなんて全然知らなかったよ~。」
麗羅「な、泣かないでリールちゃん!?結果的には無事ですんでるから‥。」
リール「そ、そうはいかないよ!私の麗羅ちゃんにそんなことをした犯人とストーカー野郎を捕まえて締め上げないと気が張れないよ!」
麗羅「あ、ありがとう。でも、リールちゃんも巻き込まれちゃうよ?」
リール「大丈夫だよ♪私にはこう言う時に役立つ沢山の秘密兵器を持ってるからね!」
麗羅「ふえっ、そんなのがあるの?リールちゃんが言うのだから‥ケルベロスみたいな魔獣とか?」
リール「あぁ~、それもいるけど‥あの子は見た目によらず誰にも尻尾振るから使えないんだよね~♪」
自分の愛犬をスパッと戦力外通告をするリールに、麗羅は"ポカン"とした表情を作る。
ここで小話。
リールの実家には、狂暴で滅多なことでは懐かない三首の魔獣、ケルベロスがいます。しかし、そんな危険な魔獣なのですが、リールが小さい頃に仔犬であったケルベロス拾ってきたことにより、リールを親と勘違いし始め、時が経つにつれて性格までも似てしまい、一般ケルベロスより凄く温厚で誰にでも尻尾を振るような番犬以下の魔獣になったそうです。
ケルベロスには三つの首に名前があるのですが、当時のリールは定番の、"ケル"、"ベロ"、"スー"と名付けています。
ちなみに、最近の出来事として近所の魔獣の仔犬に突然吠えられノイローゼになったとか。
麗羅「えぇっと、じゃあ秘密兵器って?」
リール「それはご存知、直人を含めた四天王や微食会や、桃馬たちとか。」
麗羅「それって‥ただ巻き込んでるだけな気がするんだけど。」
まさかの秘密兵器が、巻き込み型の顔馴染みと言う、全く秘密を隠せていないものであった。
麗羅「さ、さすがに‥それだと頼れないよ。」
リール「うぅ、な、なら私が協力するよ!」
麗羅「あ、あはは‥リールちゃんありがとう♪」
二人の契約はここに結ばれた。
話が終わると、リールは直人と晴斗の元へ向かい報告した。
直人「おぉ、どうだった?」
晴斗「反応から見て、手応えはありかな?」
リール「えっと、それは‥何て説明すればいいかな。」
直人「なんだ?普通に話してただけか?」
戻って来たのは良いが、
麗羅の約束もあり、何から話せばいいかわからない。取りあえずそれっぽいことをかいつまんで言うのであった。
リール「こほん、簡単に言うと孔真のお陰で泣いたそうです。」
本来伝えたかったこと。
話によると、五ヶ月前に麗羅ちゃんは卑劣な強姦生徒に襲われたみたいだね。でもそこへ、恋人のピンチを悟った孔真が助けに入って見事救出。相手に"二度と俺の女に触れるな"って忠告して強姦生徒を先生に突き出さずに追い払っただけ見たいだよ。その後は麗羅は嬉し泣きをして孔真にダイブってところかな♪
本来リールはこう伝えたかったが、
明らかに言葉が足りなかった。
直人、晴斗視点だと。
孔真に泣かされたと翻訳され、直人が五ヶ月前に見た光景と一致する。
直人「へ、へぇ~、孔真の奴‥やってくれるな。」
リール「うん!孔真は思い切った事をしてますね♪」
会話は成立しているが、内容と温度差が噛み合っていなかった。
これに晴斗は、引っ掛かり疑問を持った。
晴斗「り、リール、直人?二人の会話が成立してるようでしてないぞ?」
直人&リール「えっ?」
晴斗の指摘に二人が考えているイメージを確認すると、内容はかなりズレていた。
そのためリールは、麗羅との約束もあり詳細には伝えなかったが、取りあえず悩みがあったことを伝えた。
しかし、この結果が夏の大戦乱祭に大きく影響する、一つの要因になるとは知らぬことであった。
直人「うーん、取りあえずリールには悩みは明かしてるようだけど、孔真絡みなのは間違いなさそうだな。幸か不幸か‥、できるなら幸であってほしいが‥。」
晴斗「まあ、リールと奏太も付けてるんだ。そうそう、麗羅ちゃんに手は出せないだろう。」
直人「取りあえず様子見か‥。さて‥どう動いて来るか。くくく‥。」
晴斗「血祭りが楽しみか?」
直人「くくく、外道を狩るのは‥面白いからな。」
晴斗「人道を外れた者に、人権、生権なし‥。だよな。」
直人「おう、外道は残らず正道の名の元に叩き潰す。」
直人は、目を赤く光らせ不適に笑みを浮かべ、完全に裏の顔が漏れでていた。
近藤「また酷く悪い顔をしているな?」
渡邉「今度は何を企んでるのやら‥。」
直人「っ!?」
廊下サイドの窓から微食会の近藤尚弥と渡邉蒼喜が顔を出した。
直人「な、なんだ、尚弥と蒼喜か‥。どうした?食堂から戻るには早いじゃないか?」
近藤「早い?時計見てみろよ。昼休み終了十分前だぞ?」
直人「えっ?ほ、本当だ。」
言われるがまま時計を見ると、気づけば昼休み終了十分前であった。
渡邉「どうやら大戦乱祭に向けて熱が入りすぎてる様だな。」
近藤「張り切ってるね~、これは士道部よりも六組か連合軍を先に相手をした方が良さそうだな。」
直人「うぐっ、偵察なら帰ってくれよ。今は別件で忙しいんだ。」
渡邉「‥それって、"影"のことか?」
晴斗「影?なんだいそれは?」
渡邉「知らないのか?てっきり"影"について悩んでるのかと思ったけど。」
近藤「蒼喜、多分"影"じゃ伝わらないかも。」
渡邉「あっ、そうか‥。こほん、今回も裏で何かが動いてるって話だよ。」
蒼喜の証言に直人と晴斗は大きく反応する。
微食会も不穏な空気を悟っていたようだ。
直人「や、やっぱり暗躍してる奴がいるのか?」
近藤「あぁ、微食会の情報網は意外と強いからな。」
晴斗「それなら何か有力な人物とか特定したのか?」
渡邉「残念だが、人物特定はまだわかってない。」
晴斗「そうか‥。」
直人「相手は余程の慎重派の様だな。」
微食会では"影"、士道部では"寄生虫"と確実に悪の権化が動いているようだ。
もはやどこに潜んでいてもおかしくはない。
近藤と渡邉は、裏切りには注意するよう言い残して教室へと戻った。
晴斗「‥裏切りか。これは士道部にもいるかもね。」
直人「あまり考えたくはないが‥‥、輪を乱すための罠か。それとも、"影"という黒幕に誘導されているか。」
晴斗「‥問題は、それが味方の中に潜んでいるかだね。」
謎が解けそうで深まる中、二人は最悪のパターンである士道部の中に裏切り者がいる可能性を考えるのであった。