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第百七十一話 夏の大戦乱祭編(2) 夏の御前会議

午後十六時。


御前会議和室の間にて各学年クラスの代表が集結した。


会場は相も変わらず悪い意味ではないが、重苦しい空気が漂っていた。



会場は原則、空気感を出すため無駄な私語は厳禁、冷静沈着にしていなければならない。例えるなら、戦国時代や江戸時代の軍議みたいな雰囲気である。


初めて味わう一年生の代表たちは緊張のあまり固くなっていた。それは如何(いか)なる陽キャでも犬神でもこの空気に勝てなかった。



上杉「さて、今年の夏の大戦乱祭じゃが、意見がなければ例年通り学年対抗とするが如何かな?」


二三年生一同「意義なし!」


上杉校長の問いに、二三年生の代表者たちが一斉に声を上げた。

一年生たちは突然のことに驚き圧倒される。


犬神「な、なんなのだ一体‥。」


男子「い、犬神様‥あまり声を出さない方が。」


犬神「う、うむ‥何だか分からぬが、その方が良さそうだ。」


思わず声が漏れる犬神に、同じクラスの代表から私語の注意を(うなが)される。


上杉「一年生は如何かな?同じ学年で大戦乱祭をやるか、それとも上級生と混ざりたいか?」


上杉校長の問いに多くの一年生代表たちは戸惑う中、犬神が意を決して意見を述べた。


犬神「校長よ、それは手を組んでも良いのか?」


上杉「もちろん、戦い方は自由じゃ。しかし、ルールの範囲内に限るがな。」


犬神「ふむっ、そうか。わかったのだ。」


意外にも大人しく意見を述べ、トラブルなく場が収まると二年生の一部は安堵した。


上杉「さて、ルールは例年通り変わらず執り行う。軍については、バラバラの連合隊を作るのもよし、同盟を結ぶのもよし、部隊の編成は皆に任せる。あと、優勝景品についてだが、夏休みの宿題免除と補習免除を考えておる。」



この話に多くの代表者たちが反応した。

夏休みの魔物、"宿題"と"補習"。

青春と楽しい思い出を汚す、忌み嫌われる産物である。

それが免除となるのだ、学生からして見れば喉から手が出るほど欲しい権利である。



シャル「なあギール?夏休みとは何だ?」


ギール「簡単に言えば学生の超大型連休だな。」


シャル「おぉっ!連休とな!では、いつぞやのゴールデンウィークくらい休めるのだな!」


ギール「ふっ、甘いな。一ヶ月近くだ。」


シャル「ぬわっ!?い、一ヶ月とな!?」


ギール「ばっ!?大声出すな!?」


シャルの声にまわりが驚き注目する。


上杉「ん?」


時奈「こらそこ!意見があるなら手をあげよ。」


ギール「あ、あはは、す、すみません。何でもないので続けてください♪」


シャル「んんっ!?」


シャルの口を手で塞ぎ、冷や汗をかきながら謝った。


桃馬「シャルも相変わらずだな。」


憲明「全くだ。」


ぶれないシャルにまわりの代表者は微笑んだ。



上杉「さて、他に意見がなければ、これにて御前会議を閉会する。チーム分けについては来週までに、各クラスで話をまとめ生徒会に報告するように、私からは以上だ。」


時奈「ありがとうございます。それでは各代表の方々、よろしくお願いします。解散!」


生徒会長、新潟時奈の解散合図に各代表は御前会議和室の間を後にした。



桃馬「それにしてもうまい話だよな~。」


桜華「ふぇ?どうしてですか?」


桃馬「だってよ、優勝は夏休みの宿題なしと補習の免除だろ?春みたいに東西戦にすれば多くの生徒が免れるうまい話だ。」


憲明「た、確かに‥。と言うことは‥。」


桜華「た、試されてるとかですか?」


桃馬「どうかな~?まあ上杉校長のことだ、きっと何か考えがある‥。」


三人が上手すぎる話に疑問を持っていると、そこへ三組代表が声をかけてきた。


晴斗「また、良からぬことを考えている不届き者がいるのかもね。」


桃馬「は、晴斗?」


憲明「おぉ、晴斗がそう思うなら間違いないな。」


晴斗「あはは、僕の予想だと今回は代表者の中にはいないと思う。おそらく寄生虫の様に内部にいるんだろうね。」


桃馬「新西の息がかかった奴とか?」


晴斗「うぅん、その逆だよ。息のかかってない野心家だよ。」


桃馬&憲明&桜華「野心家?」


また六組の悪行を臭わせる案件だが、三人には心辺りがなかった。


直人「全く、上杉校長も大戦乱祭を利用して悪生(あくせい)を吊るそうとは‥頭が良いことだな。」


晴斗に続いて従兄弟の直人も歩み寄って来た。


数日前まで犬神の神力により狐化し余命二日と言う危ない橋を渡っていた直人であったが、姉にして嫁の稲荷の"愛"により一命をとりとめたのだった。


詳しい話は直人の耳に入ることはなく、ただ元の姿に戻ったことだけで騒ぎは幕を閉じていた。


直人「そうだ桃馬?孔真が今日来たみたいだな?」


桃馬「あぁ、陰陽師の修行が一ヶ月早く終わったみたいでな。昼休みに窓から顔を出したよ。」


直人「‥そうか。」


直人は少し複雑な顔をしていると、次の話を持ちかけられる。


桃馬「それより、孔真のクラスはどうなるのかな?」


直人「四月のクラス分け通りなら一組になるな。」


桜華「ふぇ!?あ、あの方は一組なのですか!?」


桃馬「あぁ、二年のクラス分けで一組に名前が上がってたからな。」


憲明「明日からまた一組はうるさくなるな~♪」


桃馬「はぁ、この暑さで屋上は嫌だな‥。」


孔真が戻って来るのは嬉しいことだが、それによって各クラスの女子が孔真目当てに集まり、騒がしくなるのは嫌なことである。


早々に対策を練らなければならない。


そんな悠長なことを話していると、直人が桃馬の肩に手を置き囁いた。


直人「取りあえず‥不穏な疑いがある以上‥気を緩めるなよ。今回夏の大戦乱祭で一番怖いのが‥裏切りだからな。」


直人は意味深とも言える台詞を言い残し去ろうとする。


その言葉の意味を理解した桃馬は、直人の腕を掴んだ。


桃馬「まさか‥孔真を疑ってるのか?」


この一言で憲明たちに緊張が走った。


今まで大きな衝突はなく、仲の良かった直人と桃馬。しかし、ここに来て二人の仲に亀裂が入る。


直人「‥だとしたら何だ?」


桃馬「もしそうなら例え直人でも許さんぞ。」


数秒間二人の間で睨み合うと、直人は桃馬の手を振りほどく。


直人「‥ふっ、俺だって友を疑いたくはない。だが、このタイミングが妙に臭くてな。それでも不満があるなら‥相手してやるよ?」


桃馬「‥くっ、やってやろうか?」


二人の関係が険悪になると、晴斗と桜華は急いで間に入った。


晴斗「あぁ~も~、まだ決断は早いよ!?取りあえず調べてからだよ。」


桜華「と、桃馬も少し落ち着いて!?確かに直人さんの話も一理はあります。ここは、片隅に置いておきましょう!」


桃馬「くっ‥わかった。」


直人「‥ふぅ、行くぞ晴斗。」


晴斗「はいはい、今年は荒れそうだな~。」


のっけから不穏に満ちた展開に、春に続いて波乱が予想される夏の大戦乱祭であった。



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