第百七十話 夏の大戦乱祭編(1) 若き陰陽師
鷹鳴りて
炎天直下の
もののふの
愛しき少女
救う白狼
大波乱に満ち混沌とした夏の大戦乱祭。
謀略と野望が入り乱れる胸くそ悪い展開。
その結果‥一人の女子生徒が身を呈する事態となった。
ジェルドと小頼率いる多く生徒が倒れ、残りの十数人の生徒が敵の生徒に囲まれていた。
ジェルド「はぁはぁ‥。はぁはぁ。」
?「おやおや、もう終わりですか?全く先程は卑怯者とか雑魚とか言ってくれましたが、これでは片腹痛いですね?」
ボロボロのジェルドを見下ろし、余裕を見せる男は、鉄扇をパシパシと手で叩いている。
ジェルド「はぁはぁ‥変な術に依存しているくせに‥よく言うな。」
?「ふっ負け犬が、これはれっきとしたステータスだ。まあ、勝負はもう着いた。さっさと小頼を渡してもらおうか?」
小頼「っ!」
ジェルド「へっ、何寝ぼけてるんだよ。まだ‥終わっちゃいねぇよ。」
立つだけでもやっとだと言うのにジェルドは剣を構える。
小頼「も、もうやめて!ジェルド!」
少年「こ、小頼姉さん‥。」
小頼の静止に隣で刀を構える少年が何かを察した。
ジェルド「小頼‥。」
小頼「わ、私が大人しく‥降れば‥みんなの安全は保証するのですね。」
?「あぁ、目的さえ果たせれば俺はそれでいい。我が部隊は撤退してやろう。」
約束破りの悪役が吐きそうなセリフに、少年は待ったをかける。
少年「小頼姉さんだめです!相手が約束を守るような男ではありません!ここは、血路を開いて佐渡隊と合流しましょう!」
小頼「‥‥そうしたいけど、彼らは容赦なく攻めてくるでしょう。私が降れば戦局は変わるわ‥。」
そう言うと小頼は前に歩み出すのであった。
大戦乱祭開催二週間前。
七月二日のこと。
異常とも言える気温の暑さに多くの生徒がのびている頃、とある知らせが入る。
男子「おいみんな!新発田の奴が戻ってくるぞ!」
男子「へぇ~?こんなくそ暑い日に戻ってくるのか?祈祷しも大変だな~。」
男子「祈祷しじゃなくて陰陽師だろ?」
男子「あぁ~、そうそうそれ。」
女子「その話は本当!?」
近くにいた女子は、新発田と言う名を耳にすると、身を乗り出してまで食いついてきた。
勢いに押された男子は一返事で返す。
男子「あ、あぁ‥。」
女子「それはいつなの!?」
女子「もしかして今?」
男子「うぐっ、聞いた話だと明日だそうだ。」
女子の何かに火がつくと話は伝線していき、言い出しっぺの男子に詰めより始めた。
暑い日にも関わらず、女子は男の話題で熱くなるなか、桃馬たちは至って普通の反応をしていた。
桃馬「孔真か~、確か二月くらいに陰陽道の修行に出たっきりだから五ヶ月ぶりか。」
憲明「そうだな、予定の半年より一ヶ月も早い。さすが、孔真だな。」
桃馬「うんうん、二月のテストで学年次席の成績を納めて自主休校、式神の牛車で学園を去る姿はかっこよかったな。」
小頼「あぁ~♪あれは名シーンだったね♪平安時代の人が元の時代に帰る的な感じだったもんね♪」
桃馬&憲明「そうそう!」
三人が懐かしそうに語っていると、話についていけてない桜華がシンプルな質問をする。
桜華「あ、あの、新発田さんって?」
桃馬「あぁごめんごめん、桜華は知らないもんな。」
桃馬は桜華にも分かるように説明をする。
新発田孔真性別は男性。
桃馬、憲明、小頼の幼馴染みである。
実家は小さな神社を生業として、先祖代々の悪鬼悪霊を成敗する陰陽師の末裔である。
桜華「陰陽師って本当にいたんですね。」
桃馬「昔は迷信よりの考えだったけど今の時代は結構主流だよ?」
桜華「ふぇ!?そうなのですか?」
小頼「桜華ちゃん?もしかして平安貴族みたいな人を想像してない?」
桜華「う、うん、陰陽師ならそれが正装かと思うのですが?」
憲明「まあ、孔真は時折着てるけど、大半の陰陽師とかは私服や今時の服装が多いよ?」
桜華「じ、時代ですね。」
桜華の陰陽師のイメージにヒビが入るなか、暑さのせいで話に全くついてこれない犬がいた。
ジェルド「わふぅ~、あつぃ~。」
桃馬「大丈夫かジェルド?」
憲明「こう言う暑い日の獣人族は大変だよな。」
自慢の"もこもこ"も夏になれば皮肉にも邪魔な物である。ジェルドとギールは髪と尻尾だけだが、それでも熱がこもるので熱中症になりやすい。時期的にも冬毛から夏毛に生え変わるのだが、ジェルドは未だ中途半端であった。
そのため、もこサラ状態であった。
小頼「ジェルドもブラシで取ればいいのに~?」
ジェルド「あ、あまりブラシは好きじゃないんだよ。」
小頼「へぇ~♪そんなこと言って本当は感じすぎるからやりたくないとか~?」
ジェルド「う、うっさい//俺は‥自然でいいんだよ。」
多くの獣人はブラシで毛並みの手入れをするのだが、ジェルドに至ってはブラシ嫌いもあって、手入れはまわりと比べてずさんである
ジェルドは赤面しつつ否定するも小頼は更に攻め立てる。
小頼「へぇ~♪、でも本当は抜け毛処理が面倒とか?」
ジェルド「うぐっ、そ、それは‥。」
小頼「この際、私が一気に冬毛を取ってあげようか♪」
小頼はこんなときのために用意した、犬用のブラシを取り出した。
ジェルド「きゃふっ!?」
小頼「さぁさぁ~♪」
ジェルド「はわわ、わふぅ~!」
小頼はジェルドに残った"もふもふ"の毛をブラッシングすると、ジェルドは表情は蕩け始め、その場に倒れ込んだ。
次に小頼は袋を取り出し、もふもふの抜け毛を集め始めた。
小頼「ふんふ~ん♪さてと、このケサランパサランを袋に入れて~っと♪」
桜華「はわわ、こ、これはテレビで見たアルパカさん見たいですね。」
桃馬「ま、まあ、それでもまだ、あんな可哀想な姿にならないからいいだろ?」
憲明「あはは!想像すると面白いな!」
?「おやおや?久々に戻ってみれば、犬の散髪ですか?」
窓の方から男の声が聞こえ、桃馬、憲明、桜華の三人が振り向くとそこには、黒髪短髪で平安貴族風の黒い着物を装い、大きな紙人形に座り宙に浮いている男がいた。
桃馬「ん、あっ、孔真!?」
憲明「あ、あれ?登校は明日じゃないのか?」
孔真「まあ、そうなんだけど、久々だから下調べをな‥ん?」
桜華「あ、(ペコリ)」
孔真と目が合った桜華は、思わず軽く一礼をした。孔真は見ず知らずの美女に驚き桃馬と憲明に聞いた。
孔真「桃馬、憲明?この美女は誰だ?」
桃馬「よくぞ聞いてくれた!この子は柿崎桜華、俺の彼女だ。」
孔真「な、なに!?と、桃馬の彼女だと!?」
孔真は意外な反応を見せ桃馬と桜華を何度も見る。
桃馬「そうなんだよ~。だから、手は出すなよ?」
孔真「い、いや、手は出さないけど‥。まさか、桃馬に彼女か‥。」
もう脈なしと思われた桃馬が、五ヶ月で花開くとは驚きであった。
すると、孔真は辺りを見渡し始める。
憲明はその行動に直ぐに察した。
憲明「‥麗羅ちゃんなら三組だよ。」
孔真「っ//、こほん、そ、そうか‥。」
久々の会話に弾みがつくと、まわりの男子と女子たちが孔真の存在に気づく、すると一斉に駆け出した。
窓際から歓声が響く。
男子「よう新発田~、おかえり~!」
女子「孔真さま~♪」
身を乗り出す勢いに桃馬と憲明は窓から落ちそうになる。
桃馬「ば、ばか!お前ら少しは下がれ!?」
憲明「お、落ちるって!?」
孔真「あはは♪みんな、明日からまたよろしくな。」
そう言い残すと小さな無数の紙人形が孔真を纏い姿を消したのだった。
女子「はぁ~う~♪孔真様素敵~♪」
男子「これは夏の大戦乱祭も盛り上がるぞ♪」
男子「でも、大戦の組み合わせはどうするんだろうな?」
男子「あぁ~、そうだそうだ。おい、桃馬~、今回はどうなるんだ?また東西戦か?」
一部決起づく男子たちは桃馬に質問した。
桃馬「それは今日の放課後の御前会議で決まるからそう焦るな。」
男子「おぉ~!楽しみだな♪」
クラスの男子は血湧き肉踊らせ、徐々にまわりへと飛び火させる。春の大戦乱祭前とまるっきり同じである。
この夏の大戦乱祭は、ようやく一年生も参加できる大規模イベントである。通例では学年対抗戦が主流ではあるが、果たして戦の方針は如何に。