第百六十五話 侵入者は妖艶狐
桃馬たちが元の姿に戻り、異種交流会で加茂様と犬神の歓迎会に浸っている頃。
とある廊下に派手な和服を着た、妖艶けも耳お姉さんが上機嫌に歩いていた。
何人者の生徒とすれ違うも、まるで見えていないかのように通りすぎている。
そのけも耳お姉さんは、
金色の長髪にピンと伸びた狐耳、そして特徴ある九本の狐尾。まさに、絶世の美女である。
稲荷「クスッ、まさか神力にありつけるとは運がよかったわ~♪でも、向こうから仕掛けてきたことだし、少しくらい頂いてもバチは当たらないわよね♪コンコン♪」
そう‥彼女は両津直人の姉にして嫁の両津稲荷である。
直人に取って一番学園に来てほしくない人である。もし、稲荷のことが表沙汰に公開されれば、間違いなくハーレム規定違反により問答無用で異端審問にかけられ死刑になるであろう。例え一筋だとしても稲荷の妖艶エロスの前では死刑は変わらない。
しかも最悪なことに、稲荷がいることは直人には知られていないため、もしばったり出くわせば"ブラコン"モードを爆発させ公衆の面前で抱きつくであろう。
それより、なぜここに稲荷がいるのか。
それは昼休みの頃。
草津妖楼郭にて、稲荷は日課にしている直人たちの観察に勤しんでいた。
そのやり方は愛用の水晶玉に妖気を込め、監視カメラのように扱っていた。
注、これは犯罪です。
稲荷「はぅ~♪今日も弟と妹たちは可愛いね~♪」
今日も変わらぬ様子に蕩けているとすぐに事件は起きた。
直人が突然狐化し、同時に水晶越しから微量の神力が伝わったのだ。
稲荷「あら?えっ?えぇ~っ!?」
稲荷の声は妖楼郭中に響き渡った。
神力が直人に纏ったことで、妖気が弱体し単なるけも耳男子に成り下がっていた。
稲荷「そ、そんな!?わ、私の直人に何てことを‥、でも‥うぅ、かっこよくて可愛い‥うぅん!でも私と直人の愛の加護を穢すとは、例え神でも許せないわ。」
稲荷は急いで直人の元へ向かう支度をした。
するとそこへ、稲荷の声に心配して弟の白髪狐の白備と同じく弟の黒髪烏天狗の昴が駆けつけた。
白備「姉さん!どうしましたか!?」
昴「白備、扉は開くか!?」
白備「いや、閉まってる。この時間は趣味の時間だからな‥。」
昴「仕方ない、扉を壊すぞ!」
白備「よ、よし!昴息を合わせろよ!」
昴「おぉ!ごふっ!」
白備「ぐはっ!」
二人は扉を壊そう試みると、突然開かずの扉が吹き飛んできたのだった。
稲荷「よっと、あら?白備、昴ちょうど良いところに~♪お姉ちゃん少し外に出てくるか扉直しておいてね~♪」
白備「いってて、あっちょっと!?姉さん!?」
弟たちに有無も言わさず、霧のように去って行った。
昴「はぁ‥姉さんには困ったものだな。」
白備「あの様子‥兄さん絡みかな。」
昴「わ、わかるのか!?」
白備「‥兄さん好みのソックス履いてたから‥。」
昴「それ‥いつもだろ?」
白備「そ、そうだったかな?」
昴「白備は顔しか見てないよな。」
白備「‥顔をそらせば何されるかわからないだろ。」
昴「‥確かに。」
二人が話していると、そこへ先の大戦より長男として迎え入れられ、妖楼郭の若旦那になった黒髪鬼神のリヴァルが駆けつけた。
リヴァル「今の声と音はなんだ!?」
白備「っ!ふん‥。」
昴「あ、リヴァ兄。実は姉さんが突然出掛けちゃって。」
リヴァル「ま、またなのか‥うぅ、今度は扉か‥はぁ、頭痛い‥。」
白備「なら、若旦那の座から退けば解放されますよ。」
白備は冷たくあしらい、壊れた扉を片付けようとする。
リヴァル「あ、俺も手伝うよ?」
白備「昴もいるので結構です。頭が痛いのならお休みください若旦那。ほら、昴いくよ!」
昴「えっ、あ、あぁ‥リヴァ兄ごめんね。」
リヴァルは返す言葉もなく二人を見送った。
リヴァル「‥‥やっぱり、認めてくれないか。稲荷姉さんはどうして俺を長男にしたんだろう。」
先の大戦で行き場を失った敵将リヴァルとアイシュは、稲荷の目に留まり両津家の一員として妖楼郭に連れ込まれた。
家族が増えることに白備たちは慣れているため反対はしなかったが、序列の件で白備が猛反対したのだった。
内容は
長男にリヴァル
次女にアイシュ
本来長男の座は直人であった。
白備に取って長男と次男の座は絶対に動かしたくなかったのだ。
白備「ど、どうして兄さんが長男から次男になるんだよ姉さん!?」
稲荷「これは直人も承認済みよ。」
白備「う、うそだ‥兄さんがそんなの認めるわけがない、両津家の当主を‥どうして、て、敵であったお前なんかに。」
稲荷「こら白備!そんなこと言ってはだめよ!リヴァルはちゃんと心を入れ換えてるわ。」
白備「そんなの‥信じられないよ‥裏切ったらどうするんだよ!兄さんが殺されたらどうするんだよ!」
稲荷「っ!」
パチン!
稲荷は白備の頬を平手打ちした。
稲荷「そんなことは私がさせないわ‥。でもね白備‥これには訳があるのよ。」
稲荷は白備の両肩を掴み語りかけるも、白備はそれを振り払う。
白備「‥嫌だ‥そんなの信じない‥俺は認めない。絶対に!俺の兄さんは一人だけだ!」
稲荷「あ、こら白備!?」
昴「姉さん、ここは俺に任せてくれ。」
稲荷「えぇ、お願いね。」
昴は駆け出した白備の後を急いで追った。
騒然とした家族間に、
新米のアイシュと黒髪左目隠し影妖怪、四男の月影、 ピンク髪のツインテールで猫又の次女千夜は同様のあまり声がでなかった。
リヴァル「‥‥稲荷‥やっぱり、俺には無理だ。せめて、俺だけでも直ぐ殺して‥。」
稲荷「‥死ぬことは許さないわ。大丈夫よ、白備は小さい頃から直人を兄のように慕ってたから、弟が増える環境に慣れても、兄が増える環境に慣れてないだけ、それにあの子も勘違いしてるみたいだしね。」
リヴァル「勘違い?」
稲荷「えぇ、直人一人にこの二つの世界を背負わせるには荷が重いからね♪いずれ、直人にも子供ができるし、その子供が大きくなるまで妖怪の世界をあなたに任せたいのよ♪」
リヴァル「‥稲荷。」
稲荷「まあ、だからと言ってリヴァルが全部背負うことはないけどね♪千夜と月影も分かったかしら?」
千夜「なんだ~、結局白備の早とちりか~♪」
月影「僕は‥異論はありません。以前から兄さんも長男が嫌とか不満を言ってましたから。」
アイシュ「まだ、希望は残ってるようね。リヴァル?私もサポートしてあげるから、白備くんと仲良くする努力しなさい。」
リヴァル「‥‥わかった、やってみるよ。」
あれから約一ヶ月が経ち、俺は白備くん以外の人たちとは良い関係を保っている。
まわりのサポートもあるけど、全く進展がない。
こういう時、直人くんならどうするのだろう。
近い内に話でもしたいものだな‥。
苦悩する長男は、白備との関係突破の鍵となる直人との再開を願うのだった。
それから稲荷は、久々に旅気分を満喫しながら春桜学園に向かい、着いたときには十六時を回っていた。
学園から伝わる新鮮な神力。
稲荷は直人に合う前に神力の根元を追った。
すると異種交流会の部室にて、儀式前の犬神と加茂を発見。妖術にて二人の神力をくすね取ることに成功したのだった。
そう、儀式で二人の神様が予想以上に疲れる結果を招いた犯人は稲荷の仕業であった。しかし、これが公に出ることはなく、この謎は自然消滅するのであった。
そして稲荷は、ルンルン気分で神力に冒された愛する弟に、再びお姉ちゃんの加護を施すため武道場へと向かうのであった。