第百六十話 連鎖
桃馬に取って最大級のピンチは、色々痛手を被ったものの女であることは、一組男子の中で封じ込めると言う形で一応は最悪を回避した。
体操着から制服に一早く着替えた桃馬は、二組に駆け込むが、シャルとギールは未だ戻らず。仕方がないので一足先にいつもの屋上へ逃げるように駆け込んだのだった。
桃馬「はぁはぁ‥もう~散々だ!クラスの男子にはバレるし‥ジェルドにはキスされるし、ギールとシャルは戻らねぇし、午後からでも元に戻りてぇよ。」
屋上に着くなり、ぼやきながらいつもの場所へ向かい腰を下ろした。
しかし、女とバレていなくても、桃馬が犬化しクールでかっこよくなったと言う噂は広がっており注目を集めていた。
はぁ、この学園の情報網は危険すぎる。
本当に女であることがバレたらどうなることやら‥。考えるだけで恐ろしい。
一人不安に思っていると、屋上の入り口から勢いよく金髪けも耳男子が入り込んできた。
その金髪けも耳男子は息を切らして慌ててるように見えた。
見覚えのある"もっふもふ"の三本の金色尻尾。
そして触り心地の良さそうな"ピン"っと伸びた狐耳。
間違いなく従兄弟の両津直人であった。
直人「はぁはぁ‥いきなり‥なんでこんな姿に‥。ん?桃馬??」
流石身内だ。
少し目を合わせただけで、けも耳女体姿の桃馬を直ぐに察知し、泣きつくように駆け寄ってきた。
直人「桃馬~!やっぱり噂通りおまえも犬化してたんだな!」
桃馬「あ、あぁ‥ま、まさか直人も‥って言っても、元々か。」
直人「なわけないだろ!?妖気を抑えてるのに生えたんだぞ!?これは妖怪関係なく普通に狐になってるんだよ!?」
妖怪の姿になれば、ほとんど同じ姿になると言うのに何が違うのかよくわからない。一応人間の姿でないことに不満を持っているようだが、それにしても反応がオーバーである。
桃馬「と、取りあえず落ち着けよ?ちなみに、その姿は朝からか?」
直人「いや、数分前に突然だ。しかもリールを筆頭に女子たちがこぞってもふりに来るもんだから、こうして逃げて来た訳だ。桃馬は朝からその姿なのか?」
桃馬「まあな、しかも女になってる。」
直人「えっ?まじで?」
桃馬「っ!?」
しまった!相手が直人だならつい口が滑ってしまった。どうする、今すぐ証拠隠滅を図るか‥それとも誤魔化すか‥。でも、しっかり話せば分かってくれるし‥。
桃馬の脳内に激しい論戦が始まる。
しかし、直人は高らかに笑った。
直人「あはは!おいおい、少し美形になったからって嘘はよせよ~♪全く、桜華ちゃんがいると言うのに、雄の子アピールしてハーレム計画か?なんなら手伝ってやろうか??」
挑発にも思える従兄弟の発言に、助かったを通り越して怒りを覚える桃馬であった。
桃馬「へ、へぇ~、さ、さすが嫁が四人もいると余裕があるな~?この淫獣~?」
直人「ふっ、そうでもならなければ四人を相手にはできないよ‥。」
バチバチの決闘が始まると思いきや、
直人は突然目をそらし深刻な表情で答えた。
確か直人の嫁は、
妖狐(稲荷)、サキュバス(エルン)、高貴な褐色魔族、一般魔族である。
一見天国にも見えるが、冷静に考えれば誤って命を奪われてもおかしくない方々である。
ちなみに直人曰く、妖怪になっていなければとうに死んでいると語っている。
桃馬「な、なんか、すまん‥。」
直人「謝らなくて良いよ‥。俺もすまない‥でも、これで少しは女ってことは誤魔化せるだろう。」
桃馬「‥直人‥全く‥どこで気づいた?」
直人「どこでって、その膨らみを見たらな。」
桃馬「はっ?‥なっ!?」
ここまで全力で走っていたせいでさらしが緩み、桃馬のちょうど良い膨らみが出ていたのだった。
桃馬「な、ななっ//」
直人「まあ、さらしか何か巻いてたと思うけど、女ってバレたくなければ早く隠せよ?あと、これはまたシャルの‥ごふっ!?」
桃馬は恥ずかしさから直人の腹部を殴りフェンスまでふっ飛ばした。
桃馬「は、早く言えよ!このバカ!」
桃馬は急いで人気のないところへ行きさらしを巻き直した。
そうこうしていると桜華たちも屋上へ到着するのだが、少し騒がしい状況に驚いていた。
桜華「な、何かあったのでしょうか?」
小頼「誰か倒れてるみたいだけど、決闘でもしてたのかな?」
憲明「桃馬に言い寄った奴がいたとか‥ん?てかあれ直人か?」
桜華「ふぇ?はわわ!あの金色の三本のもふもふ!ま、間違いありません!」
小頼「ど、どうやら気絶してるみたいね♪これはチャンス!」
一度見たら忘れられないあの姿。
桜華と小頼は"もふもふ"の姿でありながらも、更に上質な"もふもふ"を求めて直人の元へ駆け寄った。
残された憲明は現状分析を始めた。
まさか直人が‥いやいや、ないない‥。
例え桃馬が女だとわかったとして、身内を襲うようなことはしないだろう。恐らく、誤って胸を揉んだか、バレそうになって突き飛ばされたかだな。
良い線は突くも‥はずれていた。
そう分析していると背後から何者かに羽交い締めにされ、人気の少ない裏へと連れ込まれた。
憲明「んはっ!な、なにするんだ桃馬?」
桃馬「わ、悪い‥なんか、目立ち始めたから‥その‥人前に出づらくてな。そ、それより‥俺が女ってことは‥広まっていないよな?」
桃馬はいつからさらしが緩んでいたのか分からず不安になっていた。
もし、制服に着替えてからだと‥多くの人に見られている可能性がある。憲明がここに来るまでどうなっていたのか‥非常に気になっていた。
憲明「と、特には‥そういう話は聞かないけど、どうしたんだ?」
桃馬「‥いつからか分からないんだけど、さらしが緩んで胸が‥その‥膨らんでたみたいで。」
憲明「あぁ~、なるほどな。それで直人にバレてボコしたわけか。」
桃馬「‥うぅ、ま、まあ‥そんなところだ。」
憲明「そう隠すことか?この際ばらしちゃえよ?」
桃馬「そんなことできるわけないだろ!」
憲明「よく考えろって、桃馬が警戒してるのはジェルドとギールだろ?しかも、ジェルドにはもうバレているし、ギールに至っては、もしこの件に関わってるならわかってるはずだ。恐れることはないだろ?」
桃馬「そ、それは‥でも‥小頼と映果にバレたら‥売られる。」
憲明「‥それもあったな。すまん。」
重要な盲点に気づかされた憲明は、その正当性から謝った。
桃馬「と、取りあえず‥ギールとシャルに会わないといけない。放課後にでも直ぐに捕まえないと。」
憲明「うまく行けば良いけどな。で、いつまでここに居る気だ?俺は腹が減ってるのだけど。」
桃馬「あ、あぁ、そうだな。噂になってなければ‥戻ろう。」
警戒心むき出しの桃馬は、辺りを気にしながら定位置に向かった。
すると、直人を捜索していたリールが屋上へ現れ、気絶してもふられている直人を回収した。
桜華と小頼は満足そうに、仲の良い夫婦を見送り、桃馬と憲明と合流したのだった。
両津直人が犬化したことにより、これで異種交流会限定と言う線は消えた。
まだ情報は少ないが、これから突然犬化する件が増えるかもしれない。謎が深まるこの異変を解決するためにも今日中にシャルとギールに会わなければならない。
そう‥桃馬の貞操が散る前に‥。