表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/431

第十六話 サキュバスの事情

愛する桃馬を押し倒すチャンスを棒に振ってしまったギールとジェルドは、幸か不幸か、桃馬からの一方的な寵愛(ちょうあい)を受けた。


その後。


昼休み終了を告げる予鈴が鳴り響くと、桃馬たちは足早に自身の教室へと急いだ。


その中で、シャルの事で頭が一杯になっているギールは、道中ため息をつきながら弟の"ディノ"と共に教室へと向かった。


教室へ戻れば(シャル)がいる。


どうせ午後の授業も"どや顔"しながら目立ち始めるだろう…。


あぁ…。正直想像するだけでも、自慢の尻尾が垂れ下がってしまうものである……。


ディノ「…に、兄さん。少し元気が無い様に見えますけど大丈夫ですか?」


ギール「っ、あ、あぁ……。ちょっと、シャルの事を考えてたら不安になってきてな……。」


ディノ「っ。あぅ、ご、ごめんなさい。私がもっとしっかりしていれば……。」


ギールの心配事に責任感を感じたディノは、教室へ向かう足を止めるなり、悲しい表情を浮かべ始めた。


ギール「…いや、ディノが謝る事はないよ。そもそも悪いのは、しっかりシャルと向き合おうとしない俺が悪いんだからさ。」


ディノ「そ、そうなのですか?で、でもそれなら…、どうしてシャル様と向き合いたくないのですか?」


ギール「…ふぅ、そうだな。どの道隠していても時期にバレるだろうし……、この際ディノには話しておくか……。実は俺には……。」



"キーンコーン、カーンコーン"


これも神の悪戯だろうか。


肝心な所で授業開始前の予鈴が鳴り響いた。


ギール「……はぁ、この話はまた今度だな。」


ディノ「そ、その様ですね。」


ギール「ふぅ……。さてと、急ぐぞ、ディノ!」


ディノ「ふぇっ、うわっ!?」


ギールに首根っこを掴まれたディノは、そのままギールに引っ張られながら教室へと戻るのであった。



午後から始まる二年二組の授業は、生物学と魔法学の二科目である。


中でも六限目の魔法学に関しては、ギールが最も心配している科目であった。


魔王のシャルに取って学園の魔法学は、恐らく鼻で笑ってしまうくらいのレベルであろう…。


そのため、授業中に豊富な知識を語り始めたり、何かしらの拍子で膨大な魔力が戻ってしまうのではないかと、ギールは不安であった。


しかしシャルは、ギールの過度な心配とは裏腹に、挑発的な"どや顔"を除いては、大人しく授業を受けていた。



その後。無事に午後の授業を乗り越えたギールは、早速"シャルとディノ"を呼び出すなり、学園を案内しながら異種交流会の部室へと向かうのであった。




一方その頃。


二年一組の授業を終えた桃馬と桜華の二人は、一足先に異種交流会の部室へと向かっていた。


桜華「ふふっ♪今日も充実した学園生活が送れました♪やはり学園とは楽しい所ですね♪」


桃馬「あははっ、それは良かった。正直、女子会に連れ込まれた時は心配したけど、難なく打ち解けられた様で安心したよ。」


桜華「"これぞ学園生活"って感じがして、とても楽しかったですよ♪」


桃馬「そ、そうか……。(ふぅ……。少しだけクラスの女子たちに襲われるんじゃないかと思ったけど……、無事でよかった。)」


登校二日目にして、学園生活を満喫している桜華に対して、女子同士のコミニュケーションに不安を感じていた桃馬は、そっと胸を撫で下ろす様な安堵に浸っていた。


桜華「ねぇねぇ、桃馬♪今日の部活は何をするのかな?かな?」


桃馬「っ、そ、そうだな。今日はギルドの申請でもするんじゃないかな?」


桜華「おぉ~♪ぎるど~♪ん?ギルドって?」


桃馬「あぁ。ギルドって言うのは、異世界で冒険者活動するために必要な組織だよ。」


桜華「それは、時奈先輩や部活のみんなも入っているの?」


桃馬「もちろん、みんな入っているよ。でもまあ、冒険者と言っても俺たちが引き受ける依頼は、比較的に安全なものばかりだけどね。」


桜華「そ、その依頼って、昨日の探索よりも面白いのですか?」


桃馬「うーん。それは内容による‥かな。」


異種交流会が主に引き受ける依頼は、冒険者らしい危険な魔物討伐ではなく、比較的に安全な採取系や探索系の依頼である。


そのため、楽しいかどうかと聞かれても、自信を持って肯定できる様なものでは無かった。




するとしばらくして、他愛のない話をしている二人の前に、異種交流会の部長にして生徒会長でもある。新潟(あらがた)時奈(ときな)と遭遇した。


桃馬「あ、お疲れ様です新潟先輩。」


桜華「お疲れ様です♪」


当然二人は、時奈に対して視線を向けて挨拶をするが、一方の時奈は、仲良さそうにしている二人を見るなり、一瞬驚いた様子を見せながら、申し訳なさそうに視線を逸らした。


時奈「っ、す、すまない……。」


桃馬「ど、どうしたのですか?」


何か後ろめたい事でもあるのだろうか。


少し心配しつ桃馬が声をかけると、時奈は体を"もじもじ"とさせながら答えた。


時奈「あっ、い、いや。別に気にしなくても良いんだ。た、ただ私が、勝手に仮初(かりそめ)の笑みを浮かべている桃馬が、油断している桜華を騙して多目的教室に連れ込み…、あれやこれやと校則違反をするのではないかと……、か、勘違いしてしまっただけだからな。」


桃馬「……はい?」


想像を超えた時奈の心外発言に、いつもなら即座にツッコミを入れる桃馬であるが、あまりにもレベルの高い敷居にどうツッコめば良いのか分からなかった。


そのため、話の趣旨(しゅし)を理解していない桜華は、ポカンとした表情を浮かべていた。


桃馬「こ、こほん。と、取り敢えず時奈先輩?いきなり不純に満ちた妄想を語るのはやめてください。現在進行形で欲求不満なのは分かりましたから…。」


もはや重症レベルに近い時奈の妄想に、桃馬は無駄と分かっていながらも注意を促した。


時奈「っ。おい桃馬……、女子の目の前で欲求不満と言うのは良くないぞ?」


一瞬だけ反省のを色を見せた時奈であったが、すぐに素の表情を浮かべながら注意を返した。


これに対して桃馬は、時奈のペースに乗せられない様に冷静な反撃返しを実行する。


桃馬「いやいや、言わせたのは時奈先輩のせいですからね?」


時奈「…ふむぅ。今日の桃馬はつれないな?」


桃馬「つれないも何も…、せめて桜華の前では、悪ふざた冗談を言うのはやめてくださいよ。」


時奈「いやいや、悪ふざけではないぞ桃馬?今のは相手のペースにまんまと乗せられない様にするための訓練……っと言いたいところだが……、おかしいな~、男子はこう言った展開が好きだっと、"愛読している本"には書いてあったのだが……。」


桃馬「一体どんな本を読んでいるのですか…。」


時奈「ま、まあまあ、そんな軽蔑した表情をするな。現に異世界の活動においても、"小さな心の隙が命取り"になり得るからかな。」


桃馬「…それで抜き打ちトレーニングって訳ですか?まさかだとは思いますけど、俺以外にも試す気ですか?」


時奈「うーん、そうだな。次は憲明にでも試してみるとしようか。」


桃馬「…多分、俺と同じ反応をすると思いますよ?」


時奈「そうか?…ふむぅ。そうなると、私が参考にしていた本は…、"所詮参考程度の紙切れ"であったか。」


桃馬の冷静な返答に少し落胆した時奈は、カバンから"愛読していると言う本"を取り出すなり、中二臭いセリフと共に近くのゴミ箱へと放り込んだ。


もはや茶番に近いやり取りに、そろそろ切り抜けたい桃馬は、強引に話を変えようと試みる。


桃馬「ふぅ、それで先輩?今日の部活は何をするのですか?」


時奈「ん?あぁ、それなら今日は、桜華たちのギルド申請でもしようかと思っているぞ。」


やはり予想通り、今日の部活動は、桜華を含むシャルとディノのギルド申請がメインになりそうであった。



するとここで、時奈の高レベルな悪ふざけに着いて来れずに、ただただ口を閉じていた桜華が、ようやく話に入れそうなタイミングを見計らった末、ギルド申請について問い掛ける。


桜華「あ、あの~。ギルドへの申請って難しいのですか?」


時奈「ははっ、安心しろ桜華。別に申請については難しいものではない。ただ、水晶に手を当てて能力値を計るだけだからな。」


桜華「えっ、そ、それだけで良いのですか?」


特に難しそうな試験も無く、想像以上に簡単そうな申請方法に思わず桜華は疑ってしまった。


時奈「あぁ、基本的にギルドの入会に関しては、簡単な適性検査を受けるだけで誰でも入れるんだけど、例外として、帝都や王都といった大国 御用達(ごようたし)を得ている"上級ギルド"は別だな。」



桃馬「あぁ~、確かにそうですね。現に厳しい適性検査を通しても、試験官との実技試験に合格しないとダメですからね。」


桜華「え、えっと。よ、要するに、その"上級ギルド"とは、基本的に強い方が在籍している所なのですね?」


桃馬「ん~、まあ、簡単に言えばそうなるかな。とは言っても、そんな"上級ギルドは"、ルクステリアの街には無いんだけどね。」


桜華「ふぇ?そ、そうなのですか?」


時奈「ふふっ、基本的に"上級ギルド"は、大国の中心部にあるからな。」


桜華「な、なるほど…。やはり"上級ギルド"って、かなり敷居が高い所なのですね。」


桃馬「あはは。そう心配しなくても大丈夫だよ。敷居の高い"上級ギルド"様と違って、異種交流会が所属しているギルドは、超気軽な"特殊ギルド"だからさ。」


桜華「そ、それはそれで心配なのですが…。」


時奈「ふふっ。まあ行ってみれば分かる話だ。それじゃあ、今日の部活も張り切って行こうではないか♪」


一時は、終わりの見えない"時奈イベント"が始まる所ではあったが、何とか話を逸らせた事で、三人の足取りは異種交流会の部室へと向けられるのであった。




時奈による無駄な足止めがあったものの、何とか異種交流会の部室前まで到着した。


すると桃馬は、異種交流会の扉に手を掛け、いつも通り扉を開けると、そこには驚愕な光景が広がっていた。


桃馬たちの前には、椅子に縛られ"完全拘束"された"湯沢京骨"の姿があった。


桜華「ふぇ!?と、とと、桃馬!?な、何ですかあれは!?」


桃馬「はぁ、何をしているんだ……あいつは…。」


ただ椅子に縛られているだけならまだしも、目の前にいる京骨は、"目隠し"に続いて、"ギャグボール"までも噛まされていた。


何とも淫靡で衝撃的な光景に、何ら耐性の無い桜華は、思わず桃馬の袖を握った。


一方の桃馬と時奈は、目の前の光景を一目見るなり、瞬時に何が起きたのかを理解していた。


そう、これは京骨の彼女であるルシアの仕業である。


"サキュバス"であるルシアは、たまに学園内で欲求不満になると、京骨をこの様に縛り上げては、変態プレイをしながら妖気を搾取する事がある。


しかし、春桜学園には厳しい校則があり、基本的に"学園内での不純陰性行為は原則禁止"とされている。



そのため、一部の"サキュバス族"に取っては、少し死活問題な話ではあるが、"ドレインタッチ"などによる比較的に性的観点が薄い採取方法なら認められている。


それでも我慢できない場合は、今の京骨の様に椅子などに縛り付けて、互いの上半身を密着させながら直接的に採取する方法もある。


……とは言っても、正直"バレなきゃ違反じゃないんですよ…"的な風潮になっているのが現状である。




とは言っても、目の前の光景を見せられては、もはや如何わしい店である。


サキュバスたちも大変だけど、その彼氏の方はもっと大変である。


何故なら、少しでも気を抜いてサキュバスである彼女に身を委ねた場合。


そのまま吸い殺されてしまう可能性があるのである……。


特に京骨の場合は、この春桜学園の中でも、一番吸い殺されそうになっている男である。


桃馬「うわぁ、今日もまた激しいプレイをした様だな。目隠しを取ったら、白目を向いてなきゃ良いけど…。」


見慣れた京骨の姿に、少々引きつつも助けに行く桃馬。


机の上に並べられた特殊な"おもちゃ"を無視して、椅子に縛られた京骨に近寄ると、すぐに目隠しを外した。


京骨「っ!?んんっ!んん~!。」


何かを訴え様としている京骨の仕草に、桃馬は椅子の拘束よりも、先にギャグボールを外してから話を聞く事にした。


桃馬「思ったより元気がいいな?ほら、ギャグボールを外してやるからちょっと我慢しろ。」


予想以上に元気そうな京骨に対して、桃馬は警戒心もなくギャグボールを外すと、すぐに京骨から身の危険を知らせる様な言葉が投げ掛けられる。


京骨「と、桃馬!?逃げろ!?」


桃馬「へっ?」


桜華「桃馬!上、上!」


京骨の言葉の意味が分からず、桜華の言葉に従って上を見ると、そこには、ルシアと二人のサキュバスが目を赤く光らせながら見下ろしていた。


桃馬「げっ、四組のルビアとエルン!?」


ルシア「桃馬~♪私の鬱憤晴らしに水を差さないで貰えるかしら??」


桃馬「あ、あはは、そ、それはすまない……。」


ルシアに睨まれた桃馬は、再びギャグボールを京骨に噛ませるなり、ついでに目隠しまで付け直すという気遣いを見せた。


そして桃馬は、何事もなかったかの様にその場を去ろうとするが、目を赤く光らせた二人のサキュバスが、突然背後から抱き付いて来た。


ルビア「ちょっと~、可愛い美女が目の前に居るのに、何もしないで帰るの~??」


オレンジ髪の短髪サキュバスの"ルビア"が、桃馬の耳元で囁いて来た。


※ルビアの性格は、とにかくお転婆で遊ぶ事が大好きな女の子である。


しかし不思議な事に、際どい服装や人前で裸を見せつける事に全く恥じらいは無く、如何にもサキュバスらしい一面があるのだが、実は生粋の生娘(きむすめ)である。


達者過ぎる口上を始め、軽めの密着や胸を揉まれる程度なら何とも思わないが、一般的な性行為に関しては恐怖心を抱いており、サキュバスとしての肝心な本能が欠落している少女である。



エルン「はぁはぁ、す、すまない桃馬。これもサキュバスの衝動を抑えるためだ……、頼む、少し手伝ってくれ……、このままだと…、あ、"あいつ"を……。」


金髪で長髪サキュバスのエルンは、桃馬の耳元ではなく、右腕にしがみつきながら豊満な胸を押し当て、恥ずかしそうな表情を浮かべながら懇願した。


※エルンは、サキュバスの中でもかなり珍しい、真面目で恥じらいのあるクールで優しいサキュバスである。更に所属している部活は、士道部と言う、居合(いあい)太刀(たち)薙刀(なぎなた)槍術(そうじゅつ)など、武芸を磨く武闘派の部活に所属している。


しかし、いくら真面目なサキュバスであっても、欲情の本能から完全に逆らう事はできない。そのため、我慢を積み重ねた結果、最終的に暴走してしまう、武骨系ムッツリスケベ美女である。


ちなみに、エルンも生娘であり、自らの貞操は現在進行形で好いている男子に捧げると心に決めているのだが、根が真面目過ぎるが故に、未だに告白すらできていない。


エルンの好きな男子の正体は、士道部に入っている同級生はもちろんのこと、二年四組を中心に知られている。


そのため多くの生徒たちが、エルンが好いている男子に対して、"早く付き合ってしまえ"と苛立ちを見せるほどである。



ここで小話。

ルビアとエルンの事情でお気づきかと思いますが、春桜学園に通うサキュバス族の生徒たちは、七割近く色々な事情から"生娘"である生徒たちが多くいます。


これに関しては、魔界でも社会問題になっており、その原因の一つとして、日本から流通した同人誌を主力としたエロ本を始め、卑猥な"アイテム"が出回った事により、一人でサキュバスの衝動を抑えられる便利さから、若いサキュバスの間で性行為に対する意欲が削がれている事が上げられています。



そして話は戻し。


桜華が見ている中で、生娘である二人のサキュバスに捕まった桃馬は、必死に振り解こうとする。


桃馬「こ、こら離せって!?この前までこんなサキュバス染みた事はしなかっただろ!?」


ルビア「だ、だって~、少し前の桃馬は凄く暗かったじゃ~ん?そんな桃馬と遊んでも楽しくないでしょ?」


桃馬「で、できれば、今の俺とは遊ばないで欲しいんだけどな~。」


エルン「わ、私は、その……、桃馬にしか頼めないから、仕方なくだ。」


桃馬「っ、今更だけど何で俺じゃないとダメなんだよ?」


エルン「ふぇ!?あ、いや、それは…その……。」


ここで再び小話。


仲良さそうにしている三人の関係ですが、恋人と言う恋愛感情は一切なく、ちょっとした訳ありな友人関係として接しています。


現にルビアは、入学当初から他人を"からかう"事が大好きで、エッチな事が出来ない癖に、散々男子たちに誘惑しては、告白を断ったりして、多くの男心を弄んでいました。


特に桃馬は、からかうには打って付けの相手であり、胸を押し付けたり、誘惑したりと、可もなく不可もない実験に付き合わせています。


当然この様な事をして入れば、一部の男子から反感を買ってしまい、一度だけ逆襲にあった事もありました。


それは二学期、始業式の放課後の時。


ルビアは、一人の男子からいつも通り告白を受け、人気(ひとけ)の無い教室に呼び出されました。


しかしそこには、ルビアにフラれた十数人もの男子生徒たちが待っており、ルビアは危険を察して逃げ様としますが、あえなく捕まってしまい、そのまま復讐に燃える男子生徒たちに貞操を奪われそうになりました。


多勢に無勢の中、ルビアは諦めて身を委ね様とした時、たまたま通り掛かった"二人の男子生徒"によって、無事に助け出されるのでした。



この時ルビアは、助け出してくれた一人の男子生徒に心を引かれ、生まれて初めて貞操を捧げたい程の恋心を抱くのであった。




一方のエルンは、クールで優等生としての風格があり、最初の頃は、サキュバスとしての証である淫紋を始め、角、翼、尻尾までも隠していました。


しかし、相手を惑わすサキュバスとしてのフェロモンを完全に隠す事ができず、そのため、ゾンビの様に言い寄って来る男子たちを(ことごと)く冷たい言葉で一刀両断にしていました。


そんなエルンでも、ある日突然、好きな相手が出来たと言う噂が流れてから、クールな一面を見せつつも、時々デレたりと、隠していた尻尾と翼も出す様になりました。


ちなみに、この日から全く接点の無かった桃馬と絡む様になり、一時はエルンの好きな相手は、桃馬では無いかと噂になりました。


そのため、当時彼女を求めていた桃馬は、大きな希望を胸に秘めながら、意を決してエルンの心境を聞いて見る事にしました。


しかし、エルンからの返答は、予想だにもしないものであった。


エルン「っ、す、すまない。下手な誤解を与えてしまったな…。え、えっと。今更こんな事を言うのは、おこがましいとは思うんだけど…、じ、実は私…、心に決めた好きな人が居るんだ…。」


桃馬「…ふぇ?」


エルン「ほ、本当にすまない。だ、だけど…、わ、私の好きな人を性的に襲わないためにも、どうかこうして、時々でもいいから"身体接触"をさせてはくれないだろうか!?」


と、言われました。


これに対して、複雑な心境に駆られてしまった桃馬は、敢えてエルンの恋愛事情は触れずに、訳ありの友人として接する事を決めました。


しかしその実態は、エルンの柔らかな"おっぱい"を合法的に堪能できると言う利点が大きかったは、口が裂けても言えない事である…。



そして今に至り、ルビアとエルンは、久しぶりに元気になった桃馬を"あくまでも"友人として、サキュバスの衝動を抑えてもらおうとしているのです。



桃馬「と、取り敢えず、今更二人に構っている暇は無いんだ。今の俺には桜華が居るからな?」


ルビア「えぇ~、いいじゃ~ん、どうせ私たちは、スキンシップの一環でこうしているんだからさ~。」


桃馬「お、おいルビア!?桜華の前でそんな誤解を招く様な事を言うなよ!?」


今の桃馬に取ってルビアは、かなりの地雷である。


楽しそうにイチャイチャしている桃馬の姿に、ただただ見せつけられている桜華は、徐々に表情を曇らせながら不吉なオーラを漂わせ始める。


桃馬「っ、お、桜華…、い、いや、桜華様!?こ、これは違うんだ!?これは二人の本能と言うか、俺は桜華にしか興味ないからな!?」


ルビア「ふ~ん、本当は好きなくせに~!ほらほら~♪」


ルビアは挑発する様に、豊満な胸を擦り上げながら追い討ちをかける。


桃馬「あぁ、好きだ!あ、いや、ルビアのバカ!?エッチ恐怖症の分際で何好き放題してるんだよ!?」


完全にルビアに乗せられた桃馬は、慌てて弁解しようと、まず始めにルビアの主張をねじ曲げ様とした。


しかし桜華は、(うつむ)きながら"じりじり"と歩み寄って来る。まさに、"きっと来る"様な感じである。


一方、唯一止めてくれそうな時奈は、クスクスと笑いながら傍観していた。


桃馬(うぅ、時奈先輩め~、他人事だと思ってからに…、はっ、ま、まさかこれって、少し前に時奈先輩が話していた…、"心の隙が命取り"って、まさかこう言う事なのか!?)


たまたまとは言え、悪ふざけかと思って聞いていた時奈の言葉が、走馬灯の様に思い出してきた。


ルビアのペースに流された事で、危機的状況に陥っている桃馬は、ようやく時奈の言葉の意味を理解した。


しかし、時既に遅し。


下に向けた目線に桜華の両足が映ると、桃馬は恐る恐る顔を上げ始めた。


桃馬「お、桜華……ひっ!?」



目の前にいる桜華の瞳には、光などの輝かしい光沢は無く、ただただ禍々(まがまが)しい漆黒に染まった瞳が、仲良さそうにしている三人を睨んでいた。


桜華「二人とも…、私の桃馬から離れてください。」


桃馬に付着した二人のサキュバスを剥がすため、桜華は背中を刺す様な低い声で話し掛けた。


すると、身の危険を感じたルビアは素早く桃馬から離れると、同時にエルンも慌てて謝りながら離れた。


桜華「ありがとう、二人とも♪」


恐怖のあまり大人しく桃馬から離れてくれた二人にお礼を言うと、桜華はそのまま少し怯えている桃馬に抱きつき始めた。


この時の桃馬は、桜華の嫉妬を感じた。


例え愛されている証であったとしても、一瞬でも感じた命の危機は、それはそれは恐ろしいものであった。


そのため桃馬は、少しでも恐怖心を誤魔化すために、少し我に返ったエルンに声を掛ける。


桃馬「そ、そう言えばエルン?そろそろ、士道部に行かなくてもいいかな?」


桜華「むっ……。」


エルン「えっ、あ、いや、そ、それは……。」


少し桜華の締め付けが強くなった気がしたが、エルンの動揺した様子にルシアが呆れて話に割って入る。


ルシア「もう~、相変わらず桃馬も鈍感ね~?このまま欲求が解消されていない状態でエルンを士道部に送ったら、トリガーが外れて好きな人を襲っちゃうでしょ?」


エルン「ル、ルシア様!?」


桃馬「好きな人?へぇ~、エルンの好きな人って士道部に居たのか?」


ルシア「っ、い、今まで知らなかったの!?二学年の中でも、かなり有名な話なんだけど……。」


桃馬「そ、そうなのか!?」


ルシア「はぁ、全く……。これだから鈍感属性は…、もういっその事、エルンには覚悟を決めてもらって、サキュバスらしく押し倒してもらおうかしら……。」


エルン「~っ///わ、私、用事を思い出しました!失礼しました~!!」


あまりにも恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めたエルンは、足早に異種交流会の部室から飛び出した。


するとここで幕引きと感じた時奈は、手慣れた感じでルシアとルビアに声を掛ける。


時奈「はいはい、サキュバスの趣味はここまでだ。さあ、ルシアとルビア?早速片付けてもらおうか?」


ルシア「むぅ、はーい。」


ルビア「わ、私はチア部に行かないと~♪」


ルシア「待ちなさいルビア♪」


どさくさに紛れて抜け出そうとするルビアに対して、ルシアは笑みを浮かべながらルビアの肩を強く掴んだ。


ルビア「あ、あはは、そうですよね~。わかりました…。」


ルシアの圧に観念したルビアは、渋々後片付けに合意。


これにより、京骨と部室は無事に解放されるのであった。




その後、恋人に散々 (もてあそ)ばれた京骨は、とある"ジャーナリスト"に対して、こう語っている。


"ルシアが喜ぶなら俺は何でも受け入れる。むしろ俺は、もっと強い刺激が欲しいくらいだ。あぁ~、俺の愛するルシアよ。もっと俺に鞭をくれ!"っと、清々(すがすが)しく語ったと言う…。


京骨「語ってねぇよ!?」


桃馬「あいたっ!?」


口ずさみながら悪意のある"ホラ話"を書いている桃馬に対して、大きなハリセンを用いて制裁を加えた京骨は、顔を真っ赤に染めながら続けて一喝する。


京骨「はぁはぁ。な、ななっ、何しれっと、とんでもねぇ話を書いているんだよ!?」


桃馬「いってて…。と、とんでもなくないよ?現に京骨が縛られていた時、如何にも満更でもなさそうに見えたからさ……。」


京骨「…へぇ~、言うじゃねぇか、それなら……。」


桃馬の言い分にイラついた京骨は、桃馬が使っていた紙とペンを取り上げるなり、負けじと"ホラ話"を書き始めた。


"本性出したか佐渡桃馬!彼女が出来て早々、二日目で浮気発覚!何とお相手は二人のサキュバス美女!モテない仮面の裏では、計画的な淫獣か!?"


桃馬「……やってくれるじゃねぇか。」


京骨「…ふっ、まあ、現実的だろ?」


桃馬と京骨の間で醜い争いが始まる一方で、二人が書いた"ホラ話"の内容が気になる時奈は、隙を見てこっそり拝借した。


すると同時に、同じく気になっていたルシアと桜華も、二人が書いた"ホラ話"に惹かれる様に覗き始める…。


時奈「ふむぅ。これはちょっと、女子向けではないな。」


ルシア「むしろ、社会的に炎上物ね。」


桜華「うぅ。嘘だと知らないで見てしまったら、どうかしてしまいそうです。」


時奈「うむ、そうだな。この様な低俗な記事は真っ先に処分するとしよう。」


あまりにも低評価な感想に、時奈は手早く嘘記事をシュレッダーにかけた。


桃馬&京骨「あぁっ!?」


時奈「はいはい、そんな醜い争いをしている暇があるのなら、少しは部活を始める支度をしたらどうだ?」


桃馬&京骨「うぐぅ…、は、はい…。」


こうして桃馬と京骨による醜い茶番劇は、時奈の仲裁により幕を閉じた。


しかしこの後、更なる騒ぎの種が撒かれる事になるとは、まだ誰も知らない事であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ