第百五十九話 駄犬の大願成就
俺の名前は佐渡桃馬。
今は訳あってけも耳と尻尾を生やした女である。
そして俺は今、人生で最大のピンチを迎えている。
そう‥今日は四限体育の日である。
まわりの男子たちは教室で着替え終わり、さっさとグラウンドに行けばいいのに‥今日に限って注目している。
このまま服を脱げば、女であることがバレてしまう。
しかもジェルドもいる‥。
もしバレたら確実に公開プレイが始まる。
あのままずっと寝ていればよかったのに、意外にも一限の途中で来るとは‥奴の本能は危険すぎる。
ジェルド「どうした桃馬~?早く着替えろよ?」
桃馬「わ、わかっている!だ、だけど‥その‥。」
くそぉ、見透かしたかのように話しかけて来やがって腹立つわ~。だが‥早く着替えないとこの犬にバレてしまう。どうすればいいんだ。
葛藤する桃馬に見かねたジェルドが、ズボンを脱がしにかかった。
桃馬「なっ、なにするんだ!?」
ジェルド「どうせ尻尾を気にしてるんだろ?俺が手伝ってやるよ。」
桃馬「ば、ばかやめろ!?そ、そのくらい一人でできるから!?うわっ!?」
ジェルド「よーし、てこずらせやがって、体操着に着替えろよ?」
桃馬「あ、あぁ‥。」
どうやら下半身は男性物のトランクスで誤魔化せたようだ。しかし桃馬は体操着のズボンを履くとジェルドがまた要らんことを尋ねた。
ジェルド「桃馬の脚ってそんなに細かったっけ?」
桃馬「っ、き、気のせいだろ?あ、ほら犬化したせいだよ。」
ジェルド「そうかな?うーん、憲明は変化ないのにな。」
この変態犬、俺の体を隅々まで見ているのか‥。
怖すぎる‥。
あ、あとは‥問題の上半身だな‥。
どうやって誤魔化そうか‥。
憲明「‥うーん、なんか今日の桃馬‥女に見えるな?」
桃馬「っ!」
親友から切り出された禁断の一言。
図星の桃馬は犬特有の反応、耳と尻尾が直立する。
桃馬「な、なな、何言ってるんだよ!?」
憲明「そ、その反応‥えっ、ま、まさか‥そうなのか?」
ジェルド「わ、わふっ!?ほ、本当か!?」
まさかの疑惑に男子たちがざわつく、改めて桃馬を見ると姉御風の女の子に見える。朝から疑惑に感じていた男たちはこれで確信をついた。
男子「と、桃馬、お、お前‥女なのか?」
追い詰められた桃馬は、諦めて黙ってうなずいた。
すると、男子たちは一気に盛り上がった。
男子「す、すげぇ!桃馬って女体化するとこんなに美人なんだな!」
男子「かっこいい姉御風だな!今ならお前を抱けるぞ!」
桃馬「う、うぐっ、ふ、ふざけるな!か、体は女でも心は男だ!」
しかし、この発言は地雷であった。
男子たちは更に燃え上がる。
男子「おぉ!待ってました!姉御属性!」
男子「や、やべぇ、舎弟になりてぇ!」
桃馬「お、お前ら‥頼むからまわりには言うなよ。」
男子「えぇ~、どうしようかな?」
男子「ククク、取りあえず上の制服を脱いでもらおうか。」
やはりそう来たか‥。
たぶん俺も逆の立場ならそうするだろうが‥、これは恥ずかしすぎる。
桃馬「ふ、ふざけるなよ。このスケベ共め!」
男子「おぉ~?じゃあ、小頼か映果‥あ、知られてないなら桜華にも言おうかな?。」
桃馬「くっ‥卑怯な。あと、桜華は知ってるよ。」
男子「なんだ、つまらないな‥。」
ジェルド「お前らいい加減にしろ。この話はこの辺で止めておけ。」
桃馬のピンチに、ジェルドが待ったをかけた。
桃馬からしてみればこれも予想通りで、恩を売り付け後で二人きりになろうとするであろう。
そのため桃馬は警戒を緩めないように構えていた。
男子「おっ、やっぱりジェルドが待ったをかけたか。」
男子「ご主人様がピンチだもんな~。でも、恩を売ってもいつも通り返り討ちに合うぞ??」
ジェルド「ふん、恩じゃねぇよ。」
女体化した桃馬に近寄るジェルド。
多くの男子は生唾を飲んだ。
そのまま押し倒すか‥接吻か‥。
ジェルドがやりかねない行動を予想する。
しかし、ジェルドは背を向け桃馬の盾のように仁王立ちした。
ジェルド「お前らに一つ言っておく、もし桃馬のことを口外したら‥俺が許さねぇよ。」
珍しく狼の様な形相で警告すると、男子たちは圧倒され、口外しないことを約束した。その表情はすごくかっこいいのだが‥残念なことに桃馬が見ることはできなかった。
ジェルド「ほら、お前ら桃馬が着替えるから早くいくぞ。」
男子「はぁ、へいへい。わかったよ。」
憲明「珍しく駄犬から忠犬になったな?」
ジェルド「うっせ!それより桃馬も早く来いよ。」
桃馬「あ、あぁ‥。」
ジェルドは男子全員を教室から摘まみだし、グラウンドへと向かった。
一人だけになった桃馬は急いで体操着に着替えた。
まさか‥あのジェルドが助けてくれるとは思わなかった‥。
ジェルドがあんな風に庇ってくれるのは‥新鮮だな。
桃馬は少しジェルドを見直して教室を出る‥‥。
しかし、駄犬は所詮駄犬‥。決して気を許してはならない。許せば必ず襲われる。
そして今、最大級の屈辱を味わうことになる。
桃馬は階段で待ち構えていたジェルドに腕を取られ、突然接吻を受けたのだった。
白髪イケメン犬と黒髪姉御犬。
運良く誰もいない空間‥。二人の口がゆっくり離れる。いつもの桃馬なら殴り倒すところだが、今の桃馬は女になってるせいか、赤面して取り乱している。
桃馬「な、なにするんだ‥。ば、ばか犬‥。」
ジェルド「こんな可愛い犬を見て‥なにもしないと思ったか?」
桃馬「う、うるせぇ‥駄犬のくせに生意気な。」
ジェルド「ふっ、これからその駄犬に可愛がられるんだよ。」
桃馬「っ!」
ジェルドに囁かれた桃馬は毛を逆立ち震える。
これ以上弱みを見せてはならない。
そんな事わかっているが‥こんなの卑怯である。
だが‥これから邪なことを考えていたら直ぐにぶっ潰してやる
ジェルド「ふっ、今からでも朝の仕返しをしたいが‥どうしようか‥ごふっ!」
桃馬「調子に乗るな!このくそ犬が。」
桃馬はジェルドのみぞおちに拳をぶちこむと急いでグラウンドへ急いだ。
ジェルドは泡を吹いて気絶し四限体育は無断欠席したのだった。
四限体育は一組、二組のクラス対抗リレーであった。
中盤の桃馬と憲明は、ジェルドの暴挙話をしていた。
憲明「うわっ、やっぱり変なことしたか。」
桃馬「なんであいつ一人にするかな?」
憲明「いや、ジェルドが変な奴が来るなも知れないってあの真面目な顔で言うから‥。」
桃馬「変な奴はジェルドなんだけどな‥。それに真面目な顔って‥俺見てないのだけど。」
憲明「まあ、背を向けられてたからな‥。」
桃馬「と、とにかく、一組の男子は戻るまで全員敵だ。今でもチラチラ見られてるし‥胸でも揺れると思ってるのか‥。」
憲明「さらしとか巻いてるんだろ?」
桃馬「当然‥、でもそのせいで苦しいんだよな。」
憲明「どんだけでかいんだよ。」
桃馬「‥うーん、はっ!?や、やめようこの話は‥頭がおかしくなる。」
憲明「あはは‥そうだな。」
その後授業が終わると桃馬は一足先に教室へと向かい着替えを済ませた。
ちなみに、泡を吹いたジェルドは保健室に運ばれており、目を覚めたら早々に体育教師に身柄を引き渡されたと言う。