第百五十一話 犬のため
犬の集会。
それは犬による犬のための集会である。
意訳すると、一ヶ月に一度開かれる犬科の会議である。内容はまた随時お伝えするとして、とある五月の本会議で世にも恐ろしい議案が可決された。
その名も人類犬科計画である。
新井田祭りが明けてから数日後のこと。
学園ではとある噂が流れていた。
"人喰らいの犬集会"
それは十年に一度開かれる犬の祭り。
十年に一度とは、大妖怪"犬神"が地に降り立ち、全犬科の繁栄をもたらすと言われている。
しかし、その代償として腹を空かせた犬神に人間の生け贄を差し出さなければいかない。
そのため力のある犬が捨て犬のふりをして、人間を誘きだし闇へと連れ込みむさぼり食うという話が広まっていた。
そしてお馴染みの昼休みの屋上では、
いつものメンバーが集まっていた。
桃馬「全く変な噂が流れてるな?犬科のジェルドやギールたちには迷惑な話だよな?」
ジェルド「はぁはぁ‥そ、そうだな‥くぅーん!」
桃馬は新井田祭り以来、ジェルドに受けた屈辱を毎日のように晴らしていた。首輪にリード、そして尻尾を好き放題もふると言う、ジェルドにとってはご褒美とも言える罰を与えていた。
桜華「あ、あの二人は‥いつまでそれを続けるのかな?」
憲明「むしろ二人の愛が深まってる気がするけど‥。」
さすがの二人も逆効果ではないかと思い、
つい声に漏らした。
次第に罰はエスカレートしていき、桃馬はジェルドのもっふもふの尻尾に顔を埋め始めた。なんだかんだ言って駄犬好きの駄目主である。ジェルドを駄犬になったのは桃馬が原因ではないかと、その場にいるみんなが思った。
リフィル「うわぁ~、もはや変態だね♪」
小頼「もう二人結婚したら~♪そうしたら、桃馬とも‥くすす♪」
桜華「ふぇ!?こ、小頼ちゃん!?」
何やら良からぬことを思い付いたのか、小頼は
悪巧み特有の不適な笑みを浮かべた。
憲明「ふぅ、それより噂の件どうするんだ?朝の時は調べるとか言ってたけど?」
桃馬「ふぉひぃふぉんふぃらふぇるひょぉ~。(もちろん調べるよ~)。」
憲明「ジェルドから離れて喋れよ‥。」
桃馬「すぅ~はぁ~。」
ジェルド「ふあっ!?と、桃馬‥くぅ。」
逆効果と思った罰はここに来て効果が出始めた。微量の感じる羞恥心、大胆なジェルドにとってはこそばゆい物であった。
憲明「変態だな‥。」
リフィル「変態ね♪」
桜華「うぅ、ゴクリ‥へ、変態です!」
小頼「ぐへへ、良いネタゲット~♪」
当然変態への視線は冷たく、冷ややかな罵声つきであった。しかし、三人の美女は何かと楽しそうであった。
するとそこへ、別クラスのイケメンけもみみ男子が声をかけて来た。
けもみみ男子「あ、ジェルド~!やっぱここにいたか!今日は集まりがあるって伝えていただろ?」
ジェルド「はへぇ~♪そうだっけ~?」
けもみみ男子「はぁ、エルゼちゃんは良い子なのに‥兄がこれではな‥。ほら、行くぞ!桃馬も悪いが離してくれ。」
けもみみ男子は強引に二人を引き剥がした。
桃馬「うわっ!?ジェルド~。」
ジェルド「わふっ!?は、はなせぇ~!?」
まさに"ドナドナ"の様な展開、ジェルドはあっさりと連れていかれたのだった。
桃馬「うぐぅ、ついてない‥まさか、月一の集会とやらに当たるとは‥。」
憲明「‥桃馬お前‥ジェルド中毒になってないか?」
リフィル「最近ずっといちゃついてるからね♪」
桜華「うぅ、羨ましい‥。」
小頼「むう、もう少し撮りたかったな~。」
ジェルドの中毒の桃馬に、
憲明は真剣に心配し、
リフィルはそれに対して小馬鹿にし、
桜華は羨ましがり、
小頼は特ダネ不足にショックを受けていた。
もはや現場はカオスである。
憲明「そう言えば、月一に開かれる集会ってなにしてるんだ?」
リフィル「そう言えば聞いたことなかったね?」
桜華「も、もしかして‥れ、例の噂と関係が?」
リフィル「まさか~♪考えすぎだよ~♪」
小頼「そうそう、私も何回か取材で入ったけど、変なことはしてなかったよ?」
桜華「そ、そうなのですか?」
桃馬「‥小頼の言う通りだよ。俺も一回連れ込まれた時、犬科の誇りやら猫科対策やらと、下らない話し合いをしてたな。」
小頼「あぁ~♪そうそう私が見た時もそんな感じだったな~♪」
桜華「か、可愛い‥。」
憲明&リフィル「へぇ~。」
初耳の情報に思わず三人は声を漏らす。
話の内容からして噂のような危険なレベルではないようだ。
憲明「となるとジェルドたちの集会は白だな。それより一体誰がこのタイミングで噂を流したんだろうな。」
小頼「意外とオカルト部とか?」
リフィル「あぁ~♪可能性あるかも♪」
オカルト部とは別名"陰キャ部"と言われており、この世の奇々怪々や古の魔法などの研究をしている要注意部活の一つである。
ちなみに、学園の要注意部活は五つあるのだが、桃馬たちが所属している異種交流会を始め、微食会、オカルト部、魔法科学部、そして最強にして最狂のガチムチ部がある。
確かオカルト部には、けもみみ男子や獣人族がいたはず、おそらく月一の集会とオカルト話しを組み合わせ理由はともかく、ありもしない噂をばらまいたと予想した。
しかし、予想はついたとて‥オカルト部への聞き込みはかなり抵抗があった。
だが実際は‥。
とある多目的教室より、
全犬科の生徒たちが出席していた。
けもみみ男子「はぁはぁ、お待たせしました!」
ギール「おぉ、やっと来た‥って、ジェルドの奴また酷く抵抗したようだな。」
ギールたちの前にはぐったりと、けもみみ男子に担がれたジェルドがいた。
けもみみ男子「えぇ、それにしてもジェルドの駄犬レベルには手が終えないよ。」
ギール「はぁ全くこいつは‥今夜は犬神様にお目通りすると言うのに緊張感がないな。」
けもみみ男子「ほんとだよ‥、きっと明日から桃馬が自分と同じ種族になるから興奮してたんだろ?」
ギール「おそらくな。全く品のない駄犬だ。やっぱり、桃馬の隣は俺がふさわしい。」
けもみみ男子「ギールも大概だな。」
三年けもみみ男子「こほん、そこの二年生。静かにしたまえ。」
二人「っ、す、すみません。」
取り巻きの三年生が注意を促すと集会が始まった。
集会の内容は五月に決めた"人類犬科計画"についての最終確認であった。
今回は一気に仕掛けるか、臨床実験から始めるかで話し合った。当然、一気の場合はテロ行為にあたる可能性があるので一瞬で否決され、臨床実験から段階を踏むことになっていた。
そして、今日は臨床実験の候補として学園生徒から絞り混む会議であった。
そのため、ギールとジェルドは迷わず桃馬の名前を出した。
豆太「に、兄さん‥迷いがないですね。」
ギール「当然だ!これは夢だからな!」
ジェルド「はぁはぁ、出来れば桃馬を雌にしてくれれば‥はぁはぁ。」
豆太「‥あ、あはは。(犬神様が要望を聞いてくれるかな。)」
三年けもみみ男子「他にはいないのか?」
ジェルド&ギール「いません!」
珍しく意見が合う二匹の駄犬であった。
これで終わると思いきや先輩は冷静だった。
三年けもみみ男子「ふむ、一年と三年からはないかな?」
さすが、品のある先輩である。
目先の欲望に囚われず、全員の意見を聞き始める。すると、百件近くの願望を集めた。
三年けもみみ男子「うむ、あと候補がなければ締め切るがよいかな?」
先輩の問いに参加者たちは遠吠えで答えた。
三年けもみみ男子「よし、あと‥今朝から流れている噂についてだが、本来これは今夜の事についての情報である。それが今日に限って漏洩し変に誇張されている。伝達のやり方も犬科の者にしかわからない物だ。もしこの中で漏らしたものがいるのであれば、速やかに名乗り出てほしい。以上だ。」
伝達情報の内容は、犬科の間では極秘であり、漏らす行為は禁止されている。
結局これは、オカルト部の納涼祭に向けた怪談話がリンクしてしまい、たまたま起こってしまったトラブルだったそうな。
その後、ギールとジェルドは放課後になると桃馬を麻袋に放り込み、犬神様が来られる神盟宮神社へと向かった。
他の犬科たちも、けも耳や尻尾に憧れている候補者を神社へと連れ込んだのだった。