第百四十七話 新井田祭り編(11) 騒朝祭(そうちょうさい)
闇夜にて
夜桜咲くか
儚くも
闇に散るは
悪しき者なかれ
深夜まで続いた後夜祭はついに幕が下ろされ、今年の新井田祭りは終わった。
しかし、この祭りの終わりは全ての祭りの始まりである。更なる波乱万丈な祭りがこの先も待ち受けることであろう。
そして暗く静かな本殿では、二年六組尊重派の制裁を終え、何故か帰ろうとしない複数人の学生が休んでいた。
直人「ふぁ~、ねむっ‥悪いな葵‥せっかくのデートを邪魔して。」
葵「気にするな。本祭は終わっても出店とかはあした‥じゃないな、今日の朝もあるから大丈夫だ。それに二年六組を叩きのめせる大イベントを逃せるかよ。」
直人「あはは、そう言ってもらえると安心するよ。おかげで貴族主義とか尊重とかを主張する奴等は当分大人しくなるだう。」
葵「だろうな。あぁそうそう、異世界の情報なんだが‥予想通り弱った帝都に取って変わろうと、不穏な周辺諸国が動いてるみたいだぞ。」
直人「群雄割拠か‥。中世文化らしいな。」
葵「結局‥生きし者すべてが怖いと言うことだ。」
直人「もはや性だな。」
葵「これから、異世界の治安もより悪くなるだろう。俺はシェリルが仕える国に危機が迫ったら戦場に立つつもりだ。もし直人が‥。」
直人「おう、やるよ。」
葵「まだ何も言ってないけど‥。」
直人「戦の誘いだろ?葵が出るなら俺も出るに決まってるだろ。」
葵「ふっ、ほんと直人は平和を望みながら戦を求めるよな。」
直人「それな、たぶん俺は"平和に繋げる"戦がしたいんだろうな。」
直人は腕を組んで自己分析する。
ただ戦がしたいのではないく、"勧善懲悪"を目的とした戦がしたいのだと思った。
葵「相変わらずのお節介か?」
直人「簡単に言えばそうなるな。」
葵&直人「ふっ、あはは。」
小学生からの幼馴染み二人は、仲良さそうに笑った。そう、彼女にはあまり見せない表情であった。
そんな様子を物陰からジト目で覗く三人の美女がいた。
リール「‥ねえ、エルン、シェリル?」
エルン&シェリル「なんですか‥。」
リール「あの二人‥すごく仲良さそうだよね。」
シェリル「そうですね。」
エルン「そうだな‥。」
何故か三人の声は生気はなく、嫉妬する嫁のような低い声で覗いていた。
葵「‥っ。」
直人「‥っ。」
さすがの二人にも不吉な視線を感じると辺りを見渡す。すると、直人が先に目を赤く光らせたリールと目を会わせた。普通なら悲鳴物であるが、妖怪化した直人には暗い中でもはっきり見えるので、リールだとすぐに気づいた。そしてその後ろにエルンとシェリルの姿も見えた。
直人「うわっ‥。原因がわかった。」
葵「えっ?な、なんだよ?」
直人「‥理由はわからないけど、嫁とシェリルに監視されてる。」
葵「えっ?か、監視って‥なんで?」
直人「わ、わからない‥。なんか‥幽霊みたいにこっちを見ている。」
葵「こ、こわっ!?」
直人「‥ま、まあ、気にしなければ何とも‥。」
リール「何ともってな~に~?」
葵「うわっ!?」
気付けば直人の右隣に居座るリール。
微量な魔力を感じたので、魔空間移動したとすぐにわかったので驚きはしないが、何故か目は少しヤンでいた。
直人「り、リール?一体どうしたんだ?いつもなら寝ている時間なのに?」
リール「そ、それは‥ふ、二人が楽しそうに話しているから‥気になって。」
直人「‥も、もしかしてそれだけ?」
リール「う、うん‥。」
直人の問いに"もじもじ"しながら答えた。
しかし、実際は加茂様の神力により三人の美女の想いは爆発寸前であった。
要するに三人の様子がおかしかったのは、三人の目に映る直人と葵がイチャついているように見えたからだった。
直人「ふぅ葵。またの話は今度のようだな。」
葵「そうだな。シェリルも寂しがってる見たいだしな。それじゃあ、またな直人。」
直人「おう、またな。変なことして斬り殺されるなよ~?」
葵「わかってるよ。」
こうして二人の親友は別れた‥。
この後、嫁たちに骨の髄まで搾られるとは夢にも思わなかったのだった。
数時間後、神盟宮神社に日の光が差し込み、加茂様の神力に酔わされたカップルたちは我に返り賢者タイムに入る。今年の神盟宮神社のご利益は物凄く強かった。
その頃、
桃馬と桜華は、日の光に起こされて寝ぼけていた。
桃馬「‥んんっ、はへっ、あ、あひゃ?」
桜華「ふにゅ~、はれ?ここは??」
夜は相当お楽しみだったようだ。
服は乱れ‥これ以上は何も言うまい。
桃馬「‥はっ!?しまった!?つ、つい寝てしまった!?」
桜華「‥桃馬~、ここどこ~?」
桃馬「お、桜華!?ふ、服が乱れてるよ!?」
色っぽく乱れている桜華の服を急いで整えた。
しかし、桜華はまだ寝ぼけてるようで、桃馬に抱きつき甘え始めた。
桜華「桃馬~、ちゅ~しよ~♪」
桃馬「な、ななっ!?お、桜華‥今はダメだって!?そ、それにキスなら‥よ、夜にあんなにしただろ?」
桜華「足りないよ~♪ゴロゴロ♪」
猫のように甘える桜華の姿は桃馬の心を刺激した。歯止めが効かない理性はすぐに縺れ桜華の要望に答えようとする。
桜華の潤んだ瞳は蕩けており、今か今かと桃馬を求めていた。
桃馬は覚悟を決め、ゆっくりと桜華に迫る。
しかしそこへ‥真似かねざる客が勢いよく飛んできた。
ギール「うわぁぁ!?ぐはっ!」
桃馬「っ!な、なんだ?!」
桜華「ふぇ?ギール??」
早朝から騒々しい出来事に二人は唖然とした。するとそこへ血相を変えたシャルが現れた。
シャル「はぁはぁ、ぎ、ギール!お主はまた‥か、加茂の胸を揉むだけじゃ飽きたらず‥お、襲うとは‥な、何考えているのだ!」
珍しく怒っているシャルの姿に二人は驚愕する。話の内容は聞き取れなかったが、何やらギールがよからぬことをしでかしたようだ。
ギール「いってて‥い、いきなり何するんだよ!?」
シャル「う、うるさいのだ!余の友達に気安く手を出すとは‥許せないのだ!」
話は十分前のこと。
結局、後夜祭が終わってもギールは起きることはなく、本殿へと運ばれ加茂様とシャルと共に一夜を過ごしていた。
未だ加茂様が見えないギール。
三人の寝相の関係もあり今回の事件へと発展した。
始めは寝ぼけた加茂様が尻尾から離れ、大胆にもギールの体に抱きついた。
次に、シャルがギールの尻尾に強く抱き締めると、ギールは無意識に跳ね上がり加茂様を押し倒すような体勢になった。ギールの左手は加茂様の右胸を鷲掴みにし、双方の唇の間が約五センチに迫っていた。
そして運が悪いことに、先にシャルが目を覚ましたことにより弁解できない誤解へと発展したのだった。
シャル「‥な、ななっ!何してるのだ!」
シャルは器用にギールを吹き飛ばすと、本殿にいた生徒たちも飛び起きる騒ぎとなった。
ちなみに、ディノと豆太はギールを本殿へ運んだ後家に帰っていた。
そして今に至る。
ギール「ま、待てシャル!?俺は加茂って子が本当に見えないんだよ!?気安く手を出すなと言われても不可抗力だろ!?」
シャル「ラッキースケベ乙なのだ!だから許さないのだ!」
ギール「そ、そんな理不尽な!?と、桃馬~助けてくれよ!?」
俺にふられてもな‥。
しかし、どうやら気づかぬ内に加茂様の体を堪能したようだ。
確かに不可抗力とは言え弁護したい所ではあるが‥神聖な神様の体を触ったのだから、ここは心を鬼にしよう。それに、今のシャルを敵に回したくないからな。
桃馬「ギール‥ごめん。」
桃馬は申し訳なさそうにそっぽを向いた。
ギール「と、桃馬‥ひっ!?」
シャルは指の関節をゴキゴキとならしながら、ギールに迫った。
余を襲わないで加茂を襲うとは‥ゆるせないのだ。
嫉妬混じりの怒りは、さすがのギールでも恐怖に陥れた。
シャルは拳にありったけの魔力を込めた。
ギール「は、はわわ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!?」
さすがに洒落にもなっていない展開に、一度は見捨てた桃馬が前に出た。
桃馬「ま、待て待てシャル!?朝っぱらから何してるんだよ!?」
ギール「と、桃馬!?」
シャル「退くのだ桃馬!ギールには少し躾をしなくてはいけないのだ!」
桃馬「あ、頭を冷やせシャル!?ギールがしたことに許せない気持ちはわかるけど、さすがにその技はギールが死ぬって!?」
シャル「大丈夫なのだ。ギールは余にとっての大切な兄だ‥殺しはしないよ。」
やばい、語尾に"なのだ"が消えている。
目もやばいし、このままだとギールが死ぬ。
下手をしたら俺の命までが危うい。
危機迫る展開に捲き込まれた桃馬。
思いがけない生命の危機に果たして打開できるだろうか。