第百四十二話 新井田祭り編(6) 貧乏くじ
午後四時頃。
毎年恒例の暴走神輿が佐渡家に迫った。
今年はバリケードを張っていたが、景勝の友人にあっという間に撤去され、終いには景勝を柱にくくりつけられた。
雪穂「あらあら~、景勝ったら今年は死んじゃうかもね♪」
景勝「冗談になってないって!?雪穂も見てないで助けてくれよ!?」
男「まあまあ諦めろ景勝。これも毎年恒例の定めだ。」
界人「安心しろ、もし死んだとしても雪穂さんのことは任せろ。」
男「ほら、界人もこう言ってるし。」
景勝「納得できるか!?そういう台詞はもっと大事な局面で言うべきものだろう!?」
雪穂「クスッ♪景勝ったら~♪」
うわぁ~、超恥ずかしい。
いっそのこと二人まとめて突撃したいと桃馬は思っていた。
しかし、突撃するタイミングがないのでその場で神輿役は立ち尽くしていた。
京骨「桃馬の家も大変だな‥。」
桃馬「すまん京骨‥あまり俺ん家の話はしないでくれ恥ずかしいから。」
京骨「‥すまん。」
ギール「なんか‥今から桃馬の家に突撃するとなると緊張するな。」
スザク「これが‥桃馬の家か‥思ったより普通だな。」
志道「うん、突撃のしがいがある家だな 。」
桃馬「お前ら‥親父と一緒に縛ってやろうか。」
三人を睨む桃馬を尻目に、聖籠忍は縛られた親父と接触していた。
忍「これはこれはお父様!初めまして私春桜学園風紀委員長をしております。聖籠忍と申します!桃馬くんとはとても仲良くさせてもらっております。」
景勝「お、おぉ‥風紀委員長となると三年生か。こんな身形ですまないが、こちらこそ息子がお世話になっているよ。」
界人「あはは、なに押し負けてるんだよ兄さん♪でも、さすが聖籠家のご子息だな。」
忍「お久しぶりです界人さん、父さんがいつもお世話になってます。」
界人「今は仕事の話は無しだよ?それより、ライバルは多いけど甥っ子の穴は上手く取れそうか?」
桃馬「おぉーい叔父さん!?なに話してなるんだ!?」
界人「おっと、やべっ‥。」
景勝「不思議と桃馬は女の子より男にモテるよな。桜華ちゃんが来てくれたことが本当に奇跡だ。」
忍「お父様、桃馬には男を魅了する特殊な魅力があるのですよ。」
景勝「なるほど‥ジェルドくんとギールくんにもそれを感じているから尻尾を振ってるわけだな。」
忍「その通りです!」
ギールは思わず首を縦に振った。
桃馬は今からでも界人と忍を含めた四人に向け突撃したいと思っていた。
近藤「桃馬‥凄く突っ込みたいようだけど、どうする?」
桃馬「‥やれることなら、四人まとめて突っ込みたい。」
京骨「‥なんか段々あれが挑発にも見えるな。」
スザク「だ、だけど、それで突っ込んでも良いものなのか?」
志道「ここまで来たら迷うよな。よし、ここは桃馬に一任しよう。」
志道の意見にみんながうなずくと、桃馬は早々に号令をかけ突撃を開始。我が家へ向け忍と景勝を捲き込んだが、雪穂と界人はひらりと交わし楽しそうに笑っていた。まさに鬼畜の所業であった。
桃馬「ちっ‥二人‥はずしたか。」
しかし、桃馬は二人を許すことなく方向を変え、雪穂と界人へ突撃した。しかし、雪穂の氷系魔法の反撃に合い神輿役は凍らされ、そのままスリップし隣の家へと突っ込んだ。
雪穂「クススッ♪若いっていいわね♪」
男「でたぁ!雪穂さんの絶対零度!」
女「今年も綺麗に出来たわね♪」
男「今年も見事な氷像だな。」
まわりは拍手喝采である。
普通では非難されるような出来事であるが、これも恒例行事で意外にも好評なのだ。
最初の頃は暴走神輿を家から守るために咄嗟に使ったのだが、意外にも大反響をもたらし毎年危険な場面があると凍らせて頭を冷やさせているのだ。しかし今年の場合は‥完全に悪意があった。
それから数十分かけて、
補助役と観客たちで、氷漬けになった桃馬たちを突っ込んだ家から引きずり出し解凍した。
その頃、大名行列は暴走神輿に構わず神盟宮神社へと迫っていた。
午後六時頃、大名行列の先頭が神盟宮神社へ到着、三十分後には最後尾の暴走神輿を除く行列全て戻り、暴走神輿を待つばかりであった。
神社の本殿では新井田まつりの大本命である神輿奉納の儀を防ぐ守護たちが待ち構え、心踊る太鼓と笛の音が絶えず奏でていた。
解凍された暴走神輿は佐渡家出発してから新たに十件も突撃してヘロヘロの状態であった。
そのため桃馬たちはゴールまで補助役たちと交代しラストに備えていた。
桃馬「はぁ‥この状態で神輿奉納って‥不利だろ‥。」
ギール「‥はぁはぁ、だな‥。さすがの俺でも‥つらい。」
スザク「‥ま、まさか‥ここまでハードとは。」
京骨「まあ、神輿に妖気や魔力とか吸われるからな。仕方ないよ。」
志道「‥ペース配分ミスったな。」
ジレン「‥この祭りがここまでハードとは思わなかった‥。」
神輿役のほとんどがペース配分をミスったと後悔した。リーダーの忍は佐渡家で暴走神輿に捲き込まれ景勝と共に救急車で搬送され、そして神輿役は全員疲労困憊であった。
近藤「さて‥困ったことになったぞ。」
渡邉「このまま戻ったら‥こてんぱんにされるのが目に見えているな。」
本間「相手が‥相手だもんな。」
茂野「それなら大西が麻酔弾でも撃てば‥。」
大西「それもありだけど‥失敗したらバチ当たるよね?」
坪谷「ま、まあ‥そうなるな。それならいっそ、この前俺たちで話していたロケラン祭りを‥。」
星野「あれまじでやるのか!?」
高野「いいね~、ここまできたらやってやろう!」
番場「‥よっ、マッキー待ってました!」
藤井「全員死んだら地獄行きだろうな‥。」
忠実に大人しくついてきた微食会であったが、疲労困憊により正気が保てなくなったのかここへ来て悪巧みを企て始めた。
そして‥午後六時‥。
暴走神輿は神盟宮神社鳥居へと到着。
神主、宮司、神社の関係者が集まり、長い祈祷が始まった。
ここで神輿役は最後の休息に入る。
本殿には多くの人が集まり、鳥居付近でも多くの人が集まっていた。
そして、日が落ち始めた午後七時‥
いよいよ、祭りの大本命にして元締めイベント。神輿奉納の儀が始まる。
神輿役は本殿に向け神輿を担ぎ上げ、補助役も後に続いた。
本殿に暴走神輿が現れると歓声と拍手が響き渡った。
目の前には二年六組尊重派と本殿の上には二年三組男子が待ち構えていた。
映香「ご来場の皆様長らくお待たせいたしました!本お祭りを締めくくる意地と体のぶつかり合い!神輿奉納の儀がまもなく始まります。今年は、春桜学園二年六組の主導権争いも兼ねて執り行います!それゆえ一般で参加している方々に改めてご注意申し上げます。くれぐれも捲き込まれないようにお願いします。」
春桜学園のジャーナリストこと亀田映香が本殿脇に作られた特別放送会場から盛り上げる。
睨み合う両陣営、まず互いの二年六組の生徒たちが前に出る。
映香「ここでお知らせです。本神輿奉納の儀につきまして、えー、二年六組の共存派、尊重派の対決から勝敗の特別ルールが加えられました。制限時間一時間以内に神輿を奉納できた場合共存派の勝利、オーバーしたら尊重派の勝利、また、一時間以内にどちらかの派閥が全滅したとき、残った派閥の勝利とします!」
映香のルール説明が終わると、守護側の尊重派が一斉に模造刀を抜いた。
志道「おいちょっと待て!?武器は卑怯だろ!?」
尊重派「へっ、武器は真剣じゃなければありに決まってるだろ!」
映果「あーっと!なんと言う外道っぷりだ!流石尊重派!勝てば何でもありと言うことか!」
会場からはおびただしいほどのブーイングが飛び交った。
一部では二年三組が黙ってないと思っていたが、不気味にも彼らの表情は穏やかであった。
流石の物騒な戦況に一時神輿を下ろす。
すると微食会が怪しい動きを見せた。
高野「やっぱり‥こんなに多いと邪魔だな。」
茂野「おっし!ゆーちゃん、"あれ"頼むわ。」
坪谷「了。」
坪谷はこっそり隠し持っていた十枚の絵を取り出し微食会九人に配ると神輿の前に立った。
志道「くそっ、奉納の前にお前らを倒さなきゃ駄目のようだな。」
ジレン「志道‥お前は下がっていろ。頭がやられたら話にならないからな。」
志道「‥バカ言うな。ジャンヌたちも見てるんだ下がれるかよ。」
尊重派「ごちゃごちゃうるせぇよ!いくぞぉぉ!」
尊重派のリーダー格が号令をかけると一斉に斬りかかる。
しかし、その二秒後のこと。
激しい爆発が尊重派を襲い、あっという間に主導権争いに決着がついたのだった。