第百四十一話 新井田祭り編(5) 神恋祭
ギールが加茂の胸を揉みしだいてから数十分後のこと。加茂は序盤で突撃を受けた八軒の儀を終わらせ神輿の中に入っていた。
激しく揺らされる籠の中で、ギールに揉まれた感触が甦っていた。
はしたなくも、揉まれた胸に手を当て何度も再現している。そして‥頭から離れないギールの顔。考えれば考えるほど、心臓が激しく動いた。
取り乱していたとは言え、シャルとギールを弁護も出来ず危険な立場にさせてしまった。
一応、その後に神供番には生け捕りにしろと伝えているが、若い神様は二人の無事を祈るばかりであった。
加茂「はぁはぁ、ギール様‥シャルお姉ちゃん。」
二人を思う気持ちが強いせいか、激しい揺れも気にしなくなっていた。
そんな神様が入ったことは露知らず、暴走神輿は更に激しさを更に増していく、午前十時半くらいのこと。
桃馬「今度は胴上げみたいにして進むぞ!補助の皆の衆も集中しろぉ!」
神輿役一同「おぉ!!」
志道「いいな!傾けるなよ!息を合わせて上げるからな!」
神輿役一同「おぉ!」
桃馬「よーしせーのでいくぞ!せーの!」
神輿役一同「ワーショイ!ワーショイ!」
最初はやる気のなかった桃馬であったが、時間が経つに連れて盛り上がり始めた。結局、嫌と言うやつほど呑まれやすい男であった。
胴上げスタイルは集中力と体力が消耗しやすく、時間経過するにつれて微食会の力が勝り始め神輿が半回転した。あわや大転倒すると思われたとき、慌てた京骨が"がしゃどくろ"の姿になり神輿は無事にキャッチした。それから、まわりはトラウマとなり胴上げスタイルは一切やらなくなった。
その代わり、家などの突撃回数が増えたと言う。
半回転した時の神様はと言うと。
加茂「はぁはぁ、ギール様‥んんっ♪」
ギールと言う、駄犬に毒されていた。
これにより、午前中に突撃を受けたその年の家は物凄く子宝に恵まれたそうな。
そして、時刻は正午付近。
大名行列は中間ポイントの青海社へと到着し昼食を取っていた。暴走神輿を含む四基の神輿は鳥居の中に入り下ろされた。神主及び神社関係者によるご祈祷が行われていた。
そしてその近くで腰を下ろす男三人は‥。
直人「へぇ~、神輿が半回転をね~。良く落とさなかったな?」
桃馬「京骨のお陰だよ‥。あれは本当にダメかと思った。」
憲明「不幸中の幸いだな。でも桃馬単体ではジェルドに襲われ、ギールは戻ってこないわで大変みたいだけどな。」
桃馬「むしろいないで助かったかもな‥。それより、なんでジェルドの件知ってるんだ?」
直人「あぁ、それなら俺も小頼から聞いてるよ。いきなりおめでとうなんて言ってくるから驚いたけど、ジェルドと桃馬の話だったからとんだ拍子抜けだったけどな。」
桃馬「あのおしゃべりめ‥後で覚えてやがれよ。」
直人「どうして、そんなに嫌がるんだよ?桃馬もジェルドが好きだろ?」
桃馬「お、俺はその‥犬として好きなだけであって‥そんな好意とかはない。」
直人「ふむぅ、どうでしょうかね?憲明??」
憲明「まあ、二人きりなら‥間違いなく桃馬からしてるかもな。」
完全に友と従兄弟に見透かされている。
桃馬は苦し紛れに反論した。
桃馬「二人ともよく考えてくれ、もし二人の家に可愛いポメ公 (ポメラニアン)か柴犬が入るとしよう、もふりたいだろ!」
二人「まあ、確かに。」
桃馬「じゃあ、少し尻尾とか耳とか触りたいだろ!」
二人「うん。」
桃馬「服従させて、押し倒したいだろ!」
二人「いや、ないだろ?」
桃馬「なに!?」
息の合った否定意見に驚く。
直人「質問の意味が獣人族にスリ変わってるし。」
憲明「そんな単純な誘導には引っ掛からないよ?」
直人「まあ、服従の証の腹見せは可愛いけど、押し倒すってなんだよ?」
憲明「それはもう完全に獣人族を狙ってるな。しかも完全に蕩けたジェルドとギールを想像してるよね。」
桃馬「ぐはっ!」
まさかのダブルカウンターにダウンする桃馬。
しかし、直人も桃馬の気持ちが何となく理解できた‥現に直人の両親はギールの両親を好いている。父界人はギールの父ケトーを母杏佳はギールの母リブルをかなりお気に入りにしている。
だから、桃馬がジェルドとキスしようが何しようが‥引きはしない。だが、変態を見る目で見てやろう。
三人は他愛もないいじり話をしていると、一人の見かけない女の子が声をかけてきた。
加茂「あの、すみません今ギールって‥。」
桃馬「ん?お嬢さんは誰だい?」
そこにはさらしを巻き忘れ程よい胸が浮き出ている加茂が立っていた。
直人「ん?お嬢さん?」
憲明「おいおい、動揺しすぎて幻覚見始めてるぞ~♪」
桃馬「えっ?い、いや、マジで目の前にいるって!?」
桃馬もシャルと同じ現象になっていた。
しかし、桃馬は完全に加茂のことを幽霊と思っていた。
直人と憲明は桃馬が見ている目先を見てみるが、やはり誰もいない。
するとそこへ、運良く救世主が現れる。
桜華「あれ?加茂ちゃん?」
加茂「ふぇ?」
リフィル「あぁ~♪去年見た男の‥子?」
リフィルは男の子と思っていたようで、程よい胸の膨らみを見るや固まった。
加茂「‥うぅ、桜華お姉ちゃん!」
加茂は目に涙を浮かべ桜華に抱きついた。
この光景に桜華やリフィルまでもおかしくなったのかと思う直人と憲明であった。
桃馬「お、桜華?その子知ってるのか?」
桜華「えぇ、この方は小京加茂様、去年神様になったばかりの方です♪」
桃馬&直人&憲明「か、神様!?」
直人と憲明は改めて見えない加茂を探す。
桜華「あ、そうでした。普通の人は見えないのでした。」
桜華が便利な聖霊の技で一時的に二人を加茂の姿を見えるようにした。
直人「おぉ~。なかなか。」
憲明「とても可愛らしいですね。」
初めてお目にかかる神様に率直な感想を述べる二人であった。
桜華「それにしても去年は大変でもうやりたくないと聞いてましたが、頑張って続けて偉いですね♪」
加茂「‥うぅん、僕は‥偉くないよ。」
桜華「ふぇ?どうしてですか?」
加茂「‥僕は‥今日逃げたんだ。それで結局‥神供番に捕まって‥。」
桜華「‥そうだったのですね。」
加茂「‥それに逃げるために‥シャルお姉ちゃんやギール様に沢山迷惑かけちゃって‥。」
二人の名前が出た瞬間五人の脳に電気が走った。
桃馬(シャル絡みか‥。)
直人(縁の繋がりが強い子だな~。)
憲明(神様に会わせちゃいけない面子だな‥。)
リフィル(これは~♪面白い展開かも!)
桜華(あ、あはは‥シャルちゃん凄いな~。)
五人が心のなかで感想を述べていると、神供番が現れた。
直人と憲明は思わず刀に手を置いた。
すると、桜華が腕を前に出して警戒を解かした。
神供番「‥加茂様、例の二人を引っ捕らえました。」
加茂「えっ?え、えぇ!連れてきてください。」
すると、社の裏から見覚えのある女の子と犬が連れてこられた。
シャル「えぇい!離すのだ~!」
ギール「はぁ、何が起きてるのか全くわからない‥うぅ、恥ずかしい。」
神供番「本来なら手打ちだが、加茂様の寛大なお志に感謝するのだな。あと、約束を忘れるなよ?」
桃馬たちには縄で縛られた二人が見えるが、ギールからして見れば訳のわからない物に縛られ、何者かに引っ張られてい奇妙な感じである。
桃馬「お前ら何してるんだ。」
ギール「っ!と、桃馬!?み、見るな!?こ、これはその‥えっと‥ま、魔術か何かにかけられてだな‥。」
桃馬「いや、バッチリ拘束されてるぞ。」
シャル「おぉ~!とう‥あれ?か、加茂ちゃん!?」
桃馬に気づいて数秒後、桜華に抱きついている加茂を発見した。
加茂「シャルお姉ちゃん‥ギール様。」
シャル「うぅ、ギールが変なことしてすまないのだ。」
加茂「シャルお姉ちゃん謝らないで‥僕が捲き込んだせいだから‥。」
シャル「そんなことはないのだ。余が無理やり連れ出したことなのだ。」
二人の間で謝罪合戦が行われた。
リフィル「な、なんかすごいことになってたみたいだね。」
桜華「あ、あはは‥神様を連れ回してたからね。」
憲明「なんか話を聞くとギールが原因みたいだけど‥何したんだ?」
直人「‥押し倒してキスしたか、胸を揉んだか。」
憲明「うわぁ‥神様にそんなことしたら死んだ後が怖いな。」
桜華「か、加茂ちゃんが‥ごくり。」
リフィル「あんな小さい子の胸と唇を奪うなんて‥本性が出ましたね。」
直人&憲明「最低だな。」
四人は冷ややかな目でギールを見つめた。
ギール「お、おい!?なんだその目は!?俺は何も見えないんだよ!?そんな、胸とかわからないよ!?」
神供番「っ、この駄犬め!早速口にしたな!」
神供番「いや待て!よく見たら加茂様さらしを巻いていないぞ!?」
神供番「なっ!?しかも柿崎さんのお孫さんもおられる‥これはまずい‥。」
加茂「みんな落ち着いて!ここは‥僕に任せてください。」
動揺し始める神供番を静止させ追い返すと、
加茂はことの次第を話した。
神盟宮神社は、若い男の神様が勤めることが神界の決まりなのだが、神議会の手違いにより容姿が男の子に見える加茂が任命されたのだ。
しかし、神に成りたての加茂にそんな決まりがあるとは知るはずもなく、神盟宮神社に就いてから知ったと言う。そのため女の子とばれないようにさらしを巻いたりして誤魔化していたのだ。
桜華「そうだったんだ‥。加茂ちゃんも大変だったね。」
リフィル「神の世界も規律に厳しいのね。」
桃馬「なるほど要するに、今の神様が女の子って知られたくないわけか。」
直人「神様もすぐに議会をやり直せばいいのにな。」
加茂「そうも考えましたけど、神議会で決まった内容は曲げないと言うのが、決まりなようでして。」
憲明「うわぁ‥それは大変だな。」
加茂「それで‥不祥事を起こせば神の権利を剥奪されて、このお祭りからも逃げれると思ったんだけど‥関係ない方まで巻き込んでしまって‥ごめんなさい。」
胸の内を話した僕っ子神様であったが、
聞いてる者たちから見ればとても可愛い光景であった。
シャル「逃げたい気持ちは誰でもあるのだ♪それに先の大戦に比べれば、こんなの捲き込んだ内に入らないのだ!」
桃馬「確かにな。」
桜華「うん、確かにね♪」
リフィル「そうそう♪可愛い反抗期ね♪」
加茂「ふぇ!?そ、そうなのですか!?」
大事だと思っていた加茂であったが、今の時代下界の意見では蚊に刺される以下の事であった。
桜華「でも、加茂ちゃん?神輿に乗りたくないのはわかるけど、儀式だけはしっかりしないとダメだよ?」
加茂「う、うん‥わかったよ。ね、ねぇ、桜華お姉ちゃん‥。」
桜華「どうしたの?」
加茂「えっと‥その‥みなさんギール様と話してましたけど、お友だちなのですか?」
もじもじしながら桜華に尋ねた。
すると、女の勘が働いた桜華は微笑んで答える。
桜華「そうですよ♪それにギールは頑張ってる女の子が好きみたいですよ♪」
加茂「頑張ってる‥女の子‥。」
桜華「あ、そうだ。もしよかったらこれどうぞ♪」
桜華はギールの写真を加茂に渡した。
加茂「あ、これはギールしゃま!?いいのですか!?」
桜華「うん♪このくらい小頼ちゃんに頼めばまたもらえるからね♪」
加茂「あ、ありがとうございます♪」
写真一枚で元気を取り戻した加茂は、その後不思議と大人しく午後の暴走神輿に乗り込んだのだった。
そして‥ギールの写真を‥‥○○ずにして‥耐えたと言う。