第百四十話 新井田祭り編(4) 男の娘の逆は?
午前九時辺りのこと。
大きな事件が起こることもなく、
二千人を越える大名行列はしばしの休憩に入っていた。
しかし、休憩と言っても体力が有り余っている若者たちは楽しそうに盛り上がっていた。
魔法で花火を上げたり、暴走神輿を含む神輿役は交代まで活気よく担ぎ上げたりなど、余裕に過信していた。
それ故、暴走神輿は早くも八軒近くの家や建物に突っ込んでいた。
※ちなみに暴走神輿が突っ込む家には福が来ると言われている。毎年神様が突っ込んだ家に福の加護を与えるのだが、今年はその神様が不在であることは誰も知らない。
ましてや、魔王と黒狼と鬼ごっこをしてるとは夢にも思わないだろう。
ギール「はぁはぁ‥も、もう‥良いだろう‥ちょっと、降りろ‥。」
シャル「うむ!何とか撒いたようのだ!よっと、さぁもう大丈夫なのだ♪」
謎の集団を撒いたことを確認したシャルは、隣にいる男の子と共にギールはの背中から降りた。
?「あ、ありがとうございます。でも、僕のために無理をさせてしまいました‥。」
シャル「気にすることはないのだ♪困ったときはお互い様なのだ♪」
ギール「はぁはぁ、話はよくわからないけど‥お前はなにもしてないだろ。」
シャル「ふっふっ、お兄ちゃんよ。お主は見えぬ敵に殺されそうだったのだぞ?それを余が華麗な指示を出して逃がしてあげたのだ。感謝くらいしてほしいのだ!」
?「ふぇ!?お、お姉ちゃん盛りすぎたよ!?」
もちろん男の子の声はギールには届かない。
シャルは堂々と嘘八百を並べてギールを納得させようとしたが、ギールは全く信じていなかった。
取りあえず、シャルの自爆を期待して乗っかることにした。
ギール「へぇ~、俺の命をね~。それはありがとう。」
シャル「えっへん♪感謝するのだ!」
?「し、信じた!?」
本当は暴走神輿から逃げた僕を連れ戻しに来た、神供番なんだけど‥。
色々タイミングが悪くて詳しい話もできていない。これ以上この方たちを巻き込むわけにはいかない。
男の子は意を決してシャルに話しかける。
?「お、お姉ちゃんちょっといい?」
シャル「むっ?どうしたのだ?あっ、そうなのだ!お主の名前聞いてなかったのだ!」
?「ふぇ!?あ、えっと‥僕は‥小京加茂といいます。」
シャル「小京加茂と言うのか♪余はシャル・フォルトなのだ♪シャルでよいぞ♪こっちは余の兄のギールだ。」
加茂「シャルお姉ちゃん‥。ギールお兄ちゃん。」
シャル「うむうむ♪」
何やら自己紹介をしたみたいだ‥。自称神様に変なことを言わなければいいけどな‥。
加茂「シャルお姉ちゃん‥えっと‥ここまで振り切ってくれて嬉しいんだけど‥これ以上二人に迷惑かけられない。だから‥えっと、か、庇ってくれるのはここまでにしてほしいの。」
シャル「そんなの嫌なのだ!余は言ったことは最後までやり遂げるのだ!だから、お主を最後まで守るのだ。」
守ってるのは俺だけどな‥。
と、ギールは心の中で突っ込んだ。
加茂「でも‥神供番の執行を妨害したら‥お二人に罪が‥。」
神供番「その通りです。」
シャル「っ!?」
加茂「うぅ、やっぱり‥簡単には逃げられないよね。」
一人の神供番が現れると、おそらく三十人はいると思われる神供番に包囲される。
シャル「お、お主らしつこいのだ!」
突然のシャルの行動にギールはびっくりする。
様子から見て、さっき話していた命を狙っている見えない敵が現れたのだろう。
それにしても‥恥ずかしいな。
運良くまわりに人はいないが、端から見ては寂しい独り言である。
神供番「しつこいとは何ですか?我々は加茂様をお迎えに来たのですぞ。」
神供番「そうです。早くも八軒の家が突撃されているのです。どうか神務にお戻りください!」
神供番「このままでは歴代神に泥を塗ることになります!どうか、我慢してください!」
神供番は一斉に頭を下げお願いした。
しかし、加茂は拒否していた。
加茂「うぅ‥。僕には無理です。僕は‥か、神様の器ではないんです!」
シャル「加茂‥‥うむ、それでいいのだ!」
何やら話が決まったようだ。
今度はどんなことを言ってくるのやら‥。
ギールは次なる注文に身構えた。
加茂「シャルお姉ちゃん‥。」
シャル「お主ら聞いての通り加茂は嫌がっているのだ。だから諦めて手を引くのだ!」
神供番「な、何を勝手なことを!?」
神供番「なにも知らない部外者が首を突っ込まないでもらいたい!」
神供番「そうです!神務をサボることは神界ではご法度です!下手をすれば幽閉ですぞ!」
加茂「ゆ、幽閉?」
シャル「本人が嫌がっているのだ!例え相手が神であろうとも余は抗うぞ!」
えぇ!?何言い始めてるんだ!?
かなりヤバイ展開を作り出してることを感じたギールは、シャルの前に立つ。
ギール「ま、待て待てシャル!?何勝手なことを言って!」
もみゅっ。
加茂「ひゃうん!?」
ギール「‥ん?」
もみもみ。
何もないところから右手に伝わる柔らかな感触。
無意識に伸ばした右腕がちょっど、加茂の胸に当たっていた。
加茂「んんっ!ひゃうっ。」
ビクンと跳ねた感じも伝わる。
ギールは訳もわからずもう一度右手で掴んだ柔らかい何か(胸)を揉んだ。
加茂「ふあ~ん!」
この光景にシャルと神供番たちは目を見開いた。
シャル「ぎ、ギール!なにしてるのだ!?早く離すのだ!」
焦ったシャルがギールに飛びかかり、右手を加茂の胸から剥がした。
すると男の子と思っていた加茂に程よい胸が現れた。おそらくさらしを巻いていたのだろう。
加茂はショックからかその場に腰をついた。
まさかの男の子ではなく、雄の子であった。
シャル「か、加茂‥お、お主、女だったのか!?」
加茂「うぅ、ふえーん!」
女の子だと隠していたのか、加茂はその場で泣き崩れた。
神供番「い、いかん!加茂様!お守りしろ!」
神供番「加茂様!お気を確かに!?」
神供番たちが一斉に加茂のまわりを固めた。
ギール「な、何するんだよシャル?」
シャル「う、うるさいのだ!い、今ギールのせいで大変なことになっているのだ!」
ギール「えぇ!?お、俺のせい!?」
神供番「貴様ら‥加茂様になんてことを!」
神供番「加茂様の胸を揉みしだくとは‥万死に値するぞ!」
神供番「どのみち‥知ったからには死んでもらうがな。」
二十人の神供番が刀を抜き再び二人を囲んだ。
見えないギールでも感じる神供番の殺気に訳も分からず警戒している。
そして逃げるには難がある展開に万事休すである。
シャル「くぅ‥まさかこんな展開になるとは。」
ギール「お、おい、何だこの殺気は‥何が起きてるんだよ!?」
シャル「刀を持った男に囲まれてるのだ。」
ギール「お、おいおい‥まじかよ。」
シャル「もしかしたら、生きては帰れぬかもなのだ。」
ギール「うぐっ、そ、それも俺のせいか?」
シャル「うむ、ギールが加茂の胸を何回も揉みしだいたからなのだ。」
ギール「む、胸!?じゃあ、あの感触って‥。」
神供番「そこの駄犬!口を閉じろ!」
一人の神供番が斬りかかると一斉に襲いかかってきた。
シャル「くっ、やむ終えないのだ!はぁぁ!」
神供番「ぐはあっ!?」
神供番「どわぁ!?」
シャルは魔王の力を解き放ち、神供番たちを吹き飛ばすと、すぐにギールの背中に乗った。
シャル「ギール!今なのだ!」
ギール「お、おう!?そ、それよりどこへ!?」
シャル「取りあえずどこへでもなのだ!」
ギールとシャルは逃げるように去っていった。
神供番「くっ、逃がしたか。こうなれば半数に分かれてあの二人を追うのだ!」
神供番「はっ!」
神供番「加茂様、お怪我はありませんか?」
加茂「‥大丈夫です。」
加茂の表情は暗かった。
女とばれたことと、胸を何回も揉まれたこと。
そして神供番に捕らわれたことなど、色々有りすぎて整理できない状態であった。
神供番「‥加茂様、このお祭りに恐怖を感じておられることはわかっております。しかし、これも神としての定めです。我らの祖先"神武天皇"のご子孫もおられます。何卒‥何卒‥。」
加茂「‥わかりました。定めに‥従います。」
神供番「‥では、まず突撃を受けた八軒へ赴き、儀を終わらせ神輿に参りましょう。」
観念した幼き神様は、その重い足取りで祭りへと向かった。
その後、彼女が初めて女として感じた感覚に毒されるとは‥誰も予想もつかないことであった。