第百三十八話 新井田祭り編(2) トラブル祭
新井田祭りが始まり先頭集団が出発し始める頃。ギールはまだシャルを捜索していた。
ギール「はぁはぁ、始まったか。くんくん、くっ、やっぱり人が多すぎて匂いがわからない。全くどこ行ったんだよ。」
ギールは手当たり次第探していると、
神社の縁の下を除き込んでいるシャルを見つけた。
ギール「こら!シャル!何してるんだ!」
シャル「ぬわっ!?あたっ!?」
ギールの声に驚きシャルは頭をぶつける。
シャルの痛がる素振りを無視して、ギールは早々に引きずり出した。
ギール「全く、何してるんだよ。」
シャル「うぅ、いてて、いきなり大声で呼ぶのはよくないのだ!」
ギール「うるさい!小頼の所に行けと言ったのにここで何してるんだよ。」
シャル「そ、そうなのだ!小さな男の子が縁の下に隠れて出てこないのだ!」
ギール「男の子だ?ふーんどれどれ?」
一瞬嘘かと思ったが、表情と声のトーンから察するに嘘ではなさそうだ。
ギールは半信半疑で縁の下を覗こうとすると、シャルに尻尾を握られる。
シャル「ま、待つのだ!」
ギール「いたた!?な、なんだよ?」
シャル「その男の子は怖がりなのだ!いきなりギールが顔を出したら怖がるであろう!」
ギール「そ、そうか。でも、時間がないぞ?」
シャル「ま、任せるのだ!余が華麗に説得して引きずり出すのだ。」
言い方に難はあるが、実際シャルの優しさを感じる。
シャルは縁の下に潜り込み、その男の子の元へ向かった。
シャル「よっとよっと、お主そのままそこに居れよ?今、余が行くからな。」
?「うぅ‥こ、来ないでください‥。ぼ、僕はもう、あの神輿に入りたくないんです。」
男の子が目をそらした隙に、シャルは魔空間を活用して男の子の目の前まで瞬間移動した。
シャル「よっと、捕まえたのだ♪」
?「はわわ!?は、離してください!?」
シャル「こんな天気が良い日に引き籠るのは良くないのだ!」
?「よ、余計なお世話です!?今日だけは外には出たくないんです!」
シャル「どうして嫌なのだ?外では祭りとやらでみんな楽しそうにしてるのだ。」
?「た、確かにお祭りは楽しいけど‥だけどこのお祭りだけはもう嫌なんだよ。」
シャル「なぜ嫌なのだ?」
?「そ、それは‥去年のお祭りで初めて神輿に乗れたんだけど‥ひどい目にあって‥。」
シャル「ふむぅ、お主体が小さいのにあの神輿とやらの上に乗ったのか?」
?「い、いえ‥えっと‥乗ったと言っても上じゃなくて、中と言うか。」
シャル「ふむぅ、良くわからないが振り落とされたとかしたのだろう。でも、それなら神輿に乗らなきゃ良いだけなのだ!」
?「‥で、でも‥神供番が僕を探してるし‥見つかったら神輿に乗せられちゃうよ。それに、このままやり過ごせば、ここの神様の役から離れうわっ!?」
話の途中であったが、シャルは男の子の腕を掴み外に出そうとする。
シャル「むぅ、魔王たる余の行為を無下にするとは生意気なのだ。こうなれば強引に連れ出すぞ!」
音楽の授業で学ぶ"魔王"を連想させるような強引ぶり。シャルは、魔空間を開き有無を問わず外に連れ出した。
ギール「ん?帰って来たか。例の男の子は見つかったか?」
シャル「何を言ってるのだ?ここに居るではないか?」
ギール「はっ?どこにいるんだ?」
シャル「ま、またまた~♪余をからかってるのだな?」
ギール「いや‥まじで分からないのだが。」
話が噛み合わない二人。
ギールにはシャルが連れてきた男の子が見えていないのだ。
?「み、見えるわけないよ‥。僕の姿は普通の人には見えない。お姉ちゃんが少し特殊だから見えるんだよ。」
シャル「と、特殊?それは余が魔王だからか?」
?「まおう?よ、良くわからないけどたぶんそう。」
シャル「ま、魔王を知らぬのか!?」
?「う、うん。」
独り言を話す不可解なシャルに、ギールは睨むような感じでシャルの目先辺りを見る。
すると偶然にも男の子と目が合った。
?「ひっ!?」
シャル「こらギール!?何してるのだ!」
魔空間からハリセンを取り出しギールを叩く。
ギール「あいたっ!?な、なにするんだ!」
シャル「こんな小さな子を睨むとはなに考えているのだ!」
ギール「い、いや見えないから、見えるように試行錯誤をだな!?」
シャル「だとしても睨んでどうするのだ!」
?「うぅ。」
男の子はシャルを盾にして怯えていた。
シャル「大丈夫なのだ。お姉ちゃんがしっかり守ってあげるのだ!」
ギール「俺は悪者かよ‥。それより、こうも見えなくては周りから不審に思われるぞ?」
シャル「ふむぅ、それは嫌なのだ。」
?「‥あ、あのそれなら縁の下に戻っても。」
シャル「それはダメなのだ!」
?「ど、どうしてですか~!?このまま神供番に捕まったら神輿に乗せられてしまいますよ!?」
シャル「安心するのだ!余が守ってやるのだ!」
?「か、神の使いですよ!?さ、逆らっては大変な事に‥。」
シャル「神の使い?なんじゃお主?神か何かか?」
おいおい、いきなり話がでかくなったな!?
まあ、相手が神様なら見えないのは納得だけど、よりによってシャルに目をつけられるとは不幸な神様だな。
さて‥これから俺はどうしようか‥。
兄として見過ごせないし‥
あぁ、完全に巻き込まれてるなこれ。
ギールは本能からこの先の不穏な展開を覚った。
?「‥う、うん‥僕はこれでも神様だよ。でも、神様になって一年くらいしか経ってないけどね。」
シャル「ふむふむ、と言うことは成り立てと言うわけだな!」
?「‥そ、そうだね。うぅ、(このお姉ちゃん、僕が神様と分かっても自分のペースを崩さない‥。まおうとか言ってたけど‥凄い心の持ち主だ。)」
シャル「ねぇねぇ!お主の名前はなんと‥。」
その時シャルと男の子にしか聞こえない声が響く。
神供番「あっ見つけましたぞ!皆の者!加茂様を見つけたぞ!」
?「はわわ!?神供番だ!?」
シャル「なぬ?あれが‥神供番?」
平安時代風の高貴な和服を着た男たちが、こぞって集まってくる。
シャル「ギール!屈むのだ!」
ギール「えっ?」
シャル「早く!」
ギール「お、おう。」
ギールは言われるまま屈みシャルと男の子を担いだ。確かにいつものシャルより少し重く感じた。
シャル「よし!余の言う通り走るのだ!」
ギール「はぁ!?今度は走れだと!?」
シャル「急ぐのだ!」
ギール「ちっ、端から見たら不審者だっての!」
ギールは取りあえず走った。
神供番「あ、お待ちを!?」
神供番「あの者、加茂様が見えるのか!?」
神供番「そんなことより早く捕まえるぞ!」
理由も分からず走らされるギールは、
シャルと男の子の鬼ごっこに捲き込まれたのだった。