第百二十三話 神輿に立つ者
毎年六月に開かれる新井田祭り、別名神輿突撃祭りが六月十六日に開かれることになった。
大まかなプログラムは、
神盟宮神社から大規模な大名行列に続いて、後ろから若者(学生)が担ぐ暴走神輿、最後尾には太鼓と笛を奏でる奏者らが、一日かけて街をまわり神社に戻り、神輿を神社にぶちこむ内容である。
そしてここ春桜学園の二年一組では、
昼休みを有意義に楽しむ桃馬と憲明が新井田祭について話していた。
桃馬「もうすぐ新井田祭りだな~♪すげぇ楽しみだ!」
憲明「見てる分だとな‥桃馬は今年は神輿かそれとも守護か??」
桃馬「まさか~♪今年も兵役だよ♪」
憲明「運がいいな~、俺なんか去年大変だったよ。」
桃馬「楽しそうに神輿突撃してたのにか?」
憲明「はぁ、その際に起きる取っ組み合いだよ。まあ、あの時は勝ったからいいけどな‥。」
桃馬「まあ、新井田祭りあるあるだな。」
二人が話していると、購買部に行っていたジェルドが血相を変えて戻ってきた。
ジェルド「と、桃馬!?」
この第一声で嫌な予感を感じた桃馬。
しかし、聞かないのもあれなので一応聞いてみた。
桃馬「な、何かな?」
ジェルド「はぁはぁ、さっき購買部で再来週に開かれる新井田祭りのポスターを見たんだけど‥桃馬おまえ、神輿役をやるのか!?」
桃馬「‥えっ?えっ、いや、やらないけど。」
身に覚えのないことに、桃馬はポカンとしている。
ジェルド「で、でもよ‥学園参加の中に桃馬の名前があったから‥。」
桃馬「な、なんだって!?」
桃馬は急いで購買部へと走った。
憲明「俺も見てこよ~。」
ジェルド「あっ、待ってくれよ!?」
そして購買部へ
桃馬「ほ、本当だ‥‥の、乗ってる‥。お、おれ何も聞いてないぞ‥。」
憲明「うわぁ~、しかも危険ポジの前線列だな。」
ジェルド「それと守護役が‥二年三組‥あと自由参加者‥。」
桃馬「じょ、冗談じゃない!?去年よりヤバイって!?」
憲明「唯一の救いが‥神輿役がギールと京骨、微食会の半数‥あと聖籠先輩‥おぉ、意外にも志道とジレン、スザクもいるじゃないか。」
ジェルド「な、何!?ギールだと!」
桃馬「お前はそこを気にするのかよ‥それにこれのどこが救いだよ!神輿役が微妙じゃないか!」
ジェルド「桃馬!なら俺もやるぞ!」
桃馬「‥一人であの危険集団に勝てるとでも?」
ジェルド「‥む、無理だけど、それでも力にはなれるぞ!」
尻尾をブンブン振り回しアピールする。
桃馬「‥はぁ、あまりこの毛並みを汚させたくはないんだけどな~。」
ため息をつきながらしゃがみ込むと、ジェルドのもっふもふの尻尾をもふる。
ジェルド「わふっ♪くぅーん♪」
憲明「相変わらずバカップルだな‥。」
最近徐々にエスカレートするコミュニケーションに引き始める憲明であった。
そんな時、機嫌の良いシャルが歩いてきた。
シャル「ふんふーん♪おぉ!祭りとやらのポスターが貼られておるな~♪」
憲明「おぉシャル?珍しく一人か?」
シャル「むふぅ~ん♪祭りのポスターが今日から貼られるって聞いたからな♪」
憲明「えっ?もしかしてこれを一人で作ったのか?」
シャル「まさか一人ではないのだ。時奈たちと共に仕上げたのだ♪」
憲明「へぇ~、いつの間に作ってたんだよ。ん?なあ、シャル?」
憲明は"まさか"と思いシャルに訪ねた。
シャル「ん?どうしたのだ?」
憲明「この人選なんだが‥。」
シャル「おぉ~♪祭りなら主役が必要だろ?桃馬がいないのは変と思い余が加えておいたのだ!しかも先頭だぞ!」
主犯者発見。
桃馬に知らせが来なかったのは、途中でシャルが追加したせいであった。
憲明「‥シャル、このことは桃馬に言うなよ?」
シャル「どうしてなのだ?祭りの主役を飾れるのだぞ?喜ばしいことではないか?」
いや主役でも喜べないし、もはや桃馬に取っては罰ゲーム‥いやバチが当たるから止めておこう、とにかく桃馬に気づかれる前に口を塞がないと。
憲明「と、桃馬は恥ずかしがり屋だからね~。持ち上げる行為はやめた方がいいよ♪」
シャル「ふむ、それもそうか~。でも、ポスターの出来映えが良くて安心したのだ~♪それじゃあな~憲明~♪」
シャルの余計なサプライズ告白を阻み、無事隠蔽に成功した。憲明は今年こそは、私的な思いを込めて桃馬を神輿役にさせようとするのだった。
しかし‥。
桃馬「よーし、こうなれば放課後時奈先輩に聞いてみるぞ!」
ジェルド「時奈先輩ならことの次第がわかるかもしれないな!」
早くも神輿役白紙の危機が訪れた。
憲明「ま、待て待て!?今不満を言っても、参加簿は今頃役所に提出してるだろうし変更は厳しいと思うぞ?」
桃馬「うぐっ、憲明‥やけに積極的に諦めさせようとするな‥。何か関与したか?」
憲明「ま、まさか~、俺は生徒会の息はかかってないし。」
ジェルド「‥推薦したとかは?」
憲明「ないない、去年あんな目に遭ったのに大切な友人を推薦できるかよ。」
桃馬「でも、抗議も薦めないんだよな?」
憲明「うん。」
から返事で返すと桃馬とジェルドは疑いの目で見始める。
桃馬「どう思うジェルド?」
ジェルド「憲明がから返事する時は大半隠し事をしてる時だけど‥な。」
憲明「いやいや~♪俺もこの件で動揺してるだけだって~♪」
桃馬「ふぅ‥まあ、放課後になればわかることだ。もし、関与してたら‥どうしようかな。」
ジェルド「うーん、憲明に見合った仕置きが思いつかないな。」
桃馬「うーん、リフィルに託すか。」
憲明「あ、あはは‥そこまで考えなくても。」
そして、放課後になると桃馬らは早々に部室へ駆け込み時奈に事の次第を聞いてみた。
時奈「えっ桃馬が神輿役に?おかしいな‥桃馬は確か選ばれてなかったと思うが‥。」
桃馬「で、でも、ポスターには俺の名前がありましたよ!?」
念のため一枚ポスター剥がした物を見せる。
時奈「た、確かに‥どこで間違えたのだろう。桃馬には別の役に回してたはず‥。」
時奈は生徒会室へ向かい資料を探しに出た。
どうやらシャルが勝手に追加したようだ。
そうなればシャルが口を緩まない限り大丈夫そうだ。でも‥別の役ってなんだろう。もしシャルがそれを消してなかったら‥少しまずいかも。
桜華「そんなに危険な役割なのですか?」
憲明「まあ、大戦乱祭よりは安全だと思うけど。神輿役の前線列は怪我をしやすいんだよ。」
桜華「‥えっと、物に当たるとかですか?」
憲明「それもあるな。暴走し過ぎて家に突っ込んだり、最後に神輿を神社に入れるときは人とぶつかり合いだしな。それに、ものすごく疲れる。」
桜華「面白そうですね!」
憲明「見てる側だとな。やってる側は大変だよ。」
桃馬に気取られないように慎重に言葉を選んだ。
桃馬「うーん、じゃあ‥本当に手違いなのかな。」
ジェルド「だろうな、桃馬は別の役って言ってたし上手くいけば外れるんじゃないか?」
桃馬「おぉ!それは期待だな!」
一筋の希望が見えるとウキウキ気分で時奈を待つ。
数分後
時奈「やあ、待たせたね。」
桃馬「待ってました!」
時奈「すまない、こちらの手違いで二役つけてたみたいだ。」
桃馬「な、なるほど~♪ということは、もう一つの方が俺ですね!」
時奈「うむ、これはシークレットなんだが、桃馬なら受けてくれると思ってたんだ。」
桃馬「し、シークレットって、そんな大役‥俺でいいのですか?」
時奈「うむ、桃馬にしか頼めない案件だ。」
桜華「す、すごい桃馬!大抜擢だね!」
ジェルド「おぉ!なんかわからないがすごいな!」
桃馬「な、なんか照れるな‥それよりシークレットってなんですか?」
時奈「うむ、これなんだが。」
時奈は机の上にシークレットの企画書を見せる。
そこには‥。
"三角木馬暴走イキり神輿"と書いてあった。
桃馬「‥なんですかこれ?」
時奈「うむ、これは一部の女子からの要望で三角木馬に‥。」
桃馬「神輿役謹んでお受けます!」
題名を見るや否や、即誤った神輿役に手を上げた。
ジェルド「と、桃馬!?」
時奈「ふぇ!?引き受けてくれないのか!?」
桃馬「あ、当たり前ですよ!な、何が三角木馬がシークレットですか!そんなの罰ゲームじゃないですか!?」
時奈「‥し、しかし‥学園の四割近くの女子の意見なのだが。」
桜華「桃馬って、学園の女の子に嫌われてるのか‥それとも求められてるのか分からないですよね?」
桃馬「俺なんか悪いことしたかな?」
時奈「ちなみに鞭役をジェルドだ。」
ジェルド「‥桃馬、多分俺‥この企画を思い付いた犯人わかった気がする。」
桃馬「奇遇だな‥俺も今ちょうど二人思い付いた。」
ジェルド「じゃあ、二人言うか‥せーの」
ジェルド&桃馬「小頼と映果。」
だよな~。
しかも、主犯は二人と言うことは小頼商会絡みの悪行であると考えられた。
すなわち、ここで何を企てようとも妨害されることは目に見えていた。
憲明「‥完全に立場逆転お仕置きプレイだな。」
桜華「ごくり、立場逆転‥。」
ジェルド「桃馬やろ!」
桃馬「誰がやるかよ!?」
助け船と思ったシークレットに裏切られ、桃馬は渋々シャルが仕込んだ神輿役にまわるのであった。
結局シークレット企画は、
後から部室に入ってきた小頼を尋問し、強引に白紙にしたと言う。