第百十九話 帝都ノ変(27) 愚策と未来
四星将グリード・マドリード率いる亜種族軍は、シャル派亜種族を取り入れたリブル公国連合軍の同士討ちを謀った。
謀略は見事成功し、亜種族の死傷者は出なかったものの、公国兵と義勇軍に大打撃を与えた。
グリードはこの機に乗じて愚かにも"怒りに満ちた龍"へ向けて攻勢に出るのであった。
亜種族「きひひ!皆殺しだ!」
亜種族「お前ら!女を見つけたら間違っても殺すなよ?大切な戦利品になるんだからな!」
本能を剥き出しにして攻め来る様子は、もはや野盗と変わらない。
もはや、情けをかける価値はなし。
亜種族軍先方に突如魔空間が出現し、そこから連合軍が怒濤の勢いで奇襲を仕掛けた。
亜種族「なっ!?ぐはっ!」
亜種族「ぐはっ!?」
亜種族「ま、魔空間だと‥ぐはっ!」
先頭部隊を軽く蹴散らすと、妖艶姿のシャルが前に立ち、女帝魔王らしく高らかに名乗り出た。
シャル「お主ら聞け!余は魔界八代目魔王シャル・イヴェルアである!お主らに勝ち目はない!大人しく降伏せよ!」
カリスマ溢れる魔王の前に、親王派の亜種族たちは動揺した。にわかに信じがたい光景だが、伝承通りの容姿と魔力に信じる他なかった。
学生たちの多くも、いつものほのぼのしい"なのだ"っ子の面影がない彼女に惚れ惚れした。
亜種族「お前ら落ち着け!これはチャンスだぞ!伝説の魔王がこんな風にのこのこと名乗り出たのだ!ここで殺し親王派を‥‥を‥。」
ハイオークの分隊長が、突然言葉を詰まらせるとそのまま前に倒れ込み首が転がった。その後ろには黒い毛並みを逆立て狼の様に睨むギールがいた。
ギール「‥妹を‥殺すだと。」
狼の殺気に戦意を挫かれる先頭部隊は思わず武器を落とす。すると、晴れた空から黒雲が現れ広範囲に落雷が落ちる。
先頭亜種族らは全員が丸焦げになり、連合軍側はシャルのバリアーによって守られた。
桃馬「や、やば‥。」
桜華「あ、あはは‥シャルちゃんがいなかったら死んでましたね。」
憲明「‥げ、現に相手は焦げてるからな。」
小頼「わ、私の比じゃないですね‥。」
リフィル「あ、相手は大魔法使いかも‥。」
まじの魔法に度肝を抜かれる現実世界出身の学生たち。魔法が使えない多く学生たちが魔法を羨んだことは言うまでもない。
黒焦げの亜種族を足蹴にして四星将グリード・マドリードがシャルに迫った。
グリード「‥ククク、お久しぶりですね。シャル陛下。」
シャル「ふっ、お主も相変わらず血も涙もないな?」
グリード「当然‥。それが私の美学ですから。」
リヴァル「何が美学だ‥この親王派の犬が。」
アイシュ「‥シャル様は私たちがお守りします。」
グレードが近寄ろうとするとリヴァルとアイシュが剣を構えて前に出る。
グリード「おやおや、リヴァルとアイシュじゃないか。無事で何よりだ。」
リヴァル「白々しいぞグレード!俺たちを殺して派閥統一を図ろうとしただろう!」
アイシュ「徳川と手を組んで‥ゲドゥルムを殺しておいて。」
グレード「酷い言い草ではないか?ゲドゥルムを殺したのは徳川家時だ。そして我らは仇として殺したと言うのに‥あんまりではないか?」
アイシュ「な、なんだと‥?」
リヴァル「そんな嘘‥信じれるかよ。」
グレード「ふっ‥これでどうだ?」
魔空間から老いぼれた徳川家時の死体を取り出し投げ捨てた。
アイシュ「っ、た、確かに‥。」
リヴァル「‥徳川だ。」
グレード「これでわかったかな?シャル様‥私めは親王派と言っておりますが‥実はシャル派なのですよ。」
シャル「ほう‥。」
怪しくも距離を詰めるグレードに、
腐った悪人は最後まで悪人。
悪人は約束を守らない。
悪人を信用する馬鹿はいない。
という、創作悪人三原則を知る桃馬たちは、普通に刀に手を置いて斬りかかろうとしていた。
くせぇ芝居だ。
近寄って不意打ちだろ?
悪人あるあるだな。
マッチポンプを利用しやがって。
悪意のある気が漏れてますね。
など、桃馬たちの心の中で大炎上していた。
距離を詰めると案の定掌を返した。
グレード「ふっ、バカめ!死ねシャル!」
剣で斬りかかれば良いのに、ゼロ距離魔法を繰り出そうとした。もちろん不発だった。
グレード「っ!な、なぜ‥なぜ爆炎魔法が使えぬのだ!?」
シャル「‥愚かな者だ。私もこんなのであったと思うと情けない‥。」
グレードが魔法が使えない理由‥。
それは星野仁による妨害魔法であった。
魔法使いにとって天敵上級魔法、相手が無詠唱でも人為的に低コストで操作できる"マジックキラー"と言われる最低魔法である。
動揺するグレードに対して桃馬らは四方八方から刀や銃などを突きつけた。
更に束縛魔法をかけられ絶体絶命である。
グレードの配下は連合軍と睨み合い、助けようにも動けない状態であった。
シャル「さて‥グレードよ。我らは先の謀略ではらわたが煮えくり返っているのだが‥やるか?」
グレード「っ!」
グレードの肩に手を置き、憎悪に満ちた声で問うと、グレードはその場に崩れ落ちた。
シャル「‥アイシュ、リヴァル捕らえろ。」
アイシュ&リヴァル「はっ!」
シャルの命令でグレードは何も出来ずに捕らえられた。これにより配下も次々と武器を捨て降伏。その後戦線を一時退いたゴリ・ゴリポンの元にシシキ討死、スカラ、グレード捕縛の報が入ると、全軍撤退を発令した。
ゴリは亜空間を開き、生き残った亜種族を集め離脱させた。
しかし、ゴリだけは止まった‥。
あの男との決着をつけるために‥。
その後リブル公国連合軍は帝都連合軍と合流。
グレードとスカラの身柄は帝都へ引き渡った。
アイシュ「シャル様‥これで良いのですか?」
リヴァル「そうです!奴らの裁きは我々でしなくては‥。」
シャル「‥余にその資格はない。長い間眠りにつき魔王の責務をスッポかしていた余に‥裁く資格などないのだ。」
徐々に妖艶な姿からいつもの小さな姿へと戻っていった。
リヴァル「‥で、ですが‥。」
シャル「今の帝都なら心配は入らないのだ。のう、シルバーよ?」
グレードとスカラと入れ代わるように、帝都グレイム国王シルバーが中田栄角と共に現れた。
シルバー「‥伝説の魔王陛下にお会い出来たこと光栄であります。」
シャル「頭を上げるのだ。今の余は魔王ではないのだからな。」
シルバー「恐れ多い、此度の戦はシャル様のお力も‥。」
お固いシルバーに中田は敢えて首を突っ込んだ。
中田「失礼陛下、固い話は無しにしましょう。彼女はシャルと言う少女なのですからな。」
シャル「うむ、お主は話が分かるのだ!」
シルバー「少女か‥なら、後ろの二人は‥友と言うことだな?」
アイシュ「なっ‥!?」
リヴァル「っ!」
シャル「そうなのだ♪だから、この二人‥いや、連合軍についた亜種族全員安全なのだ♪」
かなり無茶のある言い分にシルバーと中田は笑った。
中田「さすが、話に聞いていた通りの子だな。」
シルバー「うむ、これを皮切りに長きに渡って繰り広げられたこの戦を終らせたいものだ。」
中田「亜種族との共存‥長い道のりかもしれませんが、今は大きな一歩を踏み込むチャンスですね。」
シルバー「そうだな。一段落がついたら各国の王に呼び掛けて大会議を開くとしよう。世界情勢を見直す必要がある。もちろん中田も出席してもらうぞ。」
中田「うっ‥かしこまりました。」
これにより、異世界と現実世界の絆が崩壊すると思われた帝都ノ変(帝都攻防戦)は、呆気なく連合軍の勝利で終結した。その後各地に散らばった亜種族軍も各義勇軍と各国軍の前に壊滅し再び一時の平和が訪れるのであった。