第百十八話 帝都ノ変(26) 反攻と愚策
二回に渡って大攻勢を仕掛けるもことごとく失敗した亜種族軍。もはや風前の灯だとも気づかない四星将グリード・マドリードは、リブル公国連合軍と対峙しようとしていた。
グリード「‥あのような少数にスカラは破れたのか。」
亜種族「も、申し上げます!グリード様大変です!敵軍に討ち損じたシャル派の一隊がいます!」
グリード「な、なんだと!‥バカな‥信じられない。まさか、亜種族であるシャル派を受け入れたと言うのか。」
グリードが驚くのもそのはず、今まで亜種族と多種族は忌み嫌い合い争う仲だ。それがすんなり受け入れるなど到底考えられない。
亜種族「もしかしたら、魔族と偽ってる可能性があります。ここは同士討ちを狙い匿っている一隊が亜種族だと知らしめてやりましょう!」
グリード「それは良い案だな‥よし、早々に取りかかれ!」
亜種族「はっ!」
グリード「ククク‥さて‥見物だな。」
同士討ちに期待を込め、不適に笑い戦場を眺めた。
一方、リブル公国連合軍では‥。
その不適に笑うグリードを双眼鏡で覗いていた。
シャル「グリードめ‥よからぬことを考えてるのだ。」
桃馬「うわぁ‥あんな顔するやつ本当にいるんだな。」
桜華「‥少し引きますね。」
憲明「‥いつまで眺めてる気だろう。」
リフィル「‥意外と風景好きとか?」
小頼「あー、確かに向こうの方が高いもんね。」
桃馬「いやいや‥絶対に良い眺めじゃないだろ。」
桃馬の言うとおり、まわりを見渡せば黒煙が立ち上る焦土。世辞でも良い眺めとは言えないだろう。
一方でリヴァルとアイシュは、双眼鏡を大絶賛していた。
リヴァル「こ、これは‥す、すごいアイテムだな。」
アイシュ「え、えぇ‥魔力も使わないで遠くがこんなに見えるなんて‥。」
シャル「異世界に来れば、まだまだ不思議な物は多くあるぞ?」
アイシュ「‥本当ですか!?」
リヴァル「‥うーん、ゲドゥルムにも見せてやりたかったな。」
シャル「リヴァルよ。過去を引きずりすぎるな。」
リヴァル「は、はい‥すみません。」
未だに過去を引きずるリヴァルに注意を促すが、やはり友の死はそう簡単に剥がれるわけではないようだ。
リグリード「さてと‥相手は魔法の長けている。どう戦うべきか。」
リール「先手必勝っと言いたいですが、下手に前に出れば殺られますからね‥。」
エルン「あの~。それより直人はどこに行ったのでしょうか?」
エルンの咄嗟に出た一言は、まわりの男子たちの表情を強ばらせた。
褐色美女のアイシュに会わせないように、近藤尚弥の隣で磔にされていた。
直人「まさか‥尚弥も張りつけとはな。誰に迫ったんだ?」
近藤「迫った訳じゃないよ‥むしろ不可抗力だ。それより、直人は自棄に冷静だな?」
直人「‥まあ、磔にされても殺されるわけじゃないからな。てか、むしろ俺の方が磔にされる意味がわからない。」
近藤「‥ハーレム撲滅委員会の規約に引っ掛かったとか?嫁が四人だっけ?」
直人「規約は守ってると思うんだけど‥。」
近藤「えっと、学生じゃない大人と付き合ってることじゃないか?リグリードさんのツケが回ってきたとか。」
直人「えぇー!それは‥えぐいだろ。」
近藤「あるいは‥アイシュさんと会わせないためか。」
直人「アイシュ?誰だその人?」
近藤「なんだ知らないのか?亜種族の褐色美女だよ。」
直人「へ、へぇ~褐色美女‥か。」
近藤「‥その反応で何で縛られてるのかわかった気がするよ。」
直人「‥‥俺も、わかった気がする。でも、あんまりだろ!?俺はこれ以上嫁を作る気ないのに!?」
近藤「ばか言え、そう言う奴ほど増やすんだよ。特に直人は発言した真逆のことが結果に出るんだから。」
直人「うぐ‥確かに‥。」
近藤「取りあえず、大人しくしてよう。やばくなれば、ほどいてくれるだろうしな。」
直人「‥賛成だな‥。」
二人は諦めて解放されるのを待つのだった。
この後、縛られながら激戦に巻き込まれることも知らずに。
桃馬たちはグリードに注目する中、微食会たちは亜種族軍から飛翔する亜種族に注目していた。
大西「ん?また何か飛んできたぞ?」
渡邉「あぁ、如何にも何か言おうとしてるな‥。」
茂野「あれ‥拡声器か?なんであんなの持ってるんだ?」
星野「拡声器に似た魔具じゃないか?」
本間「もしかして誰かに告白するのかな?」
渡邉「愛してるぜべいべー!みたいな?」
本間「それは蒼喜だけだと思うよ。」
相変わらず口を開けば終わらない会話にエニカはツッコむ。
エニカ「呑気に話してる場合じゃないですよ!きっとアイシュさんたちのことをばらしてこちらを混乱させる気ですよ!」
藤井「えっ?混乱ってあっ‥そうか。公国兵には厳禁だった。」
微食会七人「あっ‥。」
重要事をすっかり忘れていた。
もし、アイシュとリヴァルのことを知らされたら、同士討ちが始まる可能性がある。
渡邉「大西!急いで撃ち落とせ!」
大西「ま、待て!今やる!」
大西は単発銃を構えて発砲する。
しかし、弾が外れたのか。
飛行している亜種族はピンピンしていた。
大西「あ、あれ?」
渡邉「は、外した!?」
藤井「ど、どうした大西!?」
まわりが動揺するなか、大西はあることを思い出したのか酷く悔しがっていた。
本間「おい、どうした大西!?」
高野「悔しかったか?」
大西「あぁ~ちくしょ!弾入れてなかったかも。」
藤井「お、おぉ‥まじかよ。」
エニカ「ま、まずいですよ‥これは。」
まさかの装弾ミスであった。
旧式の銃のため、一発撃ったら銃口に弾を入れないとだめなのだ。
特に装弾を後回しにしていると、こう言う事が起こるので注意が必要だ。
発砲音に反応して桃馬たちも振り向く。
だが、試し撃ちかと思ってスルーしてしまった。
そして、亜種族のお伝えが始まる。
亜種族「貴軍の方々にご忠告を申し上げる!そなたらが、匿っている魔族は亜種族である!殺される前に排除することをおすすめいたす!繰り返す!そなたらが、匿っている魔族は亜種族である!殺される前に排除することをおすすめいたす!」
亜種族の声はリブル公国連合軍全体に広がった。予想通り魔族として見ていたリブル公国兵は動揺し、一人が武器を構えると次々と連鎖していき目の色を変え始めた。
男子「お、おいおい!?こいつら何してるんだ!?」
女子「ま、まずいは‥公国兵たちが敵視し始めてるわ。」
公国兵「お、お前らそこをどけ!」
公国兵「そ、そいつらは亜種族だよ!敵なんだよ!?」
奏太「落ち着けよ!あんな見え透いた策に引っ掛かるな!」
海洋「そうだ!ここで争って喜ぶのは相手だぞ!」
公国兵「だ、黙れ!子供の分際で指図するな!」
公国兵「‥亜種族を庇うと言うことは、公国に対する裏切りだ!」
公国兵「姫様をお救いするぞ!」
公国兵「おぉ!!」
まんまとグレードの策にはまった公国兵は、義勇軍と亜種族に向け攻撃を仕掛けた。
男子「やむ終えないか‥。エニカ姫には悪いが‥バカに効く薬はない!いくぞ!」
義勇軍「おぉぉ!!」
奏太「おい、バカ!お前らもやめろ!」
海洋「ちっ‥もうだめだ。やるしかない!」
奏太「‥この‥大ばか野郎が!」
一部で激戦になるなか、
公国軍指揮官であるエニカは微食会らと共に暴走した公国兵を急いで止めにかかった。
前線にいた桃馬たちも騒ぎに気づいて激戦区に向かうも、公国兵の死体があちらこちらと倒れていた。
奏太「回復魔法が使える人は負傷者を手当てしてくれ。」
海洋「‥愚かな者たちだな。」
奏太「‥最悪な展開だな。こちらの死者はいないようだけど怪我人が多い。攻められたらひとたまりもないぞ。」
海洋「‥だろうな。」
最悪なシナリオを考えていると桃馬たちと合流した。
桃馬「奏太!海洋!無事か!」
桜華「こ、これは‥。」
リグリード「‥あまり見ない方がいい。」
亜種族とはまた違い、人の死体をより残酷に見えた桜華にリグリードは前に立ち遮断した。
奏太「なんとかな‥公国兵が弱くて助かったよ。」
海洋「桃馬、悪いが前線に戻って警戒してくれ。今攻められたら壊滅するかもしれないからな。」
桃馬「‥わかった。」
アイシュ「‥すまない。私たちのせいで。」
リヴァル「‥‥やはり、加わるべきではなかった。」
シャル「二人たちのせいではない‥。」
憲明「そうです‥これは人間‥いや、生きし者が持った穢れの結果です。」
奏太「憲明の言うとおり、それに公国兵は俺たちに刃を向けた‥俺たちは士道に則り返り討ちにしただけです。」
全力でアイシュとリヴァルを庇う。
その後、エニカたちが駆けつけると愕然とする。
エニカ「間に合いませんでしたか‥。」
渡邉「‥彼らも相手が悪かったな。」
番場「よりによって三組と殺り合うとは‥。」
微食会らは一斉に合掌した。
しかし、エニカは強く握り拳を作り、憤りを露にした。
エニカ「‥相手は卑劣です。私は到底許すことはできません。」
近藤「その怒り‥矛先を間違えてはダメですよ。」
直人「怒りは人を狂わす素ですからね。」
磔にされていたはずの尚弥と直人も合流し声をかけた。二人の登場にまわりはどよめき、エニカは呆然とした。
エニカ「‥え、えっと、尚弥、直人さん。どうして、半裸なんですか?」
おそらく同士討ちの際に何かがあったのだろう。
上半身裸で下半身はボロボロ、原始人みたいな格好になっていた。
直人「‥何かに引っ掛かって。」
近藤「一気に破れた。」
笑ってはいけない空気なのに、
多くの者が口元を震わせる。
半裸の二人は、
追い討ちをかけるかのように不思議な踊りをし始める。
リール「あはは!直人何してるんだよ~♪」
エルン「こ、こりゃりーりゅ‥わらっふぇは‥ふふっ!」
渡邉「あはは!バカだなおまえら!」
桃馬「‥お前らふざけてる場合じゃないんだぞ!?」
エニカ「‥こ、こんなところで、ふふっ、笑わせるなんて‥不謹慎すぎ‥ふふっ。」
近藤「まあ不謹慎かもしれないけどバカの供養にはちょうどいいだろ?」
直人「そうそう、死んだバカも笑って逝くだろうよ。そして、供養が終わったら‥親王派どもを。」
直人&近藤「皆殺しだ‥!」
二人は満面な笑顔から復讐の鬼のように表情を豹変させ、作戦成功に喜ぶグレードの陣営に殺気を送った。
グレード「っ!」
亜種族「グレード様どうしましたか?」
亜種族「いや~、いい眺めでしたね!この機に一気に攻めてしまいましょうか!」
グレード「あ、あぁ‥直ぐに出撃だ!(なんだ今の殺気は‥。)」
同士討ちの作戦は見事成功し、多くの戦力を削ぐことに成功した。
だが‥皮肉にも亜種族軍の破滅に貢献することになるとは知るよしもなかった。