第百十四話 帝都ノ変(22) 妖命と運命
四星将スカル・ジャックは連合軍の前に屈した。リブル公国連合軍に壊滅的損害を期待されていたが、元魔王シャルと三人の美女たちに気を取られたことにより、怒らせてはいけない相手を怒らせ敗北。大打撃を与えるどころか返り討ちに合った。
そのため配下らも桁違いの勢いで迫り来る連合軍にのまれた。
桃馬「少しは手応えはあったけど‥イマイチだったな?」
桜華「そうですね、先ほどの相手より強かったですけど‥勝てる範囲でしたね。」
桃馬「うん‥と言うより、強い相手は微食会が殲滅したからかもしれないけどな。」
桜華「と言うことは、私たちはおこぼれの処理ってことですか?」
桃馬「そうなるな‥。」
桜華「むう、なんか悔しいです。」
手応えのない戦いに少々不満を漏らす二人の前に相川葵が訪ねて来た。
葵「桃馬、桜華さん、どっかで直人見てないか?」
桃馬「えっ?一緒じゃなかったのか?」
葵「途中まで一緒に戦ってたんだけど、気がついたらいなくなっててな。」
桃馬「えっ?直人もいなくなったのか?」
葵「も‥?っ‥まさか、他にもいなくなったのか?」
桃馬「あぁ、こっちはジェルドがいなくなってな。」
葵「‥まさか、敵の誘導に釣られたか。わかった、俺は付近をもう一度探してみるよ。」
桜華「それなら私たちも手伝いますよ!」
葵「そうか、ありがとう助かるよ。」
桃馬「それじゃあ、俺と桜華はジェルドとはぐれた付近を探そう。」
桜華「はい!」
三人が捜索に出ようとすると、スカラから逃げてきたディノ、小頼、豆太が駆け寄ってきた。
小頼「と、桃馬~!」
桃馬「ん?小頼か?どうしたそんな血相を変えて?」
小頼「シャルちゃんたちが‥大変なの!」
葵「長岡さん落ち着いて、何があったんだ?」
小頼「うぅ‥。」
珍しく体を震わせうまく話せない小頼に、桃馬は嫌な予感を感じる。
見かねたディノが代弁しことの次第を伝えた。
葵「何!直人がそこに‥わかった。すぐに向かう!ディノくん案内してくれ!」
ディノ「わかりました!」
葵はディノと共に一足に直人の元へ向かう。
その後、桃馬は小頼と豆太の護衛に桜華を残して後を追った。
この頃、ちょうど直人が首を跳ねられた頃である。
そのため、駆けつけた頃には。
直人らしき妖に群がる三人の嫁とシャルがいた。
葵「な、直人なのか?」
リール「そうだよ~♪んんっ~♪」
エルン「この毛並み‥たまりません。」
リグリード「ふっ、可愛い弟だな。」
シャル「たまらん~♪」
桃馬「皮肉にもある意味ハーレムだな直人?」
直人「はひぃ‥んんっ‥。」
桃馬「蕩けてるな?どうだ直人?犬になった感想は?」
直人「ふっ‥悪くは‥ない。」
あくまでも否定しない感じ、とても心地よいようだ。
葵「ふぅ、それより無事でよかった。それとあっちが‥今回の敵将か。」
隣には強力な束縛魔法と睡眠魔法をかけられ動けないスカラの姿もあった。
リフィル「眠り魔法もかけています。後はこれからどうするかですね。」
ジェルド「取りあえず‥殺っていいのなら‥殺った方がいいと思うけど?
ギール「シャルの命を狙う奴だからな。今なら誰でもやれる。」
ギールは刀を手にすると、シャルが慌てて止めにはいる。
シャル「ま、待つのだギール!」
ギール「シャル‥何で止めるんだ?こいつはお前を‥。」
シャル「わかっている。だが、今殺してはならない‥こやつにボスを引きずり出すためには、証言が必要なのだ。」
ギール「本当のことを言うと思うか?」
シャル「おそらく‥言わないだろう。だが、余の力がもう少し戻れば吐かせることもできるのだ。」
ギール「‥そうか、わかった。」
葵「それなら移動しよう。こんな離れたところでは襲撃されるかもしれないからな。」
シャル「うむ、それがいいのだ!」
葵の提案に一行たちは人気の多い所へと移動した。
激戦の緊張から一時解放された直人は束の間の眠りにつき、リグリードにおんぶされていた。
鬼の角と牙は徐々に消えていくが、なぜか尻尾だけは残っていた。
葵「それにしても、妖怪になったって聞いてたけど、あんな姿になるんだな‥俺もなろうかな。」
桃馬「‥ちょうど目の前にもふもふの尻尾が三本‥。あれを取って腰につけたら妖怪になれたりしないかな?」
葵「‥いや、さすがに無理だろ?それより直人がキレるからやめておこう。」
桃馬「‥でも、触るくらい‥」
もふもふの誘惑に負けた桃馬は従兄弟の尻尾に手を伸ばす。
その様子にジェルドとギールは尻尾を逆立て、血走った目で見る。
桃馬「‥す、すごい‥。直人ながらごわごわしてると思ったが‥さらさらでもふもふだ‥。」
リール「あはは♪そうでしょう~♪私もこの感触大好きだよ~♪」
エルン「こ、こらリール!そんなに強く触っては直人が起きるだろ!?触るなら優しくだ!」
桃馬に続いてあっという間に三本の尻尾は満員となった。だが、葵は構わず桃馬が触っている尻尾に手を触れる。
葵「‥っ!こ、これは‥上質な毛並みだな‥。」
四人に触られ眠ってる直人は‥。
直人「ふへぇ~♪」
蕩けていた。
そんな様子にリグリードは少し呆れながら微笑んだ。
リグリード「ふっ、全く成長したのは体だけのようだな。」
楽しそうにしている光景に、シャルも羨ましそうに見ていた。
シャル「むう、羨ましいのだ‥。」
ギール「俺の尻尾には‥進んで触れてくれないのに。」
ジェルド「‥従兄弟には素直になるんだな。」
羨望と嫉妬が渦巻くなか、二匹は無意識に刀を抜いていた。
リフィル「こーら、二人とも刀をしまいなさい!」
ギール&ジェルド「きゃふっ!?」
リフィルは二匹の尻尾を強く握った。
すると、二匹は刀を落としその場に倒れ込んだ。
リフィル「ふぅ、二人の気持ちはわかるけど、こんな時に仲間同士で争っちゃダメだよ?」
ギール「すまん‥つい無意識に‥。」
ジェルド「うぅ、構ってほしいんだもん。」
犬座りする二匹はまるで、構って欲しさに甘えるハスキーの様にも見える。そのため狼としめの威厳は皆無だ。
リフィル「それなら甘え方を変えないとね。」
ジェルド「‥甘え方か‥ショタの方がいいのかな。」
ギール「そ、そうか!確かにショタの方が反応はいいよな!」
リフィル「うーん、間違ってる気がするけど‥。試すのもありかもね。」
結局姿を変えれば何でも許され、万事上手くいくという浅はかな考えに至り、中身も変える気も無い。結論、駄犬だった。
シャル「‥ばか犬だな。」
横目で見ているシャルでさえも、上手くいかないと感じていた。
とまあ、こんな感じでリブル公国連合軍本体と合流したのだった。
さすがのリブル公国連合軍にも疲れが見え始め、功を焦って後悔するよりは停戦して次に備えることにした。
しかし‥その頃。
リブル公国連合軍に迫り来る亜種族の一隊が合った。