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第百十三話 帝都ノ変(21) 狂者と妖命

両津直人‥亜種族軍四星将スカル・ジャックに首を跳ねられ討ち取られる。

あまりにも呆気ない敗北にシャルでさえも動揺した。

直人の首はスカルの足元まで転がり、スカラは下笑(げみ)を浮かべ片足で踏みつける。

この行為にリグリード、リール、エルンの三人は激怒する。

普通のヒロインなら泣き崩れたり、動かない体に寄り添うものだ。しかし、そんな感情になる前に直人の首を足蹴にしたことで哀しみよりも怒りが芽吹いたのだ。


リグリード「‥スカラ‥その足を今すぐ退けろ。」

リール「‥あなたのような外道が踏んでいい人じゃないんですけど。」

エルン「殺す‥殺す‥殺す。」


殺意に満ちた美女三人は、

剣と刀を強く握りしめていた。


スカラ「おやおや~♪そんな怖い顔しないでくれよ~♪こんな弱い奴より俺がしっかり可愛がってやるよ?」


スカラは直人の首を手にしてポンポンと軽く投げ挑発する。


リグリード「貴様ぁぁっ!」


見るに耐えないリグリードは、怒濤の勢いでスカラに突っ込む。

それに続いてリールとエルンも復讐の念をむねに突っ込んだ。


リール「私も怒りました‥許しません!」

エルン「っ!殺す!」


スカラ「いいね~♪俺の可愛い‥花嫁たちよ♪」


シャル「三人ともよせ!?」


シャルの声も届くことなく、三人は止まらず斬りかかる。だが‥あっという間に三人も返り討ちに合う。


リール「くはっ!?」

エルン「かはっ‥はぁはぁ。」

リグリード「くっ‥くあっ!」


スカラは直人の首を投げ捨て、

リグリードの薄赤い長髪を引っ張り刀を向けた。


スカラ「ククク‥ガルヤードルの娘にしてはまあまあだな。やはり、男を喜ばせるために生まれたようなものだな。」

リグリード「だ、黙れ‥わ、私は剣士だぞ‥。慰みものにするなら‥殺せ!」

スカラ「あはは!いいねその目‥なぶりがいがありそうだ!」

エルン「くっ、リグリード様‥。」

リール「こ、この‥汚い手でリグリード様に触らないだください!」

スカラ「ククク、その強きも今のうちだ。」


完全にペースがスカラの方に傾くと、ジェルドとギールは己が格下だと思い知らされ本能的に動けなくなっていた。


シャル「いい加減にするのだスカラ!」

リフィル「待ってシャルちゃん行っちゃダメ!?」


リフィルの制止を振り切り、シャルは無謀にも正面から斬りかかった。

徐々に元の姿へと変わるものの、スカラの前では無意味だった。

シャルの斬擊もひらりとかわされ、押し倒された。


シャル「くはっ!?」


スカラ「ククク‥今日はついているな~。四人も俺の女を捕らえて‥後はそこのエルフを服従させるだけ。ククク、狼も震えて動けない。生意気なガキは雑魚‥。いい日だな!」


スカラは勝ち誇ったかのように、一人と二匹に対して皮肉じみたことを発した。


リフィル「くっ、隙がない‥。」


ジェルド「くっ‥。」

ギール「ぐ、ぐぐぐ‥。」


二匹は悔しさを噛み締めて睨むなか、

ギールに至っては、妹を再び失う感情と葛藤した。


ここでシャルを見捨てたら‥俺は兄として最低な男になり下がる‥。もう妹を失ってたまるか!


ギール「っ!その手を離せ!スカラあぁぁぁ!!」


もふもふとした黒い毛を逆立て雄叫びをあげた。


ジェルド「‥ギール、うん‥わおぉぉん!」


ギールの覚悟につられてジェルドも雄叫びをあげた。



スカラ「‥ククク、来い!男どもは容赦なく殺す。」


シャル「や、やめるのだギール!ぐっ!」

スカラ「余計なこと言うな!ククク‥目の前で殺してやるからな。よーく、見ていろ!」


ギール「その手を放しやがれぇぇ!」


ジェルド「‥直人の仇だ!リフィル援護しろ!」


リフィル「わ、わかったわ!」


スカラ「ククク!あはは!馬鹿はみんな正面から来るね~!じゃあ‥死ね。」



スカラは短剣を取り出し二匹に応戦しようとする。すると、後方から禍々しい声と共に魔王級の殺気を感じる。


?「それは‥俺のセリフだ。」



スカラ「‥あぁ?誰だきさ‥ぐごっ!?」


渾身の拳はスカラの右頬をとらえ、地面にめり込むほどの力で叩き込まれた。


ギール「っ!な、なんだ!?」

ジェルド「スカラが地面にめり込まれたようにも見えたが‥。」

リフィル「っ、なに‥この魔力は‥。」


広範囲に土ぼこりが舞い、徐々に薄くなると鬼の角を二本生やし、金色の狐尾(きつねび)を三本生やした禍々しい男が立っていた。



シャルはその姿を見て尋ねた。


シャル「‥うぅ、お、お主‥まさか直人か?」


リール「ふぇ!?な、直人!?」

エルン「っ!そ、そんな‥でも、首を跳ねられたはず‥。」

リグリード「‥直人‥。」


直人の表情には優しさなど一ミリもなかった。

恐ろしい殺意のある目付き。そして、徐々に伸びていく牙は、まさに人ではなく(あやかし)であった。



直人「‥‥目と耳を閉じてくれ。」


そう言うとスカラの片腕を掴み引き上げる。


スカラ「かはっ‥。」


ダメージが大きく立つ力もないのか、スカラは脱力し立とうとしない。だが、直人はそれを許さず、掴んでいる腕の骨をへし折った。


スカラ「ぐがあぁぁ!!!?」


ボキッと鈍い音と共に断末魔の叫びが響いた。

リールとエルンは思わず目をそらし耳を塞いだ。


直人「‥目が覚めたか?クズ野郎‥。」


スカラ「はぁはぁ‥はぁはぁ‥ふっ‥‥め、目覚めが‥いいぜ。」


直人「‥その余裕がどこまで持つか。」


スカラ「はぁはぁ‥ククク‥貴様を‥殺してやる。はぁはぁ、そうだ‥あの三人を目の前で犯して貴様が絶望に陥ったときに殺すのもいいな。」


直人「救えないな。」


直人は折った腕の指までも一気にへし折った。


スカラ「うぐっ!?はぁはぁ‥。」


スカラは汗を吹き出し激痛に耐える。

気を失いそうになるが、その度に骨を折られ、折られた部分を刺激するなど、否人道的攻め苦を与えた。


ジェルド「な、直人‥さ、さすがにやり過ぎじゃないか?」

ギール「そ、そうだ。道徳的に反しているよ。」


直人「いいや‥こいつにはこれでも優しいものだ。本当なら‥(はらわた)からゆっくり‥斬り‥手足を斬り‥目をえぐり‥‥首をノコギリで落とすところ‥。」


リフィル「‥っ、直人じゃないみたい‥。」


ジェルド「うっ、うぅ、」

ギール「うぷっ‥うぅ。」


あまりにも残酷な本音に、一人と二匹の脳裏に鮮明に恐ろしいビジョンが映し出された。

ここにいる両津直人は、もはや‥人にあらず。

地獄の鬼と化している。



スカラ「はぁはぁ‥調子に乗るな!」


耐え難い激痛を受けるスカラは、まだ動く片腕に短剣を握りしめ直人の喉元をとらえる。


直人「がはっ!?」


短剣は根本まで刺さり、直人の体は後ろへ倒れる。スカラは馬乗りになり、狂ったかのように直人を斬りつける。


スカラ「調子に乗るな!くそが!」


(はらわた)を斬り、手足を()ぎ、目をえぐり、ロンドンの切り裂き魔ジャック・ザ・リッパーを連想させるような行為であった。


助けようにも誰一人の侵入を許さない狂気の空間に、格の違いを思い知らされたリグリードとシャルは見ていることしかできなかった。


リグリード「‥な、直人‥‥。」

シャル「‥よ、余に力が戻っておれば。」


スカラ「ククク、あはは!!!きもちぃぃ!!」


久々の心揺れる八つ裂きに快感を得ている。

だが一つ引っ掛かるのが、

"首を跳ねたのになぜ生きていたのか"という点である。

今まで殺してきた中には"再生(リジュネ)"という物があったが、首を跳ねても再生(リジュネ)の効果が続くなど聞いたことがない。


まさか‥不死‥。

いや、不死など幻想物だ。

あるはずは‥。


心の中で小さい疑問に向き合っていると、

後方から何者かに刺された。


スカラ「がはっ!?だ、誰だ?」


気配を全く感じなかった。


気配に敏感な俺に‥何者だ。


横目で確認すると、八つ裂きにしているはずの両津直人がいたのだ。容姿は変わらないが、表情は先ほどよりは人並みであった。


直人「さっきの首チュンパは‥痛かったぞ。」


スカラ「っ!!!??」


リグリード「っ!な、直人!?」


シャル「ど、どうなっておるのだ!?」


ジェルド「な、直人が二人!?」


ギール「ど、ドッペルゲンガー!?ひぃぃ!」


八つ裂きにされた直人とスカラを刺した直人の存在に混乱する四人。

リールとエルンは、言いつけ通り目を閉じ耳を塞いでいる。


直人「分身も注ぐ念によってここまで危険になるとはな‥。」


スカラ「はぁはぁ‥貴様‥こはっ‥何者だ‥。」


直人「何者?ふっ‥まさか、そんな風に訪ねられる日が来るとはな。」


アニメや漫画で良くある。

格上の相手に対する訪ね文句。

いざ訪ねられると、どう答えるべきか悩むものだ。


結局考えていると沈黙が十秒経過し、答えるタイミングを完全に見失った。


スカラ「な、何を黙っている!」


直人「‥すまん、えーと、俺はただの学生だ。」


スカラ「‥嘘つけ!がはっ!」


直人はスカラの背中を蹴り倒し、八つ裂きなった直人の上に乗せた。

すると八つ裂きになった直人の体は霧状に消滅した。


スカラ「はぁはぁ‥くっ、こいつは‥分身と‥言うわけか。くっ‥なら‥貴様も分身か‥。」


直人「‥残念だが俺は本体だ。お前に首を跳ねられたのも事実だ。」


スカラ「なら‥どうして生きてやがる。」


直人「さぁな、気がついたら‥‥貴様が大切な三人に酷いことしているのを見たからな。」


人並み表情が徐々に禍々しい妖気と共に恐ろしい表情へと変貌する。


その様子にリグリードは嫌な予感を感じた。

もし今の状態でスカルを殺せば‥いつもの直人がいなくなる気がした。リグリードはリールとエルンに声をかけ、怒りにとらわれた直人を止めにかかる。



スカラ「っ!あ‥ぁぁ‥。」


四星将スカルが久しく忘れていた恐怖の感情が、両津直人という得体の知らない男によって呼び覚まされたのだった。


だが、今の直人は外道に情けをかけるほどの優しさはなく刀を振り上げた。


直人「‥もう貴様をこれ以上生かしたくない。消えろ。」


振り上げた刀が振り下ろされた時、

三人の美女たちが止めにかかった。


リグリード「直人!そこまでだ!」

エルン「落ち着いてください直人!」

リール「今の状態でそいつを殺しちゃダメ!ふぁ‥もふぅ~♪」


直人「っ!??ふあっ‥ひ、ひぽっ‥はふぅ~。」


間一髪だった。

リグリードとエルンは刀を持っている腕と胴を抑え込み。リールはもふもふの尻尾につられて尻尾に抱きついた。これが意外にも効果的で直人の力を一気に脱力させた。


リグリード「ふぅ、二人ともよくやった。」

リール「ふへぇ~♪」

エルン「で、ですがまだスカラが‥。」


リグリード「大丈夫、気を失っているようだ。それより‥。」


リグリードは少し頬を赤らめ、直人の尻尾に手を伸ばす。


直人「んんっ!?」


リグリード「こ、これは‥すごいもふもふだな。」


リール「そうでしょ~♪たまりません♪エルンも一本余ってるよ♪」


エルン「そ、そうか!うむ‥ふぁ~♪」


ちょうど三本ある尻尾に三人の美女はもふり始めた。直人はここで獣人族の気持ちをすごく理解した。これは普通に気持ちがいいと。


四人が楽しそうにしていると、シャルも直人の尻尾に抱きつき始めた。その様子にギールの尻尾は悲しく垂れ下がったとは言うまでもない。



そして首を跳ねられても生きている直人については、本人でもわからないそうで謎のままである。



その後スカラは連合軍に捕らえられ、亜種族軍中衛部も制圧された。






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