第百十二話 帝都ノ変(20) 狂地と狂者
亜種族軍後衛襲撃の報は、四星将の頭脳グレード・マドリードに伝えられた。
グレード「ふむ、やはり援軍が来たか。」
亜種族「はっ、リブル公国の旗が見えましたのでその手の軍かと。」
グレード「‥なるほど、こちらの攻略部隊が敗れたのか。それともすれ違いか。何にせよ、迫り来る芽は積まねばならないな。」
スカラ「グレード?そいつら俺にやらせてくれないか?」
グレード「スカラか、まあ別に構わないが?」
スカラ「よっしゃ、良い肩慣らしだ。すぐに終わらせてやるぜ。」
グレード「ふっ、油断はするなよ?」
スカラ「わかってるよ。油断は暗殺に取って最大の敵だからな。」
目の辺りを前髪で隠したエ○ゲ主人公風の四星将スカラ・ジャック。
よく人は見かけによらないと言うが、この男に至っては見た目通りのクズキャラであることは言うまでもない。
そんな四星将が中衛より連合軍を迎え撃つのだ。連合軍の苦戦は目に見えているはずであった。
だが、実際は‥。
前方の連合軍に気を取られている隙に、龍の強襲に合い中衛部隊が半壊する大打撃を与えられていた。
シャル「すごいのだ!こんなに痺れる戦は久々なのだ!」
ギール「シャル!?そんなに前に出るな!?」
ディノ「そうですよ!?もし正体がばれたら狙われますよ。」
シャル「大丈夫なのだ!例え名乗り出たとしてもこの姿では誰も信じないのだ!」
確かに子供の姿で名乗っても魔王ごっこと思われ誰も信じないだろう。だが、今の姿では力は落ちるため、前に出すのは控えた方が良いだろう。
ギール「そ、そう言う問題じゃない!妹を危険な所にポンポンと行かせられるかよ!」
シャル「なっ!?うぅ、こほん‥なんじゃギ~ル~♪もしかして妹たる余を好いてるのか~?」
ギール「当たり前だろ?妹を好かない兄がいると思うか?」
シャル「はぅ//」
ディノ「に、兄さん‥今のは誤解を生む気が‥。」
豆太「は、はわわ!?こ、告白‥見たいです。」
ギール「ご、誤解するな俺は妹としてだな‥。」
リフィル「そんな照れなくて良いよ~♪」
小頼「そうそう♪二人は兄妹でも‥血は繋がってないから"押し倒し"ても良いと思うけどな~♪」
ギール「お、お前ら‥。」
リフィル「そうしたら浮気になるわね♪」
小頼「桃馬に聞かれたら幻滅しちゃうかもね~♪」
ギール「う、浮気のくそもあるか!俺は忠犬として側に居たいだけだ。ジェルド見たいな駄犬と一緒にするな!」
戦場で呑気に話しているとギールの背後から蔑んだ声と共に冷たい殺気を感じた。
スカラ「なら‥戦場で呑気にお喋りしてる君も‥駄犬だね。」
ギール「っ!だ、誰だ!」
刀に手をかけ後ろを振り向く。
そこには、前髪で目を隠した青髪の男と血相を変えたシャルが、ギールの腹部ギリギリのところで短剣同士で防いでいた。
ギール「しゃ、シャル!?」
スカラ「っ、おやおや‥俺の攻撃を防がれるとは久しぶりだな。」
シャル「貴様‥闇黙殺のスカラ・ジャックだな。相変わらず‥卑劣な男だな。」
スカラ「ククク、懐かしい俺の二つ名を知ってるとはな‥ん?シャル?おい、そこの駄犬?今このガキをシャルと言ったな?」
ギール「‥だ、だからなんだ?」
スカラ「‥ククク‥ククク‥あはは!」
某症候群を発症したかのようにスカラは狂い笑う。狂気に満ちたその笑い方に、その場にいるシャル以外の者たちは背筋を凍らせた。
ギール「しゃ、シャル‥こいつはなんなんだ。」
シャル「こやつはスカラ・ジャック‥余が魔王の頃に仕えていた暗殺名家"ジャック"家の小僧だ。」
ギール「あ、暗殺名家‥ジャック家だと。」
リフィル「っ、ま、まさか‥それは作り話じゃ‥。」
ディノ「‥いえ、作り話ではありません。確かに、皆さんに伝わっている伝承には誇張している場面もあります。ですが、全てが作り話ではありません。」
シャル「そうじゃ‥伝承は嘘と本当で塗り固めた混迷の産物じゃ。」
異世界出身者にはわかる話だが、現実世界出身の小頼と豆太の二人はさっぱりであった。
小頼「あ、えっと‥これはどう言うことなのかな?」
豆太「‥お、おそらくこっち側で言う神話見たいなことでしょうか。」
小頼「な、なるほど~。」
スカラ「ククク‥今日は凄く運が良いぞ~!まさか、あのシャル・イヴェルアを慰み物にして殺せる日が来るなんて!」
願ってもいない展開に興奮するスカラに危険を感じるシャルは、小頼と豆太を下げようとする。
シャル「小頼、豆太!すぐに逃げるのだ!」
小頼「ふぇ、う、うん!」
スカラ「はぁはぁ、させないよ♪」
シャル「っ!待つのだ!」
闇に溶け込もうとするスカラに斬りかかるも、
一歩のところで逃げられ瞬時に小頼たちの前にスカラが現れた。
小頼「ひっ!?」
豆太「っ!」
シャル「しまったのだ!?」
ギール「小頼!豆太!」
ディノ「くっ、やめろおぉっ!」
リフィル「二人から離れなさい!」
ディノは前へと踏み込み、リフィルは弓を駆使して二人を助けようとするが、剣を振り上げている時点で間に合う気がしない。
半分諦めた時、スカラの前に怒りに満ちた二人の男が現れ斬りかかる。
スカラ「っ!おっとっ‥あぶないな~?今度は誰かな??」
小頼「うぅ‥あ、あれ‥生きてる?」
豆太「んんっ‥ん?ほ、本当だ‥生きてる。」
ジェルド「間に合ってよかった‥。」
直人「豆太‥怪我はないか?」
小頼「ジェルド!?」
豆太「‥うぅ!わかひゃまぁ~!」
二人の前に白い毛を逆立て覚醒モードのジェルドと、一見人に見えるが妖気を察するに妖人と化した両津直人がいた。
シャル「油断はできぬが、九死に一生だな。」
ギール「よかった‥駄目かと思ったよ。」
リフィル「うぅ、よかったよ~!」
二人の無事に少し安堵する三人、そして助けに踏み込んでいたディノは、そのままスカラにまとわりつこうとするが空振りする。
スカラ「‥俺の話を無視しするわ‥横から邪魔するとか‥。まじで、ないんですけど!」
直人「るせぇよ。」
スカラは無視された怒りから悪態ついていると、目の前に鬼の形相をした両津直人に蹴り倒される。
スカラ「がはっ!?」
直人「‥てめぇ、エ○ゲのクズ主人公みたいでムカつくな。それと‥汚い手で豆太と仲間に危害を加えようとするな。」
シャル「おぉぉ!すごいのだ直人!」
リフィル「あ、あはは‥鬼仏の再来かもね。」
ギール「そ、それはまずい‥ディノ!豆太と小頼を避難させろ!」
いつぞやの大騒動を知る二人は背筋を凍らせる。
ディノ「わ、わかりました!お二方行きますよ。」
小頼「う、うん‥でも‥。」
豆太「わ、若様‥。」
ジェルド「心配するな‥いけ。」
直人「‥そうだ豆太‥今は退け‥いいな。」
小頼「う、うん‥」
豆太「ご、ご武運を。」
小頼と豆太はディノに連れられ、危険区から退避した。
直人「‥逃げなくてよかったのかジェルド?」
ジェルド「‥小頼に手をかけたんだ‥やつを許せるかよ。」
直人「‥だよな。」
二人は未だに立てないエ○ゲ主人公スカラに刀を向ける。
スカラ「いってて‥やるじゃないか。」
シャル「諦めるのだスカラ!お主に勝ち目はないぞ!」
ギール「ば、ばか!下手に刺激するな!」
スカラ「ククク‥相変わらず慢心だな。まあ‥こいつら殺して‥貴様を俺の奴隷にしてやるよ。」
シャル「ふっ、お主も悪趣味な性格は変わらないようだな。」
スカラ「ククク、さて、誰から‥。」
ふらふらな状態から立ち上がりペースを戻そうとするが、ジェルドと直人がそれを許さず斬りかかる。
スカラ「くっ、容赦ないね‥。」
スカラは二本の短剣で二人の斬擊を防ぐ。
スカラ「でも‥甘いね‥。」
スカラは二人の刀を弾くと突風に続いてかまいたちを起こす。
二人の体に地味に斬り傷がつけられる。
直人「くっ。」
ジェルド「ちっ。」
シャル「っ!ギール!我らもいくぞ!」
ギール「あぁ、言われなくてもわかってる。」
スカラ「‥そっちから来なくてもこっちから来てやるよ!」
ギール「なっ!?」
シャル「は、はやい‥。」
シャルの目でも追えないくらいの早さで、ギールとシャルの前に現れ二人を蹴り倒す。
ギール「ぐっ!」
シャル「くはっ!」
スカラ「ククク、あはは!あまり俺を怒らせない方がいいぜ?」
穢れた欲望を表に出しシャルに迫る。
するとそこへ、一人の美女が斬りかかってくる。
リグリード「スカラ!」
スカラ「っ!こ、これはこれは‥ここで剣豪ガルヤードル殿の娘に会うとは‥。」
リグリード「黙れ!親王派の俗物め!」
スカラ「酷い言い方だな?それにしてもその健康的な褐色肌‥そして抱かれるためにあるようなスタイル‥いいね~、俺の妻にしてやろうか?」
リグリード「くっ、よくそんな気持ちの悪いことを言えるものだ。だが残念だが私にはもう心に決めた男がいるのだ。」
スカラ「ほう、じゃあそんな奴を忘れさせてやるくらい可愛がってやるよ!」
リール「‥セクハラね。」
エルン「乙‥ですね!」
リグリードに夢中になっていると、後方からリールとエルンが斬りかかる。
スカラ「っ!」
つばぜり合いを払い、三人との距離を取る。
スカラ「へぇ‥まさか、魔族まで加わってるとは‥しかも、その二人もなかなか可愛いな?」
リール「気持ち悪いので黙ってもらえますか?」
エルン「な、なぜだろう。あなたに言われると鳥肌がたちます。」
下心のある誉め言葉に毛嫌いする二人に、直人が慌てて駆け寄った。
直人「さ、三人とも危ないからここに来ちゃ駄目だよ!?」
リール「直人~!あのエ○ゲ主人公見たいな男がセクハラしてくるよ!」
エルン「な、直人‥あの男は女の敵だ‥早く倒してしまおう。」
直人「わ、わかってる。あいつは恐らく、今までに何人もの女性を慰み物にしている。俺としても許せないからな。」
スカラ「おい、お前!その美女は俺の物だ!死にたくなかったら手を引くんだな!」
直人「‥お前のもの?三人は俺の大事な家族だが?」
スカラ「はぁ?」
スカラは四人の和ましい光景に認めたくない現実を理解する。
スカラ「そうか‥貴様が‥その三人の夫と言うわけか。ククク、そうか‥貴様‥久々に腹が立つ男だな‥お前から殺してやるよ。」
怒りに狂ったスカラは前髪を上げ、殺人者の冷徹な目を直人に向ける。
直人「っ!」
思わず直人はその目に恐怖した。
その時直人の視界が突如宙を舞った。
しかもあり得ない方向に回ってることに気づく。
そうスカラは誰もが目にも止まらぬ早さで、
直人の首を跳ねたのだ。
首は地面に落ち、
首のない胴は血を吹き出しながらその場で倒れ込んだ。
突然起きた信じがたい光景にその場にいる全員が唖然とした。